元王女様の隠し事
「いつ、分かったんですか?」
リアが驚いた顔をしつつ、そう尋ねる。
「簡単な話だよ。この世界がゲームとして動き始めて、プレイヤーがログインするようになってから必要になる役目なんて運営に関する事以外有り得ない。
で、ゲーム開始時から一カ所に閉じ込められ運営側の仕事をしている人物を私は一人知ってる。」
そう言いつつ、リアを追い越して丘を登っていく。
「リアは私がいない時、王女のときの知り合いに会って回ってたんじゃないの?
ソフィアに偶然話しかけたとは思えないんだけど。」
「そうですね。ヒノの言う通りです。」
「まあ、リアの事全部私に言えなんて言わないけど。」
それでもリアに隠し事をされるのは寂しいなあ。
「いいえ、私が知ってることと分かったことを教えます。隠してたのは王女に戻る気がないからです。でもバレてしまったらしょうがないですね。
まずこれだけは言っときますがナショナルクエストは何一つ知りません。よもや当事者だなんて思ってもみませんでした。」
気付かれたくなかったというより知らせる必要がなかったか。まぁまだ知り合って数日だしまだまだ話してないことも多いのかもな。
「私が王女だった頃の名前はエルフィ・ルティアス。始まりの国がまだルティアス王国と呼ばれていた頃の唯一の王族です。」
リアはどこか誇らしげに過去の自分の名前を言う。
「まあもうその名前は使いませんし、私が元女神だったり元王女だったことはこちらから明かすつもりもありません。」
「ふーん。他の王族っていうか両親は?」
「私の両親は開発スタッフなんです。そしてゲーム開始までの1年で現実の事とゲームの運営に必要な知識を学びました。」
「この世界の知識に乏しいのは?」
「この世界の知識の大半は王女の頃のものがほとんどです。ルティアス王国は鎖国も同然でしたから他国の情報に疎いんです。女神になってからもこの世界についてはスキル以外に教えられてません。」
そういう事情があったのか…それよりリアにもちゃんと居場所があったんだな。でも奪われてしまった。運営がリアを都合よく扱っていることに苛立つ。そんな中で現実の事を知って、この世界がどういったものかを知ってリアはどう思ったのかな…
「勘違いしないでほしいのですが、私もソフィアとは会うつもりでいました。
私がミスをしたんです。
ヒノの持ってるソフィアからもらった鍵、あれは私が持ってないと意味のないものだったんです。
私はソフィアに手紙で事情を話し、また会えることを伝えました。その時に間違って手紙に鍵を入れてしまったみたいです。
あの鍵はチュートリアルの空間とこの世界を繋いで行き来するもの。
ですがソフィアはこちらに来ることを禁止され、私はあの空間から出る鍵を渡してしまったんです。
そして鍵のないまま両親に連れられあの空間に入ったために出られなくなった。
ナショナルクエスト。始まりの国が誰のものだったのかを暴けばクリアならチュートリアルの空間にいた私に会い鍵を渡すことが本来の条件なのかもしれません。今はどうなるのでしょうか?あの場所に行ければクリアになるのでしょうか?
