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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お茶会シリーズ

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作者: 土竜児

「本当に行くのかい?」


 私は目の前にいる茶髪の少女にそう尋ねた。


「うん。私が行かないといけないから」


 少女は真剣な顔をしながら私にそう言った。

 その真剣な顔を見て私はもうこの少女を誰も止める事はできないと思った。


「それが君の答えなら私は君を止めない……。君が行きたい道へと進みたまえ」


 私が少女にそう言った後、少女は小さな声で「ありがとう」と私にお礼を言った。

 そして、少女は私にお礼を言った後、光が差す方へと歩いて行った。

 私はその歩いて行く姿が見えなくなるまでずっと少女を見守っていた。




 あぁ、またこの日が来たのか……。

 俺は学校の教室で帰りの支度をしながらそう思っていた。


(しょう)ちゃん、どうしたの? 難しい顔して?」


 俺が帰りの支度をしていると俺の隣の席で俺の幼なじみである藤村ゆりが心配そうな顔をしながらこっちを見てきた。


「……いや、何でもない」

「そうは見えないんだけど……ところで翔ちゃん、帰りにどこか寄っていかない?」


 あぁ、またこのパターンか……。

 俺はそう思いながら、ゆりからどう言い訳をして逃げようかと考えていた。


「……いや、今日は一人で町をぶらぶらしたい」

「えぇ~翔ちゃん。一緒にどこか行こうよ?」


 ゆりは甘えた目でこっちを見てきた。

 けれど、俺はゆりの行動を無視して教室を出て行こうとした。

 すると、ゆりは両手で俺の左腕を掴んできたので俺はその両手を振りほどこうとした。


「ねぇ~行こうよ。翔ちゃん」


 ゆりは甘えた声でそう言いながら俺の左腕を掴む力を強めた。

 頼む。今日はお前と居たくないんだ……。


「ねぇねぇ、行こうよ」


 頼む……。


「ねぇ~ってば」


 俺はお前の……。


「聞いてるの? 翔ちゃん?」


 お前の死ぬ姿を見たくないんだ!


「……るせぇ」

「えっ?」

「うるせぇ! 何処か行きたいなら他の奴を誘っていけ! 俺はお前にかまっているほど暇じゃないんだ!」


 俺はゆりに向かってそう怒鳴った。

 賑わっていた教室も俺の怒鳴った声で静かになった。


「……ねぇ、翔ちゃん。なんか今日、変だよ? なんかいつもの翔ちゃんじゃないよ」

 ゆりは俺に怒鳴られた後、心配した顔をしながら俺に尋ねてきた。

「……何でもねぇよ!」


 俺はそう言いながらゆりが掴んできている手をほどこうとしたが、ゆりは俺の左腕を掴む手の力をさらに強めた。


「っ! 離せよ!」


 俺はそう言いながら一生懸命、ゆりの手をほどこうとした。


「離さない! だって、翔ちゃん! 悩みがある時はいつも私から逃げようとするもん!だから、私に話すまで離さない!」


 ゆりもゆりで俺の左腕を離そうとしなかった。


「お前には関係ないだろ!」

「確かに関係ないかも知れない! けど、翔ちゃんも私が悩んでいる時にいつも助けてくれる! だから、私も翔ちゃんを助けたい!」

「……!」


 俺はゆりと言い争いをした後、下を見ながらすこし黙りこんだ。


「ねぇ、翔ちゃん。一緒に買い物に行こう。いつものカフェで翔ちゃんの悩みを私に話してくれない? 私はいつも翔ちゃんの味方だよ」


 ゆりは笑顔で俺にそう言った。

 ゆり……ごめん……。


「ゆり、俺はお前が思っているほどお前を助けてないぜ……」

「えっ? あっ、翔ちゃん!?」


 俺は左腕を掴んでいるゆりの手を振りほどいてそこから逃げるように教室を出て行った。




 これで良かったんだ……これで……。

 俺はゆりから逃げるように教室を出て行った後、そう自分に言い聞かせながら町中を一人で歩いていた。


「これで良かったんだ……」

「本当にそれで良かったの?」

「えっ?」


 俺が自分にそう言い聞かせていると俺と同い年ぐらいの茶髪の少女が俺の目の前に立っていた。


「日下部 翔君、だよね?」

「……だったら、どうしたんだ? 悪いが今は誰とも話したくないんだ……」


 俺はそう言いながら茶髪の少女の横を通り過ぎていった。すると少女は小さい声でこう言った。


「藤村 ゆりさんがこの後、交通事故で死んでしまうのにこんな所に居ていいの?」

「っ!?」


 なんでこの子、ゆりが死ぬことを知っているんだ……。

 俺は少女の言葉を聞いてその場に立ち止まった。


「あなたのことならなんでも知っているよ。あなたが『日下部 翔』として死んでもまた『日下部 翔』として生まれること。前の『日下部 翔』としての記憶が生まれた後も残っていることも」


