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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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無謀の準備




『これからつらいだろうけど、がんばりなさい。』

目の前の女は顔が黒で塗りつぶされていた。

この女は私が今何を考え、これから何をするのかが分かっているのか?


『これからお父さんの言う事よく聞くように。』

今度は男の人だ。同じように顔が認識できない。

今までだってちゃんと聞いてたし、知らないのに私に助言ぶったこと言わないで。


『あなたのせいじゃないわ。』

うるさい。そう思ってるなら、そんな言葉口に出すな。

私が自分のせいと思うならともかく、あの場にいなかった人間にあの時の事を触れることは許さない。


モノクロな部屋に白けた言葉は私のどす黒い心を薄めるどころか、和紙に垂れた墨のごとく周囲を巻き込む。

そのまま私以外を真っ黒に染め、私をものみ込み続けた。


『君は本当に自己中心的だね。』

それがどうした。自分のために頑張ることの何が悪い。


『他者を犠牲にするなという話よ。』

私は自分より他人を大切にできる人を知ってるし、その人の事を尊敬もしてる。

ただ他人のために必死にならないだけだ。他人を蔑ろにした覚えはない。


『自分も他人も区別せず大切にすればいいじゃない?』

他人も大切に思ってる。ただそれが自分のためにもなるってだけだ。他人のためになるけど自分のためにならないことが私の人生に必要か?


『必要なら必死に、不要になったら切り捨てる。それを人は薄情っていうのよ。』

うるさい。そこに何もない。


『薄情なあなたは一時いっときの感情に流されてもどうせすぐ捨てるわ。』

黙れ。


『そして捨てたものには目も向けない。』


『リアって子も母さんと同じにならないといいね。』





過呼吸気味の息を整える。シャツが汗で張り付いて気持ちが悪い。最悪の目覚めだ。そう思いながら頭のヘルメットを外し、ラウンジチェアから降りる。

時間は朝の5時半だった。寝不足特有の倦怠感が体を襲うが、再びベットに潜り込む気にはなれなかった。これがVR内の寝落ちか。もうやりたくない。

私は取り敢えずシャワーを浴びるために部屋の扉へ向かった。



現実での一日を片付けてからクルーシブルネーションオンラインにログインする。目を開けると宿の中で傍にはリアがベットに腰掛けていた。


「リアおはよう。」


「…おはよう、ヒノ。」


相変わらず機嫌が悪いリアに苦笑する。いやどちらかというと初めて喧嘩した後どう接していいか分からないみたいな?ウイ奴め。まぁ私もその手には疎いのだが。

あれ?改めて考えると今まで私から喧嘩吹っ掛けた記憶がない。いつも相手が吹っ掛ける→相手にしない→疎遠になるまでが私の喧嘩?の常套句だ。

あれあれ?私まともに喧嘩したこと…ない?

あたふたしちゃダメだ。取り敢えず事務的に話してお茶を濁そう。うん。


「えーっと。昨日話した通り今日から三日間別行動ね。リアはその間この国出たらだめだから。私も約束守るんだからリアも守ってよ。」


「…わかってます。」


これは昨日決めたことで、私が戦いに集中するためだ。


「まあ私はずっと狼相手にしてたら武器も血もなくなるだろうから。適度にフィールドにも出ると思う。用があったら連絡ね。」


「…」


「はい、そんな顔しない。すぐ終わらせるから、待ってなさい。」


「…はい。でもこれはヒノが持って行ってください。」


リアが取り出したのはポーチに入った魔石だった。


「それはありがたく借りておくけど、リアが新しい魔石とか作らないでよ?危ないから。」


「…大丈夫です。」


「…何が?」


「約束は守ります。」


ここに来ての即答。怪しすぎる。


「なんか企んでるなあ。まあいいか、危険なことはしないでよ。」


「はい!行ってらっしゃい。」


「行ってきます。」


宿屋を出て北へ向かう。今回の狼戦、絶対に物量戦になる。耐久を喰う大狼に勝つには消費以上の供給が必要だ。なら私の最優先事項は自分の血の回収。今までの私には自傷しかなかったがこれからは違う。今なら自傷以外にも大量の血を手に入れる手段がある。【錬金】を使う。私はこのために【錬金】を取ったといっても過言ではない。まぁできるかどうかは半分賭けだったが。そしてもう一つ。血を入手するのに必要なスキルを手に入れるべく、私は始まりの国のある場所へ向かっていた。


二日ぶりに来たのは冒険者ギルド。私は魔女の帽子を目深まで被り、受付まで行く。妙齢だが可愛らしい印象の受付嬢に【解体】スキルの獲得を申請する。

呼び出しの件は何も聞かれなかった。

なんか学校の職員室を思い出すなあ。これは私に罪悪感があるせいか。

いや学校じゃ私は優等生だから、これは学校の職員室の雰囲気が悪いんだ。私は悪くない。





数時間後、私は北のフィールドでクマの相手をしていた。顔を見るとナイフを投げたくなる病が発動したが今日は我慢する。上空から一方的に攻撃しているのは同じだが今回はクマの体中が血まみれになっていた。


種族レベルが20を超えたことで空いたセットスキルに【解体】を加えた。この【解体】は一定以上の数魔物を倒して、冒険者ギルドで申請すれば誰でも候補に出るようになる。【解体】はパッシブで敵からのドロップを増やし、品質も良くなる。そして攻撃に身体的状態異常を付与する確率を上げる。身体的状態異常とは部位破壊、盲目など体の損傷によるバッドステータスのことで、その一つに出血というものがある。このゲームは魔物に攻撃しても通常は出血しない。しかしスキルによっては攻撃で出血する場合がある。出血はスリップダメージと言って継続的にダメージが入り、AGIも少し下がる。その敵を出血させるスキルのひとつが【解体】だ。


