正しい武器屋との付き合い方
学校が終わり即時帰宅。部活の誘いを全て振り切ってきた。今日はお父さんが夜勤でいないので夕飯は総菜、家事をもろもろ終わらせ、ログインする。
「リアに連絡っと。」
フレンドのメッセージからログインしたこと伝えると、5分ほどで合流する。
「昨日はお疲れ様。いやープレイヤーに目立つこと以外は完璧だったね。」
「たくさんのプレイヤーと話せて楽しかったです。」
昨日の150人切りの感想がこれだからなあ。天使かな。
私の感想なんて大量のMPポーションと自分の血が手に入って嬉しいぐらいだぞ。
私の血は数回使うと耐久値が0になるから、定期的に補充する必要があるんだけど、昨日の決闘はHPも回復するからなあ。
敵を倒すまで私は机の裏でせっせと血を流してた訳だが、我ながら一石何鳥だか把握してない。
「それにしても首輪がバレるとは…リアや対戦相手の話聞いてると何故か本人より私への風評被害がひどい気がするんだけど。」
「顔バレしないように姿勢を低く戦ってましたからね。上から覗かれたみたいです。首輪の事をすっかり忘れてました。すみません。」
「それは仕方ないことだから。それよりこれからのことだけど。」
「ああ、そういえば冒険者ギルドから呼ばれていませんでしたか。これから行くんですか?」
帰り際に受付に言われたんだよね。クエストかな?
まぁでも…
「今度来た時ギルドマスターと会ってくれって言われただけだから。当分冒険者ギルドには顔を出さない。」
「いいんですか?」
「金もランクも手に入れた。冒険者ギルドに私たちが求めるものは他になさそうだし、時間の無駄。それよりようやく私たちの目的、女神様探しに出かけられる。」
「うーん。始まりの国を歩き回ったんですが女神の話ひとつ聞きませんでした。どうするんです?」
「とりあえず。この国の教会に行こう。色々話聞けるだろうし。」
「はい。」
言いながらリアは大きなフード被り首元を隠す。
「ずっと思ってたけどリアは別に素顔隠す必要なくない?一人のときはどうしてるの?」
「一人のときは質素な服に初期武器ですね。首元隠せばそこまで目立つことはありませんし。」
うーん確かに美形がこの世界には多いけど、大抵は自分の顔を美化した感じだし、リアでも目立たないのかも。
「まあたまにパーティとか誘われますけど、断ればいいですし。」
「おおちゃんと断れたか。よしよし。」
「ヒノが私をどう思ってるか少しわかった気がします。」
おお綺麗な顔ですごまれてる。これは大人しくしておこう。
「ごめんて。それよりお金も手に入ったんだ。いろいろ買いに行こう。さすがにいくら耐久ないとはいってもリアの細剣が初期のものは駄目だから。それに私たちもそろそろ戦闘と非戦闘で服分けた方がいい。」
早口でまくし立てると、リアはすぐに笑顔に戻る。
「そうですね。私が一人のとき色々見て回ったんです。そこに行きましょう。」
「いいね。じゃあ案内よろしく。」
はいと元気よく返事をするリアに手を引かれながら宿屋を出た。
◇
リアの案内で路道を通って武器屋まで来たのだが…
「いや、よくこんな所見つけたね。」
大通りからいきなり人一人通れるかって位の細道に入った時は不安になった。何故か途中で三回連続右折とかしてたけど、私の方向感覚おかしいのか?何で元の位置に戻ってないんだよ。今どこら辺にいるのかサッパリ分からん。ちゃんと店についた時はホッとしてしまったほどだ。
「いえ。昔ここのNPC武器屋がいいらしいことを知っていたので、一昨日来てみたんですよ。そしたら武器は良いんですがお金が足りなかったんです。でも今なら買えるでしょ。」
「なるほどねえ。まあ入ってみよう。」
注意しないと見逃がしそうな看板の脇を通り、古く霞んだレンガの建物に入った。
中は薄暗い倉庫のような感じで、どこか不気味だ。棚には様々な武器が乱雑に置かれている。奥に会計する場所がなければ店には見えなかっただろう。
「リア、ここ本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ。腕は折り紙付きです。」
元女神様公認とは…
