少女たちは元気いっぱい ①
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま〜す♡」
誰にも聞こえない、
囁くような小声であいさつをすると、
リリューシャは音もなく居室に侵入し、
寝台にとりついた。
さすがは特殊部隊。
カーテンから差し込む朝の光の中、
まだ、すやすやと寝息を立てる彼の寝顔を
幸せそうに眺め耽ったあと、
ハッと思い出したように立ち上がると
顔と反対側の掛け布団の裾をつまんだ。
「朝のごあいさつははじめてだけど、ウフフ。
なぎさま、失礼しま〜す」
これまた小声で断ると、
布団の中にそっと手を滑り込ませる。
「ん?
あれ?」
ムニュ?
この柔らかい感触は?
もっと硬い男性の脚を期待してたので、
少なからず混乱した。
「ま、まだ…若いのにこんな柔ら…か…?
い、いや、あれ?
こ、これは…
お、おぱい?」
意を決して、
リリューシャはそうっと布団を剥いだ。
そこには、彼のお腹に顔を埋めて、
腰に巻き付くようにしがみついて
寝ている寝間着姿の少女が!
「誰?」
「あふあぁ〜、おはよ美都…
あれ?リリューシャも…」
「おはようございます、
なぎさまぁ♡」
「どうかしたの?
何か用…」
言葉は唇で遮られた。
たっぷり…じっくりと味わってから、
名残惜しそうに口づけを終えると囁いた。
「朝のキス、おねだりに…ネ♡」
「はうあ〜」
蕩けたように、耳まで真っ赤になった俊明を見て、
寝たフリしてた少女は甘えた声を上げる。
「ズル〜い!私も〜」
「ちょ、ちょい美都っ…
握らないで…」
「美都だって、
おにぃちゃんにご挨拶するんだもん!」
「そ、そこじゃないだろ?挨拶は…
はうあぁ…」
「ハイ!
そこまでっ!」
声の方に振り向くと、
そこには仁王立ちした遊梨子が。
つかつかと歩み寄りリリューシャを引っぺがし、
まだ抱きついてる少女の肩をつかむ。
「起きなさい! 美都!」
「ん〜、ヤだ〜
おにぃちゃんとまだ寝ゆ〜」
「高校生にもなって
兄に添い寝とか異常でしょっ!
ブラコンもたいがいに…」
「わはぁっ!
スゴいですぅ、なぎさまぁ…。
こんなに反応するのは
問題あり過ぎですぅっ![ロシア語]」
「もうっ!
これ以上話ややこしくせんで?
二人とも退場っ!」
「あ〜ん、
おにぃちゃ〜ん!」
ついに遊梨子の堪忍袋の緒は切れ、
少女は引っぺがされた。
二人一緒につまみ出されながら、
リリューシャが尋ねた。
「一号っ!
彼女、誰?」
「トッシュの実の妹で美都子。
あたしの級友」
「実の妹が朝からシモのお世話?
爛れきった関係?
はうあぁっ![ロシア語]」
喜ぶなよ〜。
「高校生にもなって甘えんぼでアレだけど、
妹とも仲良くしてやって? リリューシャ」
相変わらずトンチンカンなセリフ吐いてるのに、
あの笑顔でにこやかにやられるともうダメ。
なんでも許しちゃう。
デレデレでリリューシャが口走った。
「もちろんですともっ!
なぎさまの妹君なら私の妹も同然ですから!
美都子ちゃん、よろしくね。
おねぇちゃんだよ」
「死ね…」
兄に聞こえない死角から呟き、プイと横向いた。
ライバル認定?
リリューシャの眦にも好戦的な笑みが閃いた。
その時、階下から声。
「美都〜
お出迎えよ〜」
「あ、いえ。
今朝はお兄さんの方にご用なんです。
上がってよろしいですか?」
「あは〜、どぞどぞ〜
若ぇ娘っ子はいつでも大歓迎じゃ」
「じゃあ、失礼して…
お邪魔します」
どおりで。
まだ七時前。
出迎えにしては早すぎる。
学校まで徒歩八分の好立地だもんね。
つまみ出す方、出された方、
あわせて女三人のそばを抜けて、
制服姿の美少女が彼の部屋に入った。
まさに絶世の美少女。
その彼女が礼儀正しく正座して、
三つ指ついて深くお辞儀した。
「俊明さん、はじめまして。
父からお噂はかねがね」
「あ、キミが貴一っさんの…?」
「はい。
遥香・トルスタヤ・鹿野屋です」
彗星の如く現れたピッカピカの人気急上昇アイドル。
美貌もオーラもハンパない。
ただ、冷徹な雰囲気がまるで人形のようで、
その表情はやや硬かった。
少し近づきがたいように見えるけれど…
「お父さんには子どもの頃から
可愛がってもらったから…。
妹ともどもよろしくね。
遥香ちゃん」
彼も、さすがは無敵。
美少女の硬かった表情が一瞬に解け、
花のようにほころんだ。
「はいっ… お兄さま。
ハルって呼んでください。
みんなそう呼んでますから」
「ハル?
あんた…何の用?」
「リリ姉さま?
貴女こそ、何しにここへ?」
「わたしの事はいいでしょ?
何の用?」
「そうだった。
お兄さま?
先日、新装備が届いてますよね?」
「あ、うん。
ありがとう。まだ開けてないけど…」
「父はナミに説明を…と言ったようですけど、
念のため、私からもご説明を…と」
「そのためにわざわざ?」
「はい。
上京する前の方が良いかと」
「なんでそれを…って、
ナミしかいないよね〜?
スケジュール漏れの犯人…」
ガックリした彼に、
ハルが抱きつくように近づいて、
耳打ちした。
「お兄さま。
わたし、これでも関係者ですから。
少しでもお手伝いしたい…です」
絶世の美少女が耳元で囁くのには、
いくら鈍感ヤロウでも、さすがにキたようだった。
真っ赤になり、しどろもどろで言った。
「り、リリューシャ。
隊長と副長呼