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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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結託



「ヒノ、それはやりすぎ。」


「いやいや。向こうさん完全に外国のスパイじゃん。スパイの末路ってこんなんじゃないの?ねえ?」


ミヒノが血の檻に捕らわれた二人に向かって問いかける。この二人は始まりの国の人間じゃない。理由は簡単。この二人は私の血の檻に普通に触れている。彼らが始まりの国出身ならこっちからの接触も弾かれるはずなのだ。私の血が攻撃と判定されている、つまりこの国の結界に守られていないということ。


「それ当事者に聞く?YESが返ってきたら逆に驚くよ。じゃなくて本当に殺しちゃうの?カーソルないし多分住民だよその二人。」


別に殺す気はない。けど馬鹿正直にそんなこと言ったら口を割るわけもない。ま、このままソフィーに受け渡すのが一番手っ取り早い気もするけどなんで私たちに目を付けたかぐらいは聞き出しておきたい。


「リア、私は郷に入れば郷に従えって教訓大事だと思ってるの。日本と同じ価値観じゃあ海外旅行は楽しめない。ここだって同じよ。現実と仮想じゃ命の重さが違う。」


「ふーん。ヒノは私の前でそんなこと言うんだ。」


ウッ、リアさんその拗ね方はズルくない?大体私が今言った理由がそのままリアをこの世界に縛り付けたくない理由でもあるはずなのに。


「リアはあんまり私を困らせないで。はぁ…とりあえず君たちはパーティ会話を解除してね。話し合いにならないから。」


「…お前たちは何者だ。どうやって俺たちの追跡を感知した。」


「勘だよ勘。次は私たちの番ね。フードを取って顔を見せて。」


私の適当な返しに若干の間を置いたが、断っても無理やり脱がされるだけと気づいたようで二人は素直に従った。フードの中から出てきたのは若い男女の顔だった。男の方は黒髪短髪で目がギラついており、見た目同様中身が擦れているのだろう、ひたすらにこちらを警戒している。対照的に茶髪ツインテールの彼女は怯えもなく澄ました笑顔で佇んでおり、楽観的というには些か奇妙なぐらいの落ち着きを見せている。


「思ってたより若そうね。案外、歳は私と同じくらいじゃない?」


「は?なわけねえだろチビ。」


ピキッ。

捕まった分際でいきなり質問したかと思いきや今度は私の侮辱ときた…。なるほど己の立場が分かっていないのだろう。じゃなきゃよほど死にたいらしい。


「ふふふふふふふふふ。」


「ヒノ落ちついて!あなたも!ヒノは色々適当な所があるからあなたたち消して終わりにしかねないの!だから挑発は止めて!」


「いや挑発のつもりはなかったんだが…。」


「だが?だが何?私の容姿は冗談にならない程おこちゃまってか?」


「もう埒が明かない!君たち二人はさっさと自分たちのことをしゃべりなさい!名前と所属国と私たちに目を付けた理由だけ話せばすぐ解放するから。でしょヒノ?」


「お前たちは始まりの国の人間だろ?なら俺たちをみすみす見逃すわけない。」


何の根拠があってそう言ってるか知らないが、まあ本来の私たちの立場なら彼らが正しい。でもその事実はもはや関係ないのだ。私たちですらこの国にできることがないのに、他国の人間が始まりの国をどうこうするなんて土台無理な話なんだよなぁ。だから他国のスパイとか余程のことがない限りほっとけばいい。


「私たちはこの国の人間じゃないわ。どこにも所属してないのは私たちのステータス見たんならわかるはずでしょう?」


もちろん改竄後のだけど。


「始まりの国の人間は皆無所属だろ。それに異界者のスパイが国に所属するわけがない。わざわざ結界の加護から外れるなんて馬鹿げてる。」


ふーん、もうそんなセオリーできてるのね。


「確かに君の言い分は分かった。でも君の立場は変わらない。さっさとしゃべってね?」


そもそも何故私たちが自分の白を証明しなきゃならんのだ。


「…分かっている。俺たちが何もしゃべらなくたってその時はグランドール司祭に突き出すだけなことも。そして彼女はこんな生ぬるい尋問はしない。初めから俺たちの選択肢は君たちを信用する以外ない。」


