天血万有とワイバーン
前を歩くリアはいつもの格好ではなかった。白ではなく黒のドレスアーマーを着ている。山での隠蔽は白より黒の方がいいからだ。そのおかげかは知らないが登山開始から二時間私たちはそこまで苦労なく高度を稼いでいた。
ロックリザードはこげ茶の岩を鱗のように張り付けたトカゲだった。色合いは山と近いがその大きさから居場所が丸見えで遠くからでも警戒できる。ウォーロックの方は完全に岩だった。それらしいのは見かけるのだが如何せん触れるまで襲ってこない。そして地面にすら触れていない今の私たちが戦うことはないだろう。
ただ一度ワイバーンが麓まで下りて来た時はビビった。離れてはいたが8m近い巨体はそれだけで圧倒的存在感を放つ。だってあのマーナガルムの二倍はでかいんだぞ。その上飛んでるから圧倒的に速い。現実で10mあるブルドーザーをアメリカで見たことがあるがあれが高速で突っ込んでくると考えるだけでもう怖い。こういうのは慣れる必要があるのだろうが、私はこう…100km/hで向かってくる十トンの物体の持つエネルギーが●●kgの私にぶつかったらどこまで飛んでいくのか?なんて考えてしまうたちで……ちなみに正解はペチャンコに潰れて肉片と化すので0m。
ここならステータスさえあれば(あるとは言ってない)そうはならないのだろうが、デカブツは苦手だなぁ。
そんなこんなで血の階段をのぼりながら進んでいる。寄り道をしながら。
「あっ!採掘ポイントミッケ!レア鉱石来い。レア鉱石来い。」
私は血を鉱石が埋まる岩肌の前まで持ってくるとリュースさんに貰ったピッケルを振りかざす。そのままガツンと言ういい音と共に飛び出した岩の欠片を血で回収した。それを後二回繰り返す。
「せめて私に索敵の確認をしてから採ってください。今のヒノは探知できてないんですから。」
「悪い悪い。おお!新しいのきた。もしかして…レア?」
「そういうのはリュースさんに聞いてください。ハイ上へ参りまーす。」
「いやー【採掘】のおかげでガッポガッポだね。リアのユニークホントサイコー!」
「便利だけど必須でないスキルですからね採集系。【採掘】と【採取】は登録しておきました。いずれ絶対に使いますから早めに取っといて損はないでしょう。」
【採掘】
鉱物の埋まった場所が分かり、レアドロップ率やドロップ個数、品質も上げる。
【採取】
植物の生えた場所が分かり、レアドロップ率やドロップ個数、品質も上げる。
この二つのスキルがなくても薬草も鉱石も手に入るが、まず見逃す。採集系統のスキルはドロップポイントが淡く光って見えるので分かりやすいのだ。というより索敵しながら目的のものも探すのは結構大変だ。それでも取る人は少ないはずだ。スキルがなくても採取はできるというのはなかなかに手を伸ばしづらい。序盤は特にスキルポイントが余ってないためその傾向を助長させている。リアさまさまだな。
魔石で恩恵を受けてる私はそこらで見つけてはカンカン掘っている。私の血を使えば断崖絶壁でも採掘できるので結構な量の鉱物が集まった。
「あとは目的のマナテイク鉱石だけど洞窟がない。」
「もう中腹は超えてるんですがねえ。運がないのでしょうか。」
「私は確率の良し悪しは気にするが運の良し悪しは気にしたことがない。という事で上に行くのみ!」
「ですねってヒノ!あれ!洞窟ですよ洞窟!」
リアの指さす先には洞窟と言うより大穴と言った方がしっくりくるほどの入り口がポッカリ空いていた。
「うわーデカ過ぎ。入り口だけで10m近くある。」
「近くに他の洞窟は見えませんね。」
「まぁとりあえずこの洞窟の中覗いてみようか。」
私たちは崖の途中にぽっかり空いた入り口の端から中を覗き込む。そこにはブルドーザーじゃなかったワイバーンが寝ていた。
「もしかして死の山脈にある洞窟ってワイバーンの巣のこと?」
「そうなんでしょうか…これはワイバーンが留守か使わなくなった洞窟を探す必要がありそうです。」
「待ってリア。あのワイバーンの後ろに洞窟が続いてる。」
「ホントですね。でも流石に寝ているとはいえあそこまで近づいたらバレますよ。」
「ふふ。リア、私は行きたいところに行くだけなの。とうせんぼする奴がいれば薙ぎ払うのみ。」
「いや薙ぎ払えないから困ってるんですよ。」
「ようやく私のユニークスキルの真価を問う時が来たようだ。」
「ええ~な、何する気ですか?」
「とりあえずそこで見てるときなさい。」
【天血万有】。【血流操作】が進化したユニークスキルは元のスキルにできたことに加え、血液の生産すらできるようになった。私は視界の端を見る。そこにはリアのHPの上に私のHP、MP、STMを表すバーが表示されている。その一番上のHP。それが本来の一割しか残っていなかった。【自傷】。私は自分のHPを一定に固定することで減らしたHP分の血を無限インベントリに貯蔵することができる。固定化するHPが低ければ低いほどたくさんの血が早く集まる。今私はHPの9割分の血を垂れ流しにしている。森を抜ける際もリアの腕の中でせっせと血を集めていた。前は【錬金】で魔物の血から集めていたが【自傷】はHPが減るだけでMPやSTMが消費される訳でも動作を阻害される訳でもない。やろうと思えば【自傷】しながら魔物狩りだってできる。さて集めた血をどうするかだが、私のユニークスキルは血を消費することで二つの能力を発動する。
