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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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ヒノの真意と新衣装



午後四時前。放課後の静寂の合間に吹奏楽部の気の抜けた音を埋める中。赤レンガの中庭には既に散った桜の花が梅雨の雨で流されるのを今か今かと待っている。灯のいる渡り廊下からはその全てが一望できた。


「灯お姉さま!」


振り返ると今年高校に入ったばかりの後輩ちゃんがいた。黒髪パッツンで可愛い顔立ち。なのに私より背が高く胸も大きい。

やってらんないな!いやね私も自分の容姿が悪いとは言わない。でもチビに清楚は合わないんだよ。客観的に見てそれ、ただの幼女じゃん。可愛いのベクトルが全然違う。あーダメダメ。私の身長が中二で止まった時にこの話は決着がついてるんだった。あきらめは大事。


「麗華久しぶり。高校の制服は初めて見たけどよく似合ってるよ。」


「ありがとうございます、お姉さま。でも麗華は寂しかったです。春休みが明けても部活に顔を出して下さらないんですもの。」


仁風院じんぷういん 麗華れいか。付き合いは一年になる。この高校は中高一貫の私立女子で、基本部活は別々だが一緒な所もある。お嬢様学校なだけあって部活自体に入らない人も少なくないため中高合同という措置が許されてるのだ。料理研もその一つで彼女とは一年前そこで知り合った。

私は既に退部しているが今でも海外の料理を日本で再現するのに料理研の設備を借りに行くことがある。麗華にはそういう時に手伝ってもらっており、向こうも色んな国の料理が食べられるとなつかれた。そのおかげで退部したらそれっきりな関係にならずに済んでる貴重な友人の一人だ。


「灯お姉さまが放課後学校に残ってるというのは珍しいですね。それもスマホ片手に中庭をボーっと見てるなんて。」


「あー学校の野暮用で待たされてるの。私勝手に学校の名前使って色んなことしてるもんだから偶に呼び出されるんだよね。」


「それはしょうがないかと…。」


「だって大会で無所属で登録すると私の容姿だと年齢疑われることが多くてさ。初めから学校所属にした方が面倒が少ないと気づいたんだけど…。」


「けど?」


「成績いいと何も知らない学校にも連絡がいって最終的に私に説明を求められるんだよね。アハハ。」


「相変わらずハチャメチャですね、お姉さま。」


「それにしても呼び出しなのに時間にゆとりを持たせ過ぎだよ。普通こういうのは放課後即連行とかじゃないの?ゆとり世代か?そうなのかー。」


そんなこと言ってると手元のスマホが振動する。


『From:リア 《Re:ヒノの学校》


中庭の写真見たわ。桜の絨毯が綺麗ね。桜なら都内では目黒川や六義園が有名だったはず。ヒノは見たことある?』


目黒川は通ったことあるが六義園は知らないな。私としては京都の桜のトンネルとかが印象に残ってる。永遠と桜の下を歩いてると自分がどこにいるのか分からなくなるような不思議な感覚になる。進んでも進んでもずっと同じ綺麗な景色が続くせいなのかは分からない。でも桜の神秘性が一番鮮明に感じられたのがあの時だった。いつか一緒に行ってみたいなぁ。


「灯お姉さまがメールを見てお顔を崩されるなんて……ま、まさか彼氏!?」


「いやいや。彼氏なんて作る気ないし。相手女の子だから。」


「じゃあ彼女!?麗華というものがありながらお姉さまは本当に罪作りなお方です!」


そういって廊下の手すりに寄りかかっていた私に抱き着く麗華。


「そんな関係じゃないでしょ…全く。そうだ麗華、私とツーショット撮ってくれない?」


リアがこの前私の友達の写真が欲しいって言ってたからちょうどいい。後輩の写真でもいいよね。


「ハァ…また脈絡なく話が変わりますね。いいですけど。」


その答えを聞き私は麗華と抱きついたままスマホを突き出した。


「ほら顔寄せないと入んないよ。」


「この態勢で撮るんですか!?それに顔って。」


「グダグダ言ってないで、こう!」


麗華の肩を左手で寄せ、ほっぺをくっつけるぐらいに顔も近づける。


「うう~。」


麗華は自分からはぐいぐい来るのに私から行くと照れるからなぁ。さてこれじゃあ写真が取れないからね。


「はい!初めて二人で作ったメキシコ料理を思い出して~」


「いきなり何です?」


「いや麗華の笑顔を作ろうと。」


「それで何でよりによってあのタコスなんですか!あれは中のサルサに唐辛子入れ過ぎて失敗したじゃないですか!お姉さまがじゃんじゃん入れろっと言ったことまだ忘れてませんよ!」