グランドール司祭ってソフィーのことだよね。やっぱり裏のボス的な立ち位置にいるんじゃん。今更だけど大丈夫かな仲間にして…。


「だがそれでも俺には確信が欲しい。だから俺の相棒だけは今ここで解放してくれないか?そしたら俺たちはお前たちの前には今後一切姿を現さない。その理由も話す。」


私は男の瞳から彼の真意を読み解こうとするがそこには純粋な懇願しか籠っていなかった。一人なら逃げきれるとかは考えてないみたい。まあいいか、求めているのは後をつけた理由と二度と関わらない約束だ。拘束力がなくても次捕まれば終わりだと思ってくれればそれでいい。


ミヒノが了承の意を伝える前にもう一人の女が初めて口を開いた。


「ねぇチェック、この人たちにしない?聞いてて思ったんだけどこれ以上の適役いなくないよ。」


「適役?」


「ジェミニ!黙ってろって言ったろ!」


「私たちがこの国に来た本当の目的忘れたの?私たちの任期だって迫ってる。そろそろ決めるべきよ。」


「……。」


なんか勝手に話が進んじゃってる。ん~もしかして私たちには良い方向に、かな?いっそのことツインテちゃんが全部暴露しちゃえばいいのに。


「白マフラーさん、白マフラーさん。この国出る予定はある?」


「予定も何もあなたたちの事がなかったらすぐにでも出ていましたよ。」


「場所は?」


「冒険者ギルドで良いクエストでも見繕おうとしてたのでそっちは未定ですね。」


ジェミニという女がマリアのその言葉に笑みをこぼしながらパチッと両手を合わせる。


「ならちょうどいい!私たちがその良いクエストとやらを提供するわ!」


その言葉に合わせて視界の隅にあるログが更新された。



『《ユニーククエスト:地下宮殿への侵入》が発現しました。参加者マリア、ミヒノはクエストを実行しますか?』





聖王国には平民貴族王族の他に教徒という身分が存在する。それも地位としてはある意味王族と肩を並べるほど高い。聖王国の国王とは日本でいう天皇と同じ役割を持ち、評議会が内閣、聖教会が最高裁判所と分権している。チェックとジェミニの所属はスコア聖教会。地下宮殿を拠点とするそこで第二秘密情報部隊の隊長と副隊長を任命されている。二週間ほど前から始まりの国の情報収集としてスパイ任務を遂行していた。


「ふーん。こっちの貴族は財閥って感じなのね。全平民がどこかしらの貴族の管理下にいるってのは凄い。」


「ギルドに力がないのね。始まりの国と真逆なのは面白い。」


聖王国の説明を受けたミヒノとマリアの感想にチェックはため息を吐く。ジェミニがクエストを出すと提案した後、この流れは止められないと悟ったのか青年が話しだした。そしてそのまま本題に入りだす。


「お前たちに目をつけたのはこの国の司祭と繋がりがあったからだ。昨日もそうだが北の丘で突然消えたり現れたりと怪しい行動したかと思えば今日はお前たち二人連れて帰ってきた。」


「なるほどね。」


私とリアの持つ『金の鍵』は「ログアウト可能エリア→ルティアス城」と「ルティアス城→始まりの国」が移動できる代物だ。そしてあらかじめ指定すれば始まりの国の中であればどこへでもゲートを作ることができる。しかしソフィーは違う。あれはルティアス城と北にある丘を繋ぐ物で、丘からしか出入りができない。だから今日は三人並んで丘から教会まで歩いたのだがそこを見られていたみたいだ。


そんなことを考えてると未だに血の檻の中にいる青年が膝を床につけて座りミヒノの目をまっすぐ見た。


「俺たちの頼みは一つ。一緒に聖王国にある地下宮殿の最下層まで来てほしい。」


ジェミニの方も今度は正座して「お願いします」と隣に合わせている。


「聖教会所属は地下宮殿に出入りできるのになんで私たちが付いていくの?むしろ私たちだけ入れないじゃない。」


「それは…宮殿地下は全十階層だけど俺たちが入れるのは五階層まで。それ以降は特殊な女官しか入ることが許されてない。強行突破するにしてもその女官に見つかるとその時点で宮殿から追い出されてしまう。」


「追い出される?」


「ああそうだ。女官は皆、視認した人物を強制転移させるアイテムを持っている。ただそれだけなら問題はなかった。見つからないように進めばいいだけだからな。でもそれは不可能だった。」


