リアの報酬とヒノの報酬
「あれ?灯じゃん。今帰り?」
「葵。ご無沙汰ね。春休みぶり?」
GW明け。下校中に聞き慣れた声がかかる。麒麟 葵。中学が同じで家が近かったことで登下校を三年間共にした幼馴染だ。高校は私の独断専行で別々になってしまったが今も付き合いのある数少ない友人。そしてクールビューティーで外ズラも完璧だが根っからのゲーマー。お互い趣味に走って付き合いが学校に絞られていたから仲良くなれたと個人的に思ってる。
「GWも部屋こもりっぱなしだから運動しないとまずいなあ。灯はどっか行ったの?今年はGW長かったし。」
「いんや。私もあんまし家から出なかったな。でても近場でローラースケートしてた。あと台湾へ日帰り旅行に行ったくらいかな。」
本当は中国に香肉(狼肉)があるのを知ってたので食べにいった。マーナガルムと戦ってて一回本気でキレて狼を喰ってやると気が付けば台湾にいた。ただ台湾だけ法律で禁止されてたという罠。不覚。ワンタンおいしかったし、まあいいか。
「普通の高校生は日帰りで海外旅行はしないけどね。灯に言ってもしょうがないか。ローラースケートもできる場所が近場にあったんだね。初めて知ったよ。今はそれにハマってるの?」
「のんのん。それは息抜き。本命のゲームに根詰め過ぎちゃ良くないと思って。」
「えっっ!?灯今ゲームハマってるの?なになに、言ってくれれば付き合ってあげるのに。いやでも私今CNOばかりやってるから…いやいや、灯の付き合いの悪さを考慮すれば一緒に遊ぶ機会なんて今後十年ないのでは?」
滅茶苦茶なこと言われてるな。事実なので文句は言わんが…
ローラースケートは妥協案だ。CNOの血の滑走を練習したかった。できればスノボーがしたかったが季節違いで断念。次点のアイススケートも以下同文。最近までハマってたスケボーも案の一つだった。ただあれは滑るだけなら似た感覚なのだが速度を付けるのに地面を蹴るのが合わない。ということでローラースケートを選んだ。加速する際の足使いと片足でバランスをとる感じが似ていて結構練習になった。
「大丈夫、大丈夫。私がやってるのもCNOだし。」
「え、ええっっっっ!?いつからやってるの?」
「ん?二週間経ってないかな。それぐらい。」
「灯、話してもやらないからすっかり興味ないのかと思ってた。なら向こうで会おうよ。今GWのイベントで武道大会が帝国であってね。ちょうど私も和も始まりの国の隣まで帰ってきてるし。」
「んー今やること一杯で手が離せないし。レベルも追いついてからでいいな。ホーム持ってるんでしょ?場所だけ教えてよ。」
「レベルって…私これでも古参よ?種族レベルだって200近いのに。」
「いづれ追いつくから大丈夫、大丈夫。」
「いや、一年差あって追いつかれたらこっちの面目ってやつがね…まぁ分かったから何かあれば言うのよ?ちゃんと先人の師として教えてあげる。」
「はいはい。でもGWのイベントなんてあったんだね。他の国の事はさっぱりでさぁ。」
「いやいや。メニューのお知らせに載ってるはずよ。掲示板なんかも役立つから見るの推奨!ただ私はクランに所属してるから情報に困ったことは少ないけど。
イベントと言えばGW最終日にナショナルクエストがクリアされたの!知ってるナショナルクエスト?誰もクリアしたことがない前人未到の試練なんだけど。武道大会の表彰式でワールドアナウンスがきて会場がパニックになったよ!」
「へ、へー。」
「その後色んなアップデートがいきなり開始して大慌て。所属国やらユニークスキルやらで皆大混乱しちゃって表彰式どころの話じゃなくなっちゃった。」
「マジか。」
「始まりの国のクエストでね。ていうか灯はそこにいたんでしょ?始まりの国はどうだったの?」
「あー私はちょうど国の中にはいなかったなー(地下にはいたけど)」
「そっか。クリアした人は掲示板でも分かってないようなの。それで私のクランメンバーも始まりの国寄ろうか話しててね。灯がいるならやっぱり私も行こうかしら?」
「いいから、いいから。私的に序盤の介護みたいのは効率よくても楽しくないからさ。会うのはまたにしよ?ね?」
「分かったわ。もう頑固なんだから。おっと私はこっち。またね。」
「ありがと。夜連絡するから、じゃあねー。」
葵の姿が見えなくなるとたまらず一息出てしまった。ワールドアナウンスって全プレイヤーにアナウンスって意味だったか。普段クールの葵があれだけテンション上がってるんだからCNO内はそれ以上と考えていいな。もしかしたらクエストクリアした私たちを血眼で探してるのかも…そんな煩わしい奴ら絶対に関わりたくない!でもでも来週のCNO内全国会談の時に結局バレちゃうんだよね。あれから結局、ナショナルクエストクリア者として私たちが始まりの国の代表になることになった。もう別の国に逃げようか…でもまだバレることはないはず。動画もその内上げるかもだし。会談までに対策考えとこう。
その時私のポッケでスマホが震えた。見ると新着メールが届いていた。
『From:リア 《始まりの国が大変です!》
私たちがナショナルクエストクリアしたせいで始まりの国にたくさんのプレイヤーが押しかけてきてます。
