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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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いつも通りを通す覚悟




考える。

自分が動かせる範囲の限界を把握する。

考える。

自分の変えられる形状の限界を把握する。

考える。

自分の捉えられる速さの限界を把握する。


自分が把握しているもの全てで頭の容量を占める。


街中の移動でさえ他の事は考えない。

全ては大狼を倒すため。

そして最終日になってようやくHPの3本目に到達するようになっていた。



空いた時間全てで大狼の倒し方を考える。

大狼の速さには慣れても、耐久を消す能力ははっきり言って反則に近い。

まず血の消費量が圧倒的に増える。それは消費した分を取り出し再度配置するのにも頭を使うことを示している。

そればかりに気を取られる訳にはいかない。


触れれば武器の耐久がなくなる。

その対応策として攻撃は血でコーティングしたものを大狼に刺した後にストレージへ収納したりと色んなことを試しているが、なかなかいい方法が見つからない。


それに防御に攻撃とやることが多すぎだ。やることをパターン化して考える量を減らす必要があった。

この二日でそれをやってきたわけだが、それだけでHP4本削りきるビジョンが見えない。

やはりあの黒銀になった時の大狼を封殺する攻略法が欲しい。

ただずっと考えてきたが何も思いつかない。


いつもの私なら早々に諦める。

こんな時は時間かけても何も思いつかないのを知っているから。

次の事に頭を使った方が有意義だと知っているから。


無駄になると分かりつつも考える。それがこんなにもつらいものとは知らなかった。

時間が無いのに何も得られないまま使いつぶす。その事実が私を焦らせる。

怖い。

自分が失敗するのが怖い。

今まで失敗を気にしたことがなかった。失敗しても他で成功すればチャラだったから。

でも取り返しのつかないことはある。


…私はもう知っている。





私は一度昼食を食べるのに、ログアウトしていた。

リアには合わす顔がなかった。


「ただいま。」


ミートスパゲッティをくるくるとフォークに絡ませていると玄関先から声がした。さっき昼食を一緒に食べると連絡してきた父さんが帰ってきたようだ。


「おかえり。」


ラップしていた私と同じものをキッチンからダイニングテーブルに持ってくる。


「またすぐに出るから。いただきます。」


父さんは向かいに座り食べ始める。父さんも仕事忙しそうだな。


「簡単なものでごめんね。」


「そんなことない。というよりなんか元気ないな。どうした?」


父さんは心配するようにこちらをうかがう。表情隠すのは得意なはずだが、父さんには通じないなあ。


「私には父さんの方が疲れてるようにみえるけど?」


「やっぱり疲れてるんじゃないか。灯がそんな顔するのは珍しいな。悩みなら言うだけ言ってみろ。それだけで気が晴れるもんだぞ。」


いつもなら軽口で返しただろうが、今の私にそれだけの余裕がなかった。


「…母さんはさ。絶対に失敗したくない時ってどうしてたんだろ?」


だからだろう。私の道の先にいた人のことを尋ねていた。


「光、母さんのことを灯の方から話すのは珍しいな。」


「…」


「そうだな。これは俺と母さんの大学時代の話だが。まだ母さんが俺にとってろくに話したこともない変な女だった頃、学科が同じで彼女の噂話が色々耳に入ってくるんだ。やれ有り得ないスケジュールでバイトしてるだとか、やれ色んなサークルを片っ端から入っては抜けてるとか、やれ長期休暇で世界一周しただとか。」


「なんか一つスケールが違うのが混じってるんですが。」


「変だろ?まぁそんなことしてる癖に誰が飲み会に誘っても断ってたから学科でも一人浮いてたんだよ。」


母さんも私には言われたくないだろうが、ひどいねそれ。


「ある日俺と母さんが講義の課題を忘れて二人だけ居残りしてたんだ。でも母さんは成績だけは優秀だったからさ。話したことなかったけど思わず忘れた理由を聞いたんだ。そしたら課題があること自体知らなかったんだと。先週教授が課題について話すのが遅れてたみたいでさ。まだ教室にいた人が先帰っちゃった人にメールで伝えるようにしたんだ。そして母さんにだけ伝える奴がいなかったらしい。」


