効率厨のスタートダッシュ2
「お父さんおはよう。」
「はい、おはよう灯。」
階段を降りるとすでにお父さんは朝食を食べていた。
「ごめん。寝坊しちゃった。夜こっちで食べるなら私が作るね。」
「ああ頼む。寝坊の原因は昨日買ったゲームか?熱中するなは灯には無理な注文か。」
「分かってるでしょ。もうはまってるし。」
言いながらお父さんが用意してくれたピザトーストを食べ始める。
「でも明日からは寝坊しないようにな。それと逆にすぐにいらないとかはやめてくれよ。高かったんだから。」
「今回は大丈夫だって。」
「本当か?その言葉は聞き飽きた気もするけどなあ。今はスケボーやってるんだろ?どうなった?」
「スケボーはよかったよ。駅前でチャラい人がやってるの見たのがきっかけの割に奥深いスポーツだった。トリックも出す順番で難易度変わるし。何より大会とか出ても他の人の技見るだけで面白い。まぁ大体上が見えたからスケボーはおしまいにしたんだけど。」
「それやめる理由になるか?」
「私にはたくさんの楽しみが待ってるんだもの。だからたくさん諦めるのはしょうがない。」
私は色んな世界が見たいのだ。少し前はスケートボードの世界を見ていた。今はクルーシブルネーションオンラインの世界に夢中になっている。時間は貴重だ。次へ次へと移っていくのに引き際を考えるのは重要になる。たくさんを楽しみ、たくさん諦める。私の行動指針。次の世界に楽しいことが待っているから色んなことが諦められる。未練なく次に行ける。
「年々母さんの血が強くなってくるな。俺の遺伝子はどこ行った。」
「ワンチャン隠し子説。」
「な、何てこと言い出すんだ!」
頬を引っ張られてしまった。いふぁい。
◇
さて朝食も食べて掃除も午前に済ませた。CNOに行こう。
そういえば友人ズにもいずれこのゲーム買ったこと言わないとなあ。でも序盤で教えても私が弱いと馬鹿にされる。それは嫌なので二人と遊ぶのはもうちょっと先の予定だ。
「おはようございます。」
「うん、おはよう。何か変わったことあった?」
「いえ、特にないですね。昨日はあれから国中色々回って、そのままスキル上げてましたから。」
「【魔道具】はどう?」
「Lv12になりました。順調ですね。」
「はやっ!始めて1日で生産がそこまで上がるものなの?」
「わたしは元スキルの管理者ですよ。扱いが分かればLvの上げ方も分かってるようなものです。」
「そりゃそうか。そう言えばリアはスキル詳しいけど他はどうなの?例えばナショナルクエストとかも知ってたり?」
「いいえ、私の知っていることはスキルとこの国のことだけですね。他国の事は全く分かりません。」
「スキル持ってる魔物も知ってなかった?」
「あれは対象のスキルを持ってる魔物をアーカイブに検索しただけです。もうその権限はないので魔物に詳しいこともありませんね。」
憂いなくそう言うリアに少し安心している私がいた。
「それは良かった。全部知ってると楽しくないからね。それともう一つ朗報。例の宿題のめどが立ったよ。」
「へえ、それは良かったです。よく思いつきましたね。はっきり言ってそんなことできるならみんなやってる気が…まあヒノのやることですもう驚きません。」
「まだ何もしてないのに呆れられてるのはおかしい。まあギルドは交渉次第だけど、うまくいくよ、きっと。」
「で、どうやって経験値やお金を増やすんです?」
「フフッ。ないならある人からもらえばいいんだよ。」
私の黒い笑顔に若干リアが引いていた。
◇
目の前に真っ黒な魔女が立っていた。背が小さく、つばの大きい帽子で口元しかの見えない。周りを見渡すとコロシアムのような空間に自分と魔女の二人。観客席もあるのだが誰もいない空席でしめていて物悲しい空気になるはずだった。だが二人がここにいる理由は双方共に知っているためかピリピリとした雰囲気になっている。
