効率厨のスタートダッシュ1
「お金が足りない!」
今の私はリアと借りた宿で向かい合っていた。さっきまでのリアは白いドレスアーマーの上から目深まで覆うほど大きな白いポンチョを被っていた。今はフード部分を下ろし蒼銀の髪を晒している。
「そうですね。」
私の声に素っ気なくリアが返す。なんだそのやる気のない返事は。笑っていいとものオーディエンスでももう少し付き合いがいいぞ。
こんなことを言う状況になったのには訳がある。私はそれを思い出していた。
◇
スキルをある程度確認した私たちはそのまま一番近くの門から始まりの国に入った。
歩きながらこれからどうするかを話し合っていたのだが。
「他の女神に会いたい?」
「ええ。私は他の女神と碌に話したことはありませんが、女神の役目を降りたことは自分の口で謝りたいなと思いまして。」
律儀だなぁ。そんな感想を持ちながらも私が反対する理由もなかった。女神は国の結界とやらを守っているのでいろんな国を巡る必要があるらしいがそれは私も望んでいたことだ。こうして私たち二人の旅の目的は女神様を巡ることになった。
「本当に異世界に来たみたいね。外観はヨーロッパなら幾らでもある都市街だけど、歩いている人の大半が現実じゃあり得ない恰好してるし。」
メインの通路は人が溢れていて、左右に露店が続いていた。思ったよりプレイヤーの数が多いのか、いかにも冒険者な恰好の人が多かった。生活感あふれるNPCも見られるのだがごく少数だ。ただそのおかげで色々な種族が入り乱れる大通りは活気が五割増しに見えた。
それにしても綺麗なレンガ街だ。それに広い。一直線に伸びる幅のある道はその終わりの城壁がかすんで見えるほど遠い。
「兎肉が売ってる。まず日本じゃ見られないわね。」
「私食べてみたいです。」
「はいはい。」
兎肉と言えばフライがおいしいのだが、この露店ではローストにしているようだ。二本買い二人並んで食べ歩く。味は現実の兎肉みたいに鶏肉に似ている。ただ食感は知ってるものよりパサついた感じがなかった。
「何と言うか…肉厚?」
「この世界は魔物から食材がドロップするから現実と色々違うと思いますよ。」
この世界の兎はもしかしたら現実のものよりはるかに大きいのかもしれない。そう言った差異も含めて二人で楽しんだ。
もう少し二人で露店を回りたかったが、とりあえずリアの案内で冒険者ギルドに出向いた。
そこで個別カードに冒険者ギルドの登録をする。
プレイヤーは最初からこの個人カードを持っていて、メニューの項目になっている。
プレイヤーは何かのギルドに所属するとこの個人カードに表示される仕様である。
基本的にこのギルドランクが高くなると入れる国が増えていくので如何せん上げる必要がある。
なぜ冒険者ギルドが推奨されるかは、レベルを上げつつ他の国に行くのに冒険者ギルドは一番効率がいいのだ。そう、いいと思っていたのだが…
◇
「依頼をいちいち受けるのが面倒。」
「一度に受けられるクエストの数が3つまでですから。」
そうなのだ。そのたびにギルドに戻って報告する必要がある。だがそれだけじゃない。
「ギルドの報酬があまりよくない。」
ものすごい勢いで魔物を狩ってきたというのに、数で報酬は変わらない。レベルは上がったが、お金はあまり増えなかった。私がログインできる時間はもうないので、今日のところはしょうがないのだが、次のログイン時には解決策を作っておきたい。
今日からリアはこの世界で暮らすのだ。ならお金が必要だ。
それにリアは空いた時間生産スキルのレベル上げするらしいけど、生産は最初金ばっかりかかるからなあ。
というかリアの取った生産系スキルって作ったもの最初は売れないんじゃなかったけ?
