朝鮮の幻影園 ③
満天の星空を再現して薄暗かった空想現実世界が
盛大に輝いたかと思うと、
次の瞬間、周囲に街が現れた。
ただ、普通ではない感じ…
李「こ、これは…」
朴「祭り…だな、どうやら」
ネットで見た事ある、
さまざまな食べ物…
わたあめ、たこ焼き、人形カステラにりんご飴。
それから遊び…
ボールすくいに金魚すくい、
射的にスマートボール、くじ引きなどもある。
ただ、アミューズメント系の屋台は、
体感型ゲームとして最新要素が入っているようだ。
ネットで見た日本の祭りはこんなだったと、思い出した。
もちろん間近に見るのは初めてだ。
女「え?くれるの?
ほ、ホンモノ?」
屋台のそばにいた女性の声に皆が振り向く。
素っ頓狂な声を上げた彼女は、
手にしたわたあめを舐めていた。
朴「ま、まさか…バカな!」
上官は手近な屋台に駆け寄り、
小ぶりなりんご飴を受け取った。
一口囓ったかと思うと、わたしを手招きした。
朴「采玉、囓ってみろ」
李「映像なんか囓ってどうすんで…
え?!」
甘酸っぱい味が口に広がる。
初めての味だけど、驚いたのはそこじゃない。
〝この食べ物が実在してる事〟自体だ。
朴「一瞬、眼鏡外してみたら、
暗闇で案内ロボットに手渡されてたようだ」
ナミ「あら、タネ見ちゃうとか無粋ですわね。
朴さんったら、夜目効きすぎ。
全員が貰える訳じゃないので、
当たりですのに(笑)」
そう言って朴さんのナミ Cはコロコロと笑ったが、
わたしたちは驚き過ぎて腰抜かしそうだった。
てっきり、映像遊びだけだと思い込んでいたから。
わたしのナミ Dは事もなげに、クールに言う。
ナミ「特設屋台では、食事だって出来るわよ。
さすがに中身を完全再現とまではいかないけれど…」
朴「あれか?
日本企業提供の試食イベント…」
製品名や企業名が書かれたノボリが
随所で上がっている。
あちこちに列が出来てて、結構な賑わいだ。
珍しい料理を気軽に味わえるのだから無理もない。
李「はあ〜っ。スっゴ!
お祭りと見本市がごっちゃ…
それだけじゃなく
現実と空想までごっちゃになったみたい」
朴「それより気づいてるか? 采玉」
李「え?」
朴「最初より、かなり人数増えてるぞ」
いつの間に?
入場者数はざっと五〇〇人ほどだったはずなのに、
少なくとも倍増してるように見える。
わたしは意を決して隣の男性に触れようとした。
手は空を切る。現実じゃない。
賑やかしの自動キャラ?
いや、それにしちゃ、
表情や仕草がやたらリアル…だケド?
李「これって…」
朴「気づいたか?
多分、これは〝南〟の参加者…じゃないか?」
李「?!」
現実には全く分離されたまま、
同じ祭りを空想現実で共有体験?
そんな事が?
実際、バイザー越しに見る限り、
あたかも同じ場所にいるかのようだった。
朴「参加者はリアルタイムでその場の雰囲気を楽しめるが、
好戦的な怒声や罵声は自動的にカットされるようだ。
あくまで〝落ち着いた祭りの情景〟だけの提供か…
平和なものだ…出来過ぎだな。
たとえ〝偽りの平和〟だとしても」
ナミ「モデルは佐賀、〝はせつくんち〟ですわね。
さすがにゲーム屋台はそのままじゃ物足りないので、
だいぶゲーム性高めにアレンジされてますけれど」
李「みんな、あちこちで
和やかに何か食べたり、遊んでますね。
楽しそう」
多くの人が…
全員が… と言っても過言じゃないが、
これ以上ない…ってほど、はしゃいでいる。
汎用説明器と制御把によって空想現実世界で楽しめる、
金魚すくいやボールすくい、射的にスマートボール、
くじ引きなどに興じている。
遊戯場みたく双方向性丸出しの出し物もあるのだが、
懐かしい…アナログ的なものの方が人気あるようだ。
遊戯待ちの参加者も、周りを取り巻く人々として参加でき、
けっこう熱狂的に当事者を応援したり野次ったりするから、
いやが上にも盛り上がる。
周りを囲まれて注目されながら遊ぶ感覚は病みつきらしい。
それは当事者の様子から見て取れる。
朴「しかも、半分はこちら側、もう半分は向こう側だ。
まるで祖国平和統一が実現したかのようじゃないか。
かりそめとは言え…
悲願が叶ったみたいな興奮すら覚える。
はしゃぐなと言う方が無理だろう」
李「これでぜんぶ、無料ってのはホントなの?」
ナミ「ほんとうよ」
今回、北側の参加者には
抽選でチケットが渡されているのだが、
一般民も含めた全員が招待客だという。
入場料をはじめ、出し物利用や飲食、
送迎用シャトルバスに至るまで、全てが無料だ。
その厚遇ぶりには、驚きも呆れも通り越して、
訝しんだほどだ。
デリケートな立地に相応しい配慮はそれ以外にもある。
李「この手の遊興施設に必ずと言って良いほどある、
死や殺戮に破壊、
そして、それらに伴うスリルやパニックを売りにした
出し物はありませんね。まったく」
朴「アトラクションってのは、
本質的に〝無い物ねだり〟だからな」
その手の娯楽が日本で喜ばれるのは、平和だから。
それが〝非現実〟で、まさに欠乏しているから。
逆に言えば、
この、実に平和な出し物がウケる事そのものが、
ここが戦地であるという証しみたいなものなのだ。
その〝平和ボケ〟が羨ましい。
我々には決して許されない事だから。
それにしても、報告すべき事項が多すぎて、
満足に申し送りできるかどうか不安になってきた。
南北高官の視察は時間的余裕を考えて、
二回転後の三次入場。
昼もとうに過ぎた、十五時前後…とされている。
それまでに状況を把握せねばならないが…。
朴「まぁ、楽しめ。
〝敵情視察〟になる可能性だって皆無じゃない。
そうなったら女性の意見は
何よりも貴重になるだろうからな」
ふざけてるのか、真剣なのか…
いちばん解らないのは貴方ですよ、朴さん。