血まみれのクマを私の血で覆った。クマは溺れたようにもがいているが関係ない。その状態をクマのHPが無くなる寸前まで放置した。

最後に死にかけのクマを解放してやる。一目散に逃げていくクマを何の感慨もなく見送る。ここで殺すとレベルが上がってしまう。それはまだ避けたい。今の私にとってそれは自分の首を絞める行為になる可能性がある。

私はストレージを確認してアイテムを手に入れた順にソートする。そして一番上にある名前を見た。[クラッシュベアの血液]。さっき戦ってた(いじめてた)クマから貰った(奪った)血だ。私の血を通してクマから流れた血をストレージに入れていた。結構な量が集まったので取り敢えず瓶に入れた状態で取り出す。私の身長の半分の高さはある瓶が目の前に現れる。同時にショートカットから私の血をクマの血と同量取り出した。私の血を操りつつ【硬化】を使ってクマの血の入った瓶を持つ。

そのままスキルを1つ行使する。すると瓶の中身とそれを覆う私の血が光った。次の瞬間には瓶は無くなり、操っている私の血は倍の量になっていた。

もう一度スキルを使う。今度は血の色が若干鮮やかになった。その結果に満足してから血をストレージにしまった。


使ったスキルは【錬金】だ。

チュートリアルの時から考えていたことがある。私は自分の血のストック切れた時点で何もできなくなる。ならいずれ自傷以外に血を集める方法が必ず必要になってくる。ではどんなスキルなら自分の血が増やせるか思ったところで候補に挙がったのが【錬金】だ。それからMPポーションを作るかたわらで【錬金】スキルの実験してきた。


【錬金】にはアイテムを上位互換にしたり下位互換にするアーツ《変質:上位》と《変質:下位》が存在する。例えばMPポーションを作るのに必要な[ルーン草]というアイテムがある。これを《変質:下位》すれば[ルーン草の種子]に変わり、《変質:上位》すれば[ルーン草]の品質が良くなる。ただし、このスキルにも限界がある。アイテムの品質も永遠に上げられるわけではないし、何でも種みたいに変化するわけでもない。

私が目につけたのは《変質:上位》したものを《変質:下位》したらどうなるのか?もしくはその逆をしたらどうなるのか?だ。

これが面白い。

品質が上下するだけがほとんどだった。対して薬草を種子にして再び薬草に戻す。これと元の薬草は全く同じものかどうか?

答えは「違う」だ。

これを確かめるために水とポーションを用意した。二つを同じ量入れた溶液の片方を《変質:上位》して、もう片方を《変質:下位》する。前者は薄まったポーションの品質が上がり、後者はただの水になった。そして後者をそのまま《変質:上位》すると品質のいい水になった。

これが先ほど変質のアーツ前後でアイテムが別物になる証明だ。水とポーションが混じった溶液がただの水に変化した。


これを利用する。


目的は私の血をどうにかして増やすこと。

水と血の混合液は当然ポーションの時と同じ結果になった。

では水ではなく魔物の血を混ぜれば?

ストレージの私の血の詳細は[ミヒノの血液]となっていて素材アイテム扱いに属している。そしてプレイヤーの血の価値は魔物にすら()()。まあ自分からレア度の高い血をどばどば出されると、それだけで儲かってしまうから、メタ的にそれは当たり前のことだ。

つまり魔物の血は[ミヒノの血液]と同カテゴリで上位のアイテムなのだ。

私の血と魔物の血を混ぜたものを《変質:下位》してから《変質:上位》すると高品質の私の血になった。

つまり魔物の血の分だけ量が増える。できた私の血の量は最初の二倍になった。

《変質:下位》だけだとできた血は耐久値が低く使い物にならない。だからできたものを《変質:上位》するのは必須だな。ちなみに血にポーションを混ぜたものは《変質:下位》すると水になってしまう。これはポーションが水で何かを溶かしたものと判定されたと考えられる。つまり、それは血と水とポーションに含まれる何かとの混合液と判定されているのだろう。まぁこの辺は私の推測の域を出ない。リアに聞いても「なっとるやろがい」としか返ってこなかった。


まあそれはそれとして、魔物の血を回収できればその場で血の補充と耐久値の回復ができるようになったわけだ。


こうしてせっせと血を回収しているが、お金がなあ。そろそろまずいんだよね。私が持ってるお金のほとんどがリュースさんとこで私の武器に変わってるんだけど、昨日のボス戦で半分以上無くなった。

はぁ…あの狼、耐久を消す能力持ってるからってポンポン壊しすぎ。よしあいつ倒す前に破壊した武器分のお金をせびろう。


リアも魔石と自分の衣食住のためにいろいろお金を使っている。いや衣は自分で賄ってたか。それでも私よりはゴールドが余ってるだろう。最悪リアから借りるつもりだ。

それにあの犬っころには最初の一回で勝てるとは思ってない。武器はまだ買わないでおこう。


本当は別のプレイヤーも募集できればいいんだけど、このゲームはクエストに途中参加するには、私たちとは別にそのクエストを受けた上で同じ段階まで進めなければならない。つまりナショナルクエストを受ける必要があるのだが、発生条件が管理者の情報と来た。管理者の名前は本人から聞く必要があるのだが、この国でそんな人がいるなら私たちより先にこのクエストを受けているだろう。という事で助けを外に求めるのは無理だ。そこはきっぱり諦めよう。


と思いつつも本当は他人の手を借りるのが嫌なだけだが…リアの左腕は私が取り戻す。


さて準備はできた、まずは敵を知ることから始めようか。



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