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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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九ヵ国首脳会談4 SIDE 王国代表NPC



女神という存在に疑いを持ち始めたのはいつの事だっただろう…



背の高い豪奢な18の椅子が円卓を一周しており、その全てが埋まっている。世界中が見守る中、名の知れた人間が集い行われる話し合い。目隠しの少女はこれからこの世界は女神の手を離れ、各国が別々の道を歩んでいくという。そんな歴史においても重大な転機となる場に私―ミスティカ・フェア・オーレリアは立っている。


自己紹介を終え会談は続いていた。中心となっていたのは商業国家シャーレだ。それに私は苦心させられていた。

オーレリア王国は海、山、森と自然に囲まれている。そのせいで何でも揃っているように見られているが、それは誤りだ。王国の周りはレベルの高い魔物が生息しているため質は良くても物量が不足してしまう。特に食料面が顕著だ。最近はレベルの高い異界者の冒険者が増え魔物の肉が多く納入されるようになったもののそれにもブレがある。国を治める上で不確定なものに頼るほど愚かなことはない。王国が今まで商業ギルドを通して頼っていたのはシャーレだ。ただでさえ不利な立ち位置にいる上に、商談においても向こうの方が一枚どころか百枚は上手。言質を取られないようにするのが精一杯だった。それでも必要最低限の要求は通した。


私は役目を無事果たしたことに安堵し少し息を漏らした。無意識に部屋全体が目に入る。そこで会場に入った時と同じ不快感が再び私の心を乱した。私には目の前に広がる光景が信じられなかった。

なぜ。なぜここに異界者がいるのか。それも過半数を超える人数が。国の趨勢を決めるのに異界者の意見など必要ない。実際異界者が発言する機会はほとんどなかった。

私は異界者が嫌いだ。彼らは自分のためにしか動かない。それも無自覚にだ。自分の行動全てが自分に還元されると考え、悪事を働いてもたとえ人を殺しても罰を受ければ許されると思っている。彼らが国の代表だなんて虫唾が走る。なら彼らは何の権限があってこの場所にいるのか。そんなの一つしかない。



女神という存在に疑いを持ち始めたのはいつの事だっただろう…


ルティアス王国が滅んだとき。魔族の国にも結界があると知ったとき。心当たりはいくらでもある。でも決定的だったのは…


女神が異界者の女神だと気付いたときだ。



「この戦争屋が。シャーレもいい立地を持ったものだな。」


「そういう言い方は好かんな。儂らは今一番戦禍に近い帝国に物資を届けると言っただけじゃ。魔王国と死の山脈を挟んでいるとはいえ一番近いのは帝国じゃからの。帝国の次にどこに牙が向かうかも分からんし負けられてはかなわん。」


「はん。どうせ裏で魔王国とも繋がりをつくって戦争を長引かせるに決まっている。両国生かさず殺さず。それがシャーレにとっての理想だからな。」


「言いがかりを通り越して妄想の域に入っとるな。せめて戦争が起こってから言う事じゃ。」


「確かにまだ宣戦布告はされてねぇからな。亜人国家の方に矛先が向かえば帝国の番は遅れる道理。流石にシャーレの人間も死の山脈と迷いの森を越え交易して利益還元できる者はおるまい。」


「ワラワの国はそもそも交易など望んでいんせん。それにカリムが墜ちるとは思えんしの。魔王とやらも途中で諦めるのが目に見えとる。結界が変わった程度で世界情勢がそう変わるとは思いんせん。」


「まぁ魔王国周辺の国でこのくらいの認識ですからね。他国が戦争を起こすとは思えませんし、ましてや国が滅ぶなんてもはや絵空事かと。」


『結界内は今まで通りHPも耐久値も減らないんでしょ?結界がどれくらいで壊れるか知らないけど戦争で勝つって相当厳しいよね』

『まぁここにいる住民殺すのが条件だからな。結界内にいれば暗殺なんてのはシステム的に有り得ない』

『なるほど。よっぽどのことがない限り時間掛かりそう』

『だね。でもゲームの雰囲気がギスギスするのはなあ』

『いや。なるとしても魔王国だけでしょ。まぁ魔王国にいる連中もそういうの好きで集まるからギスギスというよりイケイケになりそうだけどww』

『結局魔王国以外今まで通りな気がするな。わざわざ戦争なんてせんでしょ』


くだんの魔王は同盟の話が始まると再び眠っていた。そのおかげであとは比較的スムーズに進む。事務的な話も終わり話題が自由なそれとなってきたが、どの国も戦争に備えてるが危機感は覚えていない。うちもそうだ。王国は隣国のシャーレと敵対する意味がないし、工業国家ブルームに至っては関り自体少なかった。普通に考えて戦争なんて起きるはずがない。無いはずなのに。ここに来てからずっと私の胸を燻っている不安は一向に消える気配がない。そしてその種火は現実のものとして燃え上がる。


「今までの平和な世界が魔王国一つで崩れるとは思えない。」


誰が言ったかは分からない。もしかしたら異界者だったかもしれない。ただそれは七か国全ての総意だった。そんな弛緩した空気を打ち破ったのは魔王………ではなく目隠しの少女だった。


