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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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ファウストの左手と飛竜




カンッ カンッ

私は洞窟の中でツルハシを振る。流石に現実でツルハシは使ったことがないので素人感覚だ。こうリズムよくいい音を出すのは楽しい。まあ叩き方でドロップが変わるわけではないので適当でいいのだが気分の問題だ。


[マナテイク鉱石]

マナが枯渇した場所にしか存在しない貴重な鉱石。周りのマナを吸収する性質があり一定以上取り込むと別の物質へと変化する。変化は吸収したマナ次第。一度変化すると二度とマナを吸収することはなくなる。現在はミヒノの魔力で満たされている。


やっと手に入れたこの鉱石。ワイバーンの寝ていた所より少し奥に行くと採掘ポイントが出始めた。一応と思って掘っているとマナテイク鉱石はあっさりと出た。初めの一個だけ。リュースさんからは三つは欲しいと言われているのだがもう五分以上出てきていない。


「ヒノ?そこにも採掘ポイントありますよ。」


「え?私見えないんだけど。」


「あー敵もいないので【金の書】に【採掘】を指定してるんですよ。レベルが魔石の倍なので私には見えてヒノには見えてないんですね。ヒノが掘っても手に入るのでそこの窪みを叩いてみてください。」


「りょーかいっと!」


ドロップした鉱石を鑑定してみるとお目当ての鉱石だった。私は鉱石に魔力を込めていく。20秒ほどで黒い鉱石が赤く光り出し鑑定でも魔力で満たされたとの項目が出た。勢いそのまま同じ窪みで二つマナテイク鉱石がドロップした。同じように魔力を込め私の目的は達成された。


「なんだかんだ10分掛かってないね。」


「洞窟に敵が出ないで採掘に集中できましたからね。どうします引き返しますか?」


「いやここまで来たら一番奥まで行こうよ。何があるのか楽しみ。」


「そういうと思ってました。――【金の書】は【魔力探知】を開け。ではいきますか。」





10分後。私たちの前は外が広がっていた。これを外と言っていいのなら。

上を見るとうん、確かに青空だ。少しづつ目線を下げていく。円形に削られた黒い岩が断崖絶壁。言い換えれば山の縦穴。反対側までは200m程で上の山頂はここから500mはあるだろうか。この縦穴には私たちが来た洞窟と同じような横穴が少なくない数開いている。下は暗くて底が見えない。


私は足元の石を蹴って縦穴に落とした。

い~ち、に~、さ~ん、よっ(カラカラ)。


「3.5秒。ってことは…60mぐらいか。リア、明かりで縦穴の底を照らしてみて。」


「分かりました。」


リアはここまで【光魔法:斬】で出していた球形の光をもう一つ作り出した。魔法は目を開けたまま行使すると攻撃判定が無くなるが詠唱時間も短縮されるのでこういう時便利だ。


リアの操作で明かりが移動し縦穴の底を照らす。そこに現れたのは半径100mにはなる岩の底とその面積の半分を占める巨大なクレーターだった。むき出しの岩が無数に刺さり鳥の巣のような形をした円形は光の陰影で幻想的な雰囲気を作り出す。そして目を引くのは黒い岩の中央にある三つの真っ白な卵だった。


「小人の気分ね。卵が豆粒に見える。」


「ワイバーンの卵でしょうか?」


「調べてみよう。」


私はクレーターの中央にある卵に血を飛ばす。卵に触れ鑑定しようとしたができなかった。ん?もしかして…アイテムではない?そう思い卵をストレージに入れようとしたが無理だった。


