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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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少女は仮想世界を見る




教会の前はいつも通り人の数がそれなりに多めだ。

そこから離れる様に教会の中へ入る。

今日は約束した日から六日目。最終日。

周りより少し高い土地にある教会の中から周りを見ると、一カ所人だかりが縦に割けるように開いている箇所があった。


その光景は異様だった。


直径1mの円状に地面が血だまりになっており、その外縁を台風の風が血に置き換わったかのように渦巻いている。

人が意図せずその渦に近づくと、無数の血の槍が侵入を拒むように地面から上向きに突き出し、側面にぶつかると人を弾いた。

血の風の目は粗く、中心には女の子がはっきり見えた。

その女の子は裸足で体のラインが見える黒のドレスのみを身にまとい、人垣を割りながら歩いていく。

それに合わせる様に血の渦が追随する。

女の子は無表情なのに鬼気迫る血のような赤い目で、周囲を全く寄せ付けない雰囲気を発している。



ヒノの様子がおかしいのは昨日からだ。私とほとんど話さなくなった。

今日にいたっては、ずっとあの調子だ。



私は途方に暮れていた。


ヒノが何で必死に戦っているのか分からない。

考えていることが分からない。

私にこだわる理由が分からない。


ヒノの人となりを知ればわかるのだろうか?

でもそれを知る機会はない。ヒノが本当はどういう人なのか私には絶対分からないから。

仮想世界ここを出られず、現実にいるヒノに触れられない。だから現実世界の――本当のヒノが分からない。


私はヒノの事を何も知らない。

知ることができない。

それがたまらなく悔しい。

自分がAIであることが悲しい。


ヒノは『AIであることを誇れ』って言ったけれど、片方の世界を諦めている時点でAIが人と対等に付き合えるとは思えないよ。



ヒノの様子を見ながら無言で沈んでいると、後ろから声を掛けられた。


「マリアさん。こんにちは。」


振り返ると白衣のシスターが佇んでいた。ソフィア・グランドール。まだ姫だった私が唯一気軽に会話させてもらえた同年代の友達。その顔は昔の面影を残しつつ少し大人びた雰囲気を漂わせている。昔はおそろいのプラチナブロンドで周囲からは姉妹(どちらが姉かは不問だ)と見間違えられたほどだ。その姿を懐かしく思うと同時に表情に出ない様挨拶し返した。


「腕はそのままですか?」


ソフィアは少し心配そうにポンチョで隠した今はない左の腕を見ながら聞いてくる。


「はい。私が気を失っている間に腕を診てくださったそうですね。ありがとうございました。でも死に戻りはしたくないんです。」


親友に嘘を吐くのは、あまり気が進みませんが、クエストがどうなるかわからない以上下手に進めない方がいいでしょう。最悪あの大狼に会えなくなって私の腕がずっとこのままなんてことになりかねないし。


「そうですか。ミヒノさんに運ばれてきたときは本当に驚きました。数時間前に普通に会っていた人が片手を失った上に気絶に衰弱のバッドステータスまで抱えて帰ってくるんですもの。」


「面目ないです。」


ソフィアに叱られるのも久しぶりだ。何だか本当の意味でこの国に帰ってきたような気がする。


「それに教会に来た途端『ソフィアを出せ!』ですからね。ミヒノさんの取り乱し方も驚いた要因のひとつです。」


「ヒノが取り乱してたんですか?」


「そうですね。とりあえず周りを気にしない程には焦っていらしました。」


ヒノは感情豊かだが頭の中ではいつも落ち着いて何かを考えてる印象だ。そのヒノが我を忘れるほど焦る姿はあまり想像できない。私が死にかけた時も冷静に水晶の裏に運んでいたようだし必死な顔はしていたが取り乱してなかったと思っていた。もしかしてあの時も本当は取り乱していたのだろうか。分からないことが増えていく。


