第十話 成敗じゃ!
ロジオンを追いかける。
行き先は分かっていた。
ロジオンが大好きな場所。綺麗な花畑!
「ロジオン!」
花畑では、ロジオンが背中を向けてうずくまっていた。顔を両手で隠しているみたい。
「……今、すごく恥ずかしいから、見ないで」
と、恥じらうロジオン可愛い!
なんでこんなにも愛らしいんだろう。
ロジオンはロジオンという存在だけで、癒し効果があるんだ。素晴らしい!
「ロジオン! 好き!」
「アリシアは……もう……!」
ロジオンは振り向いた。顔が真っ赤だ。
「だって、大好きなんだもん」
「うう……」
上目遣いしてもだめだよ! 可愛いだけだからね!
「わたし、ロジオンと一緒にいたいよ。毎日でもいいよ!」
「もう!」
真っ赤なまま膨れるロジオン。
照れ隠し? 照れ隠しなの?
本当に、可愛いんだから!
私はほのぼのとした気持ちで、ロジオンを見ていた。その時だった。
ロジオンの顔が強張ったのは。
「ロジオン?」
「あ! 赤目だ!」
「赤目が、女といる!」
後ろから、男の子たちの声がした。
ていうか、今なんて言った? あ?
振り向けば、ニヤついた顔をした二人の男の子が私たちを見ていた。
うわあ……なんか、見るからに……うわあ。
その年で、醜い内面が顔に出てるの、まずくないかい?
「俺たちが相手しないからって、女なんかと遊んでんのかよ」
「仕方ないよ、だってあの赤い目だよ?」
そして、くすくす笑う。
ロジオンは無言で俯いた。
うん、手加減はいらないよね!
私はにっこりと、男の子たちに笑いかけた。
男の子たちの顔が、少し赤くなる。
私、お母さま似の美少女だからねー。
でも、ロジオンみたいに可愛く感じないな。
「お兄ちゃんたち、きもちわるい顔してるねー」
「は?」
笑顔のまま言えば、男の子たちは固まった。
私は首をかしげる。
「知らないの? 誰かにひどいこと言うひとは、すごくみにくいんだよ?」
「何言ってんだよ。俺は父上に似てるって! 父上はすごく格好いいんだぞ!」
「守護騎士なんだからな!」
ふむ、守護騎士ね。
確かに、守護騎士やってるんだから、お父さんは格好いいかもしれないねー。
でも、それと君らはどう関係してるの?
「しゅごきしは、かっこいいよ? でも、今のお兄ちゃんたちは、かっこ悪い。どん引きだよ」
「なんだと! 俺は騎士になるんだぞ!」
怒りで顔を赤くする男の子に、私は真顔になる。
「なれないよ」
「なんだと!」
「しゅごきしは、守るのが仕事だよ。ぎゃくに聞くけど、悪口を言うお兄ちゃんのどこに、なれるようそがあるの?」
「ぐ……!」
「お前! 兄上に対して、生意気だぞ!」
二人に、鼻で笑ってやった。
「きしをちゃんとお勉強してから、目指してくださいね」
ぷくすーと、笑いを堪える真似をする。
すると、男の子が真っ赤になりすぎた顔を私に向けてくる。
手を強く握りしめ、振り上げた。
来た!
私はすかさずスカートのポケットに手を入れた。
「兄上!」
弟の方は、さすがに女の子を殴るのはまずいと理解しているのか声を上げる。
しかし、振り下ろされた拳は止まらない。
私はただでは、殴られないからな!
臨戦態勢に入った時だった。私の前に影が出来たのは。
パシン!
音がした。
私は目を見開く。
「ロジオン……!」
ロジオンが、男の子の腕を掴んでいた。
ロジオンに庇われた!
私は感動に打ち震えた。
「お前!」
「アリシアを傷つけるのは、許さない」
ぎりっと、ロジオンが腕に力を込めたのが見えた。
「痛い!」
「お前! 兄上を離せよ!」
ロジオンはあっさりと、離す。
兄弟は、ロジオンを憎々しげに睨みつけた。
「お前なんか、父上に……!」
出たよ。親頼み。
ところで、彼らの父親は守護騎士だと聞いた。
それって、すごい怖い顔をしてこちらに向かってくる騎士さんですかね?
