九ヵ国首脳会談6 SIDE 王国代表NPC
『おいおい、マジかよ!!』
『ミスティカ様を殺すな!彼女は我らの癒しとなるお方だぞ!』
『うわー今王国にいるけどミスティカ様人気ありすぎ。住民が暴動寸前なんだが』
『住民がコメント代筆しろってうるさいんだけどww』
『ミスティカ殿下。どうかお考え直し下さい。我らにはまだ貴方様が必要でございます。』
『王女殿下。竜騎士隊の者です。我らが守るべきは殿下の命。どうか我々に最後まで守らせてくださいませ』
『王国の冒険者ギルドがヤバい!地響きが!!雄たけびが!!ヌワ――!!』
『コメ増えすぎて何がなんやらww』
『オーレリア王国宮廷魔法師団が一人です。貴方の力はまだこの国に必要です。これは師団一同の総意。ぜひご再考を。』
『炎帝の姫様さえいればこの国は絶対に侵されません。姫様が死ぬ必要はないはずです。』
『美少女はこの世界の宝だ!おいこら司会進行即刻こんなことやめさせろ!!』
このサミットが開始して一番のコメントの量だった。文字の上に文字が重なり壁が塗りつぶされたみたいな光景になる。誰も本気で誰かが死ぬとは思ってなかったのだろう。さっきまでソテイラの不気味さもあってコメントも抑えられていたが実際に人が死ぬかもしれないのを引き金に爆発した。それに加えてオーレリア王国の住民から圧倒的人気を誇るミスティカ殿下が犠牲になると聞いてはその住民が黙ってなかった。王国はレベルの高い魔物が多いという土地柄故に強い人間が称えられる。住民最高峰の火の魔法を操る炎帝ミスティカ王女殿下はその最たるものと言えた。加えれば騎士、魔導士の指導まで行っておりその人望を上げるのに拍車をかけている。いくら王女と言えど国民の愛され方としては異常だ。ただし当の本人だけはそんなことは露知らず、王女だからこの程度はと考えてる節があった。
「フフ。これは失礼。これでも二重の意味で驚いてるの。貴女の答えとこの騒動にね。」
「後ろのこれには私も驚きなんですが。まぁ私が決めた事です。皆も納得してくれるでしょう。」
「えー。理由はちゃんと言わないと駄目だよ。てか言ってくれないと私がただの処刑人みたいになちゃうから。お願いだから私をミスティカの希望を叶える救世主にしてよ。」
今この会談を見ている誰一人としてソテイラを救世主とは見てないだろうとミスティカは思ったが口に出すのは自制した。彼女の態度は自分の利を考えているのが明け透けすぎて見ている者には彼女へのヘイトばかり溜まっていく。そういう振舞い方を彼女はどういう意図を持ってしているのかよく分からない。彼女は最初には丁寧な言葉遣いと無表情を使いこなしていたのだ。それを辞めなかったりもう少し愛想よければ自分の意見に反発しずらい空気を作り出せただろう。でも彼女はそれをしなかった。これじゃあまるで私たちに自分の提案を蹴って欲しがってるみたいだ。しかしその割には他の住民が拒否すると提案を飲むように追い込んだりもしている。行動の一貫性が見えない。そういった部分で私はまだソテイラに不気味なものを感じずにはいられなかった。
そんなソテイラの言う事を聞くのは少し尺だったが私は自分の行動の理由を話す。
「私はこの国を守るために力を得ました。私の炎でも王国の守る自信はあります。でもこの二年の王国には以前に無い活気がありました。生産から戦闘まで国としての発展が著しかった。この流れは異界者と住民が作り上げたものです。この流れを止めてはいけない。」
「それだけなら貴女が死ぬ必要はないと思うけど?」
「私にできるのは燃やすことだけ。それは私の活躍の場は戦場にしかないということです。生きて戦争で名をあげるか、ここで死んで国に安寧を与えるか。オーレリア王国第一王女として私は後者しか選べない。」
私の宣誓が静まった会場に響く。それに口を出すのは一人。それは隣から聞こえてきた。
「国の声を聞くのも大事だろ。住民はあなたが無事帰ってくることを望んでいるのでは?もちろん俺を含めた異界者も。」
目線を声主に向けると赤い甲冑を着た仏頂面の侍と目が合った。王国最大クラン「柱時計」のリーダーは腕を組んで私の返答を待っている。私は自分の感情が表情に出るのを気を付けながら言った。
「お気持ちは嬉しいのですが私には果たすべき役割があります。私は戦争へ兵士を向かわせることに躊躇しません。たとえその戦いで多くの王国住民の命を失おうともです。それが国における兵士の役割。そして民が国のために死ねという命に応じるのは、王が国のために死ぬ覚悟を持っているからです。でないと誰も私に付いて来ません。
今王国にとってこれが最善と私は見定めました。王国が私の命を使うのです。何を躊躇うことがありますか。」
「それでも!」
