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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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ソフィアの本懐



私がミヒノという人物について知っていることは少ない。エルフィの恩人で旅の道連れ。会うのだってこれで三度目。


一度目は聡明な印象だった。私がどういう人間かを計ろうという意思がその目に宿っていた。二度目は強情な人だと感じた。エルフィを救うのにどんな手も使うとその口で言っていた。


三日目の今日。私はあえてミヒノに事前に知らせることなくルティアス城を訪れた。少しでも自分の苛立ちをぶつけたかった。この場所を我が物顔で居ることにも腹が立っていたのかもしれない。許可も取らずにここにくるための鍵を使ったので怒られても仕方ないと思っていた。

なのに驚かれはしてもすんなり流されてしまった。驚いた理由も私にではなく人がいること自体へのものだけで、まるであなたは信頼してるから好きにしていいよとでも言われた気分だった。正直拍子抜けした。私は魔王に会う心持ちでここに来たのに…。


今までのミヒノさんのイメージはノネットサミットで一新してしまった。それほどあの目隠しの少女は私に衝撃を与えた。各国の王を敵に回す言葉に女神をも恐れない態度。教会の人間としても私は彼女を受け入れられなかったし、世間の彼女への敵意がいつかエルフィにも向かうのではないのかと心配になった。


そしてエルフィへの不安は昔のことを思い起こさせる。


彼女は幼い頃から周りに大人の人ばかり侍らせて冷めた表情で公務をこなしていた。凍える青い瞳を初めて向けられた時少し怯んでしまったことを今でもよく覚えている。それでも教会の人間である私だけが王女の彼女と気軽に話せると気付くと自然と仲良くなりたいと思うようになった。順調に距離を縮めて彼女が気を許し普段とは違う優し気な笑顔を見せるようになってからはより一層彼女を一人にさせまいという使命感に駆られた。


…にもかかわらず私は肝心な時傍にいてあげられなかった。


三年前、何の前触れもなく私の友人は国のためにその身を犠牲にした。強大な魔物を封印するために王族三人と城ごと隔離したと聞いたのは全てが終わってからだ。相談もなかった。それは当時国を一人で背負っていた彼女にとって当然のことだったのだろう。


私はずっと後悔している。


それからの私は教会での地位に固執するようになった。私に力があれば彼女の手を離さずに済んだのかもしれない。そう考えるようになって三年、私は始まりの国の司祭にまでのぼりつめた。神聖魔法だって高位のものを使えるよう血の滲む努力もしてきた。それは全部エルフィのため。彼女との再会を信じ今度こそ彼女の力になれるように。


そして今彼女は再び私の手の届かない場所へ行こうとしている。それも私の信用がない人と一緒に。知らない間にまたいなくなるかもと考えるだけで三年前彼女が失踪した時と同じ気持ちにさせられる。全身が鉛になったような無力感と心に穴が開いたような喪失感。いやだ。もう二度とあんな思いはしたくない。だから私は取り返しに来た。



『今のリアがどれくらい強いか知ってる?』


ミヒノに言われて思い出すのはエルフィが冒険者をしていると聞いた時のことだ。最初は何かの聞き間違いかと耳を疑った。私の知ってるエルフィはいつも執務室に籠っては書類と睨めっこしている文官系。偶に市街へ出てもギルドのお偉いさんと話すばかりで女神様の結界の外へ出た所も走ってる姿すら見たことがない。そんな彼女が剣士として獰猛な魔獣と戦ってると言われても想像もつかなかった。


それからどういう訳かミヒノとエルフィが決闘することになる。私は危ないからと城の中から見学することになった。中庭は戦うには広すぎるのだから別に危なくないんじゃあ?そう思っていられたのは今の内だけと思い知る。始まったのは戦闘と言うにはおおよそ規模が大きすぎる代物だった。


「な、なに…これ……。」


呆然としながら目の前の大嵐もかくやの人災を眺める。上から数えきれない量の武器が降り注ぎ、その全てをエルフィが弾き飛ばしていた。時折目前の窓ガラスに剣やら槍やらが差し迫ってきて体がビクつく。中庭にいたら串刺しだった未来が見える。


開いた口が塞がらない。そしてこれがただの序章とでも言うかのように更なる驚愕がもたらされる。突然視界を埋め尽くすような巨大な炎がエルフィのいた場所から立ち昇った。轟音と地響きで私は平衡感覚を失う。立っていられず窓にすがるように膝立ちになった。そのまま徐々に収束する火柱を信じられない思いで見守った。


