朝鮮の幻影園 ⑩
ビシッ! ガンッ!
初弾で起点は見えてた。
副長の事前調査で、
狙撃リスク候補点としてヤマ張られてたから、
ある程度、予測の範囲だったと言っていい。
ただ、武器が想定より大きかった。
ナミ「起点三。南から二、北から一。
まともに受けないで、隊長。
たぶん十二・七ミリ以上の対物ライフル。
甲を貫徹する可能性大」
隊「リリューシャ。
身体張って弾く!
訓練通り宜しく!」
リ「了解」
ガッ! ガキィッ!
隊「くっ!」
リ「くはぁっ!」
矢継ぎ早に狙撃されるが、
長距離射撃の弾道は比較的読みやすい。
ただし、人の身で受けるには
とんでもなく重い。
いつまでもは防げない。
早く中に入らないと。
ロボ③「渡す」
ナミ「受ける」
ギャイィッ!キュラララ!
給仕ロボ三体は、
バリアフリーのテラスに信じ難い速度で殺到し、
俊さまと北の将校二人の外側に立ち塞がった。
ガガッ!
給仕ロボ三体に弾丸が突き刺さる。
特に補強されてるとはいえ、所詮は軽複合装甲。
対物ライフル相手では荷が勝ち過ぎたが、
それでも貫通だけはしなかった。
が、次の瞬間、
それは起こった。
ドッ! バンッ!
弾き返され、
庇に突き刺さった弾頭が炸裂した。
よりによって、
ガードしてる輪形陣の内側、真上。
最悪!
ダッ ダダシッ!
破片が降り注ぐ。
小さな弾丸だから、量は少ない。
しかし…。
ダンッ!
嫌な予感がして、一瞬振り向いた。
血まみれの影…
負傷?
誰?
寄りかかられた方が、
負傷者を抱きかかえて、
室内へ飛び込む。
私たちも外周を警戒しながら、
素早く後ずさりして室内に戻る。
隊「カーテン閉め!
シャッター閉め!」
ロボ③「了解」
室内に入ってすぐ、負傷者を見る。
飛び込んでくる光景に… 目を見開いた。
嫌な胸騒ぎ…
やめて…
いや…
俊「良かった、みんなケガ…
なく…て」
俊さま?
ま、まさか…血?
頭に…
眼に…
腕に…
足に…
隊「俊さまァぁあッ!」
そのあと、銃声の残響が…
遠くこだました。
もう…大丈夫。
…撃たれはしない。
だけど、
もう…遅い…の?
でも… 実感がない。
俊さまのいない人生なんて…
もう… 考えられ… ない。
李「大丈夫ッ?
朴さん!」
朴「ああ」
リ「大丈夫ッ?
お姉さまッ!」
呼びかけられ、ハッと我にかえる。
そうだ、呆けてる場合じゃない。
俊さまを取り囲んでる
給仕ロボに向かって叫ぶ。
隊「ハルっ!いるんだろ?」
ロボ③「は、はいッ!」
隊「応急処置、しかるのち救急搬送!
最速で頼む!お願いッ!」
ロボ③「は、はいッ!」
中の人が忙しくなったロボ子一体が固まり、
残る二体が泣きじゃくっていた。
そこへ歩み寄った。
「お兄ちゃん…、
お兄ちゃぁんッ!」
「トッシュのバカ!
あれほど気ィつけろって言っ…ううッ!」
隊「おかしいとは思ったが、
まさか、そこにいるのか?
リリー? 美都?」
二人「う、うわあァぁあん!」
隊「落ち着けと言っても無理だろうけど、
泣くな、二人とも。
ナミを信じよう」
遊「グスっ…うん。
でも隊長…」
隊「うん?」
遊「隊長も… 泣いてるよ?」
頬には… 涙が溢れていた。
とめどなく流れていた。
気づかなかった。
隊「ゴメンな… 偉そうに言って。
私にだって… 心の準備なんか…
できて… なかったよ」
しばし、流れるままにまかせる。
そうしてる間に、
フロア備え付けの自走治療繭が駆けつけ、
すぐ横に駆け寄ってきた。
即、起動して蓋が開き、
治療繭内部の治療台が現れる。
治療台に横たえ、固定索を取り付ける最中、
俊さまの手が伸びてるのを見た。
俊「ぱ、朴さん…」
手招きで呼ばれた朴さん、
私と一诺が駆け寄る。
朴「重傷だ、しゃべらない方が…」
俊「ぱ、朴さん…
北朝鮮は… くれぐれも自重して…
軽挙しな… いよう、伝えてくだ…さい。
タッキーがと、整えるまで…」
朴「わかった…」
朴さんの返事を確かめると、
震える手は、私の頬に触れた。
指で涙を拭おうとして、
腕に流れ伝った。
俊「また…泣かせた…
ごめん、隊長…」
隊「俊さま… せめて…
死なないで?
お願いだからぁ…」
俊「うん…
タッキー…を、信じ…よう
た、隊長… 待って…て」
指から力が抜けていく。
俊さま?
ナミ「失血で失神。
緊急処置するから離れて、隊長」
慌てて離れると、蓋が閉じる。
このまま会えなくなりそうな気がして、
蓋が閉じ切るまで目が離せなかった。
密閉後、中が液体で満たされる音がした。
朴「な、凪さんは助かるのか?
わ、私を庇ってくれた…のか?」
リ「それはなんとも。
ただ、あの状況で
庇って負傷したとは考えにくいです。
気に病まれる事はないかと」
一「わ、わたしがたーげっとじゃ… なかった?
ほくりょうのときから?」
隊「北領の狙撃?
あなた方の対抗勢力からと目された、
あの?」
一「わへいこうさくそのものへの…
たいこうなのかも」
朴「やはり… 米国?」
一「やっぱり、とししゃまが…
ねらわれて…たんだ。
ヒック。
とししゃまぁ〜、ごめェ〜ん」
泣きじゃくる幼女を引き寄せ、
私はそっと抱きしめる。
隊「一诺のせいじゃないよ。
私が護り切れなかったんだ。すまん」
一「う、うゥっ…」
抑えた嗚咽が聞こえる。
こんな小さな子どもなのに、
私を気遣って
喚かずに泣いてくれてるのか?
これ以上、泣かせるなよ… 一诺。
副「リリューシャ、
Vー22Jがあと五分ほどで着く。
発着所まで、隊長と移動して?」
リ「了解。
急ぎますので、我々はこれで。
あとのご用はナミに申し付けてください。
失礼します!」




