ヒノvsリア ―tricolor +flare
【禁科玉条】登録したスキルを白地に金糸の本で指定すると自分にも使えるようになり、黒地に銀糸の本で指定すると相手が使えなくなるユニークスキル。今現在リアには【炎熱操作】が使え私は【投擲】が使えない。やっぱり封じるなら【投擲】だよねぇ。だって今までの攻撃をほとんどメタれるんだもの。私でもそうする。
「あれで無傷って……でも流石に本気出してくれたでしょ?」
「……。」
「あれ?リアさ~ん?……もしかしてキレてる?」
二冊の本を連れてゆっくりとしたストロークでこちらに歩むリア。無言怖いです。
「…いえ。怒ってないわ。ちょっと私が勝った時のお願いどうしようか考えてただけ。」
「それは余裕あるね。もう勝っ…。」
「そうね。ヒノには一日私の抱き枕になってもらおうかしら?」
「え?」
私が軽口を返そうとしたのをリアの言葉で遮られた。
「女神のAIになってからは食事も睡眠も必要無くなっちゃったけど偶に無性にベッドで横になりたくなることがあるの。普通の住民をやっていた時の名残かしら?そういう訳でヒノにも付き合って欲しいかな。その日はずっと何も考えないで何もしないで無意味に無駄に怠惰に自堕落にただただ時間が過ぎるのを待つ。ふふ。ヒノは好きだったよね…他人に自由を束縛されるの。」
ヤバい。リアがマジで怒ってる。私が時間の浪費が嫌いなのは自明の理だ。それを強行しようとするなんて…リアさん、私への嫌がらせのためだけにこの勝負勝つつもりだ。
「その~リアなら普通に切り抜けると信頼したから攻撃しただけで、実際リアは傷一つないし…。」
「ヒノが何を言ってるのか分からない。私を倒すための攻撃でしょう?なら何も問題ない。ところで決闘前に【暴食】禁止にしたけど…どうしてだったかしら?きっとヒノの気まぐれよね?ヒノには”やりすぎ”という概念が消失してるんだもの。」
うわ、リアがいつになく厭味ったらしい言い方してる。君の記憶力人間離れしてるんだから絶対忘れてないじゃん。拗ねてるなぁ。まぁ内緒で自分を傷つけるためのモノ作られてたら怒るのも無理ないか。思ってた以上に殺傷力出ちゃったし。うん私が全面的に悪い。
「わ、分かった。勝敗に関係なくリアに何かプレゼントするからその話し方勘弁して…。」
「理由は全くもって分からないけどヒノからの贈り物なら喜んで受け取るわ。」
「あ、ありがとう。じゃあ理由は日頃の感謝という事でもいいから……そろそろ続きを始めよう。」
私は戦闘にスイッチを切り替える。それに合わせて左手の小瓶を別のものと入れ替えた。
「――【血の創造】を。[ラグナム・エクスプローシブ]」
【爆破:火(+25)】の[ラグナム・エクスプローシブ]。先ほどの爆薬の威力を抑えたものだ。それを複数コピーしつつ血球に沈めていく。その上で先日の会談で使った直剣も取り出した。その数32。出した傍から剣の中に仕込んだ私の血を【硬化】し宙へ浮かばせていく。
私は最後にストレージから最大火力を取り出す。赤に黒の透かし彫りが施された鞘を引き抜いた。現れた剣身は初めの透明だった頃が嘘のように深い赤に染まっており、私の血を寄越せと舌なめずりしているようだ。
[The Twilight]
武器種:魔剣
ATK:1/998 重量:50 耐久:―
付与効果:―
付与特性:【吸血成長】【吸血効果】【魔剣】
魔剣トワイライト。敵の血でATKの基礎値が上昇し、主の血でその力を引き出す。ようやく四桁の大台の見えてきた私だけの剣に自分の血を吸わせていく。見る見るうちに剣身に滲み込まれ中心から脈打つように真紅の光が鼓動する。私の体三人分を吸収した所で光が持続的なものになった。これで私のできる準備は全てだ。