「君を倒すのがクエストなのか?依頼主もおかしなこと頼むもんだ。」
「…」
返事の代わりに男の前に現れたのは一つのウィンドウ。
『ミヒノから決闘が申し込まれました。受けますか?』
「挨拶もなしかよ。まあいい。俺も初心者だけどさすがに魔法使い相手に1対1で負けるとは思えない。さっさと報酬をもらうか。」
男はYesのAR表示を押し目の前に現れた30のカウントを眺める。
男はここに来る直前に更新したばかりの大剣を背負い、目の前の魔女の様子をうかがう。
そこには信じられない光景があった。
「は?」
いつの間にか置かれた机の上には布が敷かれ、その上に複数の草と水の入った瓶が置かれていた。
次の瞬間光ったと思ったらビン一つだけになってる。
ポーションだ。目の前の魔女はポーションを作っていた。
その意味不明な光景に頭が真っ白になるがカウントが10になったのが目の端に映って我に返る。
「無駄にMP消費して、なめてんのか!…瞬殺してやる。」
頭に血が上った男はカウントが0になると同時に前へ突っ込む。
魔女との距離は20mある。
その魔女はというと真っ赤な水を手に浮かせていた。そのまま刃に変形した水を飛ばしてくる。
とっさに剣を前にかざすと少しの衝撃の後、水は左右に分かれつつ後方に流れていった。
「へっ、魔法も大したことないな。」
その男は気付かなかった。本来魔法というものは準備に時間がかかり即座に放てるものではないという事を。それでも失念してしまったのはその魔法にちゃんと当たり判定があったから。だから魔法かどうか疑うこともなかった。
そして男が立ち止まった足を前に踏み出そうとした途端。
ドンっ。今度は先ほどとは比べられない程強い衝撃が後ろから突き抜ける。
自分の胸を見下ろすとそこには見慣れない剣先が覗いていた。
恐る恐る魔女を見ると…ずっと真一文字に閉じられていた口角が上がっていた。
それが彼の最後に見た光景だった。
◇
「なんでポーションなんて作ってるんですか?」
隠れて観戦していたリアがこっちに近づきつつ質問してきた。
「いやーまさかできるとは思ってなかったけど、決闘は終わったらHPとMPどっちも決闘前の状態まで回復するでしょ。
それ利用したらMP消費実質0でポーション作れるかなって。」
【錬金】スキルには大まかに二つの生産方法がある。
一つはそのまま手に材料を持ち【錬金】をアクティブで使う。その時は《合成》というアーツを使う。アーツはスキルレベルが上がると使えるようになる能力のことで、【錬成】のアーツ《合成》はポーションの材料さえあればポーションになるというもの。ただし《合成》の場合レシピにある材料が必要だし、【錬金】のレベルで完成後の品質や効果が変わってくる。
これは手軽に作れるが一度で大量に作ることができない。
もうひとつは今さっきやってたように錬金道具を使う方法である。【錬金】の初期道具としてもらえるアイテムで錬金布がある。この布の上に材料を置き魔力を流すと【錬金】がパッシブにはたらき、ものができる。
決闘では準備時間中はアクティブにスキルを使えない。だから魔法職は開始と同時に詠唱する必要があり、PvPでは不利になりがちなのもそこが関係してくる。
だがパッシブであればスキルは発動する。でないと例えば【運搬】で大きくなった分のストレージに入ってるアイテムがいきなりぶちまけられたりと色々不都合が出てしまうので当たり前の処置だ。
「できたポーション消えないんだよね。レベルが上がれば不要とは言え、生産時のMPの回復手段として、この仕様はダメっぽいなあ。」
「でも負けると経験値取られるのでそうそう悪用はできないんじゃありませんか。」
「あーあり得るなあ。経験値消費なしの対戦の方はできないのかもね。」
このゲームPvPには2つの仕様ある。1つは対戦と言って勝っても負けても経験値が消費されないものだ。ただしこの対戦中はレベルが一切上がらない。