「卵ってもしかして魔物扱いなの?」


「ええ。もしくはフィールドの一部かです。」


「ふーん取り敢えず確保しますか。」


「だ、大丈夫ですか?」


「何も心配なーい。それ!」


私は三つの卵を血で包んで【硬化】する。そのまま血を操って運び足元におろした。


「大きさ私のお腹まである…。これ本当に卵?目玉焼きにしたら何人前になるかな?」


「流石に目玉焼き発言は残念過ぎるのでやめません?」


「いや非現実感がすごいって言いたかっただけだから!別に食べたくて言ったんじゃないし。」


「そういうことにしておきます。」


リアが私を食いしん坊キャラ扱いしてる。いや結構世界中食べ回ってる身としては否定できないがこっちの世界じゃまだ見せてないはずなのに…。


「――【金の書】は【識別】を開け。

【識別】できるのでヒノが言った魔物が正解ね。結果見ます?」


リアの使った【識別】は敵やプレイヤーの詳細情報を見るスキル。これもあれば便利だが必要にならない分類属するらしい、がリアはお構いなしで登録していた。

私も気になるのでリアが移動させたAR表示をのぞく。


[飛竜の卵]

死の山脈に住む飛竜が産んだ卵。飛竜の魔力を食らって生まれてくる。


あれ全然詳細が見えない。というかワイバーンって飛竜って書くんだな。この世界の魔物は英語表記だからドロップするアイテムと違うことがあって面倒なんだよね。


「詳細が一行だけ…。この卵、魔物としてのランクが高すぎます。」


「さいですか。この卵私たちじゃ育てるの無理っぽい?」


「まず生まれない可能性が高いですね。飛竜と同一の魔力波長に合わせられれば生まれてくるかもしれませんが方法も分かりませんし、生まれても結局親の魔力と違う私たちに従うとは思えませんね。」


「そっか。んん~~~。」


ドラゴンの卵の使い方か…。まずストレージに入らないのが致命的だ。こんなでっかい卵持って帰れない。殻だけ【暴食】で溶かしてみる?いや絶対に死ぬ。どうしよ。このままだと私が最初に挙げた目玉焼き案が採用されそうだぞ。


私は左手を顎に当てて考える。すると私の目に魔術刻印の刻まれた手の甲が映りこむ。その時私の頭の歯車がガチッと噛み合う音がした。


「あははははは。リア。この卵全部私が貰った!」


「いいですけど…どうするんです?」


「私のパートナーコイツにする。」


「?パートナーって…ええっっ!?まさか!?」


「そ。左手の宿主きーめた!ではさっそく。【契約召喚】!」


私は左手の甲にある魔術刻印に魔力を込めながら左手で卵の一つを触る。すると卵と甲にある魔法陣が輝き卵が一瞬にして消えた。おおーちゃんと発動した。【契約召喚】――ナショナルクエストでローゼ様から貰った左手に付属していたスキル。瀕死の魔物を生贄に召喚獣を生む。卵は瀕死扱いしてくれるか心配だったが大丈夫だったようだ。私は左手の詳細をAR表示させた。そこには生贄ゲージとやらが追加されており隣には17%という表記がある。


「ほらーだからちゃんと考えてって言ったのに!卵三つじゃ足りませんよ。あと半分はどうするつもりですか?」


「ふふふ……こうするつもり。」


今度は右手で卵に触れる。


「――我が触れし万物は、天より全て手中に有り。【血の創造】を。己が血を贄に生まれ出でよ[飛竜の卵]」


ワイバーンの時と同じ様に血の渦が生まれる。そこで形作らたのは触れている卵と全くの同一なものだった。


「さて維持コストを支払う前に【契約召喚】。」


もう一度左手で卵に触れる。今度も問題なく生贄と反応されたようで左手に消えていった。生贄ゲージは35%。完璧!でも召喚コストは思ったより多くワイバーンに迫るほどだ。とりあえずBPは足りそうだからサクサクいこう!


