月の狼戦2
私の攻撃でスタンした大狼に私とリアが追撃する。
数回の攻撃の後、大狼は怒りを緑に輝く瞳に乗せ、吠える。
G r a a v V o o o O O O W W W A A A A A A A A A A
リアほどではないが私の上げていないAGIでは到底ありえない速さで私も大狼と距離を取る。
このウォータースライダーならぬブラッドスライダーはAGIを参照しているように見えるが、違うのだ。これは厳密には私は血を操り、操った血が私の体を運んでいる。血はMPで操っているので、この時の血の動きが参照されるのはINTの値だ。INTが高いほど素早く、力強く、動く。だからこそ血に乗っている私もその速さで動けるというカラクリだ。
そもそも血で投擲する際はDEXとINTで演算されている。ちなみに弓や普通の投擲はDEXとSTRで演算されるらしい。紛らわしいのは血で何かを持つ時でSTRが参照され装備重量上限もある。簡単に言えば血で何かを持つにはSTR、動かすにはINT判定なのだ。攻撃判定にもSTR優先だがこの二つが干渉しているとのこと。以上リアペディア参照。
そして宙に浮くと要求装備重量値が高くなって速く動けない問題を、今回は床を滑ることでクリアした。これなら私が走るより圧倒的に速い上STM消費を抑えられる。まさに画期的移動方法なのだが、街中で血の靴でやると完全にスケートしてるようにしか見えなくなる。さすがに人が多い中でサーフィンやらスケートやら水平エスカレーターはあまりに目立つので禁止している。
大狼が上を見上げる。私が上空の赤い水から攻撃してることに気が付いたようだ。
まあお前じゃ届か…
次の瞬間。灰色の毛並みが銀に輝いくとともに、大狼の周りに1mのでかい水晶が3つ、地面から突き出され上空に向かって射出した。
私はあわてて血を移動させようとしたが、動揺して回避できず半分近くをぶちまけられた。
「マジか!」
そりゃただの犬っころには見えないがいきなり遠距離攻撃はまずい。何がまずいかって、私のいつもの必勝パターンが使えない。飛行中はAGI最低値の私が早歩きする程度の速さなのだ。それに攻撃に割くリソースもなくなってしまう。
「これが私の初戦闘か。」
「今までが戦闘になってなかったことをようやく認めましたね。」
リアの呆れ声を黙殺しつつ考える。
「リアは私を気にせず前衛で耐えて、私は遠距離の水晶を優先的につぶす。」
「わかりました。では私も切り札を作っていきましょう。」
「…もしかして、もうレベル足りてるの?」
「ええ、案外レベル上げが楽しかったのです。」
リアは王女時代も女神時代もレベル上げをしたことがなかったらしい。もしかしたら王女時代の頃もリアに自由はなかったのかも。そんな考えが脳裏をよぎったが目の前の笑顔を見てそれを打ち消す。
「さて元スキルの女神の実力、見せてあげましょうか。」
今が本当に楽しそうなリアを微笑ましく思う。
「MPポーション無くなったら言うんだよ。」
私の言葉が終わる前にはリアが大狼に突っ込む。ぶつかる2mで急停止したかと思うと、サイドステップで右に跳びながら剣を大狼の鼻にぶつけながら受け流す。その勢いを借りて後方に2m程ジャンプする。着地と同時に再び大狼に突進。
大狼の方は走りながらその灰の体を銀に輝かせた。リアを巻き込むように青白く輝く直径1mの円形が複数生まれる。リアはとっさに突進を止め、光を避けるように右に跳んだ。円が一瞬光を強めるとそこから高さ2m弱の水晶が下から勢いよく出てきた。それすらパリィしつつその勢いを借りて大狼との距離を詰める。
出てきた水晶は私がハンマーで壊した。
「ハンマー新調しといてよかった。リュースさんに感謝。」
その間にも攻撃を防ぎ続けたリアの最初に現れたウィンドウが消える。リアは少し距離を取ると空いた左手から5本の指に挟むように4つの黒い石を取り出す。
「幸先がいいですね。《封入》」
そのうちのひとつが光りだす。そのまま黒かった石は緑色に変わる。
「フフフフッこれでようやくスキルを集められますね。目指せコンプリートです。」
リアがなんか不気味に笑ってるけど、大丈夫かな。コレクターに目覚めちゃったかも。
笑いながら細剣から何か風の刃みたいなのを大狼に飛ばしていている。【スキルスロット】で手に入れたスキルだろう。
「大盤振る舞いです。」
そう言うと先ほどの緑色の石が淡く輝く。そして10秒経ったはずなのにそのまま風の刃を生み出し続けていた。
「今【スキルスロット】と【魔道具】のレベルはいくつ?」
私は剣を投擲して大狼を牽制する。
「26と30です。今の【衝撃波:付与】はLv13で効果時間30分ですね。」
「やっぱり【魔道具】が一番高いのか。というかもう30分も使えるのかあ。」
【魔道具】これは様々なものに魔法的効果を持たせるというスキルだ。火属性の魔石から魔力を流すと火を出すようにする《物質効果》のアーツなど結構できる事の幅は大きいらしい。ちなみに魔石とは魔物から稀にドロップするもので色々使い道があるのだが、【魔道具】ではほぼ必須なものだ。魔石は高価で【魔道具】のレベル上げはお金がかかるはずなんだが。どうやったんだろ?今度聞いてみよう。
今回は使ったアーツは《封入》。これは魔石にスキルを封じるというもので、できた魔石に魔力を込めると封入したスキルが使えるようになる。封入したスキルが自分のスキルならレベルは半分、他人のスキルなら成功率が低い上レベルが10以上にならない。もちろん魔石の品質でもレベルが変わってくるが、この限界値が上がることはない。もう一つの要素が効果持続時間だ。【魔道具】のレベルと魔石の品質によって封入したスキルを使える時間が決まる。
まあ欠点は、スキルを使うにはスキルに必要なMPやらSTMとは別に魔石にMPを消費しないといけない事と、あくまで自分のステータスを参照されることだ。
リアはこの二つのスキルを利用している。十秒という短い間に魔石にスキルを封じることで、いつでも使えるようにし効果時間もはるかに長くなった。【スキルスロット】で出てくるスキルのレベルは【スキルスロット】と同じ。つまり魔石に《封入》したスキルレベルは【スキルスロット】の半分になる。現状でも封入できるスキルレベルが13なら十分使える。
大狼は遠距離から攻撃されることをうっとうしく感じたのか周りに水晶をはやして身を守っていた。
その間にもリアの魔石が次々に光っていく。
「いや、二人でリアのスキル構成考えたけどさ。これは反則だよね。」
「やろうと思えば、魔石はヒノも使えるんですから文句言わないでください。それとも使いませんか?」
「…い、一応自分のスキルレベルが上がらなくなるからほどほどにしとくね。」
「それもそうでしたっ」
大狼が水晶の裏から跳び出しリアとぶつかる。するとリアの左手の石のひとつが淡く光っており、細剣と大狼の切りつけた痕が凍りついていた。おそらく【氷魔法:付与】を引いたのだろう。リアはINT上げてないのでそこまで威力は出ないが氷魔法は相手のAGIを下げる効果がある。追加効果はINT値に関係ないので使ったのだろう。そして、持っていた石の中でいらない物を自分のベルトポーチに入れる。代わりにストレージから新たな石を左手に挟んでいた。
「さて、私のスキルを増やすのに協力してください。」
リアの景気のいい声が響く。
それに勢いづくように一本目のゲージがなくなるまで、危なげなく削っていった。