ソフィアに会いに行った時に気付きました。国中大騒ぎです。
そろそろ下校時間のはずなのでメールしました。ホームで待ってますね。
P.S.ヒノの制服姿が見たいです!写メ撮って送ってください!』
またタイムリーなメールが来たな。それとちゃんとソフィアの所には行けたみたい。結局ナショナルクエストは始まりの国の代表が生まれるのがクリア条件だったみたいでソフィアに伝えるのは関係なかったようだ。別にあの場で正体明かしても問題はなかった訳だ。ただすでにリアの正体がソフィアにバレているらしい。だから早めに謝ってくるとのこと。リアは自分に気付いた人だけ正体を明かす方針らしい。
まあそんなことはどうでもいい。
フフフフフフ。リアからメール。まさかこんなに早く私の望みが叶うなんて。いや望んだ未来に近づいたが正しいな。NPCがスマホにメールなんてありえない。プレイヤーですら他のプレイヤーにメールなんて送れやしない。できてCNO内のフレンドメッセージまでだ。だからリアがこうしてメールしてるのは完全にイレギュラーだ。
そのあり得ないが実現しているのはナショナルクエストの報酬――ローゼ様が叶えてくれる”お願い”とやらのおかげだ。〈 c 〉からの情報が報酬かと思いきや違うとのこと。”お願い”としてローゼ様に作ってもらったのがWorld Cubic Gardenでの私のアカウントへアクセスできる端末だ。仮想世界に作られたインターネットであるWCG。リアはそのWCGを経由してスマホにメールしている。制限もある。私のアーバティオン(VRハード)と私のWCGアカウントを繋ぐものだから私以外とは通信が一切できない。そして電話する機能もあるのだが、まだ使えない。ゲーム世界と現実の時間速度が違うせいだ。二倍速で話したり、1/2倍速で聞いたりすればいいという事でもないらしい。ローゼ様が言うには電話を使う場所を他の女神に作らせろとのこと。具体的にはフィールドの管理者に頼んでルティアス城の一部を現実世界と等速空間にすればいいとアドバイスされた。というわけで私たちの今後の目標に”フィールドの女神が管理する国のナショナルクエストをクリアする”が加えられた。グランドフィナーレの過程で丁度いい。リアを私のものにするには必要なことだ。
そうこうしているうちに帰宅。やること終えてCNOにログインした。
目を開けるとだだっ広い大広間と豪華な王座が目に入った。
「リアはこの城が自分の家だったんだよね。ここは落ち着くのか?」
私がリアの感性を疑っていると私の背の三倍はある両手扉からリアが入ってきた。
「ヒノ!なんで返信くれないんですか!」
蒼白の髪をたなびかせながら入ってきた美少女は腕を組みながらぷりぷりと怒っている。
「あーごめんごめん。メールは見たけどもう家についちゃってたからね。家事してたし後回しにしちゃった。」
「…分かりました。写真はまたの機会でいいです。」
メールねぇ。私はメールは読むのは良いが送るのが面倒ということで基本使わないのだ。使う習慣がないというかメールは読みっぱなしでチャットも既読スルーが当たり前。なので私に返信を求めてくる人は電話が常識となっている。なんか私専用マニュアルとか作った方がいいかな?誰か作ってくれないかな?
ただリアは今メールしかできないし返信はする努力をしよう。
「ヒノもソフィアに会いませんか?ソフィアも会いたがってましたよ。」
「私は良いよめんどいし。」
私の中でソフィアさん腹黒認定してるんだよなぁ。第一印象が黒い笑顔だったしリアの恩人ではあるけど正直もう関わりたくない。
「はぁ…本当に人付き合いが悪いんですから。まぁヒノが会いたくないんでしたらそれでいいです。さて今日からどうしますか?ヒノはクエストが出てるんですよね?」
「ああ。種族クエスト?が出てる。」
「ホムンクルスの?あれ?ローゼ様からの報酬、ヒノの方はホムンクルスの体の改造でしたよね?しかも改造済みとか言ってませんでしたか?」
リアはそう言って私の左手を見る。私の左手の甲には緻密な魔法陣が刻み付けられている。変化はそれだけだが改造は左腕全体という事になっている。
なんで私にも報酬?て思ったが端末はあくまでリアの報酬だからとのこと。本当にナショナルクエストは太っ腹だ。別に欲しいものも他になかったので自分の体の改造に必要な素材を求めた。素材の詳細はローゼ様に任せたんだが、報酬だからちゃんと私の望みを言えと言い返されてしまった。なんでもナショナルクエストの報酬を私以外が選ぶことが問題になってしまうらしい。でも私からしたら自分の都合のいいアイテムなんてつまらないし真っ平ごめんと思っていた。そこで平行線となってしまったのだが…最終的にローゼ様の妥協案と言うか先延ばし案に私が同意した。もらったのが[ファウストの左手]というもの。なんでも悪魔を召喚契約できるとか。召喚する悪魔も生贄次第で変わってくるという。妥協点と言うのはここ。ローゼ様は「ミヒノ様の希望にある程度沿ったものが召喚されるのだからミヒノ様の望みとも言えるのでは?」とのこと。理解不能な言い分だったが口には出さなかった。いやはや面倒な性格でごめんなさいね?