触れたものを血に変える能力【血の還元】と触れたものをコピーする能力【血の創造】だ。
この二つの能力は自分の血を消費するのだが直接ではなく一旦BPなるものに変換してから能力を行使する。血1リットルで1BP。そしてここで言う血とは別に私の血である必要はない。魔物から出た血をそのままBPに変換することができる。なのでBPにするだけなら【錬金】で私の血にする必要が無くなった。
【血の還元】はBPと触れたものを引き換えに私の血を作り出す。また血を作っているように見えるがこの触れたものとはアイテムは勿論時間を掛ければ魔物ですら血に変えることができる。つまり攻撃として使える。使い方としては【暴食】と似ている。あれは触れた部分の耐久を消しこっちは耐久値を血に変えている。【暴食】との併用もできるので相乗効果がヤバい。ただし強い魔物やレアなアイテム程たくさんの血が手に入るがその分変換にかかる時間が増えBPも貰える血以上に消費する。それに触れ続けなければならないから私以外じゃあ魔物を血にするのは難しい。ホムンクルスの私以外ならね。私の血は体の一部。私は血で触れればいいので条件が軽くなっている。
そして【血の創造】。これが莫大なBPを消費する。この能力はBPを引き換えに触れたもののコピーを作り出す。このコピーというのが曲者だ。BPを消費するだけ本物に近づくようカスタマイズできる仕様。例えばリュースさんのところで買った剣。これをコピーする時カスタマイズできるのはATK値と重量と耐久値と付与効果と付与特性だ。いくらBPを支払うかによってこの5つのパラメータを増減や有無を変えられる。ただし剣の場合は重量を変えられないので一定ポイントを消費。ATK値と耐久値は基礎ポイントとして本物の一割分は支払わなければならない。コピーするものによってカスタマイズできるスペックも変わってくる。
またコピーを維持するのにもコストとしてBPがいる。コストを払えなかった時点でコピーは消滅する。普段使いできないのはここら辺が原因だ。一時的なものなのにBPの燃費が悪すぎる。剣作って投げるくらいなら本物投げた方がいいに決まってる。
ただ別に武器だけがコピーできるものじゃない。そしてこれも【血の還元】と同じでアイテムだけが対象じゃない。
私は寝ているワイバーンに向かって小さな血を飛ばす。流石にこれだけの小ささなら【隠形】が看破されない。そしてワイバーンの首に触れた。
「――我が触れし万物は、天より全て手中に有り。【血の創造】を。己が血を贄に生まれ出でよ【Wyvern】」
洞窟の外。私の目の前に流動する血の球体が現れる。それは内から吐き出される血と共に10m近く膨れ上がった。そこからの変化は劇的だった。漆黒の翼が開かれ私の魔剣ですら傷一つ付かないだろう鱗でその体が覆われる。そこにいたのは紛れもなくワイバーンだった。
私の目の前にARが表示された。そこにはワイバーンのステータスが表示され、それぞれの項目の隣にはカスタマイズできるようにシークバーがあった。今その全てが本物スペックだ。
「ワイバーン凄すぎ。このままじゃ1分しない内に私のBPは破産だ。という訳で。」
私はシークバーを軒並み一番下までさげる。所持スキルもそのほとんどを取っ払ってしまう。残ったスペックは本体と同じVITとAGIそして【竜の体】【飛行】だ。
「よし。これなら30分はもつ。というわけで…やっちゃってください。」
「ぎゃぎゃ……すぅうう…ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
私の命令を聞き隣にいるワイバーンが声を荒げる。それを聞いた洞窟内で寝ていたワイバーンが目を覚ます。
G Y a a A A A U U W W A A A A A A A A A A A A A A A A A A
私のワイバーンを見つけると目の敵のような勢いで飛び出した。
「時間稼ぎ頼んだ!」
そう言いながら私とリアは岩陰に隠れる。そして「ぎゃぎゃ」っという声を残して飛んで行ってしまった。
「あの子、凄く従順で可愛いんですが…囮なんて可哀想です。」
「まてまて。私だってあの巨体でコクコクうなづかれる姿にギャップ萌えしちゃったよ!でもコスト支払えなくなったら消えちゃうのに情が移っちゃまずいでしょ!」
私は誰に言ってるのかも分からない文句を口にした。
「あの子が来世で良いパートナーに巡り合いますように…」
「それは私がろくでなしって意味かああ!!」
小声で叫ぶ私を置いてリアは洞窟を進んだ。