「お前たち!」
兄弟の顔が輝く。
味方登場だと思ってるのかな?
でも、君たちの父親は、すごい怒りを向けてるね。君たちに。
「父上! あいつが!」
「あの赤目が、兄上を!」
訴えかける兄弟に、騎士の顔は厳しい。
手袋をはめた手で、バシンと兄の頬を打つ。手加減はされてると思う。でも、痛そう。
「ち、父上……?」
「お前たちには失望した」
父親の言葉に、兄弟は呆然とした。
「騎士は、高潔でなくてはならないと言っただろう? 民を守るのが我らだ。だと言うのに、ひとを悪しざまに言うとはな……」
「ち、ちが……! あいつが……!」
「私には、幼い少女を彼が庇ったように見えたが?」
父親の言葉に、兄弟は目を見張る。
見られていたとは思わなかったのだろう。
「以前にも彼……ロジオンに対して悪しざまに言ったそうだな。癒し手が教えてくれた。お前たちがロジオンのもとに向かったとな」
「そ、それは……!」
「あいつが!」
騎士は、怒りを抑える為か息をはく。
「……お前たちに、ロジオンが何かをしたのか?」
「あ……」
父親の言葉に、兄弟は息を呑む。
ロジオンは何もしていない。彼らが一方的に罵ったのだ。
兄弟は俯いた。
「お前たち、もう帰りなさい。謝罪もできないのなら、いない方がいい」
ぐっと唇を噛む兄弟。
まだ子供だから、謝るのが癪なんだろうね。
兄弟は走り去った。
残された私たちに、騎士が頭を下げる。
「すまなかった、ロジオン。私が忙しさにかまけて、教育を怠った結果だ」
「い、いえ。ロジールさんのせいでは……」
「まったくだよ! かなり、性格わるいよ、あの子たち!」
「アリシア!」
ロジオンにたしなめられた。でも、事実だよー?
騎士は苦笑していた。
「確か、ラティスとエティア殿の娘さんだったね。エティア殿によく似ている」
「お父さまとお母さまを知っているの?」
「ああ、二人とは仕事を共にしているからね。君のことも知っているよ、アリシア」
「ほー」
お父さまと同じ守護騎士だもんね。当然か!
「アリシアもすまなかった。愚息が迷惑をかけた。あれらの教育を見直すよ」
「まだちっちゃいから、やり直しきくよ!」
「はは、そうだね」
騎士は力なく笑うと、「では、仕事に戻るよ。本当にすまなかった」と、再度頭を下げて、立ち去って行った。
お父さんも大変だね!
そして、ロジオンと二人きり。
「アリシア」
「うん」
ロジオンが私を抱きしめた。
「ふお!?」
「危ないことしないで」
いやいや、私、今ピンチだよ!!
ロジオンに、抱き、抱きしめられてる!!
幸せすぎるよ!!
「アリシアが殴られるかもしれないと思ったら、俺怖くて……」
ロジオンの体震えてる。
冷静になった私は、ロジオンの背中に手を伸ばした。
「でも、ロジオン守ってくれたよ」
「当たり前だ」
言い切ったロジオンに、胸が高鳴る。
ロジオン、格好いい……。
「アリシア、約束して。無茶はしないって」
「うーん?」
「何で、そこで首を傾げるの」
ロジオン、ちょっと声怖い。
「だって、大好きなロジオンを守りたいんだもん」
「アリシア……」
ロジオンの体から力が抜ける。
そっと体を離す。
あ、やっぱりロジオン顔赤い。
恥じらうロジオン、可愛い! 好き!
「ロジオン、わたしはロジオンとずっと一緒だからね!」
「うん……」
ロジオンははにかんだ。
ああ、愛らしい。
「でも、アレキサンダー二世のでばんなくなっちゃったね」
「小石、用意してたの?」
「ポケットにじょうびしてるよ!」
ポケットから出して見せれば、ロジオンに手をはたかれた。
「アレキサンダー二世!」
落下する姿が悲しい。
「危ないから、だめ!」
「えー……」
「アリシアは、もう!」
ぷりぷり怒るロジオン。
やっぱり、可愛い。
私、ロジオン大好きだよ!
そして、二人手を繋ぎ談話室に戻ったら、また温かい眼差しを神官たちからもらうのだった。