それとどうしてナショナルクエストになってるかも分かりません。私の状況を誰かがクエストとして利用したのか、それとも…」
「そもそも最初からリアがソフィアに鍵を渡すところまで予定調和だったか。」
そんな最低な予測が頭に浮かんだ。
このゲーム最大のクエストなら最初から用意しているはず。なら可能性は高い。
メタな考えだがしょうがない。リアを相手するにはメタ思考しないなんて言ってられない。彼女はそこに縛られていないのだから。
「まあ私の認識では単に私がドジやっただけですけどね。それを知ってるのは運営のみです。」
リアはそこまで気にしているように見えなかった。リアは色んな立場で生きてきて今や現実も知っている。リアにもNPCとしてこの世界の付き合い方があって、私には分からない価値観を持っているのかもしれない。
「こっちに来てヒノがいない時は王女時代の知り合いに一目見ようと色々回っていました。」
「もしかして武器屋のリュースさんも?」
「ええ。騎士団があった頃には国のお抱え鍛冶屋として働いてました。その関係で面識があったんですが、まさか一発で正体に気付かれるとは思いませんでした。」
「なんか私たちに甘かったのって…」
「はい。私の事情は話してませんが久しぶりに顔を見せた私を思ってのことでしょうね。まぁバレたのは声が一緒なのでしょうがない気もしますが…」
それソフィアにももうバレてるんじゃ。いやクエストだからバレない様世界が改変されているのかもしれない。
「ちなみに王女の頃の姿はどんなの?」
「えーっと、今のこの姿で金髪になったものですね。つまり王女の頃を成長させた姿が女神の姿です。」
なるほど私や他のプレイヤーと同じことしてたってわけか。本当の自分を残しつつ、自分と認識しにくくすると。
「街中で顔を隠したり、ソフィアとなるべく話さなかったりは王女とバレないようにするためか。」
「…そうですね。」
リアは寂しそうにうつむく。
「…リアは王女の名前は使わないなんて言ってたけど、この国のことはまだ何も決めなくていいよ。」
リアが自分の事を決めるにはまだ何もそろってない。別に王女であることを隠す必要もないかもしれないのだから。
「このナショナルクエストさっきリアも言った通り恐らくリアを助けるのがシナリオになる。
さすがに悲劇のヒロインになってるリアがそのままバッドエンドはないはずだ。一番あり得そうなのは女神のまま王女に復帰かな。」
クエストとしてはこの鍵を渡せばリアは自由に行き来できるようになったはずだから王女に戻るかは分からない。だがこっちの確率も高い。
「この国のNPCは王女のこと覚えてるし、チュートリアルはリアがいなくてもできる体制がある。何よりわざわざ王女のリアを女神にしたのはいずれ始まりの国を統治させるためとも考えられる。
何が言いたいかと言えば、これからのリアはクエストを進めれば女神には復帰できるかわかんないけど王女への復帰はおそらくできる。」
「…」
「まだ何も始まってない。リアの道はリアが決めればそれでいいから。」
私がリアをなだめるように言うと、リアは寂しそうな顔に戻ってしまった。
「…ヒノがそう言うなら。」
リアは小声でそう言った後、何かを決心したように私の目をまっすぐに見つめた。
「ただ私はあなただからあそこから出ようと思ったんです。
言いましたよね、女神の役目をGMの両親からもらったと。私にとっての役目とはこの国のいろんなものを捨ててまで手にしたもの。大切なものだったんです。それを置いて今ヒノと一緒にいる。
ヒノの言うようにこれまで置いてきたものをこれから拾うときが来るかもしれません。
でも今、ヒノの隣にいるのは私の意思です。私の覚悟がヒノにはもう少し伝わってほしいです。」
責めるように言う姿に以前リアに感じた我の小ささはなかった。それを嬉しく感じつつも、飽きっぽい私はいずれこれも手放すのかと考える。そのことにほんの少しだけ罪悪感があった。
「ごめんね。」
いろんなことを心の中で謝りつつも、今は前へ進む。
◇
「リアはこの鍵の使い方わかるよね?」
「はい大丈夫です。ちょうど使うところに近づいてきました。」
「やっぱり。まあ普通に考えたらここしか思いつかないよね。」
そういって二人で始まりの丘の天辺に立つ。出てくるのがここなのだから入るのもここからなのだろう。
周囲に誰もいないことを確認してから金の鍵を取り出す。
「いつも血にMPを注ぐように、鍵に魔力を満たしながら空中をひねってみてください。私も初めてですがそれで道が開かれるはずです。」
指示に従うと光を帯びた金の鍵からガラスのヒビが入ったように目の前の空間が割れた。
割れた空間がドアの輪郭を描き、チュートリアルで見た白い光が割れた先から漏れていた。
「さあ、行こうか。」
「はい。」
そうして二人で光の境界を跨いだ。
私はこのとき浮かれていたのだろう。
誰もクリアしたことのないクエストをやってることで。
多くのプレイヤーを倒してレベルを上げ、新しい防具を、強い武器を手に入れたことで。
何より隣にリアがいることで。
だから聞きそびれた。リアにもう隠し事がないかを。
現実でも過去一度しか後悔したことのない私が、まさか一度目と同じ理由で二度目を経験する羽目になるとは夢にも思っていなかった。