「……フフッ…平和ボケもここまで来ると傑作ね。」


雑音が一瞬にして消えた。空気が張り詰めたように重く感じる。


「あーあ、これは酷い。住民の猛者が集まるっていうから期待してたのに拍子抜けだわ。」


最初誰がしゃべったのか分からなかった。今までの無機質で丁重な口調とは真逆な話し方と内容に戸惑いを覚える。突然の変化に言いしれない恐怖がミスティカの背筋を這った。


「君たちは何も分かってない。異界者の本質は侵略よ。」


「…何を根拠に!」


ローゼの異界者が口をはさむが、ソテイラはそれには目も向けず立ち上がる。


「フフ。ここはルティアス城、三番塔にある会合の間という所なの。ルティアス城は一番から七番まである塔が合わさった構造をしている。端的に言えばこの会場を上に三倍伸ばした塔が七つ円形に並んだお城って思えばいいわ。」


『剣帝が話してたやつか』

『それって他の国の城に匹敵する大きさじゃ』


「ルティアス城は本当に綺麗な城よ。そうね、ミラノ大聖堂なんかに雰囲気は似てるわ。それに遜色ないゴシック様式の白亜の城。」


一拍置いてソテイラは両手を広げ、ここにはいない人間に向ける様に言い放つ。


「…ここね。今は私のものなの。」


「え?」


その声は私のものだったかもしれない。


「NQ報酬の一つよ。どう?羨ましい?NQクリアしたら異界者の皆も手に入るかもね。」


NQ…。異界者は皆女神から国を救う様に命じられており、その内容をナショナルクエスト略してNQと言うんだったか。ただし難易度が高すぎて未だに達成した者は目の前の彼女等以外いない。ソテイラはこの城を女神から貰ったというのか?だがここはもともと……私が考えを深めてる内に異界者が騒ぎ出す。


「その話本当か!」

「NQの情報をここで出すのか…」


『うおおおおお!!』

『キタ――!!』

『マジか!?』

『うらやましい』

『さすがNQ!そんなでっかい城貰えんのかよ。すげえ!』

『ほしいいいい』

『俺にクレ――!!』

『俺らも今からクリアすんべ』

『それができたらもうやってらww』


異界者の反応は顕著だった。誰もかれも浮足立ったように喜んでいる。ソテイラの隠された視線は文字の浮かんだ壁を向いていた。そこに書かれていたモノに満足したような笑みと頷きを一つ。満面の笑みだった。


「フフ。盛り上がってる。盛り上がってる。ハイ、ちゅーもく!住民の皆さん、異界者の声をご覧ください!異界者は私が住人から奪ったこの城を羨ましがっていますよ。次はどの国が犠牲になるんでしょうね?」


『は?』


ミスティカが彼女の言葉を噛み砕くのに数瞬掛かった。さっきまでソテイラの真っ白な髪ばかり目がいってたのに、今は全身を覆う真っ黒な服しか目に入らない。まるで頭の中を黒で塗りつぶされたみたいだ。


「ここには前の主人がいたの。エルフィ・ルティアス。元ルティアス王国第一王女よ。ああ別に殺して奪ったとかじゃないから安心してね。彼女まだ生きてるし。ただ彼女の意志に関係なく女神はこの城をくれたわ。始まりの国を救ったお礼と称してね。フフ。ようは国のものが異界者のものになるかもってこと。住民も異界者もみんなみんな女神のいうこと何でも聞いちゃうんだもの。何を命じられようが何を貰おうが全肯定。」


ミスティカの目にはソテイラの楽しげに話す姿が映っていた。先ほどから入ってくる膨大な情報量。それに周りが混乱している。ただ何故だろう。他が彼女を気味悪く思うのに反比例して、私の彼女を恐怖する気持ちは薄くなっていく。


「そういえば戦争に勝っても報酬が貰えるんだった。もしかしたら敗戦国の城は異界者のものになるのかしら。自分で言っててなんだけど結構可能性ありそう。フフ。えーっと”戦争は起きない””今までの平和が続く”だっけ?そうだね!異界者のいない世界だったらそうなったのでしょうね!」


ソテイラはまるで無知な子供を相手にするように語り掛ける。


「もう一度言ってあげる。異界者の本質は侵略よ。私たちはステータスも持ち物もゼロから始まる。そこからなりたい自分になるために世界からアイテムやお金、経験値を奪う。本来住民に回るはずの分もお構いなしにね。私たちはこの世界のものを自分のものにするために来てるの。」


ああ、彼女は自覚ある異界者なのか。だから彼女への嫌悪が他よりマシなのだろう。私は確かに異界者が嫌いだが異界者は悪人と考えてる訳ではない。


「クエストを受け報酬を貰う。異界者には当たり前のことなんだけどね。それがルールだから善も悪もない。それにこの世界にあるモノ全てが住民のものという事でもない。

だからこそ。異界者は戦争を始めるように動くでしょうね。だって強い敵と戦いたいもの。強い装備が欲しいもの。レアな素材が欲しいもの。自分だけのホームが欲しいもの。この世界の秘密が知りたいもの。国を救う主人公になりたいもの。」


