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蛇印(じゃいん)  作者: 屯田 水鏡
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二十八、なぜ金印は志賀島で発見されたのか?

二十八、なぜ金印は志賀島で発見されたのか?


金印は奴国王に与えられたのであるから、奴国の都があった福岡平野のどこかで発見されるのが普通だと考えて良い。

しかるに、奴国の王墓には無縁であるとされる志賀島で発見されたのは如何なる理由があったのだ、と誰もが疑念を抱くのは必然なのかもしれない。

金印は偽物であるとか、実際は伊都国王に与えられたものを誰かが志賀島に持ち込んで隠匿いんとくしたとかいう話が、もぐら叩きのように、顔を出す要因は、その辺にある。

叶の崎の田んぼの地下から金印が出土したという事実と海人族、阿曇氏の波乱に満ちた歴史をかんがみるとき、阿曇族と金印の間には何かの繋がりがあると思わざるを得ない。

金印が発見された叶の崎は、現在、福岡市によって金印公園として整備されている辺りである。

山の斜面に沿って造成された公園の階段を上り切ったところは高台になっていて、そこから望む博多湾は絶景で、隅々まで余すことなく見渡せる。

恐らく弥生の頃も、今と同様に、湾に入る舟を全て監視出来たであろう。

奴国を訪れる舟は玄界灘から博多湾に入ると那の津から上陸し、福岡平野にあった奴国に入ったのであろうが、舟が博多湾に入った途端、すぐに数艘の小舟が速やかに近づきあるいは行く手を遮って臨検したのではないか。

その臨検するという権限を委託されたのは阿曇族の長であったのではないか。

魏志倭人伝ぎしわじんでん」には奴国について「官を兕馬觚しまこ、副を卑奴母離ひなもりという」とある。

阿曇族の長は奴国の副官、卑奴母離だった、という説は成り立たないであろうか。

卑奴母離は、恐らく、紫の綬を首にかけ、その先に黄金の蛇印を繋いで、常に身に付けていたであろう。

それは奴国王から博多湾を航行する船舶を臨検する権限を委託された証しであったという説はいかがであろう。

他国が奴国王へ献上する貴重な品については箱や袋に詰めて紐で結び、それを粘土で塞ぎ、蛇印を押印した。

それを封泥という。

古代のヨーロッパでは同様な目的で封蝋ふうろうをおこなった。

当時、倭国には言語はあったが、文字はなかった。

弥生の人々にとって「漢委奴国王」という文字は、神獣鏡しんじゅうきょうなどと同様に不思議な霊力を宿しているように見えたであろう。

阿曇族のこの立場は、後に邪馬台国やまたいこくが倭国を支配するようになるまで続いたのではないか。

天明四年、黒田藩の藩主付きの医者であり、儒学者でもあった亀井南冥は、「金印弁」と題する報告書で「漢委奴国王」印の文字は、日本に入ってきた最初の文字であったと主張したが、彼の見識には恐れ入るばかりだ。

後漢書東夷伝ごかんしょとういでん」には、西暦一〇七年、倭国王帥升わこくおうすいしょう等が生口せいこう百六十人を献じたという記述がある。

生口とは、単なる奴隷ではなく、歌舞、機織、土器製作など、特殊技能を身に付けた奴婢であったと推測される。

でなければ、後漢の皇帝は貢物として献上されても喜ぶまい。

ここで気になるのは、奴国王帥升等の「など」である。

それは後漢に使者を送ったのが奴国だけではなく、数か国が共同で派遣したことを示しているのであろうが、しかも、生口を百六十人も献じたことを考慮すると、国の数はかなりのものであったに違いない。

多くの国が台頭するに従って、国々の力が拮抗し、奴国は倭国を統制することが難しくなっていたが、それでも、帥升が奴国王であった頃は、辛うじて倭国において優位な立場を保持していたのではないか。

しかし、時の経過とともに次第に力のバランスは崩れ、統制のたがが外れたとき、倭国は大乱の時代に入った。

力の拮抗した戦いはまさに消耗戦であった。そして、国々は、やがて戦いに疲弊した。


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