リアは私の滑るレールに並走し10mの距離を保っている。私は直剣の半数をけしかけた。投擲による直線的な攻撃とは違う人が振った動き。リアが私の剣と刃を合わせる。金属がぶつかる音が響き火花が散った。リアの顔が渋る。先ほどは城壁まで武器を吹き飛ばしていたにも拘らず今度は数メートル引き下がらせただけだからだろう。それは私のSTRとINTが補正した直剣のATK値とリアのAGIとDEXが補正した刀のATK値が均衡している証。リアの方はそれに魔石の【火魔法:付与】とクリティカルが加算されており、その分実際は私の方が押し負けている。
ただ1で圧倒されても16で負けなければいい。袈裟切りで薙ぎで切り上げで。左右から前後から真上から。様々な角度から次々に、ときに同時に斬撃を重ねていく。
私の剣速もリアには到底及ばないが速い方だ。剣速もステータスで上げられる。具体的に言えばDEXとMNDがプレイヤーの思考速度を補正するのだ。思考速度が上がれば剣速だけでなく戦闘中に時間の流れを遅く感じやすくなる副産物まで得られる。私がここまでリアの動きに付いて行けているのはこのおかげだろう。今の私は格上との剣戟だってできるスペックがある。
それでも押し切れないのはプレイヤースキルの差だろう。何故にこの前後同時攻撃が防がれるの?曲芸でも見せられてる気分だよ!リアは私の連撃を全て芯で捕らえ徐々に[桜切]のATK値が上昇させていく。それに連れて段々と私の攻撃が遅れてきた。その隙を逃さず足を使った回避も加えて一気にこちらへ詰めてきた。
5mまで近づかれる。16から24に剣を増やしてリアの動きを封じにかかる。さっきより戦闘が激しくなるが私を追随するのを止めない。そこに小瓶を隠した血球を混じらせた。頃合いを見て【硬化】で瓶を壊し、魔力の通った血で直接火の魔石を反応させる。リアの傍で人一人の大きさはある火球が生まれた。爆風でリアを少し押し下げる。しかし次の瞬間には火球が炎の矢に変形した。今度はそれが私に向かって放たれる。ユニークスキルで得た【炎熱操作】を使っているのだろう。【錬金】で作った攻撃アイテムの弱点はこれだ。こうやって相手に利用されたり自爆する可能性すらある。
私は魔石に《封入》した【氷魔法:付与】を行使する。霜を引いた浮遊する直剣が火の矢を叩き切った。
そこからは中庭に輪を描くよう移動しながら付かず離れずの激しい攻防戦が始まった。剣が入り乱れ爆炎が連鎖する。リアも私もノーダメで済んでいるのが不思議な程の轟音と閃光。二人の通った後は血と炎によって凄惨な戦禍が刻まれた。
あぁ~しんどい。接近戦で32の剣を同時に操るのは頭への負担が大きすぎる。できれば思考がオーバーヒートする前に決着を付けたい。現状としてはリアの間合いに私本体が入らないようどうにか押さえつけてるだけ。攻撃をしてるのはこっちでもやってることは決着の先送りだ。
ん~やはり勝つには右手に握る魔剣をリアの刀にブチ当てるしかないだろう。私の優位性は魔剣のATKがリアの刀を上回っていること。打ち合うだけでエルザの時のように武器をロストさせられる。
リアだってそれを警戒しているはずで血による魔剣の遠隔操作はできない。他の直剣は剣の中に私の血を入れているので大丈夫だが魔剣を操るには血を露出する必要がある。そこを【細太刀】で斬られると魔剣ごと私の制御を離れてしまう。そんなリスクは冒せない。
やはり私もリアも近づかない限り勝機がない。幸い追いかけられてる側であるこちらのタイミングで仕掛けられる。私にリアの刀の軌道は見えない。魔眼なら見えるかもしれないがそれに期待するのは最後、当てにはしない。なら気を付けるべきは振り始めと振り終わり。斬られるのはこの二線を含む平面。魔剣を割り込ませるならそこしかない。見極めろ!リアの剣筋は私が一番見てきたんだ!