「……ウソ…。エルフィ…。」


そう口からこぼれた所で煙の中から人影が浮かび上がった。現れたのは煤で汚れることもない真っ白な制服に火傷一つ負ってないエルフィだった。私は今度こそ腰が抜ける。エルフィは種族レベルが三桁ない初心者だと言っていたが嘘だったのだろうか?明らかに人に向ける火力の範疇を超えた攻撃に、それを余裕で受けきる防御。こんな戦いを見るのは初めてだった。急に目の前にいる二人を遠く感じる。


『だってソフィアさんは今のリアを全く見えていませんので。』


不意にミヒノの言葉が思い起こされた。確かに私にはエルフィのことをちゃんと知らないのかもしれない。そういう疑念はミヒノの服でも感じた。彼女の服はエルフィが作ったという。細部まで丁寧に作られたそれは奇抜なデザインだが本職顔負けの出来だった。それを褒めるとエルフィは心の底から嬉しそうに笑った。そこでも私の知らないエルフィが顔を覗かせる。


改めて私の気持ちを鑑みる。最近エルフィに感じていた違和感がほどけるような気がした。私は自分に言い聞かせるようにそれを言語化した。


「…今そこにいるあなたは異界者のマリアであって、エルフィという住民はもうこの世界にはいないんですね。」


国の繁栄しか頭にない王女はもう存在しない。彼女は彼女自身のために頑張れるようになっていた。その証拠に昔は特別だった彼女の笑顔は今では珍しいものではなくなっている。それは喜ばしいことのはずなのに私は無意識に事実を認めるのを嫌っていたようだ。彼女を変えたのが自分ではなく別の人間だったからか。それとも自分の心残りがもう取り除かれる機会がないと感じたからか。


窓の外では中庭一杯を使って動き回る二人の姿があり、爆発と斬撃の乱舞が繰り広げられている。逸れた炎がレンガのタイルを転々と灯し洞窟の薄暗さも相まって夢幻の世界と化す。そこを白と黒の影が赤の光を連れて駆け抜けていく。


私はその光景に見惚れながら決心する。彼女とのこれまでが全部無駄になったわけじゃない。今の私なら彼女の力になれることも多いだろう。だからこそ一からマリアとの関係を結び直す。嫉妬や未練で見えてなかった彼女は今なお私にとって大切な友人だから。





「お疲れさまでした。二人共強すぎです。」


中央で話し込んでいた二人に私も加わった。どうやら勝負は引き分けだったらしい。白煙で私からじゃ最後の方は良く見えなかった。


「ありがと。でも相手がリアじゃなかったらもっとうまく血を使えるんだよね。なのに片っ端から消していくし嫌になっちゃう。」


「いや私相手に引き分けなんて今のヒノは相当強いから。まぁ次やれば十中八九私が勝つけど。」


「くっ…私じゃあリアに攻め勝てないから何も言えない。どうせ私はアイテム頼りですよ~だ。」


「私からは実力は拮抗してるように見えましたが…マリアの方が強いんですね。」


「何言ってるの?結果は引き分けだから!互角よ!ご・か・く!」


「隠れてあんな爆弾まで作っといてよく言う。私じゃなかったら死んでたわ。」


「それです!ああいうのは心臓に悪いのでやめて下さい。」


胸に手を当てて言う。あの時は本当に驚きました。


「悪かったって。ソフィアさんも付き合わせてごめんね。」


そう謝るミヒノはやはり捉えどころのない人だと思った。でもあのマリアが懐くんだから悪い人ではないのだろう…恐らく。


「さんは付けなくてもいいですよ。私もミヒノと呼ばせてもらいます。」


「そう?ん~英語ばっか使ってると敬語が疲れるんだよね。もう勝手にため口聞いてるし。いっそソフィーって呼んでもいい?私もヒノでいいからさ。」


「うぇっ!!?」


マリアの方から変な声が聞こえた気がしたが私は構わず話を続ける。


「いいですよ。それよりヒノに聞きたいことがあったんです。貴女は初めから私の事を信用してるようでしたがどうしてですか?今日だってこの城に許可なく押し入っても文句ひとつなかったですし…。」