「私はヒノの事が全然分かりません。」


「…異世界人同士は皆そういう関係だと聞きますが?」


「ヒノは私の事を知っている。でも私は知らない。不公平です。私もヒノのことが知りたい。」


私は望んでも手に入らないと思いつつ、つい独り言のようにつぶやいてしまう。


「それはマリアさんが聞いても教えてくれなかったんですか?」


「そういうわけでは…」


「ならまずは聞くことからですね。私も友人とはそうやって仲良くなりましたよ。」


ソフィアは楽し気に答える。


私と仲良くなったのは互いの境遇が理由だが、幼い頃から人見知りだった私をソフィアが積極的に話してくれたことも大きい。

私にとってソフィアは特別だった。


「マリアさんも大丈夫ですよ。私も友人の事何にも知りませんでした。

最初に会うまでは”容姿端麗で国の仕事を手伝って何でもできる冷静沈着なお姫様”そんな噂を聞いていたんです。会ってみても”他人と距離を置いたような人”が噂に足されただけ。

それでもたくさん話しているうちに友人について知っていきました。

生真面目で、他人のために頑張ることができて、感情を表に出すのが苦手で、そしてちょっぴり寂しがり屋さん。」


ソフィアは昔を思い出すように話す。


「あんな嘘なんて言う子じゃないし、何か良くないことが起こっているのかと心配です。」


「…大丈夫ですよ。私とヒノがちゃんと会いに行きます。その時は今の言葉を伝えておきますね。」


私がソフィアに嫌な思いをさせている事をつらく感じる。

やはりヒノが大狼に勝っても負けても明日には私が王女だと伝えよう。たとえ左腕が取り戻せなくなったとしても。


「ありがとうございます。」


ソフィアは少し顔を赤らめながら笑顔で返事した。


「ミヒノさんの件も大丈夫です。私がした事を今度は彼女にしてあげてください。私にもできたんです。マリアさんにもできますよ。」


「こちらこそありがとうございます。色々と励まされました。」


ソフィアが昔のまま変わっていないことを嬉しく思った。それとは別に少し寂しい思いにもなる。私の声に気付かないことを心の中で自分勝手に責めた。


「ふふっ、いいですよ。マリアさんと話してると私の友人を思い出しますから。寂しがり屋なところはそっくりです。まるで本人のよう。」


ビクッと驚きから体を震わせる。それは完全な不意打ちだった。ソフィアは優しげな声とは裏腹に真面目な顔を向けていた。昔からこの表情の彼女には弱い。


「明日また会いに来ます。その時にはあなたの友人のことも話せるでしょう。」


「楽しみにしてますね。」


そのまましてやったりな顔のソフィアと別れ宿屋に帰った。



まさかソフィアに私の正体がバレてるとは…

失敗のはずなのに嬉しく思っている私がいる。

クエストは進んでいないようなので問題はない。

うん明日ちゃんと話そう。


メニューを開きフレンド欄のヒノの表示を見る。そこにあるヒノの文字がグレーになっている。ログアウト中はこうして表示される。


先ほどのソフィアとの話を思い出す。

ソフィアにはヒノと話し合えと言われたが…私にはそうは思えなかった。

今のヒノと話すことが何か解決になるか?

私にとっての最良はヒノと友達のままここで別れる事にしか思えない。私とヒノが傷つけ合うことのない関係。人とAIの正しい距離をとることが互いに幸せじゃないか?それなら今までの関係が近すぎだった。今ヒノが私を遠ざけているのもそう考えての事じゃないのか?

たとえ私の望みと違ってもヒノに嫌な思いをさせたくない。



私は初めてヒノと会った時の事を思い出していた。


『リアが分からない事私が教えてあげる。できなかったことができるようになるのは楽しいからね。リアのこれからはきっと楽しいことでいっぱいになるよ。』


私にはわからないことがたくさんある。

ヒノの事がわからない。

私自身の事がわからない。

この世界の事がわからない。

現実世界の事がわからない。

全部ヒノが教えてくれると思っていた。

でもこれじゃあ分からないことが増えていく一方だ。何にも楽しくない。


ヒノが今私の左腕のために必死に頑張っている。

それは嬉しいことのはずなのに…左手がないことより、隣にヒノがいない事の方が寂しく感じる。

なぜでしょうか。

わからない。

疑問が尽きない。


教えてくれるって約束したのに…


「…うそつき」


こぼれた言葉は物静かな昼の部屋でやけに大きく響いた。



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