覚悟を決めた時には動き出していた。レールを直角に曲げリアの懐に飛び込む。その寸前に牽制として空いた直剣6本で《スラント》を放つ。対するリアは水平切りを一つ。火の付与された刀が六つの爆発と共に直剣の勢いを完全に殺した。
ウソでしょ!?武器同士が触れた瞬間に【炎熱操作】で刀の背をジェット噴射感覚で加速。剣速を落とすことなく次の剣にぶつける。それを再帰して六連撃しちゃった。リアがやったことに驚きを隠せない。切り替えろ!まだ終わってない。気を引き締める様にグリップを握りしめる。
その瞬間、朱色の世界が訪れた。以前と同じように体が重くなり時間の流れが緩やかになる。一度経験したため前回ほどの戸惑いはない。次の攻撃にだけ集中する。リアは刀を左上に持ってきており逆袈裟で振り落とす姿勢だ。そこから予想される軌道平面上に右手の魔剣を持って行こうとする。
――ゾワッ…背を痺れるような悪寒が走った。咄嗟に最後まで隠してた手札をきる。私はすぐ傍を漂わせた小瓶の一つを爆破した。私自身に近すぎるせいでただの自爆となる。…はずだった。それが今までと同じものなら。
色付いた爆風で私の体が後ろに戻される。その目の前をリアの刀が通り過ぎた。【銀朱世界】を忘れさせるギリギリ目の端に映るほどの速さ。剣を動かす暇すら与えない。魔眼ですらリアには追いつけないのか…。
考えるのは後だ。今視界は煙で遮られている。さっきの小瓶の中身は試作品の煙玉。ここら一帯は白に塗りつぶされているはずだ。動け!ただでさえリアの方が速いんだ。動き出しぐらいは私が…と足元の血を動かそうとする。そこで異変を知覚した。足が思うように動かずつんのめるようにして膝をついてしまう。そこで気付く。レールを斬られた!【細太刀】による魔力制御の強制解除。
くっ…まだだ!機動力なんて今更いらない!リアの姿が影となって近づくのが分かる。私が魔剣を構えるより先に仕留めるつもりなら最短距離を行く突きしか有り得ない。なら……ここ!私は念じると同時に重い体を精一杯後ろに反らせた。そこを目にも止まらない一閃が迫り…首元薄皮一枚で止まった。
【銀朱世界】の効果が終わり時間が元の加速度を取り戻す。
「勝負あり…ね。」
リアが呟きながら魔石の力で視界を晴らす。そこには刀を突きつけられた私と二つの直剣が背後から伸び首前で交差されたリアがいた。このままリアが前へ踏み出すと首への致命傷は避けられない。かといって引くこともできない。両者が両者の命を握った状態での千日手。
「引き分けかな。」
「こういう決着になるとは思ってもみなかった。」
「はは。私もだよ。」
そう言って体の力を抜いてぱたんと座り込む。ヒリヒリとした緊張感は好きだが疲れた。
「煙幕による【空間把握】潰し…。加えてずっと意識させられた魔剣ではなく散々防がれ脅威の薄くなった直剣による奇襲…。まさかヒノがここまでやるとは思ってなかった。」
私も使っている【空間把握】。これは五感に頼らず周囲の様子が頭に浮かぶというものだ。一度に周囲の状況を丸々俯瞰できるのは確かに強い。でもこれにだって弱点はある。頭の俯瞰図は線描画のように物の形は分かるが物の材質が反映されない。つまり水を剣の形にするとそれが本物かどうか判断できない。もう一つは物の重複。例を挙げると水の中に何があっても水の形しか把握できない。今回は後者を利用した。煙幕によって空間を塵で埋めてしまえば中の様子も塗りつぶされる。こうしてリアの頭から直剣という存在を消した。あとは見慣れたリアの突きのモーションの途中に剣を割り込ませるだけ。…最後が一番の難関だったのは内緒だ。
まぁ今回は上手くいったが煙幕は諸刃の剣。私も【空間把握】が使えなくなっては話にならない。リアの位置は勿論自分の剣の位置も分からなくなるので操れる本数も精度も速度も落ちる。明らかに得られるものより失うものの方が多い。使えるのは今回みたいに相手に警戒されてない最初の一回だけだろう。
「リアと戦ってると自分が小細工ばかりやってる気分にさせられるよ。ふぅ…現実で知恵熱出てんじゃないの、これ。」
「確かにヒノは体動かしてるというよりは頭脳戦してるよね。」
私が武器をストレージに戻すとリアが起き上がるために手を貸してくれる。
「ありがと。にしても引き分けかぁ…。ということは賭けも無効かな。」
「え、ええ~~~!!!そ、そんな…。私の添い寝ファッションショーが…。夢のリアル着せ替え撮影会がぁ~…。」
リアが顔を青くして膝と手をつく。何か色々混じってるがそれは私に何をさせたいんだ?
「うぅ~~あっ首輪!私の首首輪で守られてたから私の勝ちじゃない?」
「いやマフラーで隠れてるけど首の半分も覆ってなかったでしょう?直剣二本を防ぐのは不可能!というか勝負終わってからの難癖は立ち悪いよ!」
「ううううぅぅ~~~~!!」
リアがここまで落ち込んでるのは見たことがない。しょうがないなぁ。
「分かったよ。じゃあ両者勝利ってことでお互いが一つ言う事を聞くのはどう?」
「え!?本当にいいの?」
「ふふ。まぁ真剣勝負楽しかったし私から頼んだことでもあるからね。頑張ったリアへのご褒美。」
「やった!やった!ヒノありがとう!」
飛び上がって喜ぶリアを見てほっこりする。できれば私へのお願い手加減してくれるといいなぁ。




