それは長い長いチュートリアル7
――【スキルスロット】――
「え?」
「ほう。」
リアの前に出ている詳細説明欄を見て愕然とする。
『敵から攻撃を受けたとき、スロットを生成、ランダムでこの世界に存在するスキルをセットスキルとは別に獲得する。10秒後そのスキルは消失する。』
「……おかしいです。」
「ん?まぁおかしいレベルで強い性能だね。」
「いや、そういう意味ではなく。
こんなスキル私は知りませんし、というかたった今まで存在しませんでした。」
「うん?それどういう意味?」
「私は全てのスキルをつかさどる女神です。
だからわたしがプレイヤーに自分の持つスキルを与える役割を持っていました。
ですが私はこんなスキル持っていません。
大体新しいスキルを作ることなんて私ですら不可能です。
そんなことが可能なのは運営かもうひとつ…」
「リアってスキルをつかさどってたんだね。で、そのもう一つってのは?」
「この世界の調整をしている管理AIです。」
「ふ、ふふっ。あははは。」
「いや、なんで笑っているんですか?」
リアが頭のおかしい子を見る目で私を見る。見た目は背筋が凍るほど綺麗なのに、そんな蔑んだ目で見られると正直少しゾクッとくるんだが。まぁここは私に対して態度が砕けてきたととっておこう。
「だって管理AIってことは世界がリアのことを歓迎しているみたいじゃん。運営はざまあないな。」
「歓迎ですか。確かにランダムスキルの醍醐味は自分の知らない特別なスキルを手に入れることですからね。私も楽しめといったところでしょうか。」
「そうそう楽しければOK~OK~。それにしてもこのスキル応用がいくらでもできそうだしリアとの相性もよさそうね。」
「そうですか?出当たり勝負な感じしかしないんですけど。」
「んーリアは戦闘どのくらいできるの?」
「今の私は強いですよ。」
そういって虚空から簡素な剣が取り出される。スキル確認をしていた時に使った初期装備の一つだ。それをおもむろに薙ぐ。
――ヴァン。
一瞬の事に目が追いつかなかった。気付いた時にはリアの剣は左から右へ振り抜かれている。今のリアは人属の初期ステータスのはず。それを忘れさせる程の剣速だった。
「ええっと、本来その剣がさせてはいけない系の音が出ているんですが…。」
「プレイヤーには何故かここら辺を勘違いされがちですね。この世界では移動速度はAGIに依存しますが剣速は補助するだけです。大事なのは思考速度。やろうと思えば本人の資質でいくらでも早く動かせます。」
「マジか。」
「私は確かに戦闘をしたことありません。でも私のAIはこの世界で二番目に優秀です。体の限界はアバターに依存しますが思考速度の限界はAIのスペックです。普通のNPCはこっちにも制限を掛けるんですが女神だった私にその制限はありません。」
「それってリアさんが本気出したらTASになるってこと?」
「私はメモリを見る権限なんてありませんから乱数は計れませんよ。周囲の情報の精査判別と行動の最適化が一瞬でできるだけです。」
「それは所謂プレイヤースキルカンストってことだから!移動速度上げたら誰も攻撃当てられないじゃん!」
「ま、まあ回避も得意ですが当たらなかったらこのスキルは発動しません。それに短所はランダムってとこだけではなくて、当たったら即発動じゃなくてスロットが回る分ラグが発生する所もです。もうひとつ、ここが一番の欠点で効果持続時間が短い。10秒なんてあっという間ですよ。」
「ちっちっち。このスキルは「攻撃を受けたら」であってダメージを受けたらじゃない。相手の攻撃に武器が少し触れるだけでも判定はあるだろうね。
さらに。このスキルはMPもSTMも消費しない、つまりパッシブだ。なら回せるスロットの数は一つじゃない可能性が高い。一つならアクティブで時間制限は一戦闘とかにするはず。加えてこのゲームは自分にセットできるスキルの数が限られているから、【スキルスロット】の一枠分が完全に無駄になってしまうし、わざわざ『セットスキルとは別に獲得する』なんて詳細に書かない。であればやはり【スキルスロット】はスキルを複数重ねて使うものでしょうね。」
私はまくし立てるように自分の思考を開示する。
「つまり防御してもスロットは回転し、それが回転中でも攻撃を受ければ新たなスロットが生まれるってことですか?
というかヒノはいつもそんなこと考えてるんですか?」
「そうそう。ってなんか後半の質問は微妙に馬鹿にされた気がする。」
「えーっと。なんでおかしなこと考えてるのかなあ、と。」
「やっぱりおかしな人ってdisってるじゃん!私は常に色々考えるようにしてるの。ぼーっとするのがあまり好きじゃないからね。リアも私と一緒に来るなら生き急ぐからよろしく。」
「いいですよ。ずっとここで立ち止まってたんです。少し急ぐくらいがちょうどいいです。」
「それはよかった。それとこのスキルがリアと相性が良いって言ったのは、スキルの女神様ならどんなスキルが来たって活用できるでしょってこと。」
「ふふ。それは任せてください。どんな攻撃も叩き切って、あらゆるスキルを一瞬で生かして見せます。」
私の煽りを不敵に笑うリアは頼もしく見えた。
◇
あれから1時間ほどああだこうだ言って4つスキルを決めた。
いやー、他人のスキル考えるのも楽しいね。しかもプレイヤースキルがカンストしてると来たら余計にね。だって人間じゃそれ無理だろってこともステータスさえあればできるときた。楽しくないはずがない。
「で、リアは種族どうするの?人族のまま?」
「ええ。住人と関わるのに一番適してるはずですから。」
「へー面白い決め方だね。まあリアらしいけど。」
「ありがとう。では私からヒノに報酬です。」
「え。」
「私のチュートリアルの手伝いというクエストですね。
報酬はヒノの種族です。メニュー欄を見てください。」
そういうと一瞬だけ私の体が光ったと思ったら。メニューの種族欄が更新していた。
「ホムンクルス。」
「ええ。私の女神としての最後の仕事です。」
「ありがとうリア。よし、楽しい楽しいゲームの時間だ。」
「そうですね。」
そう言うと二人のいる場所から少し先に白い扉が出現する。だが言葉とは裏腹にリアは少し引きつった笑顔だった。忘れ物はないか確認するような慎重な足取りで真っ白い扉に向かっている。
「昔の私は自分がここを通ることになるなんて夢にも思ってないでしょうね。」
ぽつりとつぶやくリアの背は少し小さく見えた。
リアの気持ちはリアのもの。でも他人の気持ちを変えようとする権利は誰しもが持っているはずだ。だから私は跳ぶ様にリアの前へ出る。追い越しざまにリアの手をつかみつつ振り返った。
「人の幸せって自分の想像の一歩先を歩いているものだよ!だから私がいつもリアの一歩前にいてあげる!」
リアにとって人とは導くものだ。それが自分の役目だったから。目の前の彼女もそんな導いてきた大勢のプレイヤーの一人になるはずだった。でも今その彼女に手を引かれている。
自分を引き留めていた鎖がバラバラに引きちぎられていく音が聞こえた気がした。それをかき消すように言い慣れていない言葉をつぶやく。
「いってきます。」
いつも言われている側の言葉を自分が言ってるのがおかしくて笑ってしまう。その笑顔はもう引きつってなどいなかった。
スロットする女神。文字にすると駄女神っぽい。