旅立ちの日
それから二ヵ月後、オレ達は旅行に来ていた。
金をかけずに済む、バス旅行にした。
旅行会社のプランを選んで、みんなで予定を合わせた。
「アタシ、バス旅行なんてはじめて!」
利実がはしゃいだ様子でバスに乗り込んだ。
しかしオレ達の胸の中には、1つの大きな不安があった。
―利実は本当に、グループから抜けてくれるのだろうか?
という不安だ。
その不安は日に日に大きくなっていった。
真面目な態度を崩さなかった利実、その態度の裏に秘めている心が、決して真面目ではないことに薄々感じていたのだ。
しかし旅行を中止にするわけにはいかない。
オレ達は決して何を言われようが、利実を二度と受け入れないことを決めていた。
バスの席順は男女で分かれた。
女性4人は一番後ろの後部座席、男性は2人ずつ席に分かれた。
そしてオレは孝一と同じ席になった。
「…何だか難しい顔をしているね? 和城」
「ん? そうか?」
自分の顔を両手で包み込み、グニグニ揉んでみる。
「利実ちゃんのこと、心配?」
考一は声を潜め、そっと後部座席を見た。
「まあ、な。修羅場になる覚悟はしとかないとな」
オレは苦笑し、肩を竦めた。
オレと孝一の席は後部座席から離れている。
楽しそうな女性四人組だが、その心中が荒れていることが分かるのが辛いな。
「何か…ゴメン、ね」
「何がだよ?」
「だって利実ちゃんを受け入れたのって、僕が原因だろう? あの頃、あんまり深く考えずに、みんなに彼女のことを紹介したから…」
そう語る考一の顔色は暗い。
「そう深く思いつめるなよ」
拳で軽く頭を叩いた。
「利実は行動タイプだからな。お前を通さなくても、何らかの形で接触してきただろうさ」
「うん…」
「どの道、こうなることは避けられなかっただろう。お前が気に病んでも、しょうがないことだ」
そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
「うわっ!? やめてよ、髪がボサボサになる!」
「お前がくっだんねーこと言わなきゃやめてやる」
考一の慌てっぷりに、思わず笑ってしまう。
「んも~。和城ってイジメっ子タイプだよね」
ボサボサになった髪の毛を手櫛で直しながら、どこか恨めしげに言われた。
「お前がいじりやすいのがいけない。そういうとこ、変わらないのな」
「まったく…。でも和城のそういうとこ、嫌いじゃないよ?」
「へえ?」
「僕はあんまり積極的な方じゃないからさ。和城のおかげで寂しさとか、感じずに済んだから」