上手なスキルの悪用法1
リアの晴れやかな笑顔を確かめてから扉へ向かう。
そして中に踏み込んだと思った瞬間周りが光に包まれた。
「おお!」
思わず目の前の光景に感嘆する。
円形の壁の内側には所狭しと家が建てられ雑然とした雰囲気ではあるが、ほとんどの建物の壁は白、屋根はくすんだ赤と統一されていて変に一体感がある。
さすが国というだけあって数万人は暮らせるレベルで広い。
中央は広場になっており国でひと際高い時計台が存在を主張していた。壁の外は金の畑が広がり、風に波打っていた。
「フフッ気に入ってもらえて嬉しいです。」
機嫌のいい声が隣から聞こえる。そちらにあるだろう自慢げな顔を見ようと振り向く…
息が止まるかと思った。体が痺れる様に緊張している。
そこには相も変わらず澄んだ空気を纏って、見る者を凍らせるほどの美少女がいた。
首輪をつけて…
「えーっと…その首のヤツはドMアピール?」
「は、はあああ!?」
見る見るうちに透明な肌が朱に染まる。まあ我慢強いと思っていたから結構納得だけどね。
人の趣味はひとそれぞれ。うん。私は変な目で見ないから大丈夫だよ。
「いやなんで納得顔をしているんですか!違いますよ!これはプレイヤーの連続ログイン制限時間を封印するためのアイテムです。これがないと私は強制退場させられてしまうんです。」
そういやゲーム内時間で4時間に一度はログアウトしないと警告が来るんだっけ。一応気にしとかないと変なタイミングで強制ログアウト食らいそうだな。
「ふーん。他のアクセサリーにならなかったの?」
「これはずっと前に死蔵していたアクセサリーでして、ワンオフものです。」
首輪をよく見ると黒と白でデザインされており豪華な印象を与える。
でもなあ…首輪というと自分を他者に預けるというイメージが。
加えて前を垂れる鎖の先のせいで目線が谷間に吸い込まれる。
「あの大丈夫ですか。顔少し赤いですよ。」
「ええ、うん、大丈夫です。はい。それよりリアは他に何か持ってきてますか?」
「なぜ丁寧語?
とりあえず、必要になると思って服だけは色々持ってきました。それ以外は持ってきてません。
服の性能はこの国のものとあまり変わらないですね。
そういうのはこの世界で揃えていく方が楽しそうですから。」
リアの服が女神様のものから白いドレスアーマーになっていることに気づいた。ただ普通のものより断然豪華な見た目で傍目から見れば強そうだ。
「もう服があるのね。初期服は味気ないから私にも一着貰える?あんま目立ちたくないから顔隠れるようなの希望で。」
「いいですよ。これなんてどうです?」
リアが何か指先で操作すると私の目の前にトレードのARが現れる。
「ありがとう。とりあえず着てみるよ。」
メニューを開き装備してみる。
少しぶかぶかで真っ白な長袖カッターシャツに、首元で止められた黒のマント、クリムゾンレッドと黒のチェックなスカート、先が上向きにとがった足首まである黒のハイヒール、つばが広く明らかに大きい黒のとんがり帽子。それらを装備した姿がメニューに現れた。
マントや帽子、靴にはところどころにクリムゾンレッドのアクセントが散りばめられ、全体的に統一感があった。
カッターシャツが少し大きいのでボタンを少し開けて着崩した感じにしよう。
「結構目立ちそうかなと思ったけど、それは現実ならか。」
「はい。この国で魔女の格好はありふれすぎていますからね。似合ってますよ。」
「ありがと。まあ私のスキルに魔法は一つもないんだけど。」
「血流操作は傍目からは魔法にしか見えませんよ。」
「そうそう。そういやホムンクルスに変わったからもう一度スキルの確認しときたいな。」
私はリアのスキルの使い方を今一度思い出す。
『魔力を扱う場合はMPを消費してスキルを使うイメージが必要です。魔力は自分の中に盃を想像して、その中に満たされている魔力という名の水を魔力回路という管を通して使う場所に持っていく。最後に手のひらから溢れるイメージがいいです。それが魔力の込め方であり、魔法ならMPを消費するということですね。
ヒノの【血流操作】は切った傷口から血と魔力の両方が出るのを想像して、その血に溢れた魔力を馴染ませる感じですね。スキルレベル関係なく、血を操るには慣れるしかありません。』
私は魔法スキルこそないが、スキルでMPを使うことが多い。だから魔力を扱うのにはなるべく早くなれたいところだ。
そして私の【血流操作】は少し違うイメージを持った方がやりやすかった。
初期武器の投擲ナイフを取り出す。そして自分の中の盃から溢れた魔力が左腕の動脈を通って血と交じり合うのを想像する。そこで胸の前で突き出す自分の手に、手の甲から躊躇なくナイフを突き刺した。勢いそのまま血が噴き出し、その流れが一カ所に集まるイメージをする。すると目の前に真っ赤な球が渦巻いていた。
HPが3割になったところでナイフを抜くと、私の顔より幾分大きい球になった。
