九ヵ国首脳会談3 SIDE ミヒノ
「とりあえず自己紹介がわたくししか終わっていませんので他の方もお願いしますね。」
私は他の参加者に話を振って背もたれに体を預けた。目線が下がり自分の恰好が映る。ぶかぶかのローブを所々でベルトを結び、手袋とニーソで肌もほとんど見えない。肌を隠すのは私の体に刻まれてる二つの魔法陣も一緒に隠すためだ。目隠しも文字通り特徴的な目を隠すため。これはリアに頼んだものの一つ。【透過】の付与特性と【変色:髪】の付与効果を持った布で、私には布越しに周りが見えるし髪の色も白になっている。全身真っ黒にしたのは私の髪の色を強調するためだ。この世界で変装する際気を付けるべきことは、顔は勿論唯一変更できない体形に目を向けさせないことだろう。身長のない私なら尚更だ。今回は色を使って体形を誤魔化した。
話し方もいつもと違う。窮屈だが仕方ない。アイテムで声自体変えてるけど口調も変えて損はないだろう。本場お嬢様学校直伝の言葉遣いは完璧だ。これが高校生活一年間の成果。ハハハ。もう葵にお嬢様ごっこなんて言わせない。
リア:お疲れ様。普通にルティアス城ってバレたね
リアからパーティーチャットが飛んできた。チャットするのは初めてだな。思考認識で文字も打てるみたいだが結構コツがいるって聞くなぁ。暇だしやってみようか。
ヒノ:確かに想定外 事前に誰か来るかなんて教えられてないんだからしょうがないけどね マ バレるのは好都合
リア:それはどういう意味?
ヒノ:ミスった いらんことまで送った 思考入力ムズイ
リア:はぐらかさない。何が好都合なの?
ヒノ:その前に質問いいハテナ あの帝国の住人は何 リアの事知ってるみたいだけど
リア:全くもう。あれは帝国の皇帝陛下よ。そうね幼い頃に一度会ったことがあるわ。ただその頃にはもう私一人で国を回してたからそっちで忙しくて印象に残ってない
ヒノ:向こうはそう思ってないようだけど てリアは子供の頃から何してんの
リア:ルティアス王国は鎖国状態だったと言ったでしょ?毎年似たような国営していたから私にもできたのよ。それより皇帝陛下はなんで私の事なんて知りたがったのかしら?
私は参加者の話を聞きながらリアとおしゃべりする。
にしてもリアは鈍いなあ。私は人を見る目だけは自信がある。じゃないとこんな見た目だから海外で即犯罪に巻き込まれて旅行どころじゃない。スリなんて可愛いものだ。誘拐されかけたこともあるし普通なら死体になってたであろう経験もある。それ程に私の容姿は舐められる。なにせ私一人で歩いてると所構わず話しかけてくるのだ。半分は親切心からだがもう半分は完全に悪意だ。初対面でそれを見極められないと南米や一部のアジア圏ではやっていけない。
話を戻すと皇帝は単なる興味からリアの事を聞いていない。そもそもリアは女神に役目を与えられて城と共に姿を消したことになってるはずだ。それなのにここがルティアス城ってだけであそこまで心配する必要があるか?あれは別の感情だ。思慕や恋慕の類。なのに「印象に残ってない」だなんて罪作りなリアさんだなぁ。
おっとハルム聖王国のプレイヤー代表はあのエルザか。知ってる人いないと思ったのにまさかの有名人。疾走感ある曲調が彼女の声に合ってる所がいいよね。私が好きなのはエルザの代名詞といえる二曲である「Rosemary」「会えそう」。新曲も出たみたいだし楽しみだ。
さてエルザはともかくリアには何て答えようか。誰にでも優しい博愛のリアがどんな恋愛観を持ってるのか想像もつかん。まさに恋より仕事なイメージだ。どこか隙のないOLっぽい。んーリアはそっち方面ダメダメそう。ま、私も恋より遊びだから人のこと言えないが……あれ私の方がひどい?
そんなこと思ってるとリアからチャットが届いてた。
リア:今の何?
ん?
リア:ヒノはエルザさんが好きなの?
間髪入れずに文字が送られてくる。エルザ?
リア:歌手ね
リア:人前でも自信があって正義感も強そう
リア:ヒノもそういうのに憧れがあったのかしら
リア:ヒノとは正反対な人柄だものね
リア:逆にそういうのに惹かれるものなの?
待て待て待て!何が起きてる。というかどこからエルザが出てきた!?