まぁお化け屋敷な雰囲気は嫌いではないのでリアに続いて店の奥へ付いていく。
「こんにちは。リュースさん、今日はちゃんと武器買いに来ました。」
リアが奧の扉に向かって声を掛けるとすぐに背は低くく耳のとがった男が出てきた。いかつい面持ちをしながらもよくある職人気質な雰囲気を感じる。
「…ひ、ではなくマリア様。また来てくれたんだな…ですね。」
リュースさんは腕を組みながら私たちを交互に見る。少し声が小さく聞き取りずらい。
というか、ひ?あと様付けって。
「リュースさん。様付けはやめて下さい。話し方も普通でいいですから。あと彼女が前言ってた子です。」
一度リアを不満げに見てから自己紹介する。
「えっとリアがどう説明したかわかりませんが、私はリアの仲間のミヒノと言います。」
「…ドワーフのリュース。武器屋の店主。武器専門で鍛冶をしている。ひ、マリア様の仲間なら客だ。武器も要望があれば作ろう。」
なるほど。コネだな。コネなんだな。一回通っただけで好感度高すぎる気がするなぁ。そっとリアの方を見るとそっぽを向いていた。
「…黒の嬢ちゃん。アンタ変わった武器の使い方するらしいな。戦い方を教えてくれるならそれに合った武器を用意する。」
武器選んでくれるのか。って、リアと私の対応が違いすぎ。ホント、リアさん何したんですかねえ。
「確かに普通ではないでしょうね。持っている武器系スキルは【武器庫】と【投擲】です。」
「…投げるだけならまだ普通だが【武器庫】は意味が分からん。」
「まぁそうでしょうね。」
【武器庫】はマイナーなスキルだ。特に序盤で使う人はほとんどいないらしい。まぁ武器スキルなら自分の使う武器のスキルだけで十分だからいらないよな。
「…マリア様が言うには黒の嬢ちゃんは恰好だけの似非魔法使いらしいな。」
よし。リアは後で問い詰めるの確定で。
スキルひけらかすのはあまり気が進まないけど、ギルドで対人戦見せて今更な感じするし、まあいいか。リアが気に入られてるなら私に不利益なことはしないだろう。
私は右手から血を取り出し空中に浮かせる。そのまま今度は血から店売りの剣を取り出す。最後に血を硬化して剣を固定した。
「私はこうやって血を操って武器を取り出し、そのまま投げるのが今の戦い方ですね。振ることもできるんですが、持つと装備扱いされて現状2本以上使えないんです。投げれば装備重量に引っかからないでしょ。」
リュースさんは口を開けて上にある剣を見ている。昨日の決闘もそうだけど、血からいきなり剣が出てくるのは予想外みたいだな。
「…驚いた。なるほど。確かに普通じゃない。」
「今日は大金が入ったのでリアの細剣と私が使う武器を見に来ました。私としては良い武器よりたくさんの色んな武器が欲しいんですが…」
「…少し待ってろ。」
そういって店の奧に行ってしまった。
◇
それからふたりで店の中のものを物色していた。リアの言う通りここの武器は始まりの国ではワンランク上のものが置いてある。戦闘スタイル的に大量の武器が必要な私だからこの店にはお世話になりそうだ。そう思っているとリュースさんが帰ってきた。
「…武器を渡す前にひとつ聞いておきたい。お前たちの前に値段も付かないような伝説の武器と高価でそれぞれ多様な性能を持つ100本の武器がある。一本の伝説武器か100本の優秀武器、片方貰えるとしたらどちらを取る?」
武器屋として武器を使う人間性とか知りたいのかな?ただ面白い質問ではある。一見高価ならいずれ買えるかもしれないと伝説の武器に目が向く。だが伝説と呼ばれるくらいだ。性能は恐らくピーキーなものになるのだろう。装備に要求されるステータスが高くなるのも必然だ。
自分には装備すらできないかもしれない武器より100ある高性能な武器の一つの方が実用性は高いに決まっている。後者には戦場や相手によって武器を選べるっていうメリットもあるしな。それに私のように投げて使うなら1本より100本の方が正直ありがたい。
「んー私は伝説の武器を選びますね。」
「…理由を聞いても?マリア様。」
「私は装備できればどんな剣でも扱える自信がありますからね。それでも扱えなければ取引に使える方としてもこちらが優秀です。値が付かないものを手に入れる時は同じく値の付かないものが必要ですから。」
