朝鮮の幻影園 ⑦
「あぁ、日本酒、美味しい〜♡」
わたしたちは美酒とご馳走のおかげもあり、
ノリノリで十星園の驚いた点や、愉快さについて語っていた。
凪さんも嬉しそうに応じてくれた。
気さくで楽しい人。
こんな日本人がいるなんて。
その、とっても楽しいひとときに波紋が起きたのは、
盃を交わし始めてから、三〇分ほど経った頃。
舌先の軽くなった朴さんが、
とんでもない話題を口にし始めてからだった。
朴「日本のアニメ、
〝その世界の片隅に〟観たよ。
意義ある映画だと思う。
興味深かった」
あ、それって…
あの、表向き放映禁止の…?
朴「私たちだって、一部の…
特に高官は知っているんだ。
〝核開発レース〟の恐ろしさを。
だが、仕方ないとも思っている。
〝敵が持っている限り、持たざるを得ない〟
のだから」
俊「………」
朴「核保有国… しかも紛争当事国が、
相手国の核開発中止を主張するのは、
降伏を強要するに等しい。
戦時国家が武装解除に応じないのは当然だ。
そうは思わないか?」
一「はい、干焼蝦仁あがり〜!」
ドンと大皿を置きながら、一诺が言う。
一「もちろん、それはそうだけど。
でも、さいしょからけんかごしじゃ、
まとまるものもまとまらない。
おさけやりょうりも、へいわも…
ともにたのしめない」
凪さんと朴さんは、
すでに盃ではぜんぜん間に合わず、
丼で酌み交わしていた。
互いの丼に七杯目を注ぎながら、
凪さんは言った。
俊「少佐…
あなた方の御国を見てると…
〝自国をまとめるために、わざと敵を作ってる〟
ようにも見えます」
朴さんをあえて階級で呼んだのには、
何か含みを感じた。
俊「〝独裁国家だからそうだ〟と言いたいのか?
戦意高揚のため…には必要な事だろ?」
俊「あなた方だけでなく、
たぶん… 米国もそうですけどね。
〝戦うために戦意高揚する〟のはまだわかりますが、
〝戦意高揚するために戦う〟のだとすれば、
ボクにはわかりません。
それに…」
朴「………」
俊「朴さんはご存知ないですか?
我が国も〝独裁国家〟なんですよ?
実は」
二人は目を合わせ、しばし沈黙した。
口元はニヤニヤとゆるみ
目もすっかり座っているが、
瞳の奥は笑っていなかった。
おもむろに凪さんが沈黙を破る。
俊「でも、ボクらの独裁者は
〝国をまとめるのに敵を作る〟
という発想はないんです。
〝誰とも敵対せずにみんなをまとめられる〟
と本気で信じてる…」
朴「そ、そんな事…」
俊「不可能だと思いますか?」
朴「そ、そうだな…。
あり得ん」
俊「ボクは… そうは思いませんよ」
グイッと丼を干し、
プハァっと酒臭い息を吐きながら、
凪さんは続けた。
俊「確かに今はまだそう見えるし、
世界では多くの人がそう思ってるでしょうね。
でも、
かつての広島・長崎の人たちは
今の、この…
日本が平和で、豊かに繁栄する未来など
想像できたでしょうか?」
朴「………」
俊「人間の想像力は無限だけど、
置かれた状況に引っ張られる。
ヒック…
戦争を想像するキッカケが世に溢れ、
そちらを想像する方が簡単。
しかも、人はただでさえ
失う事の方が怖いから、
悪い方に考えがちなもんです。
そうなると絶望への一本道になりかねない。
そうは思いませんか?
ヒック…」
本当に酔ってるのか?
この人。
わたしが驚愕と戦慄とに支配され始めていた所へ、
給仕ロボが三体、荷物を運んで来た。
ロボ「お荷物、お持ちしました〜」
俊「おっ、待ってました!」
朴「何ですか?」
俊「酒、切れかかってたから、
ちょうどよかった。へへへ」
食材と一緒に運ばれて来たのは、
一抱えほどもある、大きな…木樽?
俊「さぁ、朴さん、
鏡開きして飲み直しと行きましょうか!
ヒック…。
李さんと隊長も手伝って!
一诺は料理の追加、頼むよ」
ヤレヤレ…とボヤきながら、
日本側の女性護衛官が手を貸し、
中国の客人は嬉々として厨房に戻る。
やっぱ、ただの酔っ払いなのかしら?
わたしはますます混乱した。




