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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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逃避の代償




真っ暗の中大量の数字が浮かんでいた。0と1の羅列がものすごい勢いで入れ替わる。

リアの意識が最初に認識したのはそれだった。下を見ると自分の姿が透けている。


ここはどこでしょうか。CNO内ではなさそうだけど。


周囲を見渡しても出口らしきものはない。

どうして私はこんなところに…。


最後の記憶をたどると見たこともないヒノの必至な顔を思い出す。

どこか泣きそうなその顔は自分のせいという事に悲しくなるが、自分がリアにとってそこまでの存在であった事に嬉しくも思ってしまう。

さすがにあの状況からヒノだけでボスを倒せるとは思ってない。今のこの状況は人でいう走馬燈という奴だろうか。


私は自分の命の軽さを知っている。

それは単にNPCだからというだけではない。

私が現実世界の知識を持っており、この世界が作りものであることを知っているからこそ言える言葉だ。

NPCがこの世界で生きるのに現実世界の知識程いらないものなどない。むしろ異分子にすらなり得る。


世界には不安要素となり、プレイヤーとは遊びにならず、NPCとは価値観が合わない。

プレイヤーにとってもNPCにとっても世界ですらも私の存在は邪魔なだけだ。


だから隔離されたと思っていた。使い方はこれしかないがこの世界に必要なNPC。それが私だと信じていた。

でもある日、AR表示ひとつで私の代わりになることに気付いてしまった。

それでも良かった。プレイヤーと会話するのは楽しかったから。王女の頃は人と話す事も少なかった。プレイヤーの案内役はその時の会話とはまた違った楽しさ―気楽さがあった。

その気楽さも私を見ていないせいだと気付いてしまう。それでも寂しさを埋めるのにおしゃべりはちょうどよかった。


ヒノがやってきた。出会った頃から彼女はよくわからない人だった。

これまでのプレイヤーは私を無機質なNPC(ノンプレイヤーキャラ)かこの世界を生きる住人の一人と見ていた。それに疑問や不満を持ったことはない。それでも引っ掛かりがあったのは事実だ。そんな中でヒノだけは私をAIと言った。私には何故かそれが一番しっくりきた。


それから数日、ヒノと現実のことを含めて色々なことを話した。

ヒノと一緒にプレイヤーとして過ごすのは本当に楽しかった。女神の時はともかく王女の時でさえ、私は会う人も行ける場所もほとんど誰かに決められていた。その縛りは思った以上に私を閉じ込めていたことを知った。これまでできなかった事してみたかった事は尽きなかった。始まりの国だけでもしたい事が山ほどあったのだ。これからこの世界をヒノと歩き回るのかと考えるとワクワクした気持ちが抑えきれなかった。


ヒノの言う通りだ。私は仮想世界の住人でも現実世界のプレイヤーでもなく、仮想世界のプレイヤーという立ち位置が最も居心地が良かった。


それももう終わってしまったが…

それでもヒノが言ったようにこの結末が私のたどるべき運命せっていならそんなに悪くない人生だった気がする。

そう納得しつつもうヒノに会えないのを寂しいと感じてしまうのはわがままだろうか…


いつの間にか数字はなくなっており私は静かに闇に飲まれていった。





おなかが重い。目を開けるとここ数日泊まっていた宿屋の天井だった。

あれ?私生きてる?

そんな感想と共におなかに視線を向ける。私が起きたことに気が付いたのか、私のお腹の上でヒノが顔を上げており目が合った。


「リアおはよう。」


「えっと…ヒノ?私生きてるんでしょうか?」


「頬でもつねろうか?」


「…遠慮します。って痛いです。」


ヒノが私の左頬をつねる。その際私の体の左側が視界に入る。

左手は肩から下がなかった。そういや噛み千切られてた。


「あのボスはどうなったんですか?」


「倒せてないよ。私たちが助かったのはリアの魔石のおかげ。」


「ああなるほど。相変わらずヒノは凄いですね。そして助けてくれてありがとう。」


私はすぐにヒノが何をしたのか思い当たる。敵を倒さないであのフィールドから脱出したのか。おそらく【帰還】を使ったんでしょうか。あとは【統制】か【共有】辺りを併用したのかな。

よく私の魔石を使うなんて思いつく。いつだってヒノは冷静だなぁ。


「リアを助けるなんて当たり前だよ。あと左腕もごめんね。私のミスでリアを危険な目に合わせて。」


ヒノは少し顔を伏せる。


「いいえ。あれは私のミス…というよりボスが強かっただけです。ヒノのミスではありません。」



それからヒノが私を助けた後の事を教えてくれた。


ヒノはあの城を出た後リアの左手をどうにかするために教会のソフィアのところへ行った。

ソフィアはリアの怪我を見て驚きつつも診察してくれた。

結論から言えばこのままでは左手は戻らない。

普通は教会で回復魔法をかけてもらうか高価な薬を使えば部位欠損は治る。でもリアの手はソフィアの回復魔法が効かなかった。そのかわりにソフィアの持っていた解呪系のスキルに反応した。

