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蛇印(じゃいん)  作者: 屯田 水鏡
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二十九、卑弥呼の出現

二十九、卑弥呼の出現


そんなとき、紀元二世紀の末の頃であるが、彗星のごとく現れ、鬼道を使って衆を惑わし、その霊力によって戦いを終息させたのが、邪馬台国の女王卑弥呼ひみこである。

「魏志倭人伝」にいう「今使訳通ずるところ三十国」の盟主の座に就くと、今度は、その地位を盤石なものとするために、西暦二百三十九年、難升米なんしょうまい都市牛利としぐり等を魏に派遣し、生口を十人献上している。

そして、「親魏倭王」の印を賜り、魏の後見を獲得したのである。

言うまでもないが、この時、既に後漢は滅び、魏・蜀・呉の三国が覇を競う時代になっていた。

以後、卑弥呼に下賜かしされた「親魏倭王」印が倭国における権威の裏付けとなったのは言う迄もない。

金印は卑弥呼の元に保管されたか、あるいは、邪馬台国の前進基地であった伊都国で管理していたであろうが、むしろ伊都国にあった可能性の方が高い。

なぜなら、伊都国には一大率いちだいそつと呼ぶ諸国を監察する役所を置いていたし、帯方郡たいほうぐんや魏の都、洛陽、そして、朝鮮半島の国々へ行く場合や魏の植民都市、帯方郡の使者が倭国に至るとき、皆、伊都国の港で検査を受けたからである。

重要な財物には卑弥呼の派遣した役人の手で封泥されて「親魏倭王」印が押印されたのではないか。


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