「リアは剣ならどんなものでもあつかえるからこその発言ね。ただ剣以外なら同じ価値のあるものと交換するとは。なんか物欲たくましいな。」
「む。そういうヒノはどうなんですか?ヒノは100本の方が良さそうですが…」
「私もリアと同じかな。伝説の武器の方で。」
「…ほう。黒の嬢ちゃんは質より数を優先すると思っておった。」
「まぁ数は大事ですけどこれはそう言う問題じゃないでしょ?万人に扱える有能武器より扱いづらい最強武器の方が面白いじゃないですか。私はそういうの大好きなんです。それに武器は道具でも出会いは縁です。いずれ買える100の縁と二度と結ばれない1の縁なら後者を選びます。私はどんなに使いづらくても縁あった武器は全て使いつぶしますよ。そのための【武器庫】です。」
「かはははっ、なるほど。そのための【武器庫】ときたか。確かにそのスキルは手に入れた全ての武器を使おうっていう嬢ちゃんの覚悟が見える。いいな。かははっ。」
さっきまで物静かに話していた中年オヤジの馬鹿笑いにリアと顔を見合わせてしまう。こういう人知ってる。自分の得意分野だと饒舌になる人。リュースさんはマニアさんだったか。まぁゲームでマニアじゃない専門店の店主なんていないか(偏見)。
「…うむ。普通の冒険者は性能のいい武器を手に入れたらそっちに乗り換えちまう。でも嬢ちゃんは違う。今まで使っていたものにもちゃんと出番がある。武器にとっての最悪は売られることでも壊されることでもなく使われないことだ。」
「それをヒノ以外に求めるのは酷ですよ。自身が強くなれば装備も更新するのが普通です。私もそうなるでしょうし。」
「…別にそれを悪いとは思っとらん。ただわしの武器を使ってほしいと素直に思えるというだけだ。いや楽しませてもらった。待たせたがこれが二人に使ってほしい武器だ。ひ、マリア様にはこの細剣を。」
リアに渡されたのは、細剣にしては肉厚なものだった。
「…速度重視で耐久値の高い細剣。付与能力はSTM消費軽減。軽くて攻撃を剣で弾くスタイルならそいつがいい。」
鞘から取り出したそれは、柄を含め全体が白に近い銀色に輝いていた。一応細剣らしいデザインで鍔が細く、柄もシンプルでいかにも実戦用といった感じがする。
「いい武器ですね。これを貰います。」
「…まいど。じゃ次は黒の嬢ちゃんだ。ようやくこの剣を渡せる人間に出会えた。わしはこの縁が運命だと確信しとる。」
そういって棚に置いた直剣は、黒と赤を基調とした豪勢ではあるがどこか見る者を不安にさせる意匠だ。鞘は立体二重構造とでも言えばいいのだろうか。少し暗い赤の鞘の上から黒の幾何学模様を透かし彫りにした鞘で被せたようなデザインだ。鞘に合わせた鍔は観賞用と見間違えるくらいの緻密な細工で、柄頭も邪魔にならない程度には凝っている。
「…魔剣トワイライト。コイツは血で成長し続ける武器だ。」
おっと。すごい武器が出てきたぞ。
「えっと。まず魔剣って?」
「…魔剣とは決して壊れることがなく、この世界に二本とない剣の事を言う。そしてその剣を使わなくなると剣を造った者の手元に戻ってしまうという特徴がある。」
「耐久値ない上に世界で唯一一本の武器か。序盤に貰う武器じゃないな。」
「…魔剣トワイライトは敵の血で成長し、主の血で一定時間その力を引き出す。血を与えれば与えるだけ引き出せる力は増し時間も伸びる。本来なら自分のHPを削ってATKを上げる諸刃の剣だが黒の嬢ちゃんにそんな心配は要らんだろう?」
取り敢えず人差し指で剣に二度触れることで鑑定。
[The Twilight]
武器種:魔剣
ATK:1/1 重量:50 耐久:―
付与効果:―
付与特性:【吸血成長】【吸血効果】【魔剣】
はー。説明的にATKの成長限界とやらはないのだろう。将来化け物になるのだろうか…
私の鑑定じゃ最低限の説明しか表示されない。リュースさんならこの剣の由来なんかの詳細も出るはずだ。私が見えないのは対応する生産スキルを持っていないせいだが、リア曰く対応する武器種のスキルが高くなることでもより詳細な鑑定が出るらしい。私の場合【武器庫】のスキルレベルが上がれば武器のレア度や品質も見えるとか。