その後新たに2つの卵を【天血万有】で生み、計6つの卵を【契約召喚】の生贄にしていった。表示された生贄ゲージが100%であることを確認する。


「よし!ミッションコンプリート!ワイバーンが巣に帰る前にさっさとここを出よう。」


「……ですね。」


何やらもの言いたげなリアだったがこの場を離れるのを最優先にしたようだ。こうして縦穴を後にしようとした時だった。



G u u U U U G G G D D H H H H a a a a a A A A A A A A A A A A A A A



前のワイバーンの比でない大きさの叫び声が真上から降り注いだ。上空を見ようと覗き込んだのがマズかった。折角【隠形】が発動していたのにその化け物と目が合ってしまう。


――――――――――――――――


【The Wyvern : Gildinas Lv224】


――――――――――――――――


「ははっ。」


乾いた笑いが漏れる。もはや逃げるという選択肢しか頭になかった。


「飛竜ギルディナス。やはりここの主は七竜王が一柱なのね。」


リアの呟きを問う暇なく巨大な竜が私たちの前で滞空した。ワイバーンの5割増しで大きい。4つ足に蝙蝠の羽、筋肉質な体はワイバーンに似ているが体中に青いラインが引かれ激しく明滅している。


羽に力を込めるのが分かった。私とリアは後ろに跳ぶ。それにまさる速さでこっちへ飛び込んできた。あと数mと顔が近づいたところで突進が止まる。私たちのいる洞窟は幅10m程でこの化け物はつっかえて入れないようだ。目の前まで迫った竜の顔は妖しく光る黒い鱗に覆われていて、見るだけで体が切り刻まれるんじゃないかと思うほど美しく怜悧なものだった。


竜は届かないと分かると一度体を引いた。今度は体中の青いラインが光り始める。


「ヒノまずいです!ブレスが来ます!」


「リア!きかん…」

「ぎゃぎゃああああああ!!」


私の声を遮る咆哮。そしてブレスの予備動作中だった竜に上から一体のワイバーンが衝突した。敵のブレスはあらぬ方向へ吐き出される。山全体を震わせるような爆発音が数秒続いた。私はしゃがんで耳を押さえることしかできなかった。数秒後に及ぶ轟音。鳴り止んだ後一匹のワイバーンが私たちの前に現れる。それは山の周りで他のワイバーンを引き付けてくれているはずの私のワイバーンだった。


「ぎゃぎゃ!」


「ワーちゃん!助けに来てくれたの!」


「ぎゃー!」


こくんと首を縦に振るワイバーン。でかい図体に見合わない所作が不意打ちだった。


「だ、だめだ。ほだされちゃ…だめだ。」


「名前まで付けてるのにそれはどうかと…」


「ぎゃ?」


私が何かと戦っていると再び状況が動き出す。



G u u u U U G Y Y Y a a A A A A A A A A A A A A A A A A A A

G u u u U U G Y Y Y a a A A A A A A A A A A A A A A A A A A

G u u u U U G Y Y Y a a A A A A A A A A A A A A A A A A A A



ワーちゃんと同じ声が複数空から響く。性懲りもなく上を覗くと山頂付近で滞空していた10以上のワイバーンが急降下しているところだった。カスれば即死。顔が引きつるのを我慢しながら自分達が生き延びる道を模索する。


「ワーちゃん、私たち運んで洞窟の中飛べる?」


「ぎゃぎゃ!」


答えると同時に宙で勢いをつけたワーちゃん。だがそれよりも早く爆発的に膨れ上がる殺気が真下から生まれるのを私は感じた。そこにはさっきの数倍は青く光る竜が閉じた口から炎をこぼしている姿があった。首を鞭のようにしならせるとそのまま真上に向かって灼熱の柱を立てた。


高熱が横穴にいる私たちにまで襲った。間一髪のところでワーちゃんは洞窟の中に潜り込む。そのまま両手で私とリアを掴むと洞窟の奥へ進んだ。ギリギリだが羽を伸ばしてもぶつかってはない。


私は後ろ向きのジェットコースターに乗った気分で飛んでいく。一応【自傷】を解いて自作のHPポーションで回復しておく。

瓶のふちを舐めながら縦穴の方に目をこらすと…ボロボロに体の崩れたワイバーンだったものが縦穴の底に落ちていくのが見えた。


おいおい私はアイツらのステータス知ってるんだぞ。いくら倍のレベルがあるからって一撃で倒しちゃうなんて…。


「ここまでくれば安心ですね。」


「ちょっ!?それ完全にフラグ!」


私が再び縦穴の方を向くとすでに小さくなった出口から青い光が見えた。

マジ?


