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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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それは長い長いチュートリアル3




一度ハードのメニューを選ぶ空間を経由してCNOを選択すると、再び意識が移るような感覚に襲われた。



真っ白。壁の境界もなく地平線もない白が永遠に続いている。私が立ってたのはまるで目をつぶって見る世界の…黒が白に置き換わったような所だった。そして何もない空間に色の付いた場所一つ。そこに一人の女性がいた。


彼女がこの空間の全てだった。太陽のようにまぶしくて思わず目を閉じてしまいそうに輝くブロンドの髪。大人な妖艶さに目をくぎつけにされそうな真紅の口元。そして意識すら吸い込んでしましそうな深い青をともした瞳。彼女の持つ物だけが私の心をきつける。


恰好は豊満な肢体に張り付いたように流れるような白いドレスに、ところどころ金の刺繍が施されている。まさにここが異世界の入り口であることを知らしめるかのような現実離れした美女がこちらに向かって儚げに微笑んでいた。


「初めまして私はこの世界にいる女神の一柱を担っています。名をリーアマティナと言います。あなたの名前はいかがしますか?」


凛とした声に我に返った。ここがゲームの世界だという事に思った以上に舞い上がっていたようだ。それに見惚れてる場合じゃない。ここでいう名前とはキャラネームの事だろう。


「私の名前は…ミヒノ。」


「ミヒノ様ですね。かしこまりました。

ではこれよりキャラクター設定をさせてもらいます。」


なんか機械みたい。会話の第一印象はそれだった。

決められたような応答。まるでコールセンターのお姉さんのようだ。

でもこんな会話になるのは当たり前なのかもしれない。今まで数えきれない程のプレイヤーを相手に同じ説明をしてきたのなら、そりゃそういう印象を受けるのも頷ける。もしかしたら彼女は退屈してるかもしれない。そう考えるとちゃんとした会話をしたくなった。


「設定の前にリーアマティナ様はいつも何をしているの?」


「リーアでいいですよ。私の役目は三つですね。まずチュートリアルの案内。次に全NPCへの神託という名のアナウンス。そして全プレイヤーへのアナウンスですね。まあ後半二つはほとんどやったことがありませんが。」


「へえ、他の女神さまは?」


「主だった仕事は各国にある結界の維持ですね。

この世界の調和を図るためにこの世界を見回っているようです。

基本は手を出さず神官や巫女に神託で相談したり、時には運営に報告するという形で役割を担っていると聞きました。」


「リーア様はこの空間の結界?」


「いえ、ここは時間の流れも加速倍率が跳ね上がってるだけで特別そういうのはありません。

プレイヤーが異世界人となる場所。そういう意味ではまだここはCNOの世界とは言えませんからね」


なんだろう、この水を差されたような気持ちは。高かったテンションが少し収まる。同時にこの人はどこにいるのだろう?そんな漠然とした疑問が沸き上がった。


「なるほど。じゃあ、この世界の事教えて。」


「かしこまりました。ただ先にアバターだけ設定させてもらいますね。」


そういうと無表情で突っ立ってる自分が目の前に現れた。


その姿に少し眉間に皺を寄せる。友人に『身長は140ちょっとでちっちゃかわいいのに、顔立ちが整いすぎているのがちぐはぐすぎる』と称された時にはそれなりに落ち込んだのだ。


まあいい。私は他者の目を気にしない女、日御碕灯。

私よりいい体をしたそいつの胸を教室のど真ん中で揉みしだいて羞恥プレイさせてやったから、もう忘れよう。


「アバターの体形は多少変えられますが、身長は変えられませんのでご注意ください。」


なんで真っ先に身長の話をしたの、この女神。少し責めるように女神様を見る。


「えっと。顔はいかがしますか。大体の方は髪型や髪色、瞳の色、肌の色を変えるのですが。」


逃げられた気がするがまあいい。


「体形はそのままで。髪は…腰まで伸ばしてもらえますか。

うーん、色は黒で光の当たり具合でワインレッドの光沢が出るように。瞳は明るい赤で。肌はかえなくていいや。あと化粧道具とかって出せますか?」


体は中と外で違和感があるのは不味そうだから変えないでおこう。色々変えるのは何か負けた気するし、友人二人にいじられるのが落ちだ。ただ折角のアバターだから見た目だけは派手に行こうかな。