「悪かったって。でもトウモロコシから作った生地のトルティーヤは本場のヤツみたいに膨らんで他の娘から好評だったじゃん。サルサだって私好みの味だったから失敗じゃないよ。」


「そうですけど。」


「それにそれからはちゃんと二人納得するもの作ってきたでしょ。また一緒に作りたい料理あるから協力してくれる?」


「お姉さま……ハイ!喜んで!」


うん、良い笑顔だ。ってことで。


―パシャッ。


「よし、いいの撮れた。最近のスマホは凄いね。」


「………。何故かわたくしとお姉さまの心の距離が離れた気がしますわ。そうやっていつも灯お姉さまはわたくしの心を上に下に揺さぶります。」


「えぇ~。」


これはマジの奴だ。麗華、素の時自分のこと「わたくし」って言うから。


「ハァ、本当にいつもの事なのでもういいです。もう一枚撮ってくれるなら機嫌も直しましょう。今度は麗華のスマホで。」


そう言って顔を赤くする麗華。なるほど、それを言うための建て前か。


「フフ。それくらいいいよ。」


私に付き合ってくれる可愛い後輩だ。そんな小さな頼みくらいなら叶えよう。





「お茶を入れたわ。いつもの始まりの国で手に入る低ランク品だけど。」


差し出された紅茶は湯気が立ち上る。CNOはこんな所までリアルだ。


「いや普通においしいから。フレーバーティーに近いね。」


「一応ただの紅茶よ。」


「ふーん。茶葉が現実のものと違うのかもね。私も入れたいんだけど【料理】スキルに味が依存するから。」


この世界、料理の技術で結構味の違いは出るがレベルの差には及ばない。それはレベルが低いとどんなに良い下ごしらえをしても食材が本来の味にならないからだ。そしてそれをどこまで引き出せるかはスキルレベル次第。だから【禁科玉条】の登録した【料理】を使えるリアの方が料理が上手い理屈だ。


「逆に言えばスキルレベルは食材のキャパシティを増やすだけだからプレイヤースキルも必須なんだよね。やっぱり今度私もリアから封入魔石使って料理やろうかな。まあリアの作ったものの方がおいしいんだけど。」


「私に言ってくれれば何でも作るわ。アレンジしたいならヒノが指示すればいいだけの話でしょう?」


「ん~じゃあ当分任せようかな~。」


「じゃあ本題ね。ヒノの昨日の暴挙について。」


腕を組んで私の真ん前のソファーに陣取るリア。今日は逃がさないとその目が告げていた。


「はいはい。ちゃんと答えるから何でも聞きなさい。」


「じゃあ最初に、ヒノは戦争を起こしたかったの?」


「んー微妙に違うかな。」


「いやクエストの依頼内容がそれでしょう?」


「それも含めてって話。私はこの世界を加速させたかっただけ。」


「加速?」


「だってこのままだとグランドフィナーレは数年、いや最悪十年以上掛かりそうだったし。」


あと八か国、全部のNQをクリアするのにどれだけかかる?私たちが始まりの国NQをクリアできたのはリアというイレギュラーがいたからだ。あれはチュートリアルでスタートラインとゴールラインを同時に切ったようなもの。本来NQとはCNO始まって一年以上クリアできないものだった。これからはそれを正面からクリアしていく必要がある。それを一つ一年なんて掛けていたらリアの解放は八年後だ。


「私はそんなに我慢なんてできない。ならどうするか?役割分担だ。私達が国の繁栄をやってる間に私達以外のヤツ等に国の滅亡をやってもらう。それに戦争なんて私が何もしなくても起ってたはずだしね。」


「何でそう言い切れるの?」


「この世界にPKがいるからだよ。いやPKが絶滅しないからと言った方がいいか。一般的にそれが非人道的な行為なことにもかかわらずだ。それでもPKになるのは結構なハードルがある。自分がPKだとリアルで明かすには抵抗があるから。自分が悪だと自覚しているからだ。

