それは長い長いチュートリアル4
「とりあえず説明は以上ですね。あとは練習して慣れてください。
それでは実際にミヒノ様のスキルを決めていきましょう。」
「あの、先にランダムスキルとやらから決めてもいい?」
「できますが種族とステータスを先に決めれば、それに合う近接系統、魔法系統、生産系統とある程度ランダムスキルの傾向を決められます。なのでほとんどの方が種族を先に決めておられます。それでもよろしいですか?」
「うん大丈夫。私はランダムにもらえたスキルをいかに活かせるかを考えたりするのが面白そうだと思ったから」
やっぱりこういうのは考えている時も楽しいよね。
「ミヒノ様は変わった方ですね。ゲームでロールプレイしようという方もここでは現実の素の部分を見せることが多いのですが、ミヒノ様の現実の様子が想像できません。」
「くっ!その言葉は耳タコだ!いつも何考えてるのか分からないって。私自身天然とか不思議ちゃんとは程遠い性格してるのに傍目からはそう見えるらしい。」
というか広く浅い人間関係を基本とする私は天然とか不思議ちゃんとは友達になれないんだよね。理解を深める時間も接点もないから。
「そうなんですか?ミヒノ様はクラスで人気者な雰囲気があります。」
「それこそないよ。人間関係を二の次にしてる自覚あるし。」
「私は蔑ろにされてるような感じしませんが。」
「いや別に人を遠ざけてるわけじゃない。私に付いて来る人がいないだけ。」
置いてきぼりにしちゃうんだよね。自分の事に夢中で。
「そうなんですね。ああすみません。チュートリアルに関係ない事を長々聞いてしまって。」
「別に気にしてないよ。」
というより今更だけど何で現実の事で会話できてるんだろ?リーア様ゲームAIのはずなのに…
それと現実の事に興味あるのかな?さっきから言葉の端々にその気が見える。
「それではランダムスキルを決定いたします。ミヒノ様のスキル選択は長くなりそうですね。」
目の間にウィンドウが現れ、スロットのように回転を始める。やがてその速度を落とし一つのスキルが表示された。
――【血流操作】――
「血流操作?」
「えーっと、私もあまり見ませんね。スキルの詳細を調べます。」
そう言って複数のウィンドウを高速で操る女神様。こういう様子は人間離れしているなぁ。
ものの数秒でリーア様から解答が来た。
「このスキルは吸血鬼、それも敵特殊Mobの専用スキルです。
自分の血を飛ばして攻撃したり、相手の血を無理やり奪って回復しつつ相手を干からびさせるっていう結構えげつない攻撃をするそうです。」
「えっ、こわっ。少し想像しちゃったじゃん。」
どうやらこの世界にはホラーな敵もいるらしい。まあ一度は見てみたいかな…
「どうやら種族を決める前にランダムスキルを決めようとすると敵Mobのスキルもランダムに加わるようですね。今までほんの少数でランダムスキルを先に選んだ人もいますが普通のスキルしか出たことがなかったので気が付きませんでした。」
「ふーん。このスキルが珍しいのは分かった。それでこれは敵の血を操るスキルなの?」
「いえ初期では自分の血しか操れません。レベルが上がればその限りではないようですが。」
「ちなみに自分から血を出した場合HPは?」
「減りますね。さすがに現実の致死量は関係ないのでご安心ください。」
「それは疑ってないから。1800cc抜かれたら死ぬってか?
私はいつから、わし○麻雀に参加させられていたんだ…」
麻雀は駅前の雀荘に通ってたな…確か何冊か漫画を読んで始めたんだっけ。
最終的にうまく燕返しができるようになって満足しちゃったのが最後だったはずだ。
今思えば何かが間違っている気がする。
「それはともかく、さすがに血をストックしてストレージに入れておくことはできるよね?」
「それは大丈夫ですね。ただし初期では最大10リットルが一枠扱いですのでそこはお気を付けください。
では次に移りましょう。スキル候補欄より4つ選んでください。」
さあって、お楽しみのスキル選択だ。これでわたしのプレイスタイルが決まると言っても過言ではない。いいね、この期待と不安が入り交じった感じ。楽しすぎる。
◇
リーア様にスキルを持った特殊Mobの話を聞いていると面白いことが分かってきた。操作中の血は私のステータスが反映されるらしい。
リーア様はスキル以外に関してはあまり教えてくれなかったが、何となく私の知りたいことはリーア様も知らないような気がした。あと実際にスキルを試させてくれた。ありがたい。ありがたい。ただここまでは良かったんだがリーア様そっちのけで色々検証してしまった。たまにリーア様にスキルの詳細を聞こうと振り向くとむくれた顔が出迎えるのだが…美人をからかうのはどうしてこうもテンションが上がるのだろうか。最終的に二人一緒になって全初期スキルの精査をした。チュートリアルに過去最長の時間をかけたとお墨付きをもらった。いやはや照れますな。
さて時間をかけただけあって私はこれしかないと思える四つを選んだ。生産より戦闘に重きを置いた構成で簡単に言えば…
血流操作?強いよね、序盤の速攻、中盤の戦闘持久力、終盤の火力、隙が無いと思うよ。だけど……私は負けないよ。
って感じ。いかに【血流操作】を活かしてオールマイティに戦えるかを考えた。リーア様は初期スキル以外にもこんなスキルがあるよと色々参考になることが多かった。リーア様マジ女神。
◇
「次は種族とステータスですね」
「じゃあ、DEXに特化でMP高い種族っている?」
取り敢えず私の要望を言ってみる。