そしてもう一つは決闘だ。こちらは勝てば経験値が貰え、負ければ経験値が減る。そしてお金やアイテムが賭けられる。
「それにしても。倒し方がひどいですね。ストレージから出した血を使って攻撃、と見せかけて後ろで剣取り出してブスリですから。」
「【血流操作】は一見魔法だから。攻撃が終わったら消滅するって勘違いするのがみそだよ。」
【水魔法:斬】と【水流操作】で比べると判りやすい。
【水魔法:斬】は何もないところから攻撃判定のある水を作って飛ばす。ただし飛ばす前にはどのように飛ばすか決めておく必要がある。
対して【水流操作】はまず水を用意する必要がある。このスキルは水を生み出すことができないからだ。そして動かした水に攻撃判定を加えることがないが自由に動かせるだけ。
こう考えると、一番いい使い方は水魔法で生み出した当たり判定のある水を【水流操作】で自由に動かす運用だろう。これ魔法職は雷魔法とかより操作系統のランダムスキルの方が当たりな気がする。
大体対人戦に置いて魔法は威力が過多になりがちだ。一発当てればいいだけなのにプレイヤーのHPの倍は吹っ飛ばす威力の攻撃を長々と時間をかけて撃つ。スキルレベルが低いと尚更長くなりがちだ。私は血を飛ばして当たる直前に【硬化】することで疑似魔法に見せかけている。それも直撃すればHPが良い感じに吹っ飛ぶ威力をノータイムで打てるのだから対人戦は私の有利は絶対である。それに防がれたとしても背後から剣を取り出してブスリ。
「あー死角からの不意打ち最高!」
最近クマの顔見たら顔面にナイフ突っ込む作業してたからな。ようやく戦闘した気分だ。
……。
もしかして私戦闘で不意打ちしかしたことない?いやいや不意打ちは立派な戦略だ。つまりこれも戦闘の一つ。
「ヒノのそれは狩りって気もしますが…ヒノが戦闘と言うならこれも戦闘なのでしょう。」
「その言い方じゃ私以外は違うみたいじゃないか!」
「はいはい。私もこの体になって初めて分かりましたけど、スキルの数を制限されるとできることも結構減りますね。こうやって自分の戦闘スタイルを決めていくのは面白いです。」
「もしかして女神様にスキル数の制限はないとか?」
「ですね。なにせスキルの神ですから。」
「女神はチートだなあ。というか何でもできるねそれ。」
「できるでしょうね。あそこではすることもありませんでしたけど…」
寂しげに顔を伏せる姿にヒノは慌てて話題をそらす。
「それでリアにも同じことできそう?対戦相手と話してもいいけど、あとで面倒ごとにならない様にほどほどにね。」
私の言葉にリアは少し怒ったように頬膨らませる。
「子供じゃないんですからそのくらいできますよ。
がんばります。せっかくヒノが考えてくれた魔法のようなクエストですからね。」
この話をしたのは一昨日のことなのだが、その時のリアの驚き様は見ていて楽しかった。
「そうだなあ。」
私はつぶやきつつ数時間前の冒険者ギルドでのことを思い出していた。
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名前:ミヒノ
種族:ホムンクルスLv18
職業:【冒険者Lv10】
保持職業:【錬金術師Lv5】
ステータス:
HP:74
MP:406
STM:92
STR:20
VIT:5
AGI:5
DEX:35
INT:20
MND:33
LUK:10
ステータスポイント(0)
セットスキル:【血流操作Lv23】【投擲Lv20】【硬化Lv13】【運搬Lv15】【錬金Lv5】【武器庫Lv2】
控えスキル:-
スキルポイント(2)
称号:-
【武器庫】装備した武器に補正が入る。装備した武器の初期武技を使える。
スキル候補条件:規定DEX値を超えたステータスで規定数以上の武器を扱い、敵を倒す。