「はいありますよ。このゲーム本当にたくさんの企業が出資していますからね。

他はこんな感じでよろしいですか。髪は広がるように全体に輪をかけるようにしてみました。」


「おお、イメージ通り。というかそれ以上ね。」


いっそメイクも任せようか。いやメイクぐらい私がやろう。最後に女神様に見てもらえばいいや。





うん完璧。女神式ナチュラルメイク術で透明感のあるいい感じになった。女神様万能説。


「うん。アバターもできたことだし、改めてこの世界の事教えて。」


私が急かすとリーア様は口に笑みを浮かべながら話し始めた。


「この世界は様々な国でできています。大体は冒険者ギルドで発行される個別カードをメニューから提示すれば入国できますが例外もあります。

例えば迷宮の国では規定の種族レベル以上が必要だったり、商業の国では規定以上のお金を商業ギルドに納めているかだったりですね。」


このゲームの名前にも(ナショナル)とあるからなぁ。国が重要になってくるのかもしれない。


「次にこの世界の目的ですね。この世界にはいわゆるグランドクエストと呼ばれるものは今の所ありません。強いて言えばこの世界を楽しんでください。現実で楽しんでることをこちらでやるのは勿論、この世界には現実にはないものや場所、そして出会いがたくさんあります。それらを探すのもまたこのゲームの醍醐味と言えます。」


そういや友人二人曰く、現実の料理の再現に本気になってる人もいるらしい。私からしたらせっかくの異世界なんだから異世界の料理楽しみたいね。


「ただ目標が全くないわけではありません。現在各国にはナショナルクエストと呼ばれているクエストが存在します。これがこの世界で最も大きなクエストです。

そして今までナショナルクエストをクリアしたプレイヤーは一人もいません。」


「え…このゲーム始まって1年たってなかった?」


「そうですね。それにゲーム内時間は2倍率で進んでいるので実際は2年経ったことになります。」


MMOはよく分からん。これぐらいの進み方が常識なのかな?


「まあいいや。次は?」


「動画についてですね。プレイヤーはメニュー欄からRecordingを選ぶとゲーム内時間で12時間録画することができます。

ここで撮ったものはログアウト可能エリアにて編集、専用サイトに投稿することができます。

そして動画の再生数に応じてリアルマネーが送られます。

またログアウト可能エリアでは設定で他人の録画に自分の姿が写らないように設定できますが、それ以外の場所では写るのでご注意ください。もうひとつ。死に戻りすると録画データは全損します」


「これも楽しそうだよね。魔法とかある分現実より派手なスタントとか演出できるし。」


友人二人に勧められたアニメの戦闘シーンをこのゲームで再現した動画が凄かった。ただの動画ですら凄かったのだがWCG(メタバース)内でも見られるらしい。VR再生されたそれはさらに迫力あるものになるのだろう。


「うん。ちょっと試してみようか。という事でShall we dance?」


「えっ私と踊るんですか?」


私の強引な誘いに流石に困った表情を浮かべた。困惑顔のリーア様いいね。

それにこれは押せば通る。私の勘がそうささやく。


「私に記録の仕方を教える一環で私とダンスを踊る。システムの説明なのだからこれは女神様の仕事に含まれます。ということでお願い、リーア様!」


そう言って社交ダンスをしようと、リーア様の手と腰に両手を合わせようとした。

したんだが、身長差が20cmはあるためものすごく格好がつかなかった。


「フフ…仕事と言われては仕方ありませんね。ハイヒールがあるので履きますか?」


少し呆れたような顔で微笑まれてしまった。私は無言でうなずくと、とたんに目線が高くなる。


「では音楽流しますね。」


リーア様の言葉でワルツが流れ始める。学生なら体育祭で一度は聞いたことはあるだろう有名なものだ。リズムに合わせて二人で踊る。

私は一度(はま)って、お嬢様学校の授業と学校のクラブで習っていたのでダンスには自信があった。ただリーア様の方が完璧な動きをするので私はリードされる側だった。


「今回は特別ですよ。」


リーア様の掛け声とともに私たちの周囲に光が差す。赤と金を基調としたエフェクトが私たちの踊りに合わせて輝く。私がくるりと回れば花開くように。リーア様がステップを刻めば足跡を残すように。踊りに集中しているのに私たちがどう映っているのか楽しみになっていく。


目の前のリーア様も楽しそうに笑っていた。




「リーア様うますぎ」


「ありがとうございます。ミヒノ様も踊り慣れてるご様子だったので驚きました。現実でもやっておられるのですか?」


「最近はやってないよ。リーア様は?」


「私も久しぶりに踊りました。ダンスは楽しめる方ではなかったはずですが、さっきは本当に楽しめました」


誰かと踊ったことはあるのか?いつどこで踊ったのかな。女神様の過去は気になるが話してはくれないだろう。まぁ楽しんでくれたのなら誘った甲斐があるというもの。良かった良かった。