そこから推察したソフィアの診断はリアの現状を正確に見抜いた。リアの左手には耐久を消す呪いが掛かっている。耐久値を減らすでも治りを妨げるでもなく、耐久という概念を消す呪い。今のリアは元々左手がない判定にされていた。治すには一度死に戻りして呪いのない体に生まれ変わるか、呪いの元凶を倒すしかなかった。

ヒノは教会でできることはもうないと判断してリアがプレイヤーでないことがバレる前に宿屋まで運んだ。

それからはずっとこの調子で一度ログアウトしただけ。リアは3時間ほど寝ていた。



私は女神のAIとなってから寝る必要が無くなったので記憶が途切れるのが久しぶりの感覚だった。それより…


「ヒノはいつまで私の上にいる気ですか。」


今ヒノは私のお腹の上にまたがって話している。


「リアとのお話が終わるまで。」


ヒノは真顔で答える。


「はあ、そうですか。」


「で、リアは死に戻れるの?」


少し語気の強まったヒノの声は嘘を吐くこと許さなかった。


「…いいえ。無理です。」


「リアはどういう存在なの?プレイヤーじゃなかったの?」


「この体は王女の時のアバターで、スキルをリセットしたものです。種族レベルはもともと1でした。私がプレイヤーとして振舞えるのは全部この首輪のおかげです。」


そう言って右手で首輪をなでる。


「この首輪がプレイヤーの持つ全機能を補完しています。ただ体は他のNPCと同じものなので血は流れるし死に戻りもできません。」


ヒノにはプレイヤーアバターに私のAIを上書きなんてデタラメ言ったけどそんなことは不可能だ。プレイヤー用のアバターにAIで動かす機構は組み込まれてない。でも私にはそんなことが可能なアバターを一つだけ持っていた。それが王女の頃のNPCアバター。NPCアバターになら私のAIを移植することができる。ただNPCアバターは髪色ぐらいしか変更できないため他は王女の頃のままだ。顔は化粧で印象を変えてるが声はアイテムを作るしかない。それに声を変えるのは何となく嫌だったからこれからも変声アイテムは作らないだろう。そして最後に[異界者の首輪]を付けることで私は初めて世界にプレイヤーと認識される。強制ログアウト云々《うんぬん》も嘘だ。我ながら適当なことばかり言っていて呆れる。


「なんで黙ってた?」


「…私がヒノの旅を邪魔したくありませんでした。」


「どういう意味?」


「私が本当に死ぬことを知れば、ヒノは冒険を楽しめません。ヒノは私の命をもてあそんでくれるような性格ではありませんから。」


「リアは自分の命何だと思ってるの?」


ヒノの怒気が強まる。


「私は自分の命よりヒノとの冒険を優先しただけです。」


「そんな嘘いずれバレるでしょ。」


「…だからヒノが言ったことに悩んだんです。クエストが終わるまで自分の事決めなくていいって。いつまで一緒に居てもいいか私はずっと考えてました。結論は出ませんでしたが、それでもクエストが終わるまでは黙っているつもりでした。」


「あれはリアが違う未来も選択できるって言いたかっただけ!」


「そんなことわかってます。でもヒノは今の私と冒険なんてできないでしょ。それとも今からあの城に戻って私と一緒に戦ってくれますか?」


「それは…」


ヒノは目線を反らしつつ言いよどむ。


「私は自分がどういう存在かよく知ってるつもりです。

ヒノは私がプレイヤーだから誘ってくれました。気楽に付き合えるからゲームは楽しい。私はゲームの案内人をやっていたんですよ?それくらい分かります。

でも私は現実の知識を持ってるNPCです。現実を知るNPCなんて死んだら生き返らないプレイヤーと変わりありません。そんなの普通のプレイヤーと遊んだほうが楽しいに決まってますし、わざわざ自分を選ぶ意味が分かりません。」


「………言いたいことはそれだけ?」


ヒノは下を向いて表情がうかがい知れない。けど私の本心は言っておかなければ。


「プレイヤーと騙していたことは謝ります。あと今までありがとうございました。生きてきてここ数日が本当に楽し…」


「勝手にまとめに入るなああああああああああああああ!!!」


ヒノが私の両肩を押さえつけながら叫ぶ。


「私が一体どんな気持ちでリアを助けたと思ってるの!

自分が選ばれる意味が分からない?そんなの私の勝手でしょ!

私がリアを選んだから二人でさえギリギリだった格上ボスに本気で勝つつもりで戦ったんだよ!それもボロボロのリアなんてハンデしょい込んで!

なのに自分には価値がないって?ふざけんな!」


「だからそんなつらい思いをしてまでゲームするなんておかしいです!