私がやったことなんてPKに理由を付けただけ。今まで対人戦や集団戦がやりたくてもできなかった人が声を上げる機会を作った。私が何もしなくてもいずれそういう人間は現れる。例えば遊び半分で結界を攻撃してみたなんてプレイヤーが出てくるだろう。それは動画を撮ってお金をもらうために大規模なものになるかもしれない。住民からすればそんな悪ふざけも宣戦布告と同じなのに。」


「なるほど。遊びでPKするプレイヤーが多いのだから遊びで戦争するプレイヤーはもっと多いってことね。そして戦争になるまでにかかる時間すらヒノには惜しかったと?」


「そりゃそんな国同士のいざこざが溜まらないと戦争にはならないからね。それも一対一の。それじゃあ遅いし局地的すぎる。」


「でもナショナルクエストの動画を公開するのは不味くないかしら?私たちの素顔知られちゃうし。」


確かにユニークスキルを得る以前だろうと貴重な情報だ。私たちの正体を掴む情報には違いない。でも。


「そもそも動画なんて公開する気ゼロだよ?何でわざわざ私たちが不利になるもの皆に与えなきゃならないの?」


「………。」


リアが言う言葉が見つからないのか固まってしまった。おーい。


「…悪魔。悪魔がいる。」


「誰が悪魔だコラ!」


「世界中の人に向けたクエストの報酬を踏み倒すなんて。悪魔の所業以外になんというの?」


「いやいや誰も踏み倒すなんて言ってないでしょうが!」


私が悪魔だって?ないない。リアってば酷いこと言うなぁ。私はちょこっと自分本位なだけの善良プレイヤーの一人なのに。


「誰も絶対にクリアできないのよ、私のクエストは。だって滅ぼされそうになったら私がその国の代表NPC殺すんだもの。」


「えっ!?」


リアの反応に満足してから説明した。


ミスティカにも言ったが別に今代表NPCを殺す必要はない。もうどうしようもなく追い込まれてから私が手を差し伸べればいい話だ。どっちみち殺されるとして、他の国に侵略されるくらいなら私に殺されて女神の結界を得て住民も守れる道を選ぶだろう。王国の約束をそのまま他の国にも実行する。その国は滅亡せず私がクエスト報酬を払う必要もない。そして私が代表NPCを殺せば戦勝報酬独り占め。国同士が弱らせ合いおいしい所を私が戴く。まさに漁夫の利に一石二鳥。私の大好きな言葉二つだ。

そして一度火蓋を切ってしまった戦争を途中で止められるわけもなく徐々に私が国を支配していくまでが最高の流れだ。


それに戦争に目が向けば私たちを探すどころではなくなる。言うなれば私たちがNQをクリアするための時間稼ぎ兼目暗ましだ。NQ報酬は今後リアが現実世界を楽しむ上で必須事項。テレビ電話なんかできるようになれば一緒に旅行も行けるしね。だから絶対あと一つか二つはクリアしておきたい。


「もう一つ、私のクエスト報酬には狙いがあるわ。それは運営への牽制ね。リア友に聞いたけどNQの動画を運営が公開するかは分からないって言ってた。でもプレイヤーからすれば見たいに決まってる。今月はNQ動画を出せって要望が運営に殺到してることだろうね。それもしょうがない。何せNQはこのゲームいちの見所。世に知られないのは運営側も本意ではないはず。でもそれをされると私たちが困る。だから私たちが条件付きで公開すると公表した。運営はサミットで大々的に告知されたクエストを破綻させることはしないだろう。私たちの要望もめ、公式動画にNQを選ばない言い訳も立つのだから。」


「ヒノにはどこまで見えてるの…」


見えたんじゃない。私は考えただけだ。私と他の参加者の違いなんて考える時間があったかの差だけだろう。一週間。その間私は私にだけ与えられた情報から導かれる未来を模索し続けた。その結果が昨日だ。私の一週間が彼らの数十分に及ばせはしない。