「見張りでもいるの?それとも迷路?」


「…そんな生ぬるいものじゃねえ。」


そこで一度言葉を切ってから自分でも未だに信じられないような顔でチェックは続きを口にした。


「彼女たちには未来が見えている。」


「「みらい…。」」


「それも予言や占いみたいな曖昧なものじゃなく、まるで見てきたかのような正確無比なものだ。俺たちが何度潜入しても行く先々で同じ女官が待ち受けていた。ルートや時間を変えてもスキルで隠れてもアイテムで変装しても無駄だった。

具体的にどうやって未来を見ているのかは分からない。それでも一つだけ可能性が見い出せたのは異界者の未来は見えないということ。」


「信憑性高いのそれ?」


「少なくとも宮殿の外では住民の未来は把握してても異界者の未来は把握できていないようだった。だから宮殿内は五層までは俺たちが案内、それ以降は二人に任せたい。」


「私たちが考えたルートなら予知されないからあなた達は私たちに付いてくるだけってこと?」


「異界者に強く干渉した住人の未来も見えなくなるようだからな。」


「ふーん。じゃあ肝心の報酬の話。あなた達は私たちに何をもたらしてくれるの?」


「聖教会の宝物庫に案内してやる。俺の開けられる場所は限られてるがその腰につけてる獲物よりは数段上物は保障できる。」


完全に泥棒ですやん。いいのかそれ?私はそんな思いとともに目線を腰にやる。


今私とリアが装備しているのはどちらもリュースさんが作ってくれたものだ。リアのは若干短めな日本刀[桜切]で、私のは海賊映画によく出てくる湾曲した刃を持っているカットラスだ。このカットラス、見栄え重視に見せかけてリアの[桜切]に匹敵するくらいには高ランク武器でもある。なのでチェックの言う報酬は破格だ。ま、クエストが発現している時点でそこら辺は信用している。


「夜逃げまでは面倒見切れないわよ。」


暗に未来予知できる女官の手から二人で逃げ切れるのか聞く。


「そこまでは頼んでいない。最悪途中で見捨ててもらっても構わない。」


「…なんだかその心配はないとでも言いたげね。」


「今話せるのはこれだけだ。この先はお前たちが手を貸すのなら答える。どうだ?ちょっとは俺たちを生かしてもいいと思えたか?」


チェックは先ほどのミヒノの言葉を返した。


へーどうしてそこまで口が軽くなったかと思えば…自分たちは潜在的な聖王国の敵だからお前たちが断っても敵対はしないと言いたいのか。そしてさっき言ってた私たちに付きまとわない理由も恐らくこれだろう。

それにしても彼の態度を見るにあまりいい返事は期待していないようだ。国を舞台にした騒動に巻き込もうって言うんだ、当然か。さて…。


「ええ、そうね。あなた達の依頼承ったわ。とりあえず私たちに報酬を払うまで死んでもらっちゃ困る。」


私の答えに驚きの顔をするチェック。


「本当に受けてくれるのか?」


「あら、普通の異界者はクエスト大好き人間だからこんな話聞けば首を突っ込むと思うけど?」


「雰囲気で分かる。お前は他の異界者と違って何らかの目的を持ってる。だから俺たちの事情を優先してそっちを疎かにするとは思わなかった。高々《たかだか》高ランクのアイテムをもらうためだけに。」


ふん、分かってんじゃん。正直報酬とかクエストなんてどうでもいい。聖王国の中枢に行き今まで謎に包まれていた聖女に会える。それは私たちにとっては大きな意味を持つはずだ。ナショナルクエストとか、ナショナルクエストとか、ナショナルクエストとか。


「はい憶測で話を進めない。あなたはただ私のYESを喜んでればいいの。」


「…分かった。詮索はしないと約束する。」


「私はごく一般的な異界者だってば。そうね、じゃあそれっぽいお願いでもしてみようかしら。」


折角聖王国に詳しい人間が二人もいるんだ。これを逃す手はない。


「敵対して国を見て回れなくなる前に聖王国の名所を案内してくれない?」


リアも大事だけどこっちも重要だ。観光!観光!サイトシーイング!この世界二つ目の国か~。始まりの国は料理が結構普通だったから聖王国は期待してるぞ!


「それなら私に任せて!伊達にスパイしてないもんね!たくさんいいお店連れてってあげる!」


「聖王国は海の食べ物が有名らしい。ヒノのお眼鏡にかなう魔物はいるかなぁ。」


ミヒノの頼みを快諾するジェミニに、初めての国外に心躍らせているマリアが続く。いきなりはしゃぎだした女三人に困惑気味の青年がポツリとつぶやいた。


「……え。さっきまでの緊張感はどこ行ったの?」




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