「ワーちゃん!ブレス来る!全速力でお願い!」


「ぎゃぎゃ!」


ワーちゃんがギアを一段階上げた。

あっ!でも強く掴まないで。パーティーだからダメージ通らないとはいえ圧迫感ががが――。


ワーちゃんの声に続いて後ろが真っ赤に光るのが見えた。炎が洞窟全体をなめるように進んでくる。ブレスが思ったよりも速い。洞窟を抜けるのが先かブレスが届くのが先か微妙なラインだ。


さっき20分かけて歩いてきた道を一瞬で駆け抜けていく。明かりがリアの魔法ひとつなため10m先は真っ暗だ。体感じゃ物凄い速度が出ているように感じる。高速道路のトンネルで窓を開けた時のような騒音と風圧で耳も口も使い物にならない。さらにワーちゃんに捕まれ地面スレスレを行くのは反射で目を閉じそうになる。

そんな状況で後ろから私たちを飲み込むように炎が迫ってきている。


速い!うるさい!怖い!熱い!もう滅茶苦茶だ!


「――【金の書】は【氷魔法:刺】を開け。…。《アイスウォール》!」


リアが武器スキルの武技に当たる魔術を使う。魔術は誰もが同じ結果を得られ詠唱時間も短縮されMP消費も最小限で済む。戦闘では自分でイメージして魔法を行使するよりこっちの方が使い勝手がいい。リアの魔術は通路一杯を針のような氷で埋めた。

これで時間稼ぎが!という私の期待は氷の壁と共に一瞬で蒸発した。はっきり言って効果なしだ。何だよ効果なしって。ひこうにじめんは当たらないから分かる。でもゴーストにノーマルはちゃんと当たるでしょ!ゲンガーに体当たりしたらすり抜けるってか?なら岩なんかもちゃんとすり抜けなさいよ。こんなの絶対おかしいよ!


「――【金の書】は【嵐魔法:回復】を開け。…。《ハイヒール》!」


今度はワーちゃんを回復してくれたようだ。ワーちゃんはここに来た時には体中傷だらけでHPも半分削られていた。もしかしたら竜のブレスで死んだワイバーンたちはワーちゃんを追ってたのかもしれない。攻撃手段というかSTRが敵の一割しかないなか良く逃げ切ったよ。その上私たちを助けに来ちゃうんだからワーちゃんは凄い。


ああでも炎が目と鼻の先まで追いついてきた。まだか出口は!そう思って後ろを振り向くと出口の光が見えた。


あと3秒…


血で色々試したいが温存しとかないと後々不都合になる。何もできないのが悔しい。


……2…


リアの魔法で回復したワーちゃんがさらにもう一段ギアを上げた。

うぎゃー。Gが、重力が私を押しつぶすー。


…………1…


それでも炎の方が速い。飲まれるっそう思った時、突如ワーちゃんが羽をたたんで縦に回転し始めた。

なにゆえ!い、いや…じゃ、ジャイロ回転は駄目だって!そ、そんな効率のために他をドブに捨てるようなやり方何処で覚えたんだああああああああああああああああああああああああああ!!!!!


……………………………………0…………


私たちはハリウッド映画さながらのバックドラフトを背後に感じながら洞窟から飛び出た。すさまじい風と熱と音の暴力が私の感じる全てだった。



感覚が回復してすぐに視界左上のHPバーを確認する。少し削られていたが全員半分以上ある。どうやらワーちゃんが私たちを庇う様に羽を広げて背後の爆発の衝撃を一身で受けたようだ。


こうして無事?二人と一匹は生還した。




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