九ヵ国首脳会談1 SIDE 王国代表プレイヤー
ハァ。なんで俺こんなとこいるんだろ。
大広間には数えるのも億劫になるほどの騎士が整列している。厳かな空気の中、高ランクで揃えた同じ装備は見ていて圧巻だ。そんな中に武士の格好した一人の男がいた。
その明らかに場違いな人物は…俺だった。我ながらなんとかならないかね。ただ浮いているというか目立っているのは俺だけじゃない。まぁ目の前の人たちは俺のような悪目立ちではなく、この場の雰囲気に最もふさわしい目立ち方をしているが。
「改めて初めまして、クラン柱時計団長のケヤキ様。私はオーレリア王国第一王女ミスティカ・フェア・オーレリア。先日女神から国域結界の担い手に選ばれました。今回ケヤキ様と同じで王国代表としてサミットに呼ばれておりますのでよろしくお願いいたします。」
「え、ええ。こちらこそよろしく。」
第一印象は王女と騎士が同居した女性だった。体の線は細いのに活発さと冷徹さが上手くかみ合っている。金属があまり使われてない軽装の騎士服を身に纏う。色使いが派手なためドレスにも見える。燃えるような真っ赤な髪と合わせて人の目を集める容姿だ。
いつもは参謀役の副団長が王国との兼ね合いをしてるのでケヤキが直接関わるのは初めてだった。今日も副団長に押し付けたかったがお知らせに書かれてたのはケヤキの名前だった。都合が悪い場合は辞退できても次の人はこっちで選ばせてくれないらしい。こういうのは苦手だが会談のメインは住人らしい。プレイヤーは顔合わせが主な仕事とか?折角貰った招待状をみすみす逃すのもなんだという事でケヤキは行くことにした。
「王国所属の最大クランの団長殿には一度お目にかかりたいと思っていました。これまで柱時計の皆様には王国の発展と守護に貢献してくださったのでそのお礼を申し上げたかった。」
そう言って頭を下げるミスティカ王女殿下。
美人は苦手だ。こうされると何も言えなくなる。
「いえいえ。報酬も貰ってるし。何よりこっちも好きでやってるだけなので。」
ケヤキのギルドが王国を拠点にしたのは周囲の魔物のレベルが高いからだった。オーレリア王国は始まりの国から遠い場所にある。人族が支配者の国では来るのが最も難しいと言われている。ケヤキもここに来るまでだけで様々な結構な苦労をした。だからこそ今王国には愛着がある。
ケヤキは王国にクランを作ってからの思い出を頭に浮かべていた。その行為が自分が王国の一員だと自覚させる。だがそのせいで気付けなかった。ケヤキの言葉でわずかにミスティカの顔色が変わっていたことに。
「これからはより一層の協力が必要になってくると思いますので先に王国の指針を言っておきます。我々は王国の存続を最優先に動きます。基本的には周囲の国とは過度に干渉しません。ただ同盟で戦争が回避されるのならその手もありでしょう。」
「えっと…保守に回るということです?勝てる勝てないではなく王国に利があるか否かで戦争を判断すると。」
「そうですね。たとえ戦争で勝っても他国が王国を脅威に思われては複数合同で攻めてくることも考えられます。逆に言えば他国が戦争に勝って王国を脅かす存在になるのなら戦争も致し方なくなる可能性もあるという事です。クラン柱時計には王国の異世界人をまとめる役割を担って欲しいのです。」
そう言われてもクラン方針は俺が決めている訳ではない。でもいつも丸投げしてきた副団長はここにはいない。しょうがないか。
「承知した。王国所属の最大クランとしての役割とやら引き受けよう。」
幾らゲームとはいえ公式も絡んでくる場面だ。適当なことは言えない。それでもたった今王国の一員だって覚悟したばかりだからな。とりあえずこれくらいは言ってもいいだろう。俺は一応クランリーダーなのだから。でもって細かい調整は副団長様にお願いしよう。
それにしても有能な人が下にいると敵わないと分かっていて比べちゃうもんだなあ。やっぱり俺にはクランリーダーの器なんてない。クラン創立当初は適当に集まった小数メンバーしかいなかった。その中で一番レベルが高いってことで俺はリーダーを気軽に引き受けた。なのに今じゃあ王国最大規模だ。プレッシャーがヤバいんだよ!なんだよ団員100人って!会社で平やってる俺の扱える人数超えてるんだよ!
周囲を見渡すと玉座に座る両親と多くの騎士を背に威風堂々なミスティカ王女殿下が目に入る。これこそ集団のトップにふさわしいふるまいだ。今から俺はこの人と並んで会談に参加するのか…。どうしてこうなった。
「さて時間ですね。」
ミスティカの言葉が合図だったかのように二人の前に真っ黒で重厚な金属の扉が現れた。ひとりでに開いたその扉をくぐると広い会議室を思わせるホールに出た。さっきまでいた王国の大理石より白い壁はまた違った高級感を匂わせる。天井は高くいくつものシャンデリアが部屋を白く照らし出す。円形の部屋の真ん中には壁と同じ材質で磨かれた白い円卓が置いてあり、何十人は座れる程の大きさだ。距離を一定にして背の高い椅子が囲む。白で統一された部屋はどこか幻想的で、白でない自分達はどこか浮いている気分にさせられる。
そしてケヤキが通ってきた黒い扉と同じものが複数あるのに気付く。それぞれからケヤキ達と同じように人が出てきた。一方的かはさておき知ってる人が大半だ。それが一堂に会してるのが面白い。数人は俺と目を合わせたら手を振ってきた。
「ミスティカ様はここがどこかご存じで?」
「いえ。女神様には安全な場所としか。」
安全か。あれ?【識別】が使えない。ここじゃスキルが使えないのか。HPや耐久値も減らないみたいだ。そんなことを確認してる間に黒い扉が消えており、出てきた人たちは円卓で自分の名前がAR表示されている場所に座っていた。それに続いて俺達も用意された席に座る。何となくメニューを開くとメッセージが届いていた。
《会談見てるよー( *´艸`)ケヤキも映ってるww隣の王女様は噂通りの美女だね_(:3」∠)_》
相手はクラン幹部の一人だった。彼女のメッセはいつもながら賑やかだ。プレイヤーはメニュー欄から会談の様子をリアル中継で見ることができる。それだけじゃない。冒険者ギルドや城なんかではNPCも見ているらしい。まぁ今回がCNO稼働以来初めてのワールド全てを巻き込んだイベントだ。それも全ての国のこれからを決める場だからな。ある意味プレイヤーより住民の方が重要視しているはずだ。
それを裏打ちするようにピリピリと肌を刺す緊張感を含んだ静寂が会場を支配していた。プレイヤー同士でさえ会話を許さない。この雰囲気は確実に8人のNPCが作り出したものだ。それに耐えられずケヤキがチャットに逃げること5分。ようやくこの空気を壊す音が響いた。窓が一切ない閉鎖な空間に唯一ある巨大な両扉。精密な模様の彫られたソレがゆっくりと開かれる。そして全プレイヤーが今一番気になっているであろう人物が現れた。
「ようこそいらっしゃいました。わたくしは皆さまを歓迎いたします。」




