PKとログアウト可能エリア
始まりの国の大通りを行く。いつもより二倍は賑やかな光景に少しうんざりした。こうなってるのは全面的に私たちが原因だから何にも文句はない。それでも別にわざわざこの国に来る必要はないだろう。そう思いながら北の門へ向かう。死の山脈は国を出て北に進んでいたらぶつかる。少し方角がずれても大陸を横断する死の山脈には嫌でもたどり着いてしまう。北の門に近づくにつれて人もさらに多くなった。見えた門からは続々と国内へ人が入ってくる。確か始まりの国の北東に帝国があるんだっけか。GWのイベントのせいで帝国に人が集まってると葵が言ってたからその帝国から続々と流れ込んでいるのだろう。
門を抜けて森に入る。ある程度北門から離れ周りに人がいないことを確認してから私は血を取り出した。
「ユニークスキル便利だなーストレージも圧迫しないし。」
私は今までストレージにある血をショートカット登録して思考操作で取り出していた。【天血万有】は別枠の無限インベントリに血を確保できる。これで制限なく血を貯めて置けるようになった。取り出すのも体かすでに取り出した血からしか無理だった。今なら10m以内なら何もない場所からでも取り出せる。まそんなのはおまけもいい所だが…
「ユニークスキルは段階で進化するスキルです。今の私たちはフェーズワンの状態なのでやれることはまだまだ増えていきますよ。次の段階に上がるには新しく力を欲する必要とスキルに認められる必要がある…らしいです。」
「らしい?」
「まぁ知識として知ってるだけで実際どういった過程で次のフェーズに行くのかは分かりません。私に言えるのは最終的にフェーズファイブにまで成長することと自分の欲した形に成長することだけですね。」
「ふーん。新しく力を欲する必要とスキルに認められる必要ねぇ。まぁ今考える事じゃなさそうね。これからは予定通り森の上を飛ぶ。行くよ!」
「はい!」
私は500m程のレールを二本作り出す。うわっっ!?なんか操作しやすい。【天血万有】?【魔力操作】?はたまたステータスの影響か?どれのおかげかは分からないが思考と実際の血の動きにラグが少なくなっている。消費MPも明らかに少ない。あはは。ヤバい。これはテンション上がってきた。
私たちはサーフィンするように横乗りで滑り出した。木々を抜け森の上スレスレを飛んでいく。すごい!最高に気持ちいい!
地面じゃなく空中でもこれだけの速度を出せるようになったみたいだ。できることが増えるのは嬉しい。この感じを味うために生きてるんだ私は!
始まりの国周辺は飛んでる敵Mobがいない。流石に空に注意しながら森の中を歩くのは難易度が高すぎだ。そのおかげで私は本来のAGIではありえないほどのスピードで移動できている。私は通過したレールの回収と500m先のレールの追加を同時に行いながら滑走していく。そのまま魔石を一つ取り出し発動する。【魔力探知】。リアのユニークスキルに登録したこのスキルで私は周囲を確認した。
「ヒノのそれもずるいですよね。本来なら自分の周囲50m位の生き物の反応を察知するだけのはずなのにヒノの場合血も含まれてるなんて。」
リアの言う通りこれも結構インチキ臭い使い方だ。私の血は体の一部。今私は500mの血のレールの周囲50mを察知できている。つまり合わせて550mの範囲を察知している。
「リアのくれた種族のおかげね。とりあえずここら辺の敵はスルーして距離を稼ごうか。」
◇
私のMPが続く限りの飛行を続け、回復兼休憩がてらにクマの顔面に投擲していく。レベルが上がって簡単に倒せるようになった。一応レベルは同じくらいなんだけどなあ。飛び道具のせいで完全に狩る側と狩られる側とに線引きされてしまった。それはさておき休憩と飛行を繰り返してだいぶ先まで来た。来たはずなんだが全然山が見えてこない…地平線はどこを見ても森!森!森!!一直線に空飛んでるだけなので方向は間違えようもない。この世界どれだけ広大なの?一応途中で一カ所ログアウト可能エリアを見つけた。にもかかわらず肝心の山は全く見えてこない。
「これでも森の中で魔物倒しながら行く連中より数十倍は早く進んでるはずなのに。」
「まだ半日ですよ?始まりの国から帝国まで村を二つ経由しますが距離としては同じくらいですからね死の山脈。空を行くので夜も移動できますから明日には見えますよ……たぶん。」
「マジか。死の山脈に近づけば他の敵も現れるんでしょ?そいつら避けながらレール組むとまた時間喰いそうだ。
ん?索敵に人の反応がある。ちょっと止まるね。六人いるみたいだ。向こうも立ち止まってる。」
「セーフティエリアで休んでるんじゃないですか?」
「なるほどね。絡まれたくないから避けて行こう。」
そう思ってレールを動かそうとした。
「あれ動き出した。私たちのいる方とは逆に進んでるみたい。」
遠ざかっていく彼らは私たちに気づいてないみたいだな。そんなことを考えていた時だった。いきなり反応が一つ消えた。
「ん?一人死んだ?でも周りに敵の気配はない?」
「【隠形】したんじゃないですか?私の【魔力探知】のレベル高くないですし消えたように感じるかもしれません。」
そう思ってるうちに二人三人とどんどんと気配が消えていく。
「いや。どんどん消えていく。あっ全員の反応が無くなった。」