「ん?父さんも先に帰っちゃったの?」


「いんや。俺は完全に頭から抜け落ちてただけ。」


父さんは真面目なイメージだったのに…。まさかの不良学生。


「事情を知った俺が友達を作らない理由を聞いたら

『友達作りに失敗しちゃった』って爆笑してた。」


「えー」


でも何となく想像できる。私の知ってる母さんより少しばかり無鉄砲なだけ。


「あんまり他人事のように笑うもんだから諦めが早すぎるって文句言ってやった。そしたらお決まりの答えが返ってきてさ。灯もいつも聞いてたよな。」


『たくさんを楽しむのに、たくさんを諦めるのは当たり前だ。』


それはいつも口癖のように母さんが言っていた言葉。私が次へ進むのにいつも背を押してくれる。


「『私のペースについてこれない人とは友達にはなれないよ』なんて続けるものだから

『もう少し他人にペースを合わせろよ。その調子じゃ本当に大事な時に後悔するぞ』って忠告してやったんだ。」


父さんもほぼ初対面の人相手に説教とか…今時漫画でも聞かない。


「それでも母さんは笑って俺の言葉受け流してさ。」

『そんなの関係ないわ。私はいつでも全力疾走、当たって砕けるのみ。

時と場合に分けて保守に回るのは結果関係なく後で引きずりかねないからね。

いつも同じ心構えなら"これが自分だ"って少しは流しやすいし、忘れやすいでしょ。』


なるほど。やる前から決めていれば結果に納得しやすいかもしれない。それ以上は自分の力の限界だってあきらめもつく。

でも…


「…流せないし、忘れたくないものだってあるはずだ」


今の私のように。

たとえ自分には手の届かない未来だと分かっていても望まずにはいられないこともある。それともいつも私を連れ回していた破天荒な母さんには無かったのだろうか。


「『いつかできるかもね。でも自分を責める程の失敗なら…それを機に自分を変える事にも後悔しない。私らしさを変えるならそういう時だ。』

彼女にとって失敗は転機の一つに過ぎなかった。」


「…」


「成功するのが一番だろうけど、母さんは頭が良かったからね。こうやって失敗した後の事も考えてたよ。」


「そっか。」


「本当に行動力だけはあったから彼女の言葉には重みがあった。それからだったな母さんの事が気になり始めたのは。だから友達作りに失敗したのなら俺が友人一号になってやるって教室でも話すようになって……」


父さんが惚気だしたので聞き流した。


それにしても何でもできると思っていた母さんが失敗した後の事を考えていることが意外だった。

ただ納得できる部分もある。母さんは芯の強い人だった。自分に自信を持つというのは案外難しい。それは自分のやることなすことに迷いがないということだから。今絶賛迷いの渦中にいる私には痛い話だ。


いつも通り。

確かに今の私はリアのこと考えても楽しくない。楽しくないこと考え続けるなんて私らしくもない。

なら私のいつも通りとは何か。

それは楽しみながら効率よく全てを手にすること。そう私は欲張りで自己中なのだ。

ようやく自分がしたいことが見えた気がする。


「ありがとう、父さん。それにしてもやっぱり母さんには敵わないなあ。」


「当たり前だ。何せ俺が愛した人だぞ。母さん超える女なんていないね。」


「はいはい。惚気てないでさっさと食べる。もう出るんでしょ。」


慌ててスパゲッティを口にかきこむ父さんを私は笑顔で見ていた。





私はCNOにログインして、リアがいるだろう宿に向かった。扉の前で一呼吸おいてから部屋に入る。そして一番に目に入ったものに驚き体が固まった。ベットの上にでかい芋虫がいた。


「リア?なにしとん?」


「ひゃひいい!」


ビクンと芋虫(白いシーツを被ったリア)が震える。恐る恐るといった動きでシーツの下からリアが顔だけ覗かせた。蒼白の髪が少し乱れている。


「ひ、ヒノ。帰ってきたんですか?というか連絡とノックはちゃんとしてください!」


「ごめんて。で、どうしたその恰好は?リアのイメージが根底から覆るよ?」


「うっ…いくら私が疲れないからっていつも気を張ってると調子が狂うんですよ。」


「いや昼間っからシーツに包まるのは気が抜け過ぎというか。

まあいいや、リアに話があって来たんだ。」


私は向かいのベッドに腰掛けて話しかける。リアもシーツを被りながら座った。


「ヒノ?急にどうしましたか?」


「率直に言うとさ。私はこのクエスト終わったらリア連れていくか悩んでたんだよね。」


私のストレートな言葉でリアの顔に影が差す。


「私も今後の事を考えてました。たくさん考えましたが何一つ答えが出てきませんでした。気付いたのは私がいくら考えても無駄ってこと。結局ヒノ次第なんですから。」


「そう?私はリアのワガママなら大抵聞いちゃう自信あるけど。」


「私はヒノの嫌がることはしたくないんです。それがたとえ私の望みでも。ヒノが私を連れて窮屈に思うならそれは私の本意ではないです。」


「リアは私の事甘く見過ぎだね。これでも自分が傍若無人極まってる自覚があるの。そんな私がリアの声だけは聞いてる。私は絶対にリアを連れていくよ。他の人なんかに渡してやんない。」