「ん?いや私はソフィーについてほとんど知らないよ。リアが信用してることぐらいかな。だからもし私がいなくなってもリアのこと頼めるなぁって思ってるだけ。」


「ヒノ!?」


声を荒げるマリア。ヒノと一緒にいる彼女はもはや別人のように見える。


「はい、リアは落ち着く。自主退場の方じゃなく強制退場の方ね。色々暴れてる自覚あるから運営じゃなくて…え~っと創造神とやらに目を付けられていてもおかしくないんだよね。この世界二度と立ち入り禁止にされたら私じゃあどうしようもないからさ。」


「「なら自重しなさい(してください)」」


「それは無理な相談ね。後はこの城にソフィーが出入りすれば私がログアウト中もリアを一人にさせないで済むでしょ?だからいつでも遊びに来てどうぞ。」


「なるほど分かりました。鍵の件ありがとうございます。」


私の信用はともかくマリアに利があるかの問題か。ずっと思っていたけどヒノはマリアに甘い?でもそういうことなら私の話も聞いてくれるかもしれない。


「私がマリアを返してと言ったのは確かに王国を再建するためです。でも別にルティアスの名を惜しんだのではありません。それがマリアの今後の幸せにつながると思ったからです。今のマリアはヒノに危ない道へ引き込まれてるようで心配になりました。」


「ソフィア…。前にも言ったけど私は…。」


「分かってます。ヒノと一緒に色んな国を見て回りたいんですよね。私も貴女をここに閉じ込めるのが自分の独りよがりだと思い直しました。エルフィはルティアス王国のためそして始まりの国のために生きました。だから今度はマリアとして自分のために生きてください。」


「私のためを思ってのことなんだからそんな自分を卑下するような言い方はしないで。ソフィアの気持ちは本当に嬉しい。だからありがとう。」


そう言ってもらえるだけで私の方こそ泣きそうになってしまう。だからこそ私が本当にお願いしたかったことを言う。


「ヒノもマリアも聞いて下さい!私も二人の仲間に加えて欲しいんです!」


「え!?それは一緒に付いて来るってこと!?」


「いえ、これでも私はこの国の要ですのでここを離れるわけにはいきません。でもこの城になら通えます。異界者はクランというものを作ると聞きました。私も二人のクランに入れてもらえないでしょうか。」


私は二人に頭を下げると困惑した表情を返された。あれ?二人とも背中と体に狼のマークを入れているのでてっきりクランの紋章だと思っていたが違ったのだろうか。


「(ねぇリア。クランて異界者専用のはずよね?私そう聞いたんだけど?)」


「(それならNQがクリアされたことで住民がクランに入るクエストが発生するようになったみたい。NPCの制限解除に関わってるみたいだって掲示板で騒がられてた。現に私達にもクエスト出てるし。)」


「(クランを作ってソフィアを加入させようって。身も蓋もないね。)」


二人はコソコソと内緒話をしていて聞き取れない。私の望みは二人と繋がりを持って手助けになること。同じ志を持つ者が集まるというクランは私にとって都合がいい。


「そうね。この機会にクラン作ろうか。名前はリアが考えて。」


「いきなり丸投げ…ちゃんとみんなで考えましょうよ。」


「私が考えると適当になるよ?ん~マリア親衛隊とか?」


「ああ、目的も分かりやすくていいですね。」


「絶対いや!!ソフィアも乗らない!」


それからマリアを中心にクラン作りが始まった。ホームは言うまでもなくルティアス城。名前は『Wanderlust Origin Liberation Familiar』略してWOLF(ウルフ)。意味はそれぞれ「放浪」「始国」「解放」「盟友」らしい。クラン紋章は七つの城を背負った黒い狼。緻密な白のルティアス城が簡素な影絵を浮き彫りにしている。マリアがいつの間にか描いていたが片手間のクオリティではない。最後にクラン代表が多数決でヒノに決まった。


「リアでいいのに…まいいや。なら最初のクラン活動はソフィーのメンバー衣装を作るということで!」


「私のですか?でもこの修道服が私の正装ですので…変えるのは女神様の意に背いてしまいます。」


二人の服は羨ましいですがこればかりは仕方ありません。


「大丈夫、大丈夫。リーア様はそんなことで怒らないから。ね、リア?」


「ええもちろん。ということで衣装は私にお任せを!」


「そんな強引な…。それに二人ともやけに確信を持った言い方しますね。」


「「(そりゃ許すも何も作るのが女神本人だから…。)」」


二人の態度はどこか不自然だったけど本心では嬉しかった。だって正式に仲間に入れてもらえたような気になれたから。

結局私が折れて元の修道服に近づけることと派手になり過ぎないことを約束にクラン制服を作ってもらうことになった。


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