「で録画はうまくいきましたか?」


「あっ」


手段が目的になってしまった。


「あのミヒノ様?さすがに擁護できませんよ。」


「い、今のは練習!ほら私ワンピースだし、本番はやっぱりドレスが着たい!ということでドレスも貸してください」


「はぁ。しょうがないですね」


苦笑しつつも了承してくれたリーア様ともう一曲踊った。





「さて説明を続けますね。次はプレイヤーのステータスとスキルに関してです。」


「おお!」


私はこれを楽しみにしていた。ゲームの醍醐味はプレイヤーが全員最初は平等なところだよね。そこから人それぞれに成長していくのが面白い。


リーア様はそれはもう懇切丁寧に説明してくれた。



キャラクター作成では種族とスキル、ステータスを決める。


種族では人族、獣人、エルフ、ドワーフ、ランダムが選択できる。それぞれの種族で上がりやすいステータスは違ってくる。ランダムは前四つを含んだ他の希少種族をランダムで選出される。一度選ぶと決め直せないギャンブル要素だ。


次にステータス。種族レベルを上げると与えられるステータスポイントを各種身体能力に割り振れる。内訳はSTR、VIT、DEX、AGI、INT、MND、LUK。ただしLUKに関してはポイントを割り振れない。


またHP、MP、STM(スタミナ)の概念があり、STR、VIT、DEX、AGI、INT、MNDの値と種族値で決定される。

STRはHPとSTMに作用し、VITはSTRと同様、DEXはMPとSTM、AGIはSTMのみ、INTはMPのみ、MNDはHPとMPに作用する。


ステータスは他にも装備重量上限値やノックバック判定、状態異常抵抗値(身体/精神)、移動速度限界値、クリティカル率(攻撃/防御)、クールタイムなどで関わってくる。



そしてスキル。ランダムに与えられるスキルを1つと、別枠に100以上あるスキルのうちの4つスキルを選ぶ。

この時ランダム選択は選択した種族に即したスキルが出やすく、ここで出るスキルは別枠でとれる4つには存在しないものである。


ただしほとんどのランダムスキルも後天的に取れないことはないが、取得難易度は高めに設定されている。


このゲームにおけるスキルは習熟度制をとっている。スキルを使えば勝手にレベルが上がっていく。

また個人でセットしておけるスキルの上限数は種族Lvが10上がるごとに一つ上がっていき、最大は10つまり種族レベル50でセット可能スキル上限数に達する。それ以上のスキルを取得しても予備にまわされる。


また手に入れたスキルでによってステータスが変動する。


この世界において鑑定の概念はなく、ストレージに入れるとそのアイテムの詳細が分かるようになる。

ただし例外があり素材アイテムは扱うのに必要なスキルを持っているとより詳細な情報が得られる。


スキルの獲得の仕方は一つのみである。

自分の取得可能スキル欄からスキルポイントを消費することで控えスキル欄に加えることが可能になる。

ではどうすればスキルが取得可能スキル欄に加わるのか。

それは様々である。特定の行動をとったり、アイテムを手に入れたり、イベントやクエストの報酬だったり、必要ステータスがあったり。

特殊としてはスキルのレベルが規定値を超えると進化するものもあるとか。

その場合でも進化先が取得可能スキル欄に現れるのでスキルポイントを消費しなければならない。

そしてスキルにLvの最大値は設定されていない。


またチュートリアルでは決められないが、プレイヤーは職業ギルドにいけば職業候補欄にその職業が現れその中の一つを自分にセットできる。

セット中の職業にしか経験値は入らないが、候補と入れ替えてもレベルが下がることはない。

職業ごとに経験値の入り方が違う。例えば【冒険者】ならギルドのクエストを受けると貰える。

職業レベルをカンストさせると上位の職業が職業候補欄に出るようになる。



まとめればこんなところか。一時間にも及ぶ説明だったが何とか理解が追いついた。ただ説明が終わった後のリーア様からの質問には一瞬返す言葉がなかった。


「最後までちゃんと聞いてくれる人がほとんどいません。どうしてでしょうか?」


だろうね。ゲームにおける取説は気が乗らないし面倒と思うのは分かってしまう。リーア様としてはこの説明が自分の仕事の大半を占めてるのに、皆がスキップしちゃうのが悲しかったのだろうなあ。女神様の説明はここでしか聞けないだろうから私は最後まで聞いた。別に嬉しそうに話すリーア様を途中で止めることができなかった訳ではない。



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