トッシュ、被災地へ走る②
「現地に連絡は… つかんか、やっぱ」
鳥栖へ向かう車内で、スマホを確認した俊さまが呟く。
避難指示が出ると、状況掌握と混乱回避のため
タッキーが通信制限を実施。
主要広域WiFi網の能力は人命検索と確保・保護に割り振られ、
被災地への電話は動画・音声とも不通となる。
今、有効な連絡手段はメールやツイッター、SNSなど、
通信負荷の少ない文字媒体のみだ。
「大分の佐伯さんカキコしてた。
風浪強いがワレ元気…だって」
「福岡、宮崎もだいたい同じ。
奄美、沖縄は被害出てるけど、人損だけはナシ」
「ずいぶん手回ししてくれたんだって?
実家や地元の連中から聞いたよ。
ナミ、感謝してる」
「なんの。
使命を果たしたまでですから」
地球温暖化のせいかどうか知らないが、
今はこうした天災〜地震、台風、大雨で
死者が当たり前に出るから、
命があるだけでもありがたい。
基本は情報収集・判断・行動の速さ、
それを支える周到な準備に尽きるのだが、
人間の組織ではそこが案外難しい。
だが、過去の災害情報検索から徹底して練り上げられた
タッキーの早期警戒策は卓越してた。
とても人間には真似できないし、
知れば知るほど驚かされる。
「台風の進路は結構あいまいだから、先読めないなぁ」
「他エリアには党員が向かってるはずよね。
警察、自衛隊の支援くらいならスグできそ」
「リリーもな。
故郷を助けてくれてありがとう」
「カタいな〜隊長!
ナニ言ってんの?
水くさいってか、照れんじゃん!」
高校生サポーターとかリリ子ちゃんとか幼な妻とか、
マスコミに格好の話題にされて
マスコット扱いされていた遊梨子だが、
実は、ナミに導かれながら俊さまの仕事を支え続けた
影の功労者の1人だ。
本人すらあまり意識してないようだが、
事実上の秘書である彼女は、本職の公設秘書…
いや、下手な政治家よりも遥かに使える。
だから党内で子ども扱いする者は誰ひとりいないし、
隊長も敬意を込めて彼女をコードネームで呼ぶ。
戦友をちゃん付けでなど呼べない。
「隊長、
臨時編成の自衛隊救急隊が
目逹原に集結しつつある模様」
目逹原は陸自の駐屯地で、
鳥栖からは目と鼻の先だ。
「連絡つくか?副長」
「今なら。
メル友なんで♡」
SPの元部下、南里雲母は
メガネの似合う柔和な笑顔で答えた。
俊さまを追って下野するにあたり、
私が警視庁から引き抜いた逸材だ。
女性SPは貴重だから、
上層部からは嫌というほど嫌味を言われたが、
「敬愛するお二人の為なら喜んで♡」と微笑む
本人を説得することは、警視総監にすら不可能だったのだ。
「きらさん。
邪魔にならんよう活動しますから
よろしく頼みます…と伝えて?」
「了解!」
政党としての役目を果たし終えた
「AI国民主党」は、
今や一民間企業だ。
ネットでは知り得ない現実の様々な状況を
見聞し、報告する者を「感知者」、
タッキーの指示を実行する者を「実施者」と呼ぶが、
AI国民主党はその双方を請け負う民間企業というワケだ。
ただ、最近まで内閣として協働していたから、
タッキーの信任が最も厚い企業なのも事実。
だから、こちらへの情報提示は身内扱いだし、
守秘義務を誓った党員はやはり特別扱いではある。
しかし、この「妙に裏事情に精通してる」のは、
副長の特技というか、趣味だ。
おかげで一市民なのにも関わらず、
現場部隊協力のもと活動できるワケだ。
…ワケなのだが、
その闇がどこまで深いのかは想像つかない。
したくもない。
「ナギりん、先に被災した奄美の情報来た。
タッキーから」
とナミ。
「内容は?」