「…」


なんというかリアは私がお供にそこまで重要視してないと思ってる節がある。まるで誰が一緒でも楽しく旅できるみたいに。そんな訳ないのに。


「そんなに私が信じられない?」


だから少しトゲのある言葉になってしまった。


「信じてみたい。でも私が思い出すのはいつも最悪の過去で。

……昔みたいに独りで寂しいのは…嫌です。

……ここ数日みたいに置いていかれるのも…嫌。

……昨日みたいに遠ざけられるのは……もっと嫌。

……私とした約束を破られるのが………一番いや。」


リアがシーツを目深にかぶって顔を隠すようにつぶやく。


「…ねぇどうして?どうしてヒノは私にこだわるんですか?

別に私を連れて行かなくてもヒノはこの世界を楽しめます。

私はヒノが私を連れていく理由が欲しいです。」


「そんなの簡単よ。リアが私の特別だから。」


「…」


「その目は信じてない目ね。

ハァ。私はもともとこのゲームはソロでやるつもりだったんだよ。でもそんな信条捨ててまでリアを誘った。それはリアなら私に付いて来てくれると思ったからだよ。

リアが特別ってのはそれだけじゃない。この世界にいる私以外の全プレイヤーにはリアをあそこから連れ出せなかった。そんな中私は連れ出した。私だけが連れ出せた。だからリアにとって一番の居場所は私の隣だと思ってるし、リアにもそう思われたい。」


リアは私の特別だ。だってリアに私を特別だと思って欲しいから。そして初めてこの人なら一緒にいても飽きないかもしれないと思えた相手だから。


「…私もヒノを特別に思ってますよ。でもヒノはいつかいなくなる。この世界はゲームです。ヒノがゲームをやめれば会えなくなる。そこまでの関係です。ヒノの特別は信じられません。」


リアは私との間に現実という壁をいつも感じているのかもしれない。すぐにでもそれを取り払ってやりたいが今の私には不可能だ。所詮しょせん(いち)プレイヤーに過ぎない私にできる事なんて高が知れてる。でも時間さえあれば私にもできることが見つかるかもしれない。だから今後の私の目標の一つにさせてもらおう。


それにしてもこの子私に対してだけ人間不信になってない?それともそれだけ慎重になってるのかしら?ソフィアとも友人みたいに言ってたけど王女様の人との付き合い方はさっぱりだ。ただ慎重になるほど私を大事に思ってくれているという事なので悪い気はしない。そしてその思いに少しは返さないと私の信用は一向に回復しないだろう。今の私にもできることはある。壁があっても近づけないわけではないのだから。


「リア。私は欲張りで自己中心的で飽きっぽい人間なの。

欲しいもの全てを手に入れようと頑張るけど、無理と分かったら簡単に諦めて次に行ってしまう。そういう人間。ゲームでも現実でも関係ない。

私はリアと一緒に行くことを望んでいる。なら全力で実現するのみ。


――私は全部手に入れるつもりだよ。」


今の言葉の本当の意味をリアは分からないかもしれない。これは私の決意表明。これを言うのがここに来た目的の半分だ。


「…私は自分が足手まといになる事が嫌です。ヒノが自分を殺して私と一緒にいるのは耐えられません。ちゃんと飽きたら置いて行ってくれますか?」


ホントにこの子は…

”リアと一緒だとできないこと”より”リアと一緒じゃないとできないこと”の方が私は楽しみだと何で分からないかな。まあいいや。さっき決めた事じゃないか。壁があっても近づける。私はリアが不安になるたびに「リアは私の特別だ」と言い続けよう。


「さっきも言ったけど私はリアを諦めるつもりはないよ。リアが私を置いてく気になっても離してなんかやんないから。」


「なんですかそれ。」


リアは強張っていた表情を少し緩ませる。


「リアの気持ちはちゃんと伝わってるよ。だから私の覚悟見せてあげる。」


さてと。私は一呼吸置いてからここに来た目的のもう半分を話す。



「リア。今から私と一緒に暴食のマーナガルム倒して?」





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