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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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月の狼戦1




強い光に包まれ思わず目をつぶってしまう。次に目に入ったのは足元の青白く光る水晶だった。

徐々に目線を上げていくと、真っ暗の中、点々と一本の道に沿うように光が続いていた。

その先には、光る水晶の散りばめられた白亜の城が暗闇に浮かぶ。

天井にも光る水晶があり、洞窟のように岩で覆われているのが分かる。


その城は前から見ると七本の塔がシンメトリーに、上から見ると円を描くように建てられている。

塔と塔の間は城壁のように繋がり、一番奥の塔だけ他の六本より高い。

まっすぐな光の道にぶつかる城壁にはアーチ状の城門が閉じられていた。

緻密に組み上げられた白いレンガは一つ一つがほんの少し色が違い、人が時間をかけた際の歴史を感じさせる。


洞窟という閉鎖的な空間にそびえる蒼白の城という幻想的な光景に私は見入ってしまっていた。


「確かにこれは現実じゃあり得ない、まさに夢でも見ているような感じね。」


「…ルティアス城…なんでこんなところに。」


「えっ。どういうこと?」


「この城はもともと始まりの丘に存在していた私の家です。私が始まりの国を出たと同時に無くなったと思ってましたのに…」


リアは胸の郷愁を抑え込んでいるのか、口を結んで耐えていた。


「とりあえず行ってみようか。」


「はい。」


光の道は私たちの周りの水晶だけがより強く光っている。

私たちが歩き始めるとそれに連なるように光が追随する。


一分ほどで城門前にたどり着く。そこには柵のような真っ黒な檻の扉とその奥に木造の扉の二つがあり、二重構造になっている。


一つ目の扉に触れると扉を開けるかARが表示され、Yesを押すと檻の扉は少しづつ外に開いた。

城壁の奥行きは5m以上あり、先の扉にも触れる。

同じように木造の両扉も開けると、直径50mはある中庭に出た。


その光景は異様なものだった。


中庭は石畳が一面に敷かれ、その中央には私の身長の三倍ある灰色の狼が体制を低くしつつ、エメラルドに輝く瞳でにらみつけていた。


―――――――――――――――――――


【The Gluttony Managarmr Lv52】


―――――――――――――――――――


その大狼の頭上には敵を表す黄色い逆三角形のカーソルと名前、レベルが浮かんでおり、その下にHPを表す緑色のバーが4本主張していた。


「戦闘準備!」


とっさにそう叫ぶも、まだ扉を開けただけで中に踏み込んでいないためか、灰色の大狼は前傾姿勢のままそこを動かない。

隣を見ると白銀の細剣を片手に厳しい顔つきで大狼をにらみつけるリアの姿があった。そして目の端で後ろの檻の扉が閉まっていることに気付く。

前を向いたまま後退り扉に触れても何も起こらないことを確認してから再びリアの隣へ並ぶ。


「リアはアイツの名前の後半分かる?」


「あれはマーナガルムと読むんですよ。暴食のマーナガルム。」


リアさんは英和辞典でもインストールしてんのかな。もしくはウィキ○ディア。


それにしてもレベル52か。私たちには高過ぎるが、ナショナルクエストとしては低過ぎる気がする。

始まりの国周辺のフィールドボスで一番高いのがLv30。それを倒すのにもリアと二人がかりでも30分近くかかった。ただフィールドボスは動きが単調すぎてほぼ作業になっていたが、この大狼は作業で倒せるとは思えない。


2m越えのクマにも本能的な危機を感じたが、この大狼からは触れてはならない禁忌的な雰囲気が漂っている。


「リアはあいつのレベルについてどう思う?」


「私たちのレベルは22ですので、普通に考えれば倒すのは無理でしょうね。あと半端な数字なのが気になります。52は22に30足した数と考えれば案外私たちのレベルに合わせてるのかもしれません。今までクリアできていないナショナルクエストのレベルを考えると52は低すぎます。」


