それは長い長いチュートリアル6
「では私のアバター設定をするのでミヒノ様も付き合ってくださいね。」
「それ私が言っといてなんだけどできるの?」
「はい。他の人から見ても私がNPCだとは気づかれないでしょうね。何せ本当にプレイヤーと変わらないんですから。それより以前から自分自身のキャラクターというものも作ってみたかったんです。だから結構楽しみです。」
「ふふ。なんだそれ。あー私の事はミヒノかヒノって呼んでね。私はリーアって呼ぶから。」
「ではヒノと呼ばせてもらいますね。私誰かを愛称で呼ぶのは初めてです。」
こう大人な雰囲気で純粋なこと言うのは可愛いな。これがギャップ萌えか!
「それでですね、ヒノ。私も見た目を変えたい「嫌!」」
食い気味即レス。おお、これが脊髄反射。私の体が拒否している。
「いえ、イヤとか言われてもですね。
今の私の姿見たプレイヤーは私に殺到しますよ。女神がいるって。」
「うぐっ。それはまずいなあ。」
「今の私を少し幼めにするだけです。せめてヒノと同い年と言われてもおかしくないくらいにしたいです。」
「わかった。それに名前もリーアマティナはまずいな。
プレイヤーどころか住人すら集まりかねない。そうね、そのままリーアにする?」
「んーちなみにヒノは名前どうやって決めましたか?」
「私は現実で日御碕って名前から『み』が先で、ミヒノだよ。」
「…では私はリーアマティナですからマリアですね。愛称はリアです。」
「マリアの方を忘れそうだなあ。まあリアが決める事だからね。
それとアバターも高校生くらいね。私も高校生だし。」
「えっ」
「…今の反応は何?」
私の見た目は高校生には見えないと。身長が足りてないと。
「いえいえいえ。なんでもないですよ。
それより髪の色も変えたいんです。プレイヤーの皆さんも髪の色変える時は楽しそうだったので。」
「はあ、分かったって。でも今のリアの面影がないと嫌だよ。」
「ありがとうございます。じゃあ作ってきますね。」
リアは女神に恥じない容姿してたからな。変えるのがもったいないと思うぐらいには。
まリアが楽しむのが一番だし。しょうがない。
リアを待っている間に、この世界のUI操作に慣れとくか。
確かメニューを開くって考えながら出したいところに片手を振る、だったかな。
右手をスライドさせるとA4サイズAR表示が出てきた。
そこにはステータスや所持品等様々な項目が表示されていた。まだステータスは割り振っていないが、リアとも相談したいし後回しで。
おお、ゲーム中でしか書けない公式掲示板なんてあるんだ。たくさん項目みたいのがあるが使いこなせないだろうしパスで。動画もここで見られるのか。面白そうなのは後で見ておこう。
あと今のプレイヤーがどれくらい強いのか見ておきたいな。どうせ再生数稼いだら金になるんだ。強い人の戦いは動画に流しているでしょ。
その後目をつむったまま棒立ちのリアのそばでメニューをいじっていた。
◇
「できました!」
相も変わらず鈴の鳴るようなリアの声に振り向く。
「いかがですか?」
「…」
「えーっと、ヒノ?」
「…え。」
「え?」
「…エロい。」
なるほど。こう、人って美しいを超えると本能的な感想になるんだな。
いや服装は同じだし背が低くなった分以前の方が体のラインが出ていたけど、今は大人な落ち着いた雰囲気がなくなって妖艶さだけが押し出されていた。
髪は雪のように白いのに時折蒼い光沢を反射させる。
同じように白い肌は透き通るようで口と頬を差す淡い朱色を引き立てている。
背は160ぐらいで顔にばかり意識が行くが目を奪うくらいには体も育っている。
サファイヤに輝く瞳が見る者の思考を凍らせ、切れ目がこちらを誘うように挑発している。
「え、ええええ!」
だが当の本人はその妖艶な表情を崩し、顔を真っ赤にさせてプルプル震えている。
確か女性が男性に言われて最も喜ばれる誉め言葉って「可愛い」でも「綺麗」でもなくて「エロい」だって聞いたことがある。私男じゃないけどいいのかね。ちなみに私は『大丈夫?もしかしてロリコン?』って感想になる。誰がロリータだ!いったやつ出てこい!
