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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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それは長い長いチュートリアル2




この一年、私は小学校から大学までが一貫している大学付属の女子高に通っている。選んだ理由は大したものはない。小説に出ていたお嬢様学校というものに興味が出たから。それだけ。だが私という人間はそれだけで十分行きたい理由になった。



私は幼いころ母さんに色んな所に連れ回された。休みの日には日本中を駆け巡り、観光名所でおいしいものを食べレジャースポーツを楽しみ、砂丘でお絵かき(犯罪)までした。大型連休には海外まで行動範囲が広がった。今思うとハチャメチャな母親だったが、私はそんな生活が大好きだった。自分の知らない場所や知らない文化、知らない遊び、知らない知識が自分のものになっていく。日御碕灯という存在自体が大きくなったような高揚感。その感覚が楽しかった。


そんな生活は私の性格に大いに影響した。目についた物事は何でも自分の限界まで挑戦する。それが私の当たり前になった。それも一つの事に夢中になれば他の事など後回し。人の目も気にせず自分の世界を広げる事しか私の頭にはなかった。



さてそんな普通の子とはかけ離れた昔の私は自分の考え方が周りとずれていることなんて分からなかった。常識が他の人とズレている事なんて思ってもみなかった。

それに気づくのは遅れに遅れた。切っ掛けは些細な事だったと思う。例えばクラスの子がクラブに入れば学校を卒業するまで続けるのが当たり前だと言う。当時の私はその子が何を言ってるのか分からなかった。スポーツクラブに入れば半年やって一通りのポジションで活躍した時点でそのクラブを抜ける。バレーやバスケ、男の子に混じってサッカーや野球までたくさんのクラブに入った。ただ一番長くいた吹奏楽も一年持たなかった。部やクラブの仲間が最後に向ける言葉は決まって私への非難だった。『なんで上手なのにやめるんだ。』『もったいないから続けろ。』『今度のコンクールはあなたも人数に入れていたのよ。今更辞めるなんて勝手です。』

理解不能。できるようになったら次に移る。それが私の当り前。私からすれば自分で始めたことを卒業やら大会やらを区切りにしていることが――やめる時を自分以外の誰かが決めている方がおかしかった。


私が周囲の意見に合わせることはなかった。私を不満に思う人と同じくらいには私は友達も多かった。コミュ力は元々高かったし、私がそういう人間だと周知されればその上で勧誘される。色んな所に所属すればその分知り合いも増える。他人を気にしない自由な私の振る舞いはさして問題にはならなかった。その事実は周りを気にしない私の性格を加速させた。



そして現在。世間における一般常識を知っても、私の本質――自己中心が変わることはなかった。



そんな私が今回興味を持ったのはVRMMO。そのゲームについて友人たちから聞いた話は多い。


・多くの企業がゲーム開発に参加した事。

・グラフィックのリアリティやプレイヤーの感覚同期もそれまでとは一線を画す事。

・ゲーム内システムがリアル準拠とゲーム的簡略化を両立している事。

・プレイヤーが専門のサイトに投稿した動画を運営がランキングにして公表し、上位にはランキングでのみ手に入る消費アイテム、そして視聴数とは別にリアルマネーが送られる事。

・リセマラやサブアカウントを許していない事。


これら全てが他のゲームでは成し得なかった。じゃあ何故このゲームにはできたのか。その理由を私は知っている。いや誰でも知っていると言った方が正しいだろう。それこそがこのゲームを流行らせた原因なのだから。


完全没入型仮想世界という技術が医療だけでなく商業に広まって10年。そんな中突如として現実で個人登録しなければ買えない新型VRハードとして"アーバティオン"が開発された。同時にアーバティオンでのみ没入可能なWorld Cubic Garden(WCG)通称ガーデンと呼ばれるインターネット上の仮想世界(メタバース)が稼働した。日本で国営のメタバースが作られたという事実は世界中が震撼した。


それは多くの企業や機関が窓口や会議の場として採用した。国が管理する信用はそれほど大きかった。そして個人が特定でき現実で会わなくとも法的やり取りが可能な場所はその利便性において従来のPCやインターネットを遥かに凌駕した。一年がたった今、WCGは一般人ですらコミュニケーションの場として当たり前となっている。


こうしてガーデンが始動し、ハードとなるアーバティオンを一般にも普及するために開発されたVRゲームこそがCNOなのだ。

つまりCNOは最初で最後の国が管理するMMORPGである。

誰もが持っているハードで他より圧倒的に規模が大きくクオリティも高いゲームが流行らないはずがなかった。



そのCNOが今私の手元にある。



『この世界はときに現実より夢あるリアルと化す』



最近読んだ雑誌に載っていたこのフレーズは私の心に火をつけた。

高まる期待をそのままに私はアーバティオンの電源をつけた。



こんな世界になればいいのにという願望を込めて…

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