「なるほど。私たちのレベルに合わせてる可能性ね。それより、ここから出られると思う?」


「初めて会敵するフィールドボスクラスは一定のエリアから逃げられません。これも同じ状況でしょうね。恐らく城壁の上からでも外には出られません。」


「じゃあ、本気で戦うしかないか。」


私は被っていた魔女の帽子とマントと靴を外す。それを見てリアも被っていたポンチョをストレージに入れる。


「私が相手の攻撃防げるかをまず確認します。ヒノは最初サポートに徹してください。」


「わかった。」


その言葉を聞くなり、リアは大狼を回り込むように斜めに走る。

それを見た大狼は一瞬溜を作ってから一足でリアに向かって跳び込んだ。

傍から見てもものすごい勢いで突っ込んでいく。リアは足を止めず大狼より少し奥まで走り抜け攻撃をかわそうとする。だが大狼が大きすぎて間に合わない。そう思う瞬間には大狼の間に細剣を割り込ませていた。大狼の左頬をタイミングよくたたき込むと、物凄い音が響き、リアと大狼は共に左右分かれ数メートル程ノックバックした。


「…はあ。初めてリアの本気の剣を見たけどすごいな。」


始まりの国周辺じゃ如何に早く敵を倒すかっていう剣の扱い方だったからなあ。攻撃は基本スレスレでかわして、ちょこっと剣に触れさせることでパリィ判定をもらったらすぐ攻撃を繰り返してた。スキル上げのためとはいえ無茶苦茶な戦い方だ。フィールドボスにも同じことしてたしリアの本気は今まで計り知れなかった。

でも今回はちゃんと防御のためにパリィしてる。タイミングも完璧だった。それでもなおHPが少し削られている。


「HPポーションはあるのでこのままいきますっ!」


自分の右前に【スキルスロット】のウィンドウを出しながら、今度はリアから大狼の体を切りつける。切りつけた後の隙を攻撃しようと大狼が頭を振る。


「させない!」


私は大狼とリアの間に血を上空から柱のように地面に突き刺す。血はストレージから出して大狼の死角に漂わせていた。そして大狼の動きの軌道上に剣が突き刺さるようストレージから取り出す。柄を血で固定するとリアの攻撃した大狼の左頬に剣が突き刺さり動きを止めた。ただ止まっていたのは一瞬で、そのままリアに襲い掛かる。リアの方も体勢を立て直しさっきよりも余裕をもってパリィした。

私の剣はそのまま城壁のそばまで吹き飛んでいった。使った剣はリュースさんのところで買ったものだ。魔剣はまだ普通の剣よりも弱いので今回は出番はない。


再びリアと大狼の間に距離が開いたところで、空に待機させた血をしなるように振り、先端部を硬化させタイミングよく槍を3本続けざまに投擲した。

背中に2本尾に1本突き刺さる。これだけやっても1本目のHPバーの1割も削れていなかった。


大狼は体を震わせ、槍を振り落としながら今度は少し離れていた私に向かって飛びかかってきた。

まっすぐ向かってくる迫力に足がすくむ。それでも周りに待機させていた血に自分の命令を伝える。城壁に沿うように幅30cmほどの薄い道を地面に作りつつ、そこへ腰を落としつつサーフィンに乗るように飛び乗る。血の道を前方に20mほど作りながら、ウォータースライダーをビート板で滑るようなイメージで滑走していく。


「おおおおおちょっと迫力ありすぎじゃないかあああああ!!」


横を見ると、私が直前までいた場所に両前足で着地している。そのまま体をこちらに回転させ、もう一度踏み込んで私に跳びかかろうとする。私をにらみつける大狼の首元という死角に、血の道からランスを角度をつけて設置する。大狼が着地すると同時にその首にランスが突き刺さった。


G r R a a a A A A A A A W W A A A A A A A A


ランスの柄が地面を引きずられる甲高い音と共に大狼の悲鳴が水晶の城に鳴り響く。


ずっと躍動していた大狼が初めて倒れた。




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