何が起こってる?全員が故意で気配を消したようには思えなかった。なぜなら最後の二人はこっちに向かって走りながら消えていったから。まるで何かから逃げるようにして…
ん?気配が全員消えたはずなのにまだ誰かがいる感じが消えない。でもどこにいるのかは分からない。さっきまでは気付かなかったが消えた六人の気配に混じっていたようだ。
「リア。もしかしたらまだ人が潜んでるかもしれない。」
「人?それってもしかして。」
「ええ。六人が死んだとしたら…PKかも。」
PK。プレイヤーキラーは人を殺すことでお金や経験値を得ようとするプレイヤーの総称だ。この世界ではプレイヤーに殺されれば武器や装備、アイテムは奪われないが所持金が奪われる。PKはカーソルが緑から赤になる。街には入れるが街中じゃあPK側にのみダメージが入るので見つかれば一方的に袋叩きにされる。PKのほとんどが待ち伏せ不意打ちをしてくるわけだが…
「ログアウト可能エリア付近で待ち伏せか。まあ他のプレイヤーは気が緩むし、自分たちもログアウトできる。確かにPK向きな場所ね。」
「どうします?おそらく【隠形】で隠れてます。人数も場所も分からないのは危険です。大回りしますか?」
「…私たちは気付かれてない。リアの持ってた魔石を使えば…うん。行ける。ノーリスクで狩れるのにその機会を逃すなんてとんでもない。フフフフ。リアのユニークスキル大活躍だね。フフフフ。」
「うわー。」
リアが引いてるのを無視して私は思いついた作戦を話し出した。
◇
「さて行くよ。準備はいい?」
「いつでも大丈夫ですよ。」
その言葉を聞きながら【魔力探知】の魔石に魔力を通す。私はあらかじめバラ撒いた血から気配を読んだ。それと同じくしてリアが別の魔石【共感】を使う。これは文字通りパーティメンバーの感じることを共有するスキルだ。サモナーやテイマーが持ってることが多いらしい。まあ意思相通が難しいからねあの辺りは。今回は私の感じている範囲をリアと共有させる。つまりリアの認識範囲が私と同じになった。
「――【金の書】は【隠形】を開け。【銀の書】は【隠形】を閉じよ。」
その二冊は世界の法則を書き換える。
リアを言葉で白と黒の本はパラパラと勝手にページがめくれていき目的のページで動きを止めた。
するとさっきまで気配を微かにしか感じ取れなかったのが嘘のように、10人の存在が私の頭に浮かび上がった。
【金の書】がスキルの許可。【銀の書】がスキルの禁止。
【共感】によって広げられた空間で【隠形】というスキルは世界から抹消された。
「リアも【共感】で10人の位置確認できたね?じゃあ私が右の奴からでリアが左の奴から順に倒していくという事で。」
「了解!」
私は最初の目標に目を付ける。木の影にいる軽戦士風の男。慌ててしゃがみこんでる様子に私は苦笑した。普通なら血をバラ撒いた時点で感知系のスキルに引っかかる。私は手元の魔石に目を向けた。【隠形】。自分を世界に隠し、察知をされづらくするスキル。PKが使うのも納得の有能スキルだ。
これのおかげで血や私たちは感知されなかった。そして今リアが【隠形】の行使を禁止しために私のスキルが強制解除された。一見これは不利益に見えるがそうではない。いきなり血の【隠形】が解かれれば、向こう側からしたら突然無数の気配が周りから現れたように感じるだろう。これで感知系や探知系スキルは無力化した。私の位置がバレることはまずない。
それに敵の動きも予想通りだった。異変が起こっても軽戦士同様他九人はその場を動かない。【隠形】で待ち伏せする人間だ、まず自分が隠れるのを優先する。ふふ。【隠形】が使えなくなってるとも知らないで。
さてこの場で唯一【隠形】の使えるリアさんが全員をアサシンキルして回ってもいいのだが。折角敵の近くに血が配置されてるのだ。私も片手間に倒そう。
◇
「一応ちゃんとPKではあってたようだ。私のカーソル緑のままだし。」
PKかいちいち確認するのは無理だったからね。私からじゃ敵のカーソル見えないし。リアにはカーソルが緑でも殺すよう指示しといた。まぁ流石にこんな森の奥で【隠形】してたら言い訳のしようもないでしょ。
「こっちも片付きました。この人たち結構お金持ってましたよ。」
「うげー凄い額だね。PKって儲かるんだ。決闘での稼ぎの数倍じゃん。」
「だからってPKに乗り換えらないでくださいよ?」
「うーん。PKで殺した端からPKに加担しないリアにお金渡したら最高に効率がいい気がするがするんだけどなあ。殺されてもお金取られる心配がないとかシステムメタな気も。」
「そんなに殺したらカーソル緑に戻れませんよ。」
「そりゃ困るね。いや最初からやる気ないよ。私の目的はグランドフィナーレ。PKで稼ぐのは都合が悪い。」
「私たちの目的でしょ!私を除け者にしないでください。」
「ごめんて~そんなつもりないからさあ~」
謝りながらリアに抱き着く。
「本当ですか?」
「リアに疑われるのは寂しいなあ~」
リアの胸に顔をうずめながら言った。
「えっっ!?いやそこまで疑ってた訳じゃ…」
焦るリア可愛いなあ。そしてチョロい。チョロカワイイ。
私は隠してた顔を上げる。イタズラを成功させてニヤつく私を見たリアが顔を真っ赤にした。
リアの機嫌を直してから私たちは再出発した。