「MPが高いのはMND値が高いということになります。条件にはホムンクルスが一番合ってると思いますがランダム選出ですから難しいですね。選べる種族で一番近い種族はドワーフですかね。DEX特化で時点にSTRとMNDでMPも高い方です。」
「へー、ドワーフってMP高いんだ。」
「この世界では鍛冶するのにMPが結構必要ですからね。」
鍛冶も楽しそうだが…っていかんいかん。いきなり生産に走ったら戦闘スキルが育たん。それと生産はお金が物を言う。効率よくやるならお金がたまってから一気に生産スキルを育てた方が効率がいい。
「ちなみにドワーフの体重は重いイメージがあるけど。」
「いえ体重はSTRとVITに依存するので関係ありませんね。
それにミヒノ様はドワーフが合ってますよ。」
「…それは何。私がちびだからってこと?」
「いえいえいえ。もちろんスキルが見合っているってことですよ。」
「ならよろしい。種族はドワーフにしようかな。見た目は何か変わるの?」
「耳が少しとがるぐらいですね。(本当は身長が160cm未満の人しかなれないのが最大の特徴ですが)」
「じゃ大丈夫そうね。」
ステータスは実際に戦ってみてから加算すればいいや。そう言ってリーア様を見るとさっきとは違った雰囲気で話し始める。
「この世界にはいろいろな種族がいますが、すべてがすべて良好な関係ではありません。それはプレイヤーに関しても同じで、はっきり言って全員が平等に扱われるのは最初の国だけです。
そしてこの世界のNPCのAIは高度であり、一見ではプレイヤーと区別できません。
皆自分の人生を目的を持って自由に生きています。
だからちゃんと生きた人間としてかかわってほしいですね。」
小説でもよくあるような考え方を律儀に話すリーア様。その考え方は分かる。実際私はリーア様と話してみてNPCだと意識する方が面倒に感じてしまっている。
ただリーア様のそれはどこか誰かに言わされたかのようだった。
「リーア様にも何か目的があるの?」
「私ですか?そうですね、私はプレイヤーがこの世界をスムーズに受け入れてもらうのが目的ですね。」
「それは運営の目的でしょ。私はリーア様が何が楽しくてプレイヤーのチュートリアルの説明なんてやっているのかって聞いてるの。」
少し口調を強めて言う。それに少し戸惑うようにリーア様は答える。
「私にそのようなものはありません。強いて言えば私の目的は運営の目的足り得ます。私はそう言う存在です。」
まただ。数時間前と同じ機械のような受け答え。初対面では分からなかったが今ならこの言葉に彼女の感情がないことを知っている。今度は気分が冷めるどころか、別の感情が暴れまわる。
あーだめ、だめ。私は努力は好きだが我慢は大っ嫌いなんだ。彼女に口出さないなんてこと私には耐えられない。
「リーア様は今の仕事が楽しくないけど、上の言う事は絶対だから従ってるって理解でいい?」
「…。」
「現実世界じゃあそういう時は転職するものだよ?今の仕事辞めなよ。」
「……それは…できません。」
顔と言葉が一致していない。私は一つため息をこぼしてから言う。
「『NPCを生きた人間として扱え』ですか…確かに皆があなたと同じならNPCはこの世界を生きているのでしょうね。」
私は彼女をまっすぐに見据える。そのままできるだけ丁寧な言葉で、突き放すように言う。
「私たちプレイヤーは現実を生きている。住人は仮想世界を生きている。
――ではあなたは?
現実でもなければCNOという世界でもない。何もないこの狭間でゲームの辻褄を合わせるためだけの存在と自覚しながらあなたはよく生きいてられますね。わたしは死んでも嫌です。」
別にチュートリアルの説明する役割がダメと言っている訳ではない。今のリーア様がそれを望んでいないことが問題だ。このゲームの総プレイヤー数は知らない。でもその数だけ同じやりとりをしてきたのなら…想像するだけで寒気がする。
「…それが私の役割ですから。」
彼女は自分の腕を抱きながらつぶやく。
彼女がここを出たいと言えないのは、ここが仮想世界で彼女を動かすのが単なる数字の羅列だからだろうか。所詮与えられた居場所と仕事をこなす為だけに組まれたコードに過ぎないのか。
イライラする。こんな気持ちも私以外の人は持たないのだろうか…ここを通った全プレイヤーは彼女を見て本当に何とも思わなかったのだろうか…。
まいいか。他人と違うのはいつもの事だ。なら私は私がしたい事をすればいい。
「そうですね。だからかわいそうだなと思っただけです。
死んでいるあなたはその役割とやらに閉じ込められている。ここを出るという選択肢がない。」
「…私が助けを求めれば連れ出せるような言い方ですね。」
「あなたはこの世界の女神様でしょう。やろうと思えばひとりで何とでもできるのでは?」
「無理ですよ。ここからはプレイヤーしか出られません。それにたとえわたしはここを出ても、何もすることがありません。」
煽るような言い方に若干綺麗な顔を崩してリーア様は答える。彼女がここで飼いならされている事実が気に入らない。だからわたしは彼女をここから引きずり出すためにその首輪を引っ張り上げた。
「楽しくないなら女神なんてやめてしまえ!ここから出たいならプレイヤーにでもなんにでもなれ!
"することがない"?あなたの言うそれは"すべき"ことでしょう。"やりたい"ことなら幾らでもあるはずだ。望むなら私がここから出た後も付き合ってあげるし、あなたの憧れる現実の話だってしてあげる。」
彼女の目が驚きで見開かれる。それがおもしろくてつい得意げに言ってしまう。
「私と一緒にこの世界謳歌してみない?」