 茶髪の少女は俺が誰にも話さなかった秘密を淡々と言った。

 そう。俺はなぜだか知らないが『日下部 翔』として死んでもまた『日下部 翔』として生まれる。そして、前の『日下部 翔』としての記憶が赤ちゃんの時から覚えているのだ。


「そして、『日下部 翔』として変えたい未来があなたにあるという事も私は知っている」

「お前は一体……」


 茶髪の少女がそう言った後、俺は茶髪の少女の方を見ながらそう尋ねた。


「私は菜々。あなたの未来を変えるためにやってきたの」

「……俺の未来を変えるためにやってきた?」

「さぁ、行こう。藤村ゆりさんを助けに……」


 菜々はそう言いながら俺の方へと右手を差し伸べた。

 けれど、俺は菜々の手を取ろうとしなかった。


「どうしたの?」

「俺には無理だ……。俺が何度も助けに行ってもあいつを……ゆりを助けられない。だから、俺は決めたんだ。俺はゆりを助けに行かないって……。俺が助けに行ってもあいつは死ぬ……。だったら、俺はあいつの死ぬ姿を見たくない……」


 俺は下を向きながら菜々にそう言った。

 すると、菜々は俺の方に差し伸べた右手を引っ込め、冷めた声でこう言った。


「所詮、あなたの藤村 ゆりさんへの愛はその程度だったってことね……」

「えっ……?」


 俺は一瞬、奈々が何を言っているのか分からなかった。


「だって、そうでしょ。あなたはもう藤村 ゆりさんを助けに行かないって事はあなたにとって藤村ゆりさんへの愛は所詮そこまでだったって事だよ」


 こいつ、何を言っているんだ……?

 俺がゆりをそこまで愛していないだと……?


「……ざけんな……」

「ん?」

「ふざけんなぁ――!」


 俺は菜々の方を見ながら大声でそう叫んだ。

 すると町を歩いていた人達が歩くのをやめ、こっちを見始めた。

 だが、俺はそんな事は気にせずに怒鳴り続けた。


「俺がゆりを愛していないだと? ふざけんじぁねぇ! 俺はゆりのためなら何だってやれる! 俺はこれから先もあいつの笑顔を見られるだけで幸せなんだ! ……なのに……なのに!」


 俺は泣きながらそう叫んだ後、地面に座り込んだ。


「なんでなんだよ……俺はこんなにもゆりを助けたいって思いがあるのにどうして俺はゆりを助けられないんだよ……ただ俺はゆりとずっと一緒に居たいだけなのに……畜生……ちくしょう!」


 俺はそう言った後、地面を殴った。

 けれど、地面を殴っても心に残るのはゆりを助けられない自分の不甲斐無さだった。


「……けれど、二人ならきっと助けられるよ」

「えっ?」


 奈々はそう言った後に俺は奈々の方に顔を上げた。

 すると奈々はまた俺に右手を差し伸べた。


「確かにあなた一人じゃどんな方法を使ってもゆりさんを助けられなかったかも知れない。けど、二人でならゆりさんをきっと助けられるよ。だから、助けに行こう」


 奈々は笑顔で俺にそう言った。

 何故だか分からないが俺は奈々の笑顔を見てゆりを救えるかも知れないと思い始めた。

 それと同時に奈々の笑顔がどことなくゆりに似ていると思った。


「さぁ、行こう」


 奈々はそう言いながら右手を俺の方へと近づけてきた。

 俺は覚悟を決め、奈々の差し伸べた手を取った。


「……あぁ、ゆりを助けに行くぞ」


 そして、ゆりを助けるために俺達は走り出した。




「奈々、こっちでいいのか?」

「うん、この道の方が近道だから」


 俺と奈々は奈々が知っている近道を通ってゆりが事故に遭う場所へと走っていた。

 少し通りづらいがこれでゆりを助けられるならどうってことはない。


「……所で奈々。一つだけ聞きたい事があるんだがいいか?」

「ん、何?」


 俺はずっと奈々に疑問を持っていた事があった。

 本当はいろいろ聞きたい事はあるがその中で一番気になっている事がある。

 その疑問を俺は奈々に尋ねた。


「なぜ、お前は俺やゆりを助けるんだ? 俺達、初対面なのに」

「……」


 俺がそう尋ねた後、奈々は黙り込んだ。

 そう。俺が一番聞きたかった事はなぜ俺やゆりを助けるのか知りたかった。

 本当は自分の記憶の事やゆりの身に起きる事をなぜ知っているのかを聞きたかったが多分、奈々は答えてくれないだろう。

 何故だか分からないが俺はそんな気がした。

 俺はその事をあえて聞かなかった。

 けれど、俺達の事情を知っていたとしてもここまで一生懸命助けようとするのがよく分からなかった。

 本当に同情だけでここまでやるのだろうか?


