表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
48/68

会談前日



「持続ダメージ量がまた上がった。《スラント》」


「そうね。耐久値は思ったより削れてるのかしら。《絶影》」


二人の声が洞窟に響く。時間差のある攻撃は全く同じ場所に当たった。長い首の真ん中。そこからは幾度もの斬撃で深い傷ができていた。30分以上にも及ぶ戦闘はいよいよ大詰めを迎えていた。


「ッグ。ぎゃぎゃー。」


G G u u U U G Y Y Y a a A A A A A A A A A A A A A A A A A


「ワーちゃんカスタムツー!もうちょっとだけ抑えて!」


「ぎゃぎゃ。」


二体のワイバーンが取っ組み合いをしていた。広いはずの洞窟は二体の竜のせいで狭く感じる。片方は私がユニークスキルで生み出したものだ。スペックはSTRとVITだけいじらず他は最低。スキルは【竜の体】のみ。今回は【飛行】も必要ない。ワイバーン最大の武器はそのAGIを持って空を自由に飛び回ること。ただでさえレベル差があって攻撃は通らない上回避までされてしまう。こっちは時間制限すらあるのにそれじゃあ勝負にならない。だから作り出したワイバーンには敵の動きを封じる事だけに集中してもらう。そのためのSTRとVIT。【竜の体】は単純にステータスを上昇させるスキルで取らないと敵に力負けしてしまう。


一方で私のレベルはこの三日で76まで上がった。これは数えきれない程のウォーロックを倒して上げたものだ。ウォーロックは死の山脈で擬態しているゴーレム擬き。レベルも70前後あり防御に特化した性能は普通なら厄介な敵に分類されるだろう。ただ私たちにとってその魔物は石ころも同然だった。

奴等の体の表面のどこかには弱点となるコアがある。それは私が血で丸洗いすると簡単に露出してしまうのに気が付いた。私とリアが【暴食】を発動させた剣でそのコアを斬ると倒すのに一分も掛からない。


攻略法を見つけてからは【魔力探知】でサーチアンドデストロイ。こうして目的だったレベル上げを十分達成した。ただレベルは上がってもワイバーンのレベルは130。普通の攻撃ではやはりノーダメ必至。それでも私たちはどんなにVITが高くてもダメージを与える手段を持っていた。【暴食】―耐久自体を消すスキル。これさえあればやりようはある。

リアから聞いたが”マーナガルムは【暴食】を組み合わせたユニークスキルを使っていた”らしい。つまり私たちの使う【暴食】はアレの劣化版だ。レベル1の効果範囲は手のひらしかなく減る量も低い。おまけに解呪系スキルで耐久の最大値の回復もできるらしい。まあ解呪しても耐久値自体は減ったままだしHPも回復する必要がある。喰らえば回復と解呪の魔法を使うしかないので完全に二度手間だ。それだけでも【暴食】は反則と言っていい。それにスキルのレベルが上がれば解呪しにくくもなるのだろう。


さて今の段階ではたとえ剣に【暴食】の効果を付与して一日攻撃してもワイバーンのHPはゼロにはならない。ゲームの規則が無理なら生物の摂理にのっとればいい。この世界でも生き物は首を落とせば死ぬ。HPに余裕があっても首の耐久値をゼロにすれば倒せるってことだ。これが私たちの勝算。


洞窟で寝ているワイバーンを【血の創造】でコピー。分身で敵の動きを阻害させ洞窟に留める。隙を見て私とリアが【暴食】を発動させた武器で首の一カ所に集中攻撃する流れだ。普通の攻撃じゃあ耐久値は減らせないため傷を付けてもポリゴンは塞がってしまうのだが、私たちの付けた傷痕はまざまざと残されていた。傷口からは大量の血が流れるエフェクトが輝く。

単純な作戦だがコピーを維持できる時間は限られている。そしてワイバーンが一度空に逃げられたらもう私たちの攻撃手段が無くなる。この二つに気を付けて戦ってきた。初めはミリ単位で減っていたHPは30分に及ぶ攻撃で常に持続ダメージが入るほどの傷にまで広がった。HPも残り半分。


「よいっしょと。《絶影》」


「おりゃ!《スラント》」


気の抜けた掛け声とは裏腹に乱戦の中で糸を通すように移動するリア。そのまま流れる様に【刀】スキルの武技を発動する。刀の影をも置いていく速さの水平切りが【暴食】による黒いオーラを残像に急所を切り裂く。それに続けて私の真っ赤な魔剣トワイライトが垂直に落とされた。