その後。ローゼ様がついでだからと色々すっ飛ばして私の左手とアイテムを融合してしまった。
[ファウストの左手]
錬金術師を極めた者の左手。刻まれた魔術刻印には悪魔メフィストフェレスが宿っていたという。【契約召喚】で召喚される種族が必ず悪魔に属するものとなる。
付与効果:【契約召喚】【DEX成長率上昇】【INT成長率上昇】
付与効果にある【契約召喚】は私がいつでも使えるスキルでセットスキルとは別枠だ。これがホムンクルスの強みなのだろう。リアが言うにはホムンクルスの初期ステータスは特化してはいるが総合的には他の種族以下らしい。体を改造することでステータスも上がるという。つまり何が言いたいかというとホムンクルスはポテンシャルはあるが序盤で詰みやすい。普通DEX、MP特化じゃ何もできないからね。一応リアのお勧めのはずなんだけどなあ。ちゃんと強くなってきてるし、まいっか。
「ホムンクルスのクエストだけど左手とは別件。あの狼からドロップした素材でも私の体を改造できるみたい。」
「なるほど。じゃあその改造をするのが今日の目的?それともその左手の宿主探し?」
「あー先に改造したいんだけど錬金ギルドに行けばいいのかしら?」
「それは私にも分かりません。ただホムンクルスという言えば錬金ですので手がかりはそれくらいですね。」
「ふーん。ところで【契約召喚】のスキルって本来どういうものなの?」
私は元スキルの女神様に質問してみる。お願い頼りのリーア様!
「【契約召喚】は【召喚魔法】と【従魔術】に似ていますが完全い住み分けが違ったスキルですね。【契約召喚】の対象は一体だけですが、他二つは複数体従属させ戦わせることもできます。その代わりに従属させる魔物の強さは一番強いですね。召喚する際の条件も違います。【召喚魔法】は一定時間しか顕現できませんし、再召喚までクールタイムも存在します。【従魔術】に時間的制限は存在しません。肝心の【契約召喚】は好きな時に顕現でき、帰還中はHP,MP,状態異常が回復します。後は捕まえ方でしょうか。【召喚魔法】は自分で倒した魔物からドロップした魔石が必要で、その魔石の種族が召喚されます。【従魔術】は戦っている時に絆を結ぶ必要で、その敵がそのまま従属します。【契約召喚】は生贄として瀕死の敵をスキルで取り込む必要があり、召喚も生贄によって変わってきます。生贄は複数必要で同じ敵である必要はありません。ただ希望する魔物を召喚するために同じ敵を倒すのはやり方としてありですね。ちなみにヒノは悪魔しか召喚できないようですが普通はそっちの方がレアケースです。あとこれは三つのスキル全部に言えることですがスキルレベル以下の魔物は従属しません。ヒノの場合はあくまで左手の付与効果ですので種族レベル以下となりますね。」
「ほへー。」
久しぶりのリアの饒舌。スキルの事となるとやはり口が止まらないらしい。
「ちなみにヒノは生贄を何にするつもりですか?」
「んー全く決めてないんだよね。こうびびっと来た奴にするつもり。」
「生贄は敵を瀕死でなおかつスキルを使うのに拘束する必要もあるので慎重に選んでくださいね。敵によっては100匹とか必要ですから。」
「うげ。マジか。数揃えられるかも考えないとね。よし!話はこれくらいにして、とりあえず錬金ギルドに行こう!」
◇
で、ギルドまで来たは良いが…
「【錬金】のレベルが足りないとは…」
「【錬金】だけでもないようですね。私が知らないので直接スキルに関係してはいないはずなんですが…職業に関係しているのでしょうか?」
「なんか私が自分でやるようなものじゃない気がする。リアはリュースさんみたいな伝手ない?」
「あー言われてみればその手の知識に聡い人ならいました。」
「モーいるなら早くいってよ。どんな人なの?」
「職業が【研究医】で【錬金】スキルも取っていたはずです。あまり気は進まないですが行ってみましょうか。」
「リアが会いたくないって相当な気がするんですが…」
まあ会わないという選択肢はないのでリアについていくといきなり人一人通れるか分からない路地に入っていってしまった。あれ?この展開見たことあるぞ?