リア:ヒノ!返信ないけど?いるのは分かってるのよ!
いやいや。そりゃ隣に座ってるからね!何で居留守使ってるみたいになってるんだ私は。
リア:せめて何でそんなこと送ったか訳を言ってよ
ん?いきなりリアから怒涛の文字列が送られてきたと思ってたんだけど…私は何も言ってないはず。そう思ってドラッグしてチャットをさかのぼる。すると見覚えのない一文があった。えーっと、なになに。
ヒノ:カワイイ 誘拐 したい 舐められる 所構わず 思慕 恋慕 罪作り 好きなの エルザ
「ッ~~~!!」
思わず私の口から無言の悲鳴がこぼれる。
なんだこれ!?おかしいでしょ!なんで私がこの犯罪臭漂うメッセを送ったことになってるの!!誤爆?アカウントハック?後者は無理か。でも誤爆って……変な文章はともかく思考入力で相手に送信するには送る相手の名前を加えて「○○へ送信」というキーワードが必要だ。私が勝手に文を作るのは有り得るが、その文をリアへ送るのは有り得ないはずだ。無意識で言った?いや思い出せ。私はそれに類することを考えなかったか?送った文の最後は「エルザ」。つまりそのすぐ後にキーワードを言ったことになる。エルザの事を考えた時最後に何を考えたか。確か好きな代表曲と新曲が楽しみだと…思っ……て…………
「Rosemary」と「会えそう」と「新曲が楽しみ」
→ローズマリー あえそう しんきょく
→ローズ マリあえそうしん きょく
→マリアへ送信
うがああああああああああああああああああああああああああああ
マジで!本気なの!?有り得ないでしょう!なんてひどい奇跡が起こるんだ!何がひどいって送信のキーワードもそうだろう。だが一番は送った文が私の思った単語を繋げて作った文だという事だ!これじゃ私がこんなこと考えてたことになるじゃないか!!どうしてこんなピンポイントな単語を拾うかな…リアの方に顔向けないじゃん。もうアカウントハックされたってことにしたい。誰かちょっとの間奪ってくれないかな……大体「ローズマリー」「会えそう」「新曲」の三つで誤爆なんてあんまりだ。……………あれ私今何を考えて…
ヒノ:エルザは リア より スキ リアは 遊び
うがああああああああああああああああああああああああああ(二回目)
リア:
空メールならぬ空チャットだと!?やばいやばい!!
ヒノ:間違えた 誤爆だから 思考入力うまく使えなくて
リア:それはやっぱりそう思ってるってことだもん 何も違わないもん
もんって……リアが壊れてる。
ヒノ:違うんだって エルザは新曲楽しみだと思っただけで 後はリアのこと考えてただけだから
リア:私の事?
ヒノ:そう そしたら変な文章出来てて勝手に送っちゃてた
リア:本当に私の事考えながら文章作ったの?
ん?まぁリアに皇帝の事で何と返そうか考えてただけだし…リアのこと考えてたら文が完成していたといえばその通りね。
ヒノ:うん そうだよ
それからリアからの返信が一分間途切れた。空白の時間。私はなんだか判決を待つ被告人の気分だった。
リア:思考入力は単語を一つずつではなく完成した文章全体を思い浮かべるのがコツよ。そうすればこうやって(*^-^*)顔文字も打つこともできる
なるほど。メールを打つようにボタンを押す操作を思い浮かべるのではなく打った後の送る直前の画面を思い浮かべた方がいいのか。
ヒノ:こうかな:-| おおちゃんと顔文字できてる! それに思考を区切ると空白扱いになるのか。リアは空白ないのすごいね!
リア:私はAIだからそんなの当たり前よ
そういやそうか。システム操作はリアの管轄と言ってもいいもんね。こんなの朝飯前か。それよりリアもう怒ってないみたいだ。良かっ…
「…………全て滅ぼしてやる。」
また次から次へと……魔王国なんてあったんだ。知らなかった。というかこんな国あったら戦争ドンパチ起こりそうなのに。いや魔王も女神がいる手前他国に干渉できなかったのだから喧嘩売るかどうかなんて今日まで分からないか…
ヒノ:リアは魔王国の事何か知ってる?