ケヤキがまだ喰い下がる気配を見せた時、カツッという音が彼の声を遮った。それはソテイラが一歩を踏み出す音だった。薄笑いしながら真っ直ぐミスティカの方へ歩いていく。
ケヤキが警戒して腰の刀に手を当てるのが目の端に映りミスティカは片手で制した。ソテイラはそんなケヤキに目もくれず両手を後ろで結んだままミスティカの座る席のすぐ傍まで来た。ぴょんと机の上から降りるとそのまま顔をミスティカの耳に寄せる。そして全世界が見守る中、全世界から秘するようにそっと囁いた。
「…貴女、異界者の事嫌いでしょ?」
私はあまりの衝撃に返す言葉がなかった。ここまでの会話をぶった切るその質問に動揺を隠せない。どうして。なんで。私が異界者を嫌っていることは誰にも言ったことがない。文字通り口に出したことがないのだ。意図的に隠している。異界者は嫌いでも敵にはできないから。
いつもなら軽く流す芸当わけもない。ましてや自分の感情だ。私が否定すればそれが真実になる類の質問だ。「違う」の一言で終わるのに、私は自分の表情を保っている自信がなかった。
「王女という人間と知り合うのは二人目なんだけど貴女たちは平気な顔して嘘を吐くんだよね。ホント手を焼かされるわ。」
ソテイラはそう言って私の真っ赤な髪をひとすくいしてから離れる。それから後ろの机に腰を掛けた。
「答え合わせしたいし一対一で話さない?ああ、他の人はちょっと待ててね。」
私が答える前に彼女は再び指を鳴らす。
「これで私たちの会話は外に漏れない。貴女も警戒するでしょうし向こうの声は聞こえるようにしておくね。」
「…それは有り難い気遣いね。貴女なら不意打ちで内緒話を世界中に流しているなんてあり得そうだし。」
「アハハ。そんな他人を貶めるような事しないよ。信用して。」
悪魔は皆そう言うという言葉がのどまで出かかったが何とか耐えた。私は隣のケヤキに大丈夫なのを手ぶりで伝えてから傍で腰掛けるソテイラに顔を向けた。
「それにしても貴女、この会談を私物化しすぎじゃないかしら。本当異界者はこれだから嫌なの。」
「えーその言われようは酷いな。これでも私は女神に頼まれてここにいるの。今頃私に好き勝手やらせたこと後悔してるかしら?フフ。これに懲りたら私に司会者なんて押し付けなけりゃいいんだ、あの怠惰女神様。」
呆れたように首を振るソテイラ。そんな彼女に私は今一番に気になっている質問をぶつける。
「…何で私が異界者を嫌いだと思ったの?」
「私の考えを聞くなら貴女の考えも聞かせてね、ミスティカ。」
ソテイラはプラプラと足を揺らしながらそう前置きをして話し出す。
「私はねミスティカ。最初から初対面である私の提案を受ける住民がいるとは思ってないの。じゃあそれでも私の提案を受けるならどういった目的か。そんなの私を利用するか罠に嵌めるかのどちらかしかない。」
「……。」
「利用の方は私がミスティカを殺すことで得られるものがあるということね。勿論女神の結界もそうだけど最悪私が嘘を吐いて王国を陥れようとしても残るもの。それは異界者が住民を殺したという事実だ。貴女は王国住民に異界者との距離を見直して欲しかったんじゃない?」
「…どうでしょうね。」
「さっきの演説、あながち嘘でもないんでしょう。住民の役回りは全て国に還元される。でもあの時言及されなかった部分がある。貴女は敢えて言わないことで浮き彫りにしたの。あの時ミスティカが一番に言いたかったのは兵士の役割でも王女の役割でもない。異界者の役割だ。」
彼女の言葉に息を飲む。心を覗かれているようで居心地悪くなり私は身じろぎした。
「異界者は力はあっても責任は負わない。そうね、異界者の役割は傭兵ってところかしら。クエストを介して住民の依頼を報酬をもって返す。決して国のためではない。あの演説でそう言いたかったんでしょう?敢えて言わないのは異界者が国の役割から外れていることを印象付けるためってところかしら。
さてここからだ。今までの異界者は住民の言う事だけ聞いてれば良かった。でもこれからは違う。所属国というシステムがそれを壊す可能性がある。異界者が国に介入する口実を作ったわけだからね。この状況でミスティカは今の私みたいに異界者に世界の権限を与えることを危険視した。国の権限も同じ。下手すれば国の滅びにつながると考えている。だから自分の死をもって住民には忠告を、異界者には自覚を与えたかった。違う?」
「……それが私を異界者嫌いだと言った理由?」
「ええ。貴女の死で王国住人が敵意を向ける先は異界者だからね。嫌がらせは嫌いな相手にしかしないものよ?まぁミスティカの異界者に向ける視線が好意的なものに見えなかったのもあるけど。」
彼女は私をよく見ていたという訳か。それにしても物事もよく考えている。それも考える視点が王女の私と変わらない。これは異常だ。少なくともそんな異界者を他に知らない。話せば話すだけ彼女の底知れなさを痛感させられる。
