朝鮮の幻影園 ①
「これが…十星園か。
まったく…信じられん」
「同感であります。同志少佐」
上官の驚愕は当然だ。
わたし、李采玉はそう思った。
朝鮮人民軍の士官学校を次席で出て、
護衛司令部5課への配属後
まもなく要人警護の任に就いたが、
こんな奇異な出来事は見たことも聞いたこともない。
三十八度線、
板門店から少し離れた非武装地帯の狭幅な地帯。
停戦中とはいえ、戦争状態の国境線近傍、
ここにテーマパークを築くなど、
誰も…考えもしなかった。
針が落ちる音にすら神経を尖らせている板門店。
その、まさに一触即発の地で、お祭り騒ぎをするなどとは。
現実に目にした今でも、正気の沙汰とは思えない。
しかもそれが、
たった一週間で設営されてしまった。
設置者は仮設と言うが、
キチンとした巨大建造物にしか見えず、
サーカスのテントとは訳が違う。
そうなると、この工期の短さはあまりに非常識だ。
「テープカットまで代行ロボットか…
どこまでも先端技術を見せつけようというのか?」
「北側、南側双方で同時に行われる関係上、
開会式典は無人との事であります」
ロボットによるテープカットが終わると、
式典の余韻もそこそこに、
南北それぞれの入場門から、
待ちわびた来場者がワッと押し寄せる。
「同志少佐、要人警護は宜しいのですか?」
「構わん。同志上佐には許可を得てある。
独断専行の許可も…な」
そう言うと上官は来場者の群れに足早に近づき、
門衛に敬礼して、さっさと入場門を抜けてしまった。
武装したままで入場できない事は、
事前に周知されていた。
到着時から丸腰になるよう言われたのは、
最初からそのつもりだったのだ。
「ま、待ってください!
同志少佐ッ!」
会場内では通路にも画像が表示され、
館内放送が流れていた。
士官学校でも特権階級の部類に入る我々は、
仮想敵国を研究するため、
スマホやPCなども使いこなせるし、
比較的、日本文化にも触れているつもりだった。
しかし、やはり想像を絶している。
控えめに言っても、初めて見る光景ばかりだった。
「十星園は、
仮想現実・拡張現実を駆使した特殊娯楽施設です。
独自に作られたアトラクションは、
施設型ゲームとしては、
同時参加者数 世界最大を誇ります。
入り口で貸し出される汎用説明器を頭につけ、
操作把を利き手に持って先にお進みください」
画面の女性が装着する手順を見ながら、
同じように身につけていく。
停戦地帯である板門店は政治的に難しい場所であり、
極めて特殊なルールが設定されている。
南北の自由な接触は許されておらず、
挑発と誤解される行為は厳禁。
服装や身振りにまで制限がある。
「我々が入場した北館から、
南に通り抜けられる通路はないようだな」
非武装地帯にある、
ここも例外ではないようだ。
そんな事を考えていると、
ヘッドホンからアナウンスが。
「ただいま第一次入場が締め切られました。
これから約二時間のプログラムが始まります。
私はガイドいたします、ナミです。
短い間ですが、よろしくお願いします。
わからない事がございましたら、
何でもご質問くださいませ。
まずは私の外見をお選びください」
選択肢が四つ表れたので〝デルタ〟を選んだ。
「それでは空想現実の世界を
お楽しみください」
これまでの驚きがまだまだ序の口だったのだと、
わたしは思い知った。




