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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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月の狼戦3




この城に入って30分程経っていた。ようやく一本目のゲージがなくなったはいいが、時間がかかりすぎである。

私は4時間で一度ログアウトする必要がある。この調子だと倒せるかははっきり言ってギリギリだ。しかも絶対に後半になるほど強くなるに決まってるし、集中力だっていつまで続くか分からない。


「ようやく一本か。リアは疲れてない?」


「私はAIですので疲れませんよ。ヒノは大丈夫ですか?」


「まだね。今はリアが前に出てくれてるから。」


そこまで言った途端、少し離れた大狼の灰色の毛並みが銀に輝き周囲に三つの水晶が突き出した。そのまま大狼の周囲に漂い始める。

大狼は今までと違って銀に輝いたままだった。


「また面倒な。」


「ヒノは引き続き水晶の処理をお願いします。ただ本体がヒノに攻撃するのはなるべく防ぎますが、注意してくださいね。」


「了解!」


んー何か嵌められればいいんだけど。そう考えながら上空の血からハンマーを突き落として漂っていた水晶の一つを砕く。残り二つはそれぞれリアと私に飛んできた。リアはパリィしながら、私は高速で滑りながら回避する。


すると私の血の道の先で円が輝き始めた。私の周りの血を動かし、血の道の隣に沿って配置するよう命令する。新たなレールが完成する前には左足で地面を蹴飛ばした。ギリギリで完成した隣のレールに移りつつ、バランスを取る。退避前の血の道を回避させようにも間に合わず、輝いた円から突き出してきた水晶によって制御を失った。


リアの方も回避してるのだが、床から突き出した水晶を砕く手段がないため少しづつ追い込まれている。


きついなあ。血のストックは十分だけど、節約できるならしたい。

私はハンマーを回転させ水晶をまとめて破壊する。破片が空中にバラまかれ、光が反射しダストのようにキラキラと輝く。

そんな中、蒼白の髪が舞う。増やしたスキルの効果なのか、先ほどから空中を蹴って立体起動に動きつつ大狼に細剣を叩き込んでる。


「あまり動きすぎると私が攻撃できないからほどほどにお願い。」


このゲーム味方を攻撃するとダメージはほとんど受けないがノックバックが発生する。


「わかりました。後ろには回りません。」


リアがうまく引きつけてくれてるうちに、大狼の周囲に血を配置する。そしてリアに突進してくるタイミングで槍を取り出し地面に固定。再び大狼の首元に攻撃する。この大狼は唯一首元が弱点のようで、逆に言えばそこでしかスタンしない。こっちの攻撃力が足りてないのも原因だろうが、体に斬撃攻撃しても毛のせいかほとんどダメージにならない。


g g G G A V V A A W W W u u u U U r r R R A A A A A A A A A A A A A A A


スタンが終わるまで攻撃すると、銀の大狼は叫び声を上げる。そうすると中庭内の地面からはもちろん城の城壁からも光り始める。視界が大量の光で覆われた。


「えっ、ちょっと待っ」


私は言い終える前に滑走する勢いそのまま、レールを中庭中央まで伸ばし先端を上空に向けた。光が強くなっていく中、レールを滑走していき最後に5m以上の大ジャンプを決める。次の瞬間。地面と壁、フィールドというフィールドから大量の水晶が突き出す。地面に設置していた血はレールもろとも全滅した。


空中でストレージのMPポーションを飲みつつ周りを確認する。リアは唯一光っていなかった大狼のそばで先ほどの水晶攻撃を避けていた。これ初見殺し過ぎませんかね。おそらくリアの避け方が正解なんだろうけど、動けない後衛を確実に殺しにきている。

そんなこと考えていると大狼が城壁から突き出した水晶を経由してこちらに向かってきた。


「緊急脱出シューターぁぁぁぁあああ!」


新たに取り出していた血を地面に伸ばし滑り台を作り、私はそこへ向かってヘッドスライディングする。

間一髪躱すと大狼は飛んできた側と反対の城壁に着地していた。いつの間にかフィールドの水晶が半分くらいなくなっている。出すも失くすも思いのままなのか。


私は地面に頭から滑りこみ、不格好に立ち上がりながらレールを敷きなおす。滑走し始めながら上空の血で剣を5本連続で投擲する。うち3本は大狼の体に刺さるも、2本はしっぽで薙ぎ払われた。

大狼のHPは二本目の半分も削れてない。


「大丈夫ですか?」


滑走する私のそばでリアが並走する。


「なんとか。」


「水晶の破壊はキリがない気がしてきました。」


「ちょうどそれを言おうかと。私は最低限水晶を破壊するから、ここからは攻撃重視で。リアも大体スキルが揃ってきたでしょ?」


いいながらハンマーを振り回す。今出てる水晶は先ほどのより大きくなかなか壊れない。もしかしたらこれが第二ラウンドのフィールドってことか?


