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蛇印(じゃいん)  作者: 屯田 水鏡
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六、堂山古墳1

六、堂山古墳どうやまこふん

思索の迷宮に遊びながら、江尻川沿いの道を上流へ向かい、勝馬の集落の外れ、そこは山裾に近い、で妻の運転する車を降りて、かなり険しい坂道を登っている私の耳にうぐいすの声が飛び込んできた。

静かな良く晴れた正午頃であった。

春はとっくに過ぎて夏はすぐそこまで来ている。

きっと名も知らぬ鳥が美しい鳴き声をまねているに違いない、などと思いながら、立ち止まり、曲がった腰に両手を掛けて背中をぐっと伸ばした時、前方の林の中に建物の影が目に止まった。

「あそこか」

息を切らしながら駆け寄ると、それは、長寿山西福寺ちょうじゅざんさいふくじという臨済宗の寺であった。

周辺を見渡すとすぐ近くに一軒の平屋があった。

恐らく住職の住まいなのだろう。

寺は緑の若葉に飲み込まれようとしている。

裏山に繁る原始の木々が大木となってその枝が寺を抱え込んでいるようであった。

「堂山古墳」は寺の裏にあると案内の地図は示している。

〈成程、寺の御堂の裏山にある古墳なのだな〉

単純な命名に思わず笑ってしまった。

「あれだな」

私は小さく手を打った。

寺の脇に小径が見えたのだ。

堂山古墳へ続く道に違いない。

あまり手入れの行き届いている風には見えない道である。

獣道とまでは言わないが、雑草の生えた、ただ、人の足で踏み固めたような小径であった。

踏み込んだ瞬間、そこは、初夏の昼下がりにも拘わらず、夕刻のように暗く、沈んだ空気が淀んでいて、少し肌寒さを感じた。

漸くして目が慣れたとき、道の両脇に小さな石仏がずらりと並んでいるのに気がついた。

その一つ一つがじっと私を見上げているような感覚を覚えた。

その異様な光景を見つめていると、急に、全身に鳥肌が立つのを覚えて動揺し、不覚にも、このまま引き返そうかと思ってしまった。

漂う霊魂の気配に圧倒されたのかもしれない。

これらの石仏は古墳に眠る大いなる権力者に対して畏敬の念を抱いた人々の鎮魂の思いなのであろうか


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