ちなみに私は距離をあけて魔剣を血で操っているので本当に気の抜けた声だ。


「それでももうちょっと掛かりそうね。」


「ぎゃぎゃぎゃ!」


「どうした!?ワーちゃんカスタムツー!」


「名前が長い!愛称じゃダメなの?」


「ワーちゃんカスタムツーはワーちゃんカスタムツーだよ。ワーちゃんカスタムツー以外に呼び方なんて…」


「ぎゃぎゃーぎゃ……ぎゃ!」


「はいはいちゃんと聞いてるよ。そうね、ツーちゃんの言う通り!ツーちゃんは自分の思った通りに動いていいから!」


「ぎゃぎゃ!」


「いや何言ってるか分からないでしょうに。」


言葉は通じつともツーちゃんの気持ちは伝わってきたから大丈夫。僕が抑えてるからもう少し頑張れって言ってたんだな……たぶん。


私たちの攻撃でひるんだ敵をツーちゃんが前足で押し倒した。よし!これでもう一度攻撃入れられる。そう思って魔剣を動かそうとした。しかしツーちゃんは何故かそこから抑え込もうとはせず、そのまま首の傷に噛みつく。そして、勢いをつけて狭い洞窟の中を振り回し始めた。


「ぎゃぎゃーー!!」


「つ、ツーちゃん!?いきなりどうした!」


硬い岩壁に敵の体を叩きつけながらのジャイアントスイングは洞窟を削っていく。轟音と砂ぼこりが洞窟内に充満した。私がいる場所すら上から大きな岩が落ちてくる。


「待て待て!私たちまで生き埋めにする気かああ!!」


「ヒノが許可出したんだからヒノが何とかして!」


私は周りに血を取り出した上で大楯を頭の上に配置する。リアも私の傍まで退避してきた。暴れるツーちゃんの方を見ると噛みつく場所から物凄い勢いで血が噴き出していた。そして決定的な悲鳴が聞こえたかと思うとツーちゃんがその首を噛み千切った。敵のポリゴンは光となって消えドロップアイテムとレベルアップの表示が目の前に現れる。


「「……。」」


「ぎゃぎゃ。」


「どうしよう。ドヤ顔でこっちを見てる。」


「うん、それは私にも分かるわ。」


私とツーちゃんは以心伝心。たった今ちょこっとすれ違って私たちの避難が遅れたけど、やはり気持ちは通じ合っているのだ。たとえあと五分しか続かないとしても。


「よーしよしよし。ワイバーン倒して偉いぞ~」


「褒めていいの?」


「どうせ消えるのに注意してもねえ。」


「さいですか。それにしても前回といい今回といい作ったワイバーンは性格がヒノに似てるわね。目的しか見えてないところとか。」


「私の子供みたいなものだからね。私の性格がAIに反映してたら面白いかも。」


「ヒノが…複数……。」


「今のつぶやき、何か含みがあったね。」


「いやいや。なんもなんも。それより洞窟が崩落しなくてよかった。」


「まったくね。じゃあちょっと採掘してから帰ろっか。」


「はい。」

「ぎゃぎゃ。」


「いや君はもう消えちゃうから。」


「ぐるぅ。」


「そんな顔しても維持コストは払わないから。」





あれから採掘を終え拠点に帰ってきた。今はルティアス城の来客部屋でストレージの整理をしている。採掘の方はというと、ツーちゃんが暴れて広くなった洞窟には壁に埋まってた鉱石が散らばり採掘ポイントも新たにできていた。ちゃんとした仕様かはともかく私たちには都合のいい発見だ。なのでツーちゃんには追加で洞窟の壁を壊してもらった。おかげさまで維持コストに見合う程には稼げた。維持を延長したのは別にツーちゃんにほだされた訳ではない。


「[ウィスタリアジェム]。宝石素材としても相当レア度が高そうね。【魔道具】に使うか[桜切]の強化に使うか。」


「死の山脈稼げるなぁ。でもワイバーン倒すにもBPが結構いるしレベル上げはあそこじゃもう無理ね。」


「そうね。私たちももう80近いからウォーロックで上げるのも限界だわ。」


「採掘は儲かるんだけどなあ。」


「それは同意するけどツルハシ十本で採掘するのはどうかと思う。しかも本体は卵抱えて座ってるんだもの。傍から見れば意味不明ね。」


「しょうがないじゃん。黒卵持ったらツルハシ持てなくなるんだから。」


今も卵を抱えながらリアと話している。こうして空いた時間はずっと悪竜の卵に魔力を与えてる。にもかかわらず一向に孵る気配がない。しかも魔力を与えれば与える程ただでさえ重かった卵がさらに重くなった。今じゃあ最初の二倍はあるだろうか。