「はい。では行ってきます。」


そのまま私を追い越し大狼に向かっていくリア。リアに合わせるように牽制で槍を投擲する。大狼はそれを一足で水晶の上に移り、躱す。


大狼は私たちの速さより少し速いぐらいだが、水晶をうまく使って立体的に動くようになった。

リアはその動きについていくように空中を蹴り、接近時は剣の強化、少し離れたら振動波を放つ。振動波にも魔法が付与されているようで薄い青に輝いている。

私は水晶に罠を張るように血を待機させ、大狼が着地する直前で数本の槍を出現させ攻撃していく。大狼の勢いと体重を乗せた攻撃になるため予想以上のダメージ量が出た。これがはまって、一本目と同じく30分程度で2本目がなくなる直前まで持ってくることができた。


「2本目入ってからずっと銀に輝いてるし、3本目入るとまた変わるかも。だから注意ね。」


「ですね。あと半分頑張りましょう。」


リアの言葉を聞きながら上空の血から槍を取り出し投擲する。わずかしか削れなかったが、確かにHPは3本目に入った。

大狼の様子を見ると、体勢を低くしてうなっていた。大狼の様子がゆっくりと変化していく。


その瞳がエメラルドからルビーに変わる。銀に光っていた全身が徐々に黒ずんでいく様は鳥肌が立つほど異様だった。


そのまま口を閉じ顔だけ上向いたかと思うと、勢いよく口を開いた。とっさに右に飛び込み、血で滑る。大狼の口からはものすごい勢いでブレスが飛び出した。そのブレスは空気を蒼銀の結晶にするかのようだった。間一髪のところで私の目の前を通り過ぎていく。

青い光を反射する銀の結晶が私のいた場所と大狼を一直線に結んでそのまま城壁にぶつかった。この世界に来て一番の迫力に一瞬気圧(けお)されてしまう。そのせいで迫ってきた大狼に一瞬対応を遅らせてしまった。

ヤバッ!これは死んだ。そう思った時だった。


「ヒノ!」


リアが叫びながら私と大狼の間に飛び込む。無理な体勢で割り込んだためか細剣で受け流すのではなく、大狼の牙を真っ向から受け止めてしまう。

金属の甲高い音が中庭に響き渡る。


毛が黒くなった大狼はそのまま口を閉じる。

そしてリアの細剣をいとも簡単に噛み砕いた。


そこで大狼は止まらない。いきなり剣を砕かれさらに体勢の崩れたリアに大口を開けて迫る。


「……ぁ…」


私の口から小さく息が漏れ出た。


リアが左手を前に突き出すと、大狼はその左手を咥え、後ろに振り返りながら噛み千切った。

リアが大狼を挟んだ向こう側へ吹き飛んでいく。


色々な感情が渦巻き冷静な判断の邪魔をするが、この時はリアのところにこいつを向かわせてはならないと咄嗟に判断できた。せめてリアが回復するまで私一人でこいつを抑える。


――私はちゃんと考えていた。ここからどうやって立て直すかを。



城壁のそばで片手を失くし、()()()()リアが体を屈めてうずくまっている姿を見る時までは。



有り得ない。意味が分からない。頭の中を殴られた気分だった。


なんでリアは血を流している?――有り得ない。


なんでリアは痛みを感じている?――意味が分からない。



プレイヤーは血を出さないし、痛みも感じない。


そこまで考えて私は飛び出していた。

リアへ追撃しようと後ろを向く大狼に腹の下から突き上げるように大量の血を盛り上げながら、とがらせて硬化させる。それに合わせて槍を大狼の周囲から閉じ込めるように突き刺す。

消費した物に対してほとんどダメージを与えられてないが今は時間が欲しい。これなら多少は時間が稼げる。


私は水晶に隠れつつリアまで最短で行けるように血のレールを配置する。先にたどり着いた血の先端からHPポーションを取り出しリアにぶつける。

視界の端に表示されたリアのHPが残っていることを確認しつつ、はやる鼓動を抑えつつリアの元へ急ぐ。


「………リア…リアぁ…」


喉の奥に何かがつっかえた声でリアの名を呼ぶ。


私の脳裏には昔感じたことのある冷たい感情に支配されていた。その感情が私の体を凍らせるように自由を奪うのを必死で払いのける。


リアのところにたどり着いた時には、HPはあるのにリアはひどく弱っていた。

私はリアを抱えながら水晶の影に入る。


「リア!目を覚まして!リアああ!」


すると、少し身じろぎをしてわずかに目を開ける。


「………ヒノ…だまってて…ごめんなさい…」


リアはそれだけ言うと完全に意識を落とした。




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