ヒノvsリア ―bicolor +blade
止まない武器の雨の中、長槍とハルバードの初期武技がリアに向かって放たれた。【空間把握】を持つリアは後ろを見ることなく刀を背負ってから半月状の残像を残して全てを一刀に伏せる。そのまま私に突っ込んできた。私はそれに合わせて投擲の狙いを微調整する。私の方も【空間把握】を手に入れたからはこういう微調整が楽になった。リアは上空を迎撃しながら真っ直ぐ私に近づいてくる。
私はレールの準備をしながら、追随させた四つの血球を経由して電柱程太さの血柱を四本作り出す。流石のリアも血の柱を優先せざるをえなかったようで態勢を低くしながら根本を斬るように一回転切り。【細太刀】によって忽ち血が崩壊するが上空からの剣はカバーが遅れステップ回避している。
フフ。ようやくリアの限界が見えた。刀を振るのにはイメージだけで十分な一方、振った刀を止めるのにはステータスが要る。物を斬った時にダメージ計算され、反動もその演算の内に入るからだ。空を切ってもその反動は計算される。それはつまり攻撃の合間には隙ができるという事。リアの真骨頂となる思考加速ではどうにもならないアバターの限界だ。まぁリアはそこすら計算して可能な限り連続で動けるような剣捌きをしているのだが…。このTASめ。その内バグ利用とかしてきそう。頼むから関節ぐちゃぐちゃに迫ってくるとかやめてよ。
私は後ろに引いたレール状の血流を滑走し距離を取りながらMPポーションを飲む。
「あーッ!それ反則ッ!何シレッと薬使ってるのッ!」
「ちっちっち…。私には【錬金】がありこれも私が作ったポーションだもん。自分一人にできることを実力というならこれだって私の力。よってなんにも可笑しなことはないし、ましてや反則でもない。だからリアも使っていいよ…そんな暇あるならね。」
「ホントッ!ヒノの口からは軽口がポンポン出てくるわねッ!」
リアのその感想も軽口に入ると思うけどね。でも流石にアイテムなしの持久戦は駄目だ。全力で防御に回られちゃあ私が勝つ確率が著しく下がる。という訳で悪いけどリアが攻めなければならない状況を作らせてもらった。
うーん。迎撃しながらなのリアと同速。今の私は血の滑走をしているので移動速度はINT値を参照している。私のステータスで二番目に高い上【逆境】やら装備やら諸々でマシマシにして尚リアのAGIには及ばない。
アバターの方もヤバくなってないか?後ろ向きで滑走しながらそんな感想が浮かぶ。自分を【運搬】しているだけなのでこんな芸当も可能だ。重心を進行方向である後ろに倒したまま足の裏で斜めに【硬化】した血板を直接動かしつつレール状の流れる血液の勢いも借りてスライドしていく。にしても自分の攻撃でなんだが、後ろから暴風を連れたリアが追っかけてくるのは怒涛の威勢がある。
「なら私も軽口言わせてもらおうかなッ。…ウォームアップはこれくらいでいい?そろそろ本気出そうか?」
「……リア、最近私の影響受けすぎじゃない?」
めっちゃイラッてきたんだけど。ただ残念ながらリアの言う事はもっともだ。今の彼女は全くもって本気ではない。いや本気で動いてはいるのだろう。ただそれだけだ。魔石はおろかユニークすら使っていない。素の彼女と現状で対等だなんてちょっと泣けてくる。私の創意工夫全てを一笑に付された気分だ。だが…。
「フフフフフ。リア、私は煽り耐性がゼロなんだよ。対リア戦最大の切り札、ここで使いたくなっちゃったじゃないか…。」
「大丈夫ッ。ヒノには殺されてあげないッ。存分にどうぞ?」
「アハハ。じゃあ遠慮なく。ホント死んでくれないでよ。」
私はストレージから一つの小瓶を取り出す。中には緑色の液体に真っ赤な石が沈んでいるのが見える。
「――我が触れし万物は、天より全て手中に有り。【血の創造】を。己が血を贄に生まれ出でよ[リキット・ラグナム・エクスプローシブ]」
血の渦が生まれ小瓶と同じものが形成される。それを血の手で掴むとリアに向かわせた。
「フフ。洞窟で花火ってどうなるんだろうね?」
リアが投擲武器を斬るのをそのままに私の血の中にある小瓶を叩き割った。その瞬間、洞窟全体が光で埋め尽くされた。後に続くのは中庭四分の一を占める巨大な火柱。上へ上へと向かう炎は天井に激突し火の海が空を覆った。爆音が鼓膜を打ち爆風が城の窓を振るわせる。
「ヒュー。こうしてみると派手な魔法も捨てたもんじゃないね。魔法じゃないけど。」
私は小瓶を握りながら数秒に渡る業火の収束を待った。[リキット・ラグナム・エクスプローシブ]。小瓶の中身は私が【錬金】で作りだした液体爆薬だ。
【錬金】のアーツに《特性融合》というものがある。これは片方のアイテムを消費して残ったアイテムの付与特性を進化させるというもの。そして対象となる材料は同じアイテム二つでも有効だ。[ラグナム]という死の山脈から採れる砂状の火薬同士を《特性融合》すると付与特性が【爆破:火(+1)】となった。これを繰り返す。【爆破:火(+50)】となった所でアイテム名が[リキット・ラグナム]と変わり形態も液体になった。そしてここから先特性の数値を上げるには同じ[リキット・ラグナム]が必要となった。という訳で今度は[ラグナム]50個で[リキット・ラグナム]を生成、からの[リキット・ラグナム]の数値を上げる作業に入った。
いや私のユニークスキルを使って同じものを複製融合する方が効率がいいのだがそれは爆薬を作る効率しか考えていない。アイテムを余らせないためにも【錬金】のスキルレベルを上げるためにも、そして血の節約のためにもオリジナルの一個を作って使う時に複製した方がいい。【血の創造】はこういう消耗品を作るのが通常の使い方だろう。生物のコピーは寝ていたり意識を失っていないと複製できないとか制約も多いからだ。ワイバーンを複製できたのは様々な条件を偶然クリアしていたからであって異例に属する。
話を戻すと、こうして死の山脈で得られた火薬の九割を用いて強化した[リキッド・ラグナム]に火の魔石を入れることで[リキット・ラグナム・エクスプローシブ]となり魔石に魔力が流れると爆薬が炸裂する兵器になった。私の握る小瓶の付与特性は【爆破:火(+68)】。この数値でこの威力。材料さえあればまだ上がる。フフ、また死の山脈で火薬集めしなきゃ!
今更だがリアは大丈夫だろうか。この炎は発火に魔力を使うだけで物理的なものでありリアの【細太刀】では防げない。まさにリアへの有効打だ。
私は武器の回収と《変質:上位》で血の耐久値を回復させながら周りの様子を窺う。煙が視界を遮り高温の陽炎が空間を歪ませる。それでも火は弱まり徐々に薄れていく爆発の爪痕に一陣の風が吹いた。
「――【金の書】は【炎熱操作】を開け。【銀の書】は【投擲】を閉じよ。」
舞い上がる火の粉の中、白いマントを翻しながら無傷のリアが現れる。軍帽のつばで表情を隠し淡々とユニークスキルを発動させた。