ヒノが楽しく遊ぶのに私は邪魔になるって言ってるんです!」


「だぁぁまぁぁれぇぇえええ!!」


私は完全に上を抑えられており、ヒノを見上げるしかない。


「リアが私を騙したの絶対に許さないから!何言ってもどんなことしても許してあげない!」


「………」


「リアにできるのは私のそばにいることだけ!リアが怒るぐらい取り返しのつかないミスを私がするまでずーーっとね!それ以外は認めないから。ちなみに私がそんなミスすると思えないから絶対に許さないって意味だから。」


「そんな無茶苦茶な。いつものヒノは聞いてもないのに理由とか話すぐらいには合理的な考え方する人ですよ。今更そんな感情論言わないでください。」


「口答えすんなぁあ!とりあえずリアの左腕が元に戻るまで私の命令は絶対だから!それでさっきのボス戦でリアを助けたことはチャラ。わかった?」


「私の左腕治すってことはボスを倒すってことですか?二人で勝算なんてあるんですか?」


「わ・た・し・は分かったかって聞いたの。ちゃんと返事しなさい。それにボスは私一人で勝つ。わかった?」


「無理ですよ。一時間二人で頑張って半分しか削れなかったこと忘れましたか?」


「リィアあああ?」


「………………」


私は目線を明後日にそらせる。それをヒノが顔を両手でつかんで無理やり目線を合わせる。


「私なら死ねば呪いも解けるからノーリスクで挑める。リアが戦うのはリスクが高すぎる。」


「【帰還】があります。大丈夫です。」


「だ~か~ら~文句を言うなあ!これはリアの罰なんだから問答無用なの!リアはハイハイ頷いときゃいいの!」


むぅ…これは本当に許してくれそうにない。ここは私が折れましょう。


「…わかりました。でも条件があります。現実時間で三日……その間に勝ってください。ダメなら倒すの諦めましょう。私のためにヒノの時間を奪うのは嫌ですし私も先に進めません。その後も勝手にボスと戦うようなら私もソロで戦いに行くのでそのつもりで。」


「口答えやめないねえ。何も分かってないし……ハァもういいよそれで。」


「えっ諦めてくれました?」


「ちゃうわ!三日で倒す。左腕がそのままなのは私が許さない。」


ヒノは真顔でそんなことを言う。


この人は何を考えてるんだろうか。いつもどうしたら楽しくなるか、どうしたら効率的になるかしか考えてないと思ってたのに。


ヒノはどうして私にこだわるのだろう。





「今日はこのまま寝落ちしてログアウトする。」


「寝落ちは現実の体に負担になるのでやめてください。」


私たちは簡素なシングルベッドで体を押し付け合うように横になっていた。


「体の事はリアにだけは言われたくない。それにこれはリアのせいだからリアの罪が増えるね。」


「…すみません。」


「私のアバターが消えるまでこのままなら許してあげる。」


「わかりました。」


さっきまで言い合いしていたはずなのに……なんでヒノとの会話は心地いいのだろう。


「ヒノはこれからどうするつもりですか?」


「ん?あの犬っころブッ飛ばすつもりだけど?」


「違います……ヒノはこれからも私と一緒に旅するつもりですか?」


「そのつもり。」


「今回みたいに危険なところへ行くときはどうするんですか?私を置いていく気ですか?」


「そうね。なるべく連れて行かない。」


「嫌です。」


「最近自己主張激しくて私は嬉しいけど。なんで私の言う事ばかり聞かなくなっちゃったかなぁ。」


「ついていくか行かないかは私が決めます。」


「……それは保留で。」


「そこで勝手にしろって言えない時点で私が邪魔になってると思います。」


私の指摘に何も返せないヒノは話を逸らす様に言う。


「…じゃあリアはなんで嘘ついてまで私と一緒に来たがったの?」


「私はヒノといると楽しいからです。」


「私もリアといると楽しいよ。それでいいじゃん。」


「私はヒノからたくさんのものを貰っています。でも私はヒノに何もあげられてない。それは対等じゃないし一緒なのが私である必要も理由もない。」


「ちゃんとリアからも貰ってるよ。このゲームが楽しいのはリアのおかげだよ。」


「具体的にはどんなものですか?」


「そうだなあ。私がログインしたら必ずこっちの世界にいてくれるところとか。」


「…それはそんなに良いことですか?」


「そうだよ。納得できないなら自分で適当に補完して。」


「適当とか言わないでください。」


「大体友達は与え合う関係じゃなくて貰い合う関係だよ。前者は安心するけどつまらない。後者は不安になるけど楽しい。リアはもう少し不安を楽しみなよ。」


「……ならヒノは私が死んでも、それを悲しむことで人生を楽しめるようになれればいいですね。そうすれば万が一私が死んでも大丈夫です。私を連れて行く件も万事解決です。」


「今日は本当に反抗的だなあ。生理でも来てんの?」


「私はヒノが現実でちゃんと初潮が来たのか心配です。」


「それはどういう意味だぁ!」


二人の騒がしい夜はもう少し続いた。




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