さて改めてリアの容姿を観察しこれからの事を考える。
「これは心配ね。」
「えっ、それはヒノが私に手を出すってことですか?」
「ちゃうわ!」
「…じゃあ何ですか?」
「リアがプレイヤーとして振舞えるか心配だよ。いくらプレイヤーの見た目でも中身まではそうはいかないでしょ?ただでさえそんな美人なアバターしてたら注目されて話しかけられることが多くなるのは間違いないし。」
リアはこれまでものすごい数の人と会話してきたがそれは自分が女神という立場でだ。リアは説明する立場で、プレイヤー側もそういうNPCとして話しかけていたはずだ。でもこれからはプレイヤーとして住人やプレイヤーと相対さなければならない。
「確かに私に対等な人付き合いは慣れるのに時間が掛かるかもしれません。それに行ったこともない現実にいつも帰っている振りも必要でしょう。もし他の人に自分が本当はNPCでプレイヤーだと騙しているのがバレたらと思うと…不安です。」
寂しげに言う彼女を後ろから首に手を回し頭をやさしくなでてやる。サラサラな髪が手の中を流れていく。
「現実の事は私が教えてあげる。少なくともリアを私の現実の友達と勘違いさせるぐらいには現実の私を知ってもらう。」
「でもそれじゃあ私は空っぽのままです…。」
「何もないならこれから積み上げればいい。ねぇリア、これからいろんなことしていこうよ。リアが分からない事は私が教えてあげる。できなかったことができるようになるのは楽しいからね。リアのこれからはきっと楽しいことでいっぱいになるよ。」
それは私が今までやってきたことにリアを巻き込むというだけ。リアは今まで望んでも何もできない環境にいた。だからこそ私と同じで新しいことができるようになるのを楽しいと思ってくれるはず。
「…分かりました。頼りにしています。」
私はリアの言葉に満足して体を解放する。
「よし、ならそうだな。取り敢えず言えるのは、今までのリアは『いかにプレイヤーに楽しんでゲームをプレイしてもらえるか』が根底にあった。だからNPCを卑下するプレイヤーの気持ちも仕方ないと思ってる。」
「そんなことは…」
「いやあるね。じゃあ住民をぞんざいに扱うプレイヤーを見たらどう思う?」
「それは…残念に思います。」
おずおずといった感じでリアは答える。
「そういうとこ。残念ってあきらめの言葉でしょ。ふつう自分と同じAIを貶されたら怒るよ。」
でもリアはプレイヤー目線でも見ているから怒れない。
「リアは自分がAIであることを誇ればいいと思うなあ。
頭の回転なんて人が及ぶところじゃないでしょ。感情だって人と比べても違和感がない。
だから人に対して対等か仮想世界では上とでも思っておけばいいよ。」
「……私はヒノを見下したりしたくありません。」
リアの声に怒気が混じったのを聞き逃さなかった。
彼女は本物だ。
NPCは世界の住人。それはリアの言った通りなのだろう。でも言い換えれば仮想でしか生きれない人格だ。
でもリアは違う。
仮想と現実の二つを知るリアは現実に届く。
「それだよ。目線が神様から人に変えるのなら自分の感情をもっと出さないと。あとリアは凄いんだから自分に自信持ってくれって話。私ぐらい我が儘になれなんて言わないからせめて自分のこと貶されたらちゃんと怒ってよ。じゃないと隣にいる短気な私が暴れるからね、フフッ。」
「そ、それは大変ですね。善処しましょう。それよりキャラ設定の続きです。
わたしもランダムスキルから決めますね。それっ!」
私の黒い笑顔を見て、焦ったように話を流すリア。
というか自分のスキルそんな適当に選んでいいのか?
そんな心配など振り切るように、リアの目の前ではスロットが勢いよく回転していた。