「私もあなたと同じ……」

「えっ?」


 少しの間黙っていた奈々が俺の質問に答えた。

 俺と同じ理由?

 俺が奈々にどう言う意味か聞こうとしたその時……。


「そこを右に曲がればゆりさんが遭う事故の所よ!」

「……!」


 ここを曲がればゆりが事故に遭う場所に着く。

 そう思っただけで俺の心は不安になっていた。

 また俺はゆりを助けられないんじゃないのか……?

 俺はあの場所でまた大切な人を失うんじゃないのか……?

 そして、またあの場所でいっぱい泣くんだろうか……?

 俺の心はどんどん不安でいっぱいになっていた。

 俺が不安を抱えながら走っていると奈々が俺の左手を握ってきた。


「大丈夫……二人なら助けられる」


 奈々はそう言いながら俺の手を握る力を強めた。

 その言葉と温もりのお蔭で俺の心の不安はだんだんと消えていった。

 それと同時に絶対にゆりを助けてやる気持ちがだんだんと強くなっていた。


「ゆり、待ってろよ。今、助けるからな」


 俺はそう言いながら曲がり角の所を奈々と一緒に曲がっていた。




「やっと、着いた……」


 俺と奈々は息を切らしながらゆりが事故に遭う場所に着いた。


「ゆりは……ゆりは今、何処に居るんだ!?」


 俺はゆりを見つけるために辺りを見回した。

 ゆりにこれから起きる事を伝えればゆりの事故を事前に防げるかも知れないと俺は考えていた。

 けれど、辺りを見回してもゆりの姿は見当たらなかった。


「くそ、何処だ!?」

「翔君、あそこ!」


 奈々はそう言いながら信号がある所を指差した。

 そして、俺は奈々の指指した方を見た。


「ゆり……」


 俺はやっとゆりを見つけた。

 けれど、ゆりを見つけたと同時に俺の心の中で不安が過った。


「あそこはいつもゆりが事故に遭う場所……」


 そう。今、ゆりが居る場所はいつもゆりが事故に遭って死んでしまう場所だった。

 すると、信号は青になり、ゆりは信号を渡り始めた。


「やばい……!」


 そう言いながら俺はゆりの元へと走り出した。


「ゆり……ゆり……」


 俺はゆりの名前を呼びながら人混みの中を一生懸命走って行く。

 それと同時にゆりと過ごした記憶を思い出してった。

 ゆりと初めて会った日のことやゆりと一緒に遊んだ日々のこと。

 そして、ゆりが俺の前から消えていなくなった日のことも……。


「俺は逃げない! 絶対あいつを……ゆりを助ける!」


 俺はそう言いながら人混みを抜け、やっとゆりが渡っている信号の所に着いた。

 それと同時にいつもゆりに突っ込んでくる大型のトラックがゆりの方へと向かっていた。

 その光景を見た俺は大声でゆりの名前を呼びながらゆりの元へと走っていた。


「ゆり――!」


 自分の名前を呼んでいる事に気が付いたゆりはその場に立ち止まり、俺の方を見た。


「翔ちゃん……?」

「ゆり――!」


 俺はゆりの名前を叫びながらゆりの方へと飛び込んだ。

 それと同時にトラックもゆりの方へと突っ込もうとしていた。

 くそっ……このままだと二人とも死んじまう……。

 俺はゆりの方へと飛び込んだ時、前の『日下部翔』の記憶を思い出していた。

 前もこんな風にゆりの方へと飛び込んで助けようとしたが、結果は二人とも事故に遭って死んだ。

 俺の中で今回もそうなるんじゃないのかと思う心がどんどん強くなっていく。

 やっぱり、無理だったのか……。


「諦めないで!」

「!?」


 やっと俺とゆりが渡っている信号の所に着いた奈々は大声で俺にそう叫んだ。


「もうゆりさんを死ぬ所は見たくないんでしょ? だったら、ここで諦めちゃ駄目だよ!」

「……!」


 そうだ。俺はもうゆりが死ぬ所が見たくないんだ。

 だから、俺は今、ゆりを助けようとしているんじゃないか。

 奈々の励ましの言葉を聞いた俺は一生懸命、手をゆりの方へと伸ばした。


「ゆり――!」


 俺はゆりの名前を叫びながらゆりを抱えて倒れた。


「気をつけろ! このガキ!」


 そう言いながらトラックが通り過ぎていく音が聞こえた。

 どうやら、今回のトラックの運転手は酔っぱらったおっさんだったようだ。

 けれど、そんな事は俺にとってどうでも良かった。

 俺はゆりを……愛する女性を守れたんだから。

