表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

7

「彼女、さっき僕を呼び出してこう言ったんだよ」


今までに見たことがないほど真剣な表情で、孝一は利実を見下ろした。


「『グループにいられなくなるのは、もうしょうがないって諦めた。でも彼のことは諦められないから、協力して』って」


「利実…! あんなに言ったのに、まだオレのことを…」


「気持ちは分からなくはないけどね。でも次の瞬間、言われた言葉で彼女に見切りがつけた」


「何を…言われた?」


孝一は苦笑しながら語った。


必死な様子で頼んできた利実だが、突然孝一に抱き着いてきた。


「協力してくれるなら、何でも欲しい物あげるわ。お金でも、アタシでも、ね?」


そう言って孝一にキスしようとした。


「…バカなコだよね、ホント」


「だな」


そこへオレが乱入してきたわけか。


必死なのも過ぎると嫌なもんだ。


今度は手段を選ばず、オレを手に入れようとしたのか。


「お金や女で僕がキミを譲るわけがないのに…。あんなことを言わなきゃ、一緒に連れて行く気なんて起こらなかっただろうね」


「どこへ…行く気だ? 利実を連れて」


オレは震える声を振り絞った。


だが孝一は苦笑するだけ。


「彼女はここへ残しても、和城の害になるだけ。なら僕が彼女を連れて行く」


「待てっ! ならオレが一緒に行く! それで良いだろう?」


しかし静かに首を横に振られた。


「キミは…ダメだよ。とっても魅力的な言葉だけど、それじゃあ昨夜交わした誓いを汚してしまう」


「孝一!」


「誓いの指輪じゃないけど、ストラップを渡せただけで、僕は充分だ。不要になったら捨てていいから」


「捨てるもんか! お前から貰った物なら、何1つ忘れていないし、失くしてもいない!」


「…ありがと。僕もキミと同じで、和城から貰った物は何一つ忘れていないし、失くしてもいない。全て記憶や体験と共に、大事な僕の宝物だ」


オレは必死に体を動かした。


もうこの状態がどういうことなのか、分かったからだ!


このまま孝一を行かせるわけにはいかない!


ましてや利実と一緒になんて、行かせてたまるか!


「最後にキミとこうして話せて良かったよ」


そう言ってドアへ向かう。


「行くなっ! 孝一! ここにいろよ!」


「キミとはずっと一緒にいたいよ。でも…僕にはムリなんだ」


孝一は再び苦笑すると、ドアの前へ立った。


するとドアは音も無く開いた。


「ばっ…! 利実、起きろよ! 抗えっ!」


どんなに大声を上げても、誰も起きないし反応もしない。


それは利実も同じだった。


「くそっ! 動けよ、自分の体だろう!」


どんなに体を動かしても、イスからは立ち上がれない。


行ってしまう!


オレの目の前で、孝一が行ってしまう!


もうオレの手が届かない所へ!


「本当にありがとう、和城。僕はキミが全てだ。キミが無事に生きていれば、僕は同じように生きている」


「そんなっ…!」


「僕は僕のことが一番嫌いだったんだよ。キミの為に何かしたいのに、できない自分が大嫌いだった。でも…最後にこうやってキミの害を持って行くことができる。それで充分だ」


「バカヤロウ! お前はオレの側にいれば良いんだ! それだけでっ…それだけでオレは救われていたんだ…!」


ボタボタと涙が床に落ちる。


泣いている姿なんて、親にも友達にも見せたことはない。


ただ、孝一の前だけ。


コイツの前だけは泣けた。


「…ゴメンね。キミには謝ってばかりだった。そして感謝してばかり。―ありがとう」


「孝一っ!」


「キミの害は、僕が持って行く。さようなら、和城。キミはもう自由だ」


最後に清々しく笑って、孝一はバスを、降りた。


「孝一ぃいっ!」


無我夢中で叫ぶ、窓に視線を向けると、孝一の後姿が見えた。


利実を抱いて、霧の中へその姿を消してしまった。


「っの、バッカヤロおおっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