「言ったでしょ。私はリアを手に入れるのに手段は選ばない。フフ。私の人生でここまで他人のために尽くしたことはないわ。でも悪くない気分ね。」


「そうね。私もここまで人に尽くされたことない。私も悪くない気分よ。ヒノはちょっとたかが外れてる気もするけど。それでもお礼はしないとね。」


リアが手元を操作すると私の前にトレード表示が出てきた。


「もしかしてリアの作ってた新装備?」


リアの装備がずっと同じだったのを気にした私が言い出したのが始まりだった。リアは自分の分は自分で作るらしく、ついでに私の分も作ってくれると会談前に話していた。どうやら完成したようだ。


「ええ。ヒノには暴食のマーナガルム戦の私の報酬言ってなかったよね。」


「私が[銀朱狼眼]だったヤツ?そういえばローゼ様はそっちの報酬は別々とか言ってたね。何貰ったの?」


「[月狼の毛皮]って言う素材。それも大量に。物が物だけに私の種族レベルと連動する登録された生産スキルレベルを上げてから作りたかったんだ。で、死の山脈合宿の素材を加え、ここ三日の製作期間を経てようやく完成した大作なの!だからちゃんと着てね。」


いつになく饒舌だ。それほどの自信作かな。


「リアの服もできてるんでしょ。せ~ので着替えよう?」


「ハイ!ではいっせーのーで!」


リアのテンションに引っかかったが、とりあえず装備を送られてきたものに全て変えた。

リアの方も一瞬白い光で包まれると新しい装備になる。


「おおおお!?リア、カッコいい!!」


彼女の格好を一言で言うなら軍服ワンピースだった。真っ白な生地に紺のラインとネクタイ。白のマントには彼女の太腿から覗く狼の影絵と同じ魔術刻印が青い刺繍糸で描かれている。帽子やロングブーツを合わせると海軍みたいな雰囲気だ。そして目を引くのは首を巻く紺色のマフラー。二周しても十二分じゅうにぶんに余るほどの長さで首元の首輪を隠している。


「リアの本気を見たよ!ずっとシンプルな恰好だったからね。折角美人なのに服で損してるって思ってたんだよ。うん、最高に似合ってる!」


元々リアは美しさ極まってたけど軍服によってカッコいいイメージが強まった。帽子とマフラーの間から覗く鋭利な瞳は見たものを凍らすほどクールだ。


「ウフフ。ありがとう。でもヒノの方がきっと似合うはず!」


もしかしなくても私に服着せるの楽しみにしてたのか。ではリアが頑張って作った私の衣装とやらを見せてもらおうかな~。

そんな軽い気持ちで私は部屋に備え付けられた姿鏡を見る。


「ん?」


そこには黒を基調にダークレッドのラインの入った軍服コートを羽織った私がいた。リアのも豪奢だが私のは一段と刺繍が細やかだ。ただ丈が膝上まであり前もピッタリと閉じられてるせいで下に何も穿いてないように見える。はっきり言って少しダサい。


「あらあら。ヒノは着方を間違ってるわ!それにアクセサリー付けてないじゃない!取り敢えず送ったの全部出して!あとメニューから装備一欄に飛んで衣装固定を選ぶ!」


「う、うん…。」


何だか少しプレッシャーを感じるリアだったが言われた通りに操作していく。例のアクセサリーをストレージから出してリアに返す。その後コートの前を開け、ギリギリ肩を落とすよう着崩した。この[衣装固定]はどうやらある程度無茶な物理法則で自分の服装を固定させることができるようだ。リアになされるがまま服をいじられていく。


「ハイできた!カッコいい上に可愛いなんてステキスギ!!ささ早く決定押して!!」


「わ、分かったから。」


衣装固定を決定にしてから再び鏡で自分の姿を見る。


「んんんん!?!?」


私の口から変な声が漏れた。うん、確かにそこにいるのは見違えるようにオシャレになった私だ。先ほどのぴっちりとした感じとは違い、軍服コートに開放感ある着崩しが施され裾もワンピースのように広がっている。そんなラフな格好はリアの言う通り大人のカッコ良さと可愛いさが同居していた。コートの背には真っ赤な狼の影絵が刺繍されておりリアとお揃いだ。リアと色違いの帽子とロングブーツまでは軍服コートに合っていて完璧。問題は……。


「黒いビキニのトップスにミニスカート!!あと眼帯!!」


鏡の中にいる私は…どう見ても露出度の高いチビッ子女海賊だった。




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