 そう思いながら俺は気を失っているゆりの事を見ていた。


「良かったね、翔君」

「あれ……奈々?」


 気が付くと俺の傍に奈々が居た。

 確か奈々はさっきまであっちの道路に居たような気がするんだがまあいいや。

 そう言えば俺は奈々に伝えかった事が一つあったんだ。

 俺はその事を奈々に伝えようと思った。


「なぁ、奈々……」

「ん、何?」

「いろいろとありがとうな。お前のお蔭で俺はゆりを救えた……」


 俺はゆりを助ける事に協力した奈々にお礼を言った。

 けれど、奈々は何とも言えない顔していた。


「どうしたんだ……?」


 俺は奈々が何とも言えない顔をしているのが気になった。

 すると、奈々は俺の方を見ながらこう言った。


「それを言うのは私の方だよ……」

「えっ……」


 奈々はそう言った後、空を見上げた。


「これで私も安心してあそこに戻れる」


 奈々は空を見上げながら俺にそう言った。

 なぜかその時の奈々の声が俺には何処かさびしそうに聞こえた。


「じゃあ、またね。『お父さん』」

「えっ……あっ、待てよ!」


 奈々は俺にそう言った後、人混みの中を歩いて行った。

 そして、奈々の姿はだんだんと見えなくなっていた。

 俺はゆりをお姫様抱っこして奈々を追いかけようとしたその時……。


「翔……ちゃん……?」

「ゆり……!?」


 気を失っていたゆりが目覚め始めた。


「翔ちゃん……翔ちゃん!」


 ゆりは泣きながら俺に抱き着いてきた。

 ゆりの行動に少し驚いたが震えているゆりを見て、俺は優しくゆりを抱きしめた。


「翔ちゃん……私、死ぬかもしれないって思った……」

「うん……」

「私、死んだら翔ちゃんに今日の事を謝れないと思った……」

「うん……」

「もう二度と翔ちゃんに仲直りできないと思った……」

「うん……」


 俺はゆりの話をうんうんと聞いていた。

 すると、ゆりは俺から離れて俺の顔を見ながらこう言った。


「だから、今謝りたい……翔ちゃん……ごめんね……私……翔ちゃんの悩みを無理やり聞こうとして……」

「ゆり……俺の方こそごめん……お前の気持ちを分かってやれなくて……」


 俺とゆりはお互いさっきの事を謝った後、またゆりは俺に抱き着いてきた。

 そして、俺もまたゆりを優しく抱きしめた。


「ごめん……ごめんね……翔ちゃん……」


 ゆりは泣きながら俺に何度も謝り続けた。

 これから先の未来、俺達はどうなるかは分からない。

 けれど、これからも俺はこいつを……ゆりを守っていく。

 どんな未来が待ってようと俺はゆりを守ってやる。

 絶対に……。

 俺はそう思いながらゆりの髪を優しく撫で始めた。

 そして、俺はゆりを撫でながら空を見た。

 奈々……俺に勇気をくれてありがとう。

 もうお前には会えないかも知れない。

 けど、俺はまた会える日が来るって信じているよ。

 俺はそう思いながら空を見た後、ゆりを抱きしめる力を強めた。




「どうやら成功したみたいだね……」


 私の正面に居る男性はレモンティーが入ったカップを持ちながらそう尋ねてきたので、私は小さく頷いた。

 彼の名前はティニー。彼はここで死んだ人に次の人生を選ぶ選択を与えているらしい。

 そして、私も死んだのでここに来たらしい。


「まさか自分で次の自分の人生を直しに行くとは思わなかったよ」


 ティニーはそう言った後、レモンティーを少し飲んだ。

 そう。私は次の私の人生を直しに自分が居た世界を幽霊になって戻ってきたのだ。

 最初はここに来て、ティニーに次の人生を選ぶ選択をするように言われた。

 ティニーが何を言っているのか分からなかったけど、ティニーの話を聞いていく内に自分が死んだ事や自分が次の人生を選ばないといけない事を理解した。

 私は色んな事を考えながら、次の自分の人生を選んでいった。

 その結果、私はティニーに与えられた人生に行く事を決めた。

 最初はまた『奈々』として戻るのもいいと思った。

 ティニー曰く「自分の名前を失った人はもう自分だった人物の所には戻れない。だが、名前を覚えているなら自分だった人物の所に戻れる」らしい。

 私は名前を覚えていたので、自分だった人物の所に戻って楽しむのも良かった。

 私がそう考えているとティニーは私に『奈々』として戻っても長くは生きられない事を告げる。

