朝鮮の幻影園 ⑫
帰投した朴は、
執務室でロシアからの直通電話を受けた。
それは祖父の時代から変わらない
古い電話のままで、
むろん音声通話のみだ。
朴「はい」
ラ「私だ。
危なかったと聞いたが?
無事か?」
朴「はい、私は。
しかし、凪氏が負傷を。
重傷です」
ラ「そうか… 残念だ。
しかし、みすみす死なせはすまい。
独裁者殿が何とかするだろう。
して、首謀者というか、
後ろ盾の目星は?」
朴「証拠はありませんが、
さまざまな状況から、
たぶん彼の国だろうと…」
ラ「そうか。
何らかの妨害をしてくるとは思ったが、
考えていたより、思いきって仕掛けてきたな。
が、心配なのはむしろ今後だ。
あらぬ言いがかりをつけられ、
開戦の口実を探られるかも知れない」
朴「はい。
独裁者が整えるまで、
くれぐれも自重して軽挙しないように…と
釘を刺されました」
ラ「凪氏からか?」
朴「はい」
ラ「気づかれていたのか?」
朴「さて、どうでしょう?
気づいてるようでもあり、
そうでないようでもあり。
ただ… 心底、
心配してくれていたようです」
ラ「フッ、まったく彼らしい…。
どこまで見通してるのかわからず
空恐ろしいほどなのに、
どうにも掴めない、憎めない」
朴「この件、ご協力願えますか?
大統領」
ラ「もちろんだ。
表向き、大した事は出来ないが、
戦を避ける協力なら惜しまない。
ところで、どうだった?」
朴「何がです?」
ラ「凪氏の〝無敵〟ぶりだよ。
会ってみてどうだった?」
朴「カンパイしました。[日本語]
もちろん握手も…」
ラ「ふふっ、なるほど。
やはり君も彼に一本取られたというわけだな」
朴「そうですね。
不思議と悔しくはありませんでしたが。
それと、通り名が一つ増えました」
ラ「ほう… 何だね?」
朴「〝無茶〟
その場の全員一致で。
本人も… 否定せず、
それどころか〝我が生きざまだ〟と
豪語しました」
ラ「フッ… ハッハッハ!
やはり面白いな、凪氏。
こんな事で彼の天命が尽きるとは思えん。
この上は、彼が戻ってくるまで
何としても現状維持を続けねばなるまいな。
どうやって核軍縮を実現するのかも見ものだが、
それよりもただ、
再会を期したいところだな」
朴「はい。
私も再会し、また酌み交わしたいです。
ではまた」
ラ「では…な」
受話器を置き、フッと一息ついてから、
虚空を見つめながら呟いた。
朴「本当に… 待っているぞ、
凪さん…。
今度は平和と繁栄を謳歌する
首都で再会し、
美酒を酌み交わしたい。
死ぬな…
死んではいかん」