「お願い早く生まれて。正直MPポーションも馬鹿にならないし他の事に魔力を使えなくなるのが地味に痛い。」


「確かに手のかかる子ではあるわね。卵なのに食費が掛かるとは…。」


リアの言う通りだ。どうしてこう私の子は手間のかかるのばかりなのか。ワーちゃんツーちゃんしかり。リアしかり。


「…なんか失礼なこと考えてる?」


「言いがかりよ。この澄んだ目を見なさい。そんなこと考えてる様には見えないでしょう?」


「よく言う言い回しだけど自分の目は見えないから信じるに値しないわ。」


「なんか論破しにかかってきたよこの子。そんなことよりリア。明日の会談に必要な諸々揃ってるんでしょ。直前でバタバタするより今渡しといてくれる?」


「はいはい。全部作っておいたから今出すわ。それにしても注文が多かったわね。」


「しょうがないじゃん。私たちの正体バレると面倒だから準備するんだし。」


死の山脈に遠征中もリアには明日の準備をしてもらっていた。NQクリア者というものがどれほど厄介になるかわかったもんではない。それを回避するのに少しの面倒は甘んじて受け入れるべきだ。


「……あやしい。何企んでるの?なんか余計な注文もあった気がするし。私はしゃべらなくていいとか言ってたし。」


「いいからいいから。私に任せなさい!」


「私の【魔道具】で変装セットから【裁縫】で服まで用意させて計画は内緒にするつもり?」


「ごめんて。また現実の写真送るから許して。」


「…次はヒノの部屋が見たい。」


チョロい。そんなことでいいならお安い御用だ。

にしてもリアは何でも屋になりつつある。【禁科玉条】で生産スキルも取り始めた。登録したスキルを自由に使えるユニークスキル。このユニークスキルの強みはスキルレベルが種族レベルで固定されていることだ。つまりレベル上げをする必要がない。スキルのレベル上げには時間が掛かる。生産スキルならお金もだ。でもリアにはどちらも必要ない。私も【錬金】を持っているので如何にそれが反則かがよく分かる。ということでこれからは素材アイテムもリアに預けることになった。空いた時間に色々作ってくれるらしい。結構楽しみだ。


会談の方は国代表の住民とプレイヤーが一人ずつ呼ばれている。住民側は国の結界を張れる人間が集まり、プレイヤーはその国での貢献度が高い人が選ばれるらしい。始まりの国の私たちはNQクリア者として呼ばれており女神様の代理でもある。


「ローゼ様に司会役押し付けられた訳だが。」


「管理者は移動だけ手伝うみたいね。私たちがそれを押し付けた訳だけど。」


「逆よ逆。移動しか手伝わないなんてはっきり言って職務怠慢ね。ちょっとは昔のリアを見習え。」


「ローゼ様には色々お世話になったんだから頼み事くらい引き受けましょ?」


「…確かにリアの端末は感謝してる。助言も貰ったことだし仕方ないか。」


「助言って…始まりの国のNQのこと?」


「うん。」


ローゼ様と会った時別れ際に言われたのだ。


『ナショナルクエストはクエストの管理者も関わっている。』


ローゼ様が言うにクエストの管理者はクエストが面白ければそれでいいと考える人らしい。リアが特殊な立場にいるから標的にされないよう忠告された。


「私たちはこれからNQをクリアして回る予定だから関わらないっていうのは無理な話だね。リアは何か思うところある?」


始まりの国のNQに関わったのならリアを閉じ込める要因を作った可能性が高い。リアは女神となる際白い空間を繋ぐ鍵をソフィアに渡したまま中に入ったせいで出られなくなった。一見リアのミスに思えるがそれだけではない。他の女神がソフィアに鍵の使用を禁止したからでもある。そのせいでソフィアが鍵を届けることもできなくなったのだからリアを閉じ込めた原因の一つと言える。大体運営だって本当にリアのミスなら鍵を届けるぐらいしてもいいだろう。そして誰かが勝手にリアの鍵をソフィアに渡した可能性も消えた訳ではない。あのNQには何者かの悪意が見え隠れしている。リアはその真相を知る権利があるし犯人がいるなら恨んで然るべきだ。普通なら。


「思うことねぇ…何もないわね。私は今でも自分の意志であの場にいたと思ってる。たとえNQの整合性のために出られなかったとしても出ようとは思わなかったわ。だから関係ない。」


「そう言うと思った。いい子ちゃんが過ぎるのはどうかと思うけどまあいいわ。リアの事は私が代わりに怒ってあげるから。」


私はリアの髪をなでる。慣れてないのか少しくすぐったそうだ。それでも私にされるがままになっている。


リアは自分より他を優先しがちだ。それは国の事を一番に考えていた王女の頃のものだろう。それから女神になりCNOの世界が一番になった。その上現実と仮想を知ったために自分を軽く見ている。歪な生き方だ。与えるだけ与えて見返りを求めない。自分の不利益さえ気にしない。損な性格してる。だからその分私がリアを甘やかす。明日の会談もそのためのものだ。私がリアの天秤に何処まで乗せられるか思い知らせてやる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
美しい百合 尊い(◜¬◝ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