んんー私も戦闘に使う生産系スキル上げたいけどやっぱりお金がが…現実も仮想もお金に振り回されているな私。
現在2人で所持金40000Gとちょっと。私のゴールドはほとんどリアに渡しておいた。
この世界での物価は大体現実と変わらない。ただ需要が異なるため、結構あてにならない。
例えば宿、プレイヤーは国の内部であればログアウト可能だ。体もログアウト中は消えるらしいので宿を借りる理由がほぼない。なので価格は低めに設定されている。
リアは女神の時から寝る必要がなかったらしく今もその頃のままだ(普通のNPCは寝ないと思考AIに制限が掛かるらしい)が、必要はなくても個人スペースは必要だろう。
「とういうわけで、ギルドランクと種族レベルとスキルレベルと所持金が一遍に増える方法を考えよう。」
「さすがに欲張りすぎですよ…」
何を言う。人間考えるだけなら無料だ。何をするにしても頭を動かし続けなければもったいないではないか。
「他はともかくギルドランクは上げるのが難しい。何かいい方法はないかなあ。」
まあそれはどっちにしろ時間ないし、リアルで考えるか。
「あとリアには私がいない間に種族レベルを調整して欲しいなぁ。リアの戦闘スタイルは基本一対一だから今日の狩りじゃあ私の方がレベルが上がったし。」
これからリアには私のレベルに合わせてもらう予定だ。流石にレベルが離されちゃうのはリアに寄生してるみたいで嫌だ。始まりの国は広すぎてレベル上げ以外にもすることはあるだろうし、今言ってるのは種族レベルの話だ。スキルレベルは存分に上げてもらいたい。
「それはそうですね。でも私の経験値効率が悪いんじゃなく、ヒノの効率があり得ないレベルだからですが。さっきの狩りはひどすぎました。」
先ほどまで狩場とギルドを往復していたのだが、始まりの国の周りは西の平原、東の草原、北の森の順で魔物のレベルが上がってくる。
私たちは最初に東へ行きブラウンボアっていうイノシシの討伐クエストをこなしてから、北に往復で2度行った。
北の討伐対象はクラッシュベアという2m半ぐらいの黒いクマで結構耐久が高いが、私は結構効率よく狩れた。
兎や狼もいたらしいがリアしか見てないし倒してない。
私の戦い方は単純だ。
ネグリジェの姿になり、上空5mをゆっくり移動する。
そこからスキルレベルが上がって操作できる数の増えた血でクマの顔面にナイフを投擲しまくった。
いやー武器屋で投擲ナイフ買い込んだだけあって物量がすごい。
「いや確かに一瞬で顔が逆剣山となったクマを見た時は自分でやっててこれはないと思ってしまったけど。早くて楽に倒せるからこの戦闘方法はやめないよ。」
ちなみにナイフの回収は血で行うので、一切上から降りない。
「自分は安全圏で敵を一方的にタコ殴り…何かを決定的に間違えてる気がします。
それに血流操作、街中でも使えるからものすごい勢いでスキルレベル上がってますよね。」
「それね。血流操作アクティブスキルなのにMP消費少ないからパッシブみたいに使ってるもんなあ。まあ私はMP高いから出来てるかもだけど。」
確か器用を上げるとスキルの消費MPを抑えられるんだっけ、やっぱり最初に何をやりたいか方向性決めてるとスムーズだなあ。
今は投げる際の効率的な血の動かし方を研究中だ。
ただいくつもの血を別々に動かすのはものすごく頭の負担になる。
まあ慣れるしかないだろう。あとは糖分摂取くらいか?仮想世界で食べても効くのだろうか?
「ヒノ、街中で血の靴履いてましたものね。しかも少し浮いてるという。」
スキルレベルが上がって操れる血の個数や範囲、そして速度が少し上がった。
私が乗ると、血も速度が出せなかったのだが、今じゃ歩くのと同じくらい。
靴のように体重をかける方だけ浮遊すれば、MP消費は多くなるが速く空を走ることも可能だ。
まあ【硬化】を使ってるからSTMが尽きるのが先だけど。解決策はあるが街中であれをやるとものすごく目立つので封印中だ。
それにしてもまさかゲームで『よく見ると浮いてる!』ができるとは思わなかった。
私はドラ○○んをリスペクトしています。そのうち疑似タケ○○ターでもやろう。疑似というか詐欺な気がするが。
「スキル上げる分MPポーションが吹っ飛ぶけどね。【錬金】で作れるなら真っ先に作りたいなあ。」
「いいですね。生産スキルレベル上げ合宿。」
「残念ながらその機会はどうかな。」
「また悪い顔で笑ってる。何考えてるんですか?」
「失敬な。私は空を飛びながら魔物を狩りつつ、【錬金】でMPポーションを作り、作ったそばから自分で飲むという永久機関を計画中なのだ。」
これこそやりたい事をとりあえず詰め込んだ欲張りセット。こう時間を圧縮しているようでものすごく楽しい。まさにハッ○ー○ット。ただし手に入れた素材を売ってもポーションに必要な高額な材料費に財布はアンハッピーな模様。
「【錬金】のレベルを上げて、MPポーション作るのに必要な消費MPが下がれば、近い未来可能というところが恐ろしいですね。」
よし、リアさんの太鼓判ももらった。なら必要なものは…
「ということで私たちは二人ともお金が必要だよ。ということで…お金が足りない!」
「最初に戻りましたね。」
「宿題は効率のいいギルドランクとその他レベルを上げ方とお金の稼ぎ方を思いつく事。
今日はもうこれで落ちるよ。明日は日曜日だし早めに来られるとは思うけど。」
「わかりました。ヒノ。私今日ほど楽しい一日は初めてです。それも女神だったころがはるか昔に感じるくらいには。一日経ってないのにおかしいですね。全部ヒノのおかげです。だからありがとう。」
「私はやりたいようにやっただけ、私も楽しいからお礼はいいよ。また明日ね。」
私は少し照れくさくて早口になってしまった。
そんな私を見て苦笑してるリアに手を振って、そのままログアウトした。