それはともかく、なるほどリュースさんの言いたいことは分かった。だからこの剣が私の運命と。
普通の人は【血流操作】がないから血をストックなんてできない。つまり自分のHPを減らすというデメリットがあるはずなのに私にはそれがない。
それだけじゃない。恐らくこの剣に成長限界とやらは存在しないのだろう。そしてそれを引き出すには大量の血いや本来ならHPがいる。普通の人はこの剣のATKが上限になる前にHPが無くなる。でも私なら…
私はトワイライトを鞘から取り出す。柄と違って剣身は透明。透明といってもガラスやプラスチックといった感じはなく、紛れもない金属だと不思議と理解した。その金属は血をコーティングしたかのような赤い光沢をほのかに輝かせている。そんな美しい直剣に目を奪われた。
「あのーお金大丈夫ですか。ヒノは130万Gまでなら出せそうですけど…そもそも魔剣ってさっきリュースさんが言ってた値の付かない伝説の武器とやらに該当しませんか?」
「ま、まさか剣を見せびらかすことで、私を期待で天辺に昇らせてから地の底に突き落とすなんて。くッ。世の中やっていい事とダメな事があるはずなのに…」
「…そんなことせん。あと金は要らん。コイツはわしの最高傑作にして最低駄作。コイツの力を最大限引き出せる奴は本来存在せんはずだった。誰も使いこなせない最強武器などつくられたコイツも悲しいはずだ。だが黒の嬢ちゃんにとってコイツは呪いの武器ではなく正真正銘の魔剣でいられる。だから貰ってくれんか。」
リュースさんが真剣な顔で頼み込んでくる。つくったものが使われないのは悔しい。気持ちは分かるが今の私の頭を占めていたのは魔剣が手に入る喜びではなく疑問だった。ここまで都合のいいことが起こり得るだろうか?私はこれでハイハイと受け取るほど能天気じゃないぞ。
私は思い当たる最大の要因に向かって不信の目を向ける。そいつはプイとそっぽを向いた(二回目)。後で問い詰めるの確定で(二回目)。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。」
「…いいんだ。わしから頼んだことだ。それともう一つ。これは金が払えないって置いてった奴の装備なんだがそっちを買ってくれんか?」
「おう。唐突な売り込み。てか武器買う金がないから装備売るってそいつは大丈夫なのか?」
「…モンスタードロップの余りもんだったようだ。でも黒の嬢ちゃんには打って付けのはず。装備重量が可能な限り低い防具が欲しいんじゃないか?」
「そうですね。その通りです。」
おそらくその分で操れる武器を増やしたいと考えたのだろう。こっちの事情を色々考えてくれているのは本当にありがたい。
「…ならこのドレス。付与効果は消費MP軽減と自動MP回復。黒の嬢ちゃんにはどっちも必要だろ。値段は40万でどうだ?」
取り出したのは体のラインが結構出そうな黒いタイトドレス。スカート部分にはスリットが入っており、前は膝丈で後ろはふくらはぎまで伸びている。ぴっちり首を覆うようなタートルネックだが、肩はむき出しになる形だ。細部には銀の刺繍が入っている。ぱっと見チャイナドレスにも見えるが装飾と色使いが洋風な雰囲気を醸し出している。
[夜天のタイトドレス]
装備:胴 腰
DEF:30 重量:5 耐久:300
付与効果:【消費MP軽減】【自動MP回復】【夜間自動HP回復】
付与特性:【魔法抵抗上昇 小】
性能についてだが絶対にゲームの序盤で手に入れるとは思えない程の上昇値だ。40万でも安いだろう。逆に言えば装備品一つで40万はこの国の相場と比べて高すぎる。露店じゃあプレイヤーメイドでも10万いったものは売ってなかった。まあ今回はお言葉に甘えて買わせてもらうか。浮いた金はここのお得意様になることで返そう。
「いただきます。それとここに置いてある武器もたくさん買い込ませて下さい。」
武器屋としてはそういうの嫌われそうだが戦闘スタイル知っているリュースさんなら分かってもらえるだろう。
こうしてちゃんと許可も貰ってから私は後ろに飾ってある武器を買いあさった。