「ハァ…誰にも気付かれたことがないくらいには顔色を隠すのに自信があったんだけど?」
「フフン。私、人を見る目だけはあるんだよね。」
そう言って彼女はない胸を反らす。その気の抜けるような反応についさっき感じた不穏な雰囲気は霧散していた。
「…貴女の言う通り私は異界者が嫌いだし、私が異界者に殺されればその事実が国の腐敗を防ぐ防波堤になると期待した。でも一つ言いたいのは私は貴女の話を信用してるわ。私が死ねば女神の結界が手に入る。女神の結界で守られれば異界者が住民に無茶を言うこともない。その上で住民が異界者を信用しすぎないように持っていきたかっただけよ。私の望む未来がこれ以上ないって具合に叶うんだもの…私の人生を全て賭ける価値がある。」
「ふーん。本気で死ぬ気だったんだ。」
「そんな冗談言わないわ。それもこんな場所でね。で?罠に嵌めるって方はどういうこと?」
一拍置いてソテイラは話し出す。
「…ねぇ、ミスティカは私がどうやって貴女を殺すと思った?」
「なるほど。やはりこの場でHPを減らすには決闘しかないようね。」
「その反応…貴女やっぱり死ぬ気無いじゃない。」
「ふん。貴女の世界には「討っていいのは討たれる覚悟のある者だけだ」ということわざがあると聞いたわ。私を殺すのならそれ相応の対価として名前ぐらい晒させてもらう。」
「なんか字が違う気がするし、第一誰だよそんな事教えたの!」
バタバタと足を前後に振るミヒノ。彼女はミスティカの企みを正確に先読みしていた。
女神の結界内ではHPが減らない。そんな中で人を殺す方法なんて一つしか存在しない。決闘。両者の合意でのみHPが減る殺し合いができる。プレイヤー同士なら決闘後にAR表示でプレイヤー名が分かる。だが相手が住民の場合「決闘の申し込みがありました」とだけ表示されるのだ。この時点じゃあまだミスティカはミヒノの名前を知る事ができない。
でも決闘が始まればその限りではない。【識別】が有効になるのだ。このスキルは相手の種族レベルによっては見えないがミスティカはそれに関しては自信があった。少なくとも名前が見えない程の差はないという自信が。実際そうなればミヒノの方が絶望的に低いので彼女のステータスは丸裸になっていた。加えて装備の耐久を減らせば目隠しも脱がせられる。ミスティカはミヒノのストリップショーをする気満々だった。
そして決闘中は戦闘音を外に漏らさない設定にできるので得た情報を拡散するには一度戦闘に勝つ必要がある。
「別にちゃんと死ぬ気だったわ。一度貴女に勝ってからだけど。何もかも貴女の思惑通りは気に入らなかったしね。」
「フフ。なら悪い事をしたわ。今の私はここで人を殺す気無いの。」
「ハァ?」
ソテイラはいきなりとんでもないことを言い出した。
「最初から過半数って決めてたの。四か国以上の代表住民が死ぬなら私も名前や素顔をバラしてもいいと考えてたけど現状じゃ無理でしょ?」
確かにそれは不可能だ。他の住民は別にソテイラが信用がないから彼女の提案を蹴ったわけではない。不信だけなら晴らすこともできるのだ。何故なら最初の一か国が実際に女神の結界になるかどうか試せばいいだけの話だから。今なら私がその試金石になれる。それでも後続は出ないだろう。そのためにどの国も不信という言葉を極力理由にしていなかったのだから。
「では私も殺さないと?国を救うのも嘘だと?」
私の声に怒気が混じる。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して嘘で済ますわけにはいかなかった。
「それね。大丈夫、約束は守るわ。フフ。私これでも貴女のこと気に入ってるの。別に今すぐ死ぬ必要はないでしょ?オーレリア王国が他国に攻められてミスティカが救いを求めたらもう一度会いに行くわ。
その時にちゃんと貴女を殺してあげる。」
笑顔でそう言う白髪の目隠し少女に私は呆気に取られてしまった。彼女の最後の声が今までの抑揚のない無機質なものではなく血の通った人のものだったから。それは今度会う時の目印にしろと言外で告げていた。意味は理解できたが彼女がそういう行動に出るとは思ってもいなかったので怒りなんかの感情も吹き飛んでしまった。その隙間を埋める様に高揚感にも似たよく分からない感情がじわじわと私の胸を一杯にした。そんな私を置いてきぼりにして、彼女は指を鳴らし二人きりの秘密会談を終わらせる。彼女は軽い足取りで机の中央に戻っていく。その背中に私はずっと抱えていた疑問を投げかけていた。
「ねぇ。結局貴女の目的は何?今になっても貴女の考えてることが何一つ分からないのだけれど…。」
「アハハ。それは今にわかるよ。」
意味深なことを言うソテイラにまだ何か続くのかとミスティカはいい加減頭が痛くなってきた。