 ティニーにそう告げられた私はまた色々と考えたのちにティニーに与えられた人生で楽しく生きていく事を選んだ。

 これで私の次の人生の選択が決まったので、ティニーにその事を伝えればその人生の所に行くのかと私は思っていた。

 けど、それは始まりに過ぎなかった。

 私は人生を決めた事をティニーに伝えた。

 するとティニーは少し沈黙した後、真剣な顔をしながら私に真実を話した。

 実はティニーが与えてくれた次の人生が無くなりかけていたのだ。

 なぜ無くなりかけているかというと私の次のお父さんになる『日下部 翔』が私の次のお母さんである『藤村 ゆり』を事故から助けないと決めたからだと言う。

 『日下部 翔』は『日下部 翔』として死んでもまた『日下部 翔』として生まれる。そして、前の『日下部 翔』としての記憶が赤ちゃんの頃から覚えているという不思議な現象が起きていた。

 『日下部 翔』にはいつも変えたい未来があった。

 それは幼馴染である『藤村 ゆり』が事故で死ぬ未来を防ぐ事だ。

 『日下部 翔』は様々な事をして『藤村 ゆり』を助けようとしたが何をしても『藤村 ゆり』が死んでしまう未来が変わる事は無かった。

 それに絶望したのか『日下部 翔』は『藤村ゆり』をもう助けないと決めたらしい。

 『日下部 翔』が諦めないで助けに行くのを続ければ『藤村 ゆり』の運命は変わるとティニーは言う。

 もしこのまま『日下部 翔』が『藤村 ゆり』を助けに行かなかったら、私の存在が消滅するとも言っていた。

 私はティニーの話を聞いた後、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。

 時間が過ぎていくともに段々と冷静を取り戻した私は次の私の人生をどうしたら救えるのか考え始めた。

 様々な事を考えた結果、私がその二人を救いに行く事を決めた。

 私がその方法をティニーに伝えると少し驚いた顔になったがすぐに笑顔になって、私の考えに賛成してくれた。

 その後、すぐに『日下部 翔』の居る世界であり、私が『奈々』という人物で過ごした世界に向かった。

 色々と大変だったけど、やっと『日下部 翔』が『藤村 ゆり』を助けた。

 自分の役目が終わった私はティニーの所に戻ってきて、今はティニーと一緒にお茶会をしている。


「しかし、君といいあの青年といい……最近は驚く事ばかりだよ」


 ティニーはそう言いながら私の方を見ていた。

 あの青年……?

 誰の事だろう……?

 まぁ、いいか。


「じゃあ、そろそろ行くよ」


 私はそう言いながら席を立つ。


「そうかい。分かった」


 ティニーはそう言った後、ティーカップをテーブルの上に置き右手の指を弾いた。

 すると、ティニーの後ろに扉が現れた。


「あそこから次の君の人生に向かえる。君の人生に幸あれ」

「ティニー……ありがとう。レモンティー、美味しかったよ」


 私はお礼を言った後、ティニーの後ろにある扉に向かった。

 そして、私は扉の目の前に立った。

 これから何が起きるか分からない……。

 けど、あの人達と一緒なら楽しく過ごせると思う。

 そう思いながら私は扉を開けた。

 すると、光が私を包んでいった。


「今、会いに行きます……お父さん、お母さん……」


 私はそう言いながら意識を段々と失っていった。




 あれから数年が経った。

 俺は今でもあの辛かった日々を思い出す事がある。

 色々やってみたが上手くいかなかった事や上手くいかなくて絶望し逃げ出した事もあった。

 けれど、最後は何もかも上手くいった。

 俺はあの日から未来は諦めなければ変えていけるものだと知った。

 これも俺を……いや、俺達を助けてくれたあの少女のお陰だ。

 しかし、未だに俺達はあの少女と再会していない。

 ……いや、違う。

 あの少女が最後に言った事が本当ならもう俺達とあの少女はもう再会を果たしているのかもしれない。


「お父さん! 早く!」


 おっ、噂をすればなんとやらだ。


「おう! 今、行く!」


 俺はそう言った後、妻と娘の所へと走っていく。

 俺はこれからも大好きな人達を守ってやる。

 この幸せがいつまでも続くように。


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