それを先ほどの魔力の流れをそのまま浮いてる血と糸でつながるイメージをして色々な形に変えたり、分けてみたり、できるだけ細くしてみたりする。
「常にそこに血があることを意識していればいいって感じかな。集中しないとダメなわけじゃなくて、気が抜けないって感じだね。二つ以上には分けられないけど、これは操作できる範囲や大きさと同じでスキルレベルの限界って話だし。」
「ヒノはスキル使いこなすのが速いですね。大半のプレイヤーの方は魔法を使うのに慣れが必要みたいで時間がかかってましたが。」
リアが呆れ顔をしている。
「こんなのはいきなり考えても無駄、最初フィーリングで徐々に考えながら最適化するのがいい。」
簡単に言えば最初から取扱説明書読むのではなく、ある程度慣れてから細かいところを読むのが一番効率良いってこと。
「【血流操作】で気を付ける点としてはHPが減らない場所では血が出ないことですね。具体的には国の中とか。血をストックする際は注意して下さい。」
なるほどね、結構制限もあるのか。
「そういや【血液操作】みたいなスキルを持ってないと血が出ないんだよね。NPCは血が流れる人の方が珍しいって認識なのか?」
それじゃあNPCとプレイヤーで色々常識が変わってきそうだけど。
「いえ、NPCはプレイヤーと違って傷つければ血も出れば痛みも感じますよ。一番の違いは生き返るか生き返らないかですが。そう言う所で異世界人はこっちの住人に一目置かれているんです。体質的に冒険者が向いているってことで。」
「なるほどね。基本的なことも分かったし、次の段階に進んでみよう。それっ。」
限界まで細長くした血を操作範囲ギリギリで振り回しつつインベントリを操作する。
すると血の先端から投擲ナイフが飛び出した。
「え?」
リアの困惑する声を聴きながら実験結果に満足する。チュートリアルじゃ武器もアイテムも持ってなかったから検証できなかったけど考えてたことが出来てよかった。
「このゲームって思考で色々操作すること多いけど、判定はシビアだよね。
インベントリの操作もそう。アイテムを手元に出したり、腰にある武器を直接入れ替えたり、自分が触れていればどこでもイメージで取り出せる。」
じゃあ自分の血の判定はどうか。
手に持ったナイフで浮いた血を切りつけてみる。だがHPは減らなかった。
リアが言うに部位欠損はなくなった先がポリゴンとなって消えるらしい。
なら消えない私の血は、まだ私の部位ってことだ。
つまりインベントリのものを血から取り出せる。
武器やアイテムはインベントリのショートカット欄に登録すれば思考のみで取り出せる。今やった実験は、それを利用して先に登録していた投擲ナイフを振り回した血の先から勢いよく飛ばせるか試したのだ。
「いやいや普通はあり得ません。断言はできませんが恐らくこれは種族のせいです。」
「え」
「ヒノの推測はほぼ合ってるのでしょう。でも前提条件が間違ってる。正確にはホムンクルスの血は体の一部。だからストレージから物を取り出せる。
確かに【血流操作】した血はヒノの一部という扱いでヒノのステータスが反映される。これはスキルを決める際言いましたね。ですがストレージ内のものを取り出せるはずがありません。なぜならストレージが取り出せるのは正確には本人の当たり判定がある個所だからです。つまり当たり判定のない血からストレージのものは取り出せない。となると疑うべきは種族。ヒノがホムンクルスであることが関わってくると思います。」
「そうなの?」
「私は種族に関して管轄外なので簡単なことしか分かりません。人造人間はゲームを進めていく中で自分の体を作り替えることで強くなっていく。ここから予想すると、操作中の血は作り替えている最中の体の一部という判定である可能性があります。」
「うーん。その場合私の血にも当たり判定があるんじゃない?」
「血を操作している間のヒノの体は不完全に作り変えているのかもしれません。作っている途中と言った方が分かりやすいでしょうか。ダメージ判定前かつインベントリ操作可能判定後の段階で止まっていると考えれば説明はできます。」
「それバグっぽいけど大丈夫なの?」
「すでにこの世界の管理AIが精査しているはずです。少なくともバグではありませんので血からストレージのものを出しても問題ないかと。今回のインベントリの件は種族特性の延長と考えていいでしょうね。」
「リアが言うなら大丈夫そうだね。なにはともあれ、やりたいこと一つ目は成功っと。」
これができるだけで私の行動に幅ができる。
何せ血さえ通れば好きなところにアイテムを取り出せ…
そして取り込めるのだ。
私は手に持った投擲ナイフを血に向かって投げる。吸い込まれるようにしてぶつかったナイフが血を突き抜ける前にストレージに入れるイメージを起こす。すると一瞬でナイフが消えた。
「ヒノがすでにスキルを使いこなしていることに若干恐怖を覚えるんですが…」
「気にしない気にしない。次行ってみよう!」