リア:いや存在すらたった今初めて知ったわ
へぇ~そっか。でも私には関係ないかな。さて絶句してる他七国の代わりに私が司会者らしくまとめようか。
「残念ですがそれは無理なお話ですね。ネルキア様。」
「あん?お前は誰だ?」
「始まりの国代表兼アイテムの管理者代理兼ノネットサミット司会者です。ソテイラとお呼びください。無理と言った理由ですが始まりの国は今も女神の管理下にあります。結界を破壊することは不可能です。八国を滅ぼすのは無理かと。」
「まーた奴らか。ようやく魔王国ができて他国に攻めようって時に結界なんざ張りやがって。いい加減目障りだな。」
「そうでもありませんよ?少なくとも七国まで滅ぼせるんです。ぜひ頑張ってくださいませ。」
その瞬間会場の空気が凍り付く。住民の敵意の満ちた目が魔王からソテイラに移った。
「ほう。お前は奴らの代理と言ったのでてっきり敵かと思ったんだが…」
「それは誤解です。そもそも女神は誰の敵でも味方でもありませんよ。強いて言えば保護者ですかね?まぁ今日をもって自立していただく皆様にはその保護もなくなるわけですが。これからは世界が平和でも戦争で壊れようとも住民に干渉することはまずないでしょう。ネルキア様の意志も女神は尊重いたしますよ。」
「奴らの事などどうでもいい。お前の意見はどうなのだ?ソテイラ。俺に歯向かうか?」
「好きにすればいいじゃないですか。お言葉を返すようでなんですが、貴方の事なんてどうでもいいんですよ。ネルキア様はわたくしの邪魔足り得ませんから。」
「ククッ。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
いきなり笑い出した魔王様。高笑いが似合う男だなぁ。ネルキアの容姿は金髪で堀の深いイケメンだ。ここにいる人たちは誰もがどこか浮世離れている。それは見た目然り中身然り。ネルキアみたいな独善的王様なんてもう現実にいないのだろうなぁ。友達になれれば楽しいだろうに。まあ無理かな。
「俺が眼中にないと言うか、小娘の分際で!面白い!そういう奴は無理やり目に入れてやりたくなる。」
「奇特な方ですね。わたくしに構わず世界征服でもなんでもすればよろしいのに。
ああ征服で思い出しました。この場でわたくしの仕事を果たさせてもらいます。」
私は一度立ち上がってから話し出す。
「始まりの国の住民の皆さま。わたくしは確かに始まりの国の代表ですが表舞台に立つことはありません。なので今まで同様平和に暮らしてくださいませ。土地は商業ギルドが管理し、治安は冒険者ギルドが守り、生活は教会が見守る。皆様が自分の暮らしを変える必要はありません。わたくしからのお話はそれだけです。」
「ククッ。お前は本当に俺を無視するのが好きみたいだな。気に入った。必ず俺が下してやるぞ!ソテイラ!ハハハハッ」
興味持たれるのは嬉しいけど今の私はミヒノじゃないからなぁ。私は座りながら言う。
「でしたら本当のわたくしを見つけることですね。今のわたくしに何を言っても詮無い事ですから。」
「そうだな。では次まみえる時には力尽くでその目隠しを剥ぎ取り素顔を暴くとしよう。」
「それは恐らくこの会談を見ている人全員の願望でしょうね。お話はこれくらいにしましょう。自己紹介が残ってますから。では最後の方どうぞ。」
そう言って魔王の隣にいる女の子に振る。今の私と同じで真っ白の髪に金の目をした彼女は一瞬私を睨んでから話し出す。
「私は魔王国所属クラン「百鬼夜行」がリーダー、シャルと言います。魔王様の覇道の手助けをする者です。どうぞお見知りおきを。」
背は私と同じくらいだが胸のある少女だ。しかもそれを強調するようなワンピースを着ている。ただ彼女は人属じゃないようだ。金の目は爬虫類を思わせるよう縦に割れている。なんか敵意を感じるけど私何かしたか?
うーん。ここまで自己紹介してもらって悪いがエルザ以外誰一人として知らない。というか国も知らない。力も権力も名声も持った人たちの中初心者プレイヤーが一人。ここまでくると私の場違い感が凄いね。本来この世界での私の立ち位置は下の下。最初の国からほとんど出たことがなく、CNOを初めて三週間でレベルも知名度も底辺に近い。そんな奴はここには他にいないだろう。
でも今の私はここにいる誰も持ってない物を手にしている。それはこの場を支配するだけの強大な力だ。
さて舞台は整った。演目は「イフィジェニー」。主演は八人の住民で。助演は八人のプレイヤー。観客は会談を見守る人達が数知れず。
脚本と主人公は…………この私だ。