『異界者の代表ズラすんな!』


少し大き目のフォントで流れたコメント。それは不思議と会場皆の目についた。


「フフ。私も異界者の一人だもの。私の声も異界者の声の一つだわ。なら無視できるものではないでしょ?」


『戦争が異界者全体の望みって訳じゃないだろ!』

『NQの報酬が城だって決まったわけじゃないし』

『戦争の報酬もだ!』

『ていうかいい加減始まりの国のNQの詳細教えろ!』

『まぁ戦争考えていてもこの場でいう馬鹿はいないだろうなw』


コメントの量が一斉に増えだした。戦争は否定的な意見が圧倒していたがNQに関しては完全に肯定されていた。それが国を救うことになるのだから異界者は報酬を貰う権利があると。何故国ではなく女神が出したクエストの報酬を国が支払うのかも言及せずに。


「我々がやるのは国を守ることだ。国の方針に従うのだから戦争は起こらない」

「万が一そういった異界者がいて結界が攻撃されることがあっても小規模なものに収まるだろう。」

「国が滅ぶのはやっぱり考えられない。」


住民は皆何か考えているのか一言も話さない。異界者たちの声だけが耳に響く。そんな白熱する会場をまたしても彼女がぶち壊す。


「……フフッ。アハ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」


時が止まった。狂気じみた笑い声が会場に響き渡る。コメントすらその流れを止めた。


「アハハ。あー楽しい。楽しいわ。この世界はどれほど私を楽しませてくれるのかしら。アハハハッ。」


目隠しの少女は踊るように跳ねた。持て余した黒い布が波打つように広がる。そのまま円卓の上に降り立つと舞うように歩を進めた。


「誰もが戦争が起きるか否かなんて不毛な問いを掲げてる。つまんない。実にくだらない。求めていたのは”どうしたら戦争が起きないか”じゃないの?」


どういうことだろう。彼女は戦争を起こしたいのかと思っていたが違うのか?いやそもそも彼女の目的は何?戦争を起こして彼女に何の得がある。


「まぁ無能な皆のおかげで私は優越感に浸れる。そこは感謝しないとね。こんなの現実でも味わったことないわ。アハハ。この世界の一番上に立ってる気分よ。」


コツコツとハイヒールの音がリズムを刻む。クルクルと回って黒いワンピースの裾と真っ白な髪を振り乱しながら言葉を紡んでいく。


「住人も、異界者も、女神も、本当に救えない人ばかり。救わない人ばかり。でも大丈夫。私は違う。この世界、私が救ってあげる。」


机の中央まで辿り着いたソテイラは右手を前に突きだす。何もない宙から現れたのは一本の剣だった。装飾過多な直剣はミスティカの目にも結構な業物に見えた。


「この世界の戦争は一言で言えば結界の奪い合いだわ。ここにいる八人の結界の担い手を殺すことが勝利条件。戦後は殺した人の所属国住民代表が敗戦国の結界の担い手を新たに選ぶ。」


目隠しの少女は宙に浮いた直剣を自分中心に漂わせる。ゆっくりと時計回りに動き始めた直剣をよそに、全く同じ直剣をもう一本取り出した。


「無所属が担い手を殺すと女神が次の担い手を選ぶわ。ただし無所属が選ばれることはない。自殺や自国の人に殺されても同じ。」


次々と直剣を取り出しては自分の周りを周回させていく。


「結界は国にとって絶対的なものよ。結界がないとPKも魔物も放し飼い。建物も壊し放題。とても国として機能しないでしょうね。国の生命線を握る人物がその国の実権を握るのは当然の帰結。」


淡々とそれが繰り返され、剣の数は八となった。


「さて」


パチンとソテイラが指を鳴らす。すると周回する八本の直剣の動きが変わった。速度と半径が徐々に大きくなっていく。


「始まりの国の住民は無所属扱い。異界者は始まりの国を所属国にできない。普通は。例外として始まりの国のNQクリア者は全員始まりの国所属となってるわ。」


切っ先を外に向けた八本の直剣。円卓の半分ほどまで広がった周回軌道上でそこそこのスピードを保っている。


「今となっては女神が直接結界を管理している唯一の国。ここからが面白いんだけど。そこに所属する私たちが結界の担い手を殺すと次に選ばれるのは女神なの。さらに言えば結界も始まりの国と同じ女神仕様。決して壊れない完全なセーフティエリア。」


周回軌道が円卓の端まで広がる。私の目の前を剣が通り過ぎていく。


「流石にここまで言えば分かるかな。世界平和に必要なもの。

勿論ここにいる有識者たる住民代表諸君は国を背負って来ているんだもの。自国民が沢山死ぬだろう戦争は回避したいはずでしょう?この先絶対に失われない結界が欲しいでしょ?」


パチン。彼女の合図で八本の直剣が一斉に停止した。


「だったら。自国の安心のために。世界平和のために。この世界を救うために。


――みんな私に殺されてくれない?」


その内の一本が剣先を私に向けていた。





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