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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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月の狼戦4





「リア!リアああああ!」


なんでHPは満タンのはずなのに!リアのHPバーはフルになっていることを確認する。HPバーの隣には4つもの状態異常を表すアイコンが浮かんでいた。これが逆にリアの生存を示しているように感じて少し落ち着いた。

落ち着くと同時に、今の状況が如何いかに詰んでいるかを考えてしまい軽く絶望する。


死に戻りはできない。私はできてもリアは本当に死ぬ。根拠もないのに私の頭はその考えに支配されていた。


このフィールドからは逃げられない。城壁の上にも見えない壁の様なものが展開している。


黒銀の大狼はすでに私の無理やり作った牢獄を突破しており、私たちを探すようにゆっくりと周囲をうかがっている。私たちがここを出るにはあの大狼を倒すしかない。

リアと二人でさえギリギリだったのに、気を失ったリアを守りながら倒さなければならない。


現状を言葉にするだけで絶望感が体の端々からしみ込んでくるようだった。



――駄目だ

――できない理由を考えるな

――この状況をひっくり返す方法を考えろ

――私にできることはまだある

――環境を余すことなく把握し

――その全てを受け入れろ


――その上で想定外を起こせ



私は数秒で覚悟を決め纏わりついていた真っ黒い感情を振り切った。

まず時間が欲しい。そのための方法を考える。

リアから離れて敵を引きつけるか。リアを連れて逃げるか。

一瞬で決める。私はリュースさんから買った短剣を逆手に持ち、リアの白いアーマードレスを首元から切る。少しの時間で服の耐久値に限界に達し、複数のポリゴンと散る。そこには薄いキャミソールに黒の下着姿のリアがいた。今はとにかく重量を減らす。リアの腰にあったポーチは私のストレージに入れた。


視線を上げると大狼と目が合う。距離があるからか再度ブレスを放つ準備に入った。私はリアに抱きつき、血で体に巻き付ける。そのまま右に敷かれた血のレールに倒れ込むように飛び込む。背後から水晶ごと吹き飛ばすブレスの轟音が響く。


「ぐうぅ…。」


私はリアを後ろに背負い直しつつ、硬化した血でリアの体を落とさないように固定する。そのまま水晶の隙間を縫うように滑走を始めた。リアの体が軽く感じる。リアが無装備なのと左手が肩から先がないせいだろう。かついでも無理なく動ける。私の装備重量上限は足りたようだ。でもこの状況じゃ滑走するのが限界。他の血もほとんど動かせない。


リアの体温が背を通して感じられる。それだけが私を支えている。客観的に今の自分がリアと離れて大丈夫とは思えなかった。だからリアを連れて逃げる以外に選択肢なんて私になかった。


私の限界なんてそんなものだ。リアを救うことも大狼に勝つことも私には想像すらできない。

それでも私は自分の限界の超え方を知っている。考え続けることだ。考えれば考えるだけ今まで見えていなかったものが見えてくる。未知を埋める事こそ私の限界を広げることにつながる。それが現状打破するたった一つの可能性。


背後から大狼が迫る。今私が操れるのは20m程のレール二つ分と、私とリアを結ぶ血だけだ。レールを一つ敷いて、もう一つ分は球体にしてそばで待機させている。大狼が私が通った後のレールの下に来た瞬間、剣を取り出して柄の部分の血を硬化する。一時間近くしてきた攻撃だが、この不意打ちは簡単な上に効果的だ。しかし、黒銀の大狼は首に刺さった剣を薙ぎ払うのに少し立ち止まっただけですぐにこちらを追ってくる。


私は首に刺さった剣が黒ずんでいたのを見逃さなかった。リアの剣が簡単に壊れた理由も同じなのか。敵の名前はたしか暴食のマーナガルム。マーナガルムは知らないが暴食が原因で剣が壊れたり、黒ずんだりしてるのかもしれない。近づくのは悪手だ。今までの出来事から考えて恐らく武器の耐久値を食ったのだろう。大狼のHPは変わってないから食ってもHPが回復するわけではないようだ。奴を倒すのにこれは利用できるか?例えば自滅は?武器以外の耐久値も食えるのか?

そこまで考えてリアの傷口を思い出す。見てみると、真っ赤なポリゴンでスパッと切れている。もう血は出ていないようだが、切断面から続く肌が黒ずんでる。武器でも人の体でも効果は同じ?耐久値が減ったから部位欠損したのか?そもそもこれはスキルなの?


「こんな時リアがいてくれたら…」


もう一度リアから熱を貰いつつ、近づいてきた大狼を巻くために水晶の後ろを回るようにレールを直角に曲げる。

急カーブの後MPポーションを飲みつつ背後を見ると、急に止まれなかったのか少し大回りしながら、黒銀の大狼はこちらを追ってきた。

結晶化ブレスも耐久値を下げる効果があるのか?あんなのかすっただけでVITが最低な私はHP全損するだろう。ブレスの後の結晶は今も残ってる。触れないに越したことはないが…ブレスを反射させるのは?いや元からある水晶すら破壊したんだ。無理だ。私が持っている手札でブレスに対処できるとは思えない。いや待て、何か引っかかった気が…考えを止めるな。あの大狼は青白く輝く水晶の方は作れるのだろうか?このままブレスを吐かれ続ければどんどん逃げ場所が無くなっていく。ダメ。大狼の動きに不自然なところもないし、近づくにはリスクが高すぎる。あと私の想定外になりそうなこと。ああーもう思いつかない。考えろ。何か見逃したものはないか。


それからはブレスの場所を通らないことと大狼の視線が切れることを意識しつつ全速力で滑走し続けた。

しかし、時間が経つごとに、何もできずただ逃げ続ける現状と行きつく最悪の未来が私の精神を限界に近づけていった。





緊張状態からか時間の流れが認識できない。そんな中逃げては隠れ、MPとSTMを回復させてはどうすればいいかを考え続ける。

大狼の牙が目の前にある。咄嗟にストレージから比較的大きい武器を私たちと敵の間に壁となるように取り出す。

突然出てきた障害物を前足で振り払うように大狼は吹き飛ばす。意図的に作った時間で距離を取る。都合よくあった水晶の陰に隠れ、大狼の視線を切った。


いた時間を作ると焦る心から感情があふれ出す。こぼれた気持ちがついに私の許容を超え、思考を塗りつぶした。


「リア。リアぁ、どうしよう。私じゃ無理だよ。たくさん、たくさん考えたんだ。でもその度に戦いがどう終わるかまで想像しちゃって。考えるたびにリアの死に方が増えていくだけで…。」


私の中の何かが崩れていく。


「もういや。もう考えようとすると手が震えてくるんだ。ねぇ答えてよ…リアぁ。」


私のすがるような声に応える者は誰もいない。それでも声を出さずにはいられなかった。


「だいたいリアのことだって何も知らなかったんだよ。数時間前に元王女って知って、たった今プレイヤーじゃないって知って…。」


……リアこそ私の想定外。


私は思考を急停止させる。巻き戻せ。今何かがつながった。何だ。この状況を打破する鍵は何。

崩壊に片足踏み込んでいた頭のギアをなけなしの期待で無理矢理回す。

リアだ。私はリアの事を考えた。でもリアの何がこの状況を打破するっていうんだ。今のリアは薄い下着姿で武器もなければ…ストレージの中身すら…取り出せ……ない……。


いや、まだあった。リアの持っていたものが。私はメニューを操作し一つのポーチを取り出す。それはリアが最後まで身につけていたとあるアイテムを入れるためのもの。

これが最後の希望。

ポーチの中は黒い石で埋め尽くされていた。それら全てを自分のストレージに入れる。そしてたった今入れたものの詳細を調べる。



―――――――――――――――――――――――――

魔石:INT上昇

この魔石にはスキル【INT上昇】が《封入》されています

―――――――――――――――――――――――――



「よし!私でも詳細が分かる!」


Lvも効果持続時間も分からない。けど何が封入してるかは分かる。このゲームはストレージに入れれば大抵のアイテムの詳細が分かる仕様だ。ただ本人が対応するスキルを持っているかどうかでより詳しい説明が表示される。私に【魔道具】スキルがないため最低限の情報しか表示されていない。でも今はこれだけ見えれば十分だ。


「大丈夫。大丈夫。まだリアを諦めないでいられる。」


希望が続いていることに安堵し気を抜いたのがまずかった。大狼に見つかったことに気付くのが遅れる。血の制御も遅れ大狼に接近された。一本の剣を投擲するも大狼に噛み砕かれる。即座にレールを作り、大狼の突進を避ける。


「もう、しつこい!」


咄嗟に作ったレールの先は両側をブレスの結晶で塞いでいた。それが城壁まで続いて逃げ道は一切ない。

それでも全速力のまま城壁に向かって行く。後ろを確認すると大狼は壁に近付くにつれ少しずつ速さを落としていた。私は壁の直前でレールを少し横にずらしてそのまま城壁をつたうように設置する。リアを背に感じながらさらにスピードを上げる。


「いっけえええええええええ!!!」


壁にぶつかる直前に地面をける。壁にぶつかるのを血で衝撃を吸収した。勢いそのままに壁を滑走していく。

その間にもリアが持っていたスキルを封入した魔石を調べていく。大狼も壁に突き出た水晶を踏み台に追いかけてくるのが目の端に映った。


「これだ!それとさっきのと合わせれば。」


目当ての魔石二つを右手に出す。後ろを確認すると大狼は水晶の上から口を開けブレスを吐くところだった。私は魔石に魔力を加える。そのまま加わった二つのスキルを使った。大狼のブレスが私の目の前まで迫る。ぶつかる寸前私たちは光に包まれた。





気が付くと目の前は白亜の城の城門前だった。たった1時間半前に同じ場所にいたとは思えない。

手には二つの魔石がまだ光っていた。


―――――――――――――――――――――――――

魔石:共有

この魔石にはスキル【共有】が《封入》されています

―――――――――――――――――――――――――


【共有】:【共有】発動時これ以外のスキルを併用すると自分のパーティメンバーの1人にも同じスキル効果が得られる。ただしこの時使用したスキルの必要対価は倍になる。


―――――――――――――――――――――――――

魔石:帰還

この魔石にはスキル【帰還】が《封入》されています

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【帰還】:2時間ステータスを半分にすることで自分が一番最後にいたセーフティエリアに転移する。



この二つのスキルを併用してここまで帰ってきた。今から4時間私たちのステータスは半分になるがそんなことどうでもいい。


私の周りは一緒に転移した私の血が落ちて血だまりとなっていた。背にはリアの体温が伝わってきたが、それだけじゃ足りずリアを地面に押し倒す。


「……リアぁ…よかった…ホントによかったよぉ…」


リアをきつく抱きしめながら、血と涙が乾くまで私の口からは安堵の言葉がこぼれ続けた。




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