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蛇印(じゃいん)  作者: 屯田 水鏡
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十六、神功皇后1

十六、神功皇后1


これまでは、地勢的な変化について考えてきたが、政治的な強い力が働いた可能性も否定出来ない。

天武天皇の勅命により、「帝紀」という天皇の系譜と「旧辞」という神話や伝承の記録を稗田阿礼ひえだのあれが暗記し、それを、太安万侶おおのやすまろが書き写した「古事記」という歴史書がある。

完成したのは西暦七百十二年、元明天皇のとき、都が藤原京から奈良の平城京に遷都されて三年後のことである。

「古事記」には、大和朝廷の黎明期に華々しく登場した神功皇后という女帝の功績に多くのページがさかれている。

神武天皇から数えて第十四代、仲哀天皇ちゅうあいてんのうは筑紫の香椎宮かしいのみやで天下を治めた。

現在、旧官幣大社、香椎宮の所在地である。

天皇は、熊襲を討つ為、香椎宮に大本営を設置した。

大本営とは、天皇に直属する最高の統帥機関である。

ある時、

「西の方に、金銀をはじめ種々の珍宝がある国がある、その国をあなたに授けよう」

という神託しんたくがあった。

皇后、気長足姫尊おきながたらしひめのみこと、この姫には生まれつき巫女としての天分があったのだが、神がかり、つまり、トランス状態になって神のお告げを受けた。

后が受けた神託を、仲哀天皇に告げたのは、大臣の建内宿祢たけうちのすくねである。

ところが、天皇は、

「高い所に登って西を見ても国は見えない、ただ果てしなく広がる海が見えるばかりではないか」

と言って取り合わなかった。

更に、「偽りを言う神だ」と呟いて神託を無視した。

そして、既定の方針通りの行動、つまり熊襲を討つことを優先した。

常識的に考えれば、当然の仕儀であったように思える。

一国のリーダーたるもの、国家の方針をみだりに変えるべきではなく、天皇の決断は至極まともであると思うのだが。

ところが、である、「古事記」によると、天皇は、神託を軽んじたために、急逝したとある。

神のお告げを軽んじたからといって即座に身罷るとは、俄かには信じ難い出来事だ。

天皇が死んだ夜、その傍にいたのは、皇后と武内宿祢であった。

舎人とねりなどの側近がいたとしてもごく少数であったのだろう。

また、あらぬことを口走れば、皇后と宿祢にたちどころに処分されると舎人は恐れたに違いない。

何やら陰謀めいた闇の匂いがすると思うのは私ばかりではあるまい。

学者の間には、仲哀天皇は実際には存在せず、神功皇后の子、後の応仁天皇が即位するストーリーのつじつま合わせをするために創作された架空の天皇だ、という主張もある。

何れにしても、「古事記」には、仲哀天皇が亡くなった後、その事業を引き継いだのは皇后の気長足姫尊、つまり神功皇后であるとし、彼女の功績が詳しく語られている。

それによると、皇后は、神託に従い、朝鮮半島に出兵することにした。

しかも、その意思決定の経緯は、極めて巫女的であると言って良いだろう。

「日本書紀」という公式の歴史書によれば次のような経過の説明がある。

皇后は、香椎浦かしいのうらで髪を解いて海に臨んで占ったという。

「われ、神祇のみことをうけて西にしのかたたむと思う。ここに、頭を海水にすすぐ。もし、しるしあらば、髪よ、二つに分かれよ」と。

すると、髪は海水によって自然と二つに分かれた。

そこで、皇后は髪を結び上げてみずらすなわち、男子の髪形にして、金銀を始め種々の珍宝を有する、朝鮮半島の国々へ出兵することを決心したとある。

しかも、誉田別皇子ほむたわけのみことつまり後の応神天皇を懐妊していたにも関わらず、侵略軍を率いて遠征したと歴史書は語る。

この戦いは、どう見ても、豊かな国から金銀財宝を奪う侵略戦争に他ならない。

持てる者から奪うことに何の躊躇もない、何と、無邪気で大らかなのだ。

古代人の考えは、全く驚きである。

ナショナルインタレストという国益優先の外交である。

勿論、侵略戦争も、外交の一つであるが、ミツバチの蜜を狙って襲い掛かるスズメバチに似た現在の大国の行為も、あるいは、古代とあまり変わらず、少しも進歩の跡が無いように思えるのはなぜであろうか。


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