最終決戦!暴食のマーナガルム戦3
「リアは私守るのを集中。敵を私に近づけないで。」
「分かりました。ヒノは敵の偵察をお願いします。あとヒノの周りに血のラインを引いてもらえると助かります。」
私は中庭全体に張り巡らせた血を一旦すべて回収する。血で血を回収するのは少しコツがいる。お風呂の栓から水を抜くイメージ。一カ所を起点にして渦巻くように収納していく。しかし慌てたせいで結構な量を取りこぼした。
それにかまうことなく再びストレージから手元に血を取り出す。そして私を中心にするように同心円状にレールを配置する。余った血は全て空中に待機させた。
作業しつつ大狼を確認する。五匹になった大狼はそれぞれの体の形が安定するのを待っているかのように待機している。その時何か違和感を覚えた。何かが足りない気がする。だがそれを気付くより先に五匹が動き出した。まっすぐこちらに向かうのは三匹だけだ。二匹は左右に回り込むように移動してる。
咄嗟に三匹の方に向かって大量の剣を投げる。空中の血から投げたおかげで角度がつき半分が大狼の前方に突き刺さる。金属が地面を削る轟音が響きもう半分の武器が三匹の大狼に襲い掛かった。物量攻撃で三匹の走る勢いが弱まる。
ここでようやく先ほどの違和感の正体に気が付いた。三匹の大狼に黄色いカーソルはあってもHPゲージがなかった。まだ離れた所にいる二匹にも同じくない。そのことを頭の隅に置きつつ続けて第二波を準備する。
近づいてくる大狼三匹はほぼ横一列だった。私はその進行先に集中する。ギリギリまで引きつけて通り道を塞ぐように血の槍を斜めに設置した。三匹のうち二匹がそこに突っ込む。最後の一匹は直前に急停止した。そのタイミングを逃さず再度上から初期武器の雨を降らせる。さっきよりも多くの武器が大狼達に命中する。前の攻撃よりハズレが少なかったせいか先ほどより鈍い音が広がる。音が鳴りやんだ後には剣や槍が突き刺さったまま硬直した大狼三匹の姿があった。そのまま黒い水晶のように体全体が硬質になったと思うとすぐに霧散してしまった。
「消えましたか?」
「恐らく。個別にHPが存在してくらったダメージ量がそれを上回ると消滅っていうのが有力だね。」
「他に何かありますか?」
「一度の攻撃で規定のダメージ量を超える必要があるとか?攻撃回数の可能性もあるね。」
「そんなことよく思いつきますね。私は計算が得意でもそう言うのは苦手です。」
「リアのそれは得意とかいうレベルの計算速度じゃないけどね。」
「ヒノはやり慣れてるというか、ゲームが得意そうです。」
リアはそう言いつつ片側の黒い大狼に注意を向けている。私はもう片方の方に目線を向けつつMPポーションを取り出す。
「ゲームもそれなりにやってるからね。傾向とか一度覚えれば他のゲームでもその知識は活きるんだよ。」
「ヒノはそういうのを考えながら遊んでそうですね。勉強みたいで大半のプレイヤーは忌避しそうな遊び方です。」
「そんなことないから!こういう遊び方する人は多いはずだから!
というか関係ないおしゃべりは終了。
まだ二匹残ってる。それにHPゲージがなかったからおそらく本体にダメージが入ってない。」
「二匹のどっちかというより全部倒さないと本体が出てこないのでしょうか?」
「まぁこの二匹倒すしか私たちにできることはない。」
「それもそうですね。HPゲージが現れたら例の攻撃始めますか?」
「三本目と同じ耐久力ならそうするね。ギリギリ足りると思うし、流石にワンコの後続やおかわりは勘弁してくれ。ということでリアも今のうちに腕輪変えといてね。」
「分かりました。」
そこまで話したところで二匹の黒い大狼は私たちを挟んで一直線上に並んだ。そしてこちら向かって走り出す。
「私が速攻で倒すからリアは安全重視でお願いね。」
「分かりました。でも別に倒してしまってもいいですよね。」
「それ死亡フラグだから!」
リアにツッコミを入れながら私は水平に初期武器を投げる。だがまだ距離があったため途中の水晶に阻まれたり大狼自身も回避したりとほとんど当たらなかった。
そして水晶の上を立体的に跳び回りながらこちらへ向かってくる。私が一人で相手をするとこうやって逃げられるのがキツイ。リアがいれば地面に張り付かせられるのだが。今ばかりはしょうがない。
それでも私は何度も一対一で戦ってきた。慣れた動きで水晶の上に罠を張り、そこに追い込むように武器を投擲する。思惑通りに黒い大狼をその場に嵌めると一気に串刺しにした。大狼は先ほどと同じように黒い結晶に変化している。
「ヒノ!」
後ろからの声に振り返る。そこにはバックステップと剣撃の反動で水晶の間を凄い速さですり抜けながら遠ざかっていくリアがいた。そしてちょうど真後ろに私のレールがあることに気付きリアが何を要求しているのか反射的に理解する。
「時計回り!」
リアの声に合わせて血を動かす。滑るように流れていくリアを追随するように大狼が跳ねる。互いの速さはこれで均衡。張り付くように移動しつつ剣を振るうリアは目で追うのがやっとだ。STMに気を付ける様に攻撃しているはずだが、それでも私の目には紫電の光が届くのみでそこに剣先はなかった。私はリアの動きにだけ注意して時折行うレールの乗り換えに集中する。
青白い結晶の間を白と黒がすり抜ける。
薄暗い中庭で光と白い妖精が躍るように動き回る光景は私を魅了した。
リアへのサポートを頭の片隅で考えながら酔ったようにリアの剣舞を見つめていた。一分も経ってないはずだが大狼の体力が限界に達したのだろう。同じように霧散していく。
「ヒノ。何か変化はありましたか?」
リアの声で我に返り、周りを見渡す。
一瞬遅れて中庭に異変が起こる。今まで光源となっていた青白く光る水晶が一斉に黒銀に染まった。光量が激減したせいで視界が一気に狭まる。
「リア!不意打ち注意!レールは回収する!」
「分かりました。あと【雷魔法:付与】で私の場所は分かるはずですからヒノも同様にお願いします。」
「だね。互いの位置把握は肝心だ。あと水晶には触れないように!」
答えつつストレージから取り出した初期武器の斧五本に魔法を付与する。周りが少し明るくなり、少し離れた地点でも一本の細剣に翡翠色の光が灯る。
そして自分の目に見える範囲にだけ血のレールを残し、他の血は全て散らばった武器と一緒に回収した。その際黒い水晶に血を触れさせる。するとあっという間に耐久値が無くなった。
マジか。ここまで来て触れると回復不可の部位欠損になる水晶を大量に配置したステージに視界数メートルとか。運営は本気でナショナルクエストをクリアさせる気がないらしい。
まぁそれは正攻法で行けばの話だ。
理不尽には理不尽で対抗すればいい。
早く出てこい犬っころ。
私が感じた絶望をそっくりそのまま返してやる。
G g u u r r r R R R a a A A W W W W A A A A A A A A A A A A A A A A A
天を裂くような絶叫が世界を揺らす。辺りが暗くなったせいか余計に大きく感じる。
声の先を追うと七本の塔の内最も高い塔の尖った屋根の頂上部にそいつは佇んでいた。
今までとは様子が違う。顔や肩、腰にフィールドに存在するものと同じ黒銀の水晶が生えていた。周りには銀の光がダストの様に漂っており一回り大きくなった印象を受ける。
その神々しいただ住まいと存在感に私は圧倒された。
ただ不思議と気分は高揚としている。仮初の心臓が私の意志に反して大量の血を流す。
もはやリアの仇なんて考えてなかった。
頭にあるのはただ一つ。
コイツを倒す。
「…リアは下がって攻撃準備。HPゲージも見えるからこのまま出し惜しみはなしで行く。」
「分かりました。フフッ…楽しそうで何よりです、ヒノ。」
「そうね。今心の底から楽しんでるわ。さて私の奥の手、アイツにも楽しんでもらいましょうか!」
私の獰猛な笑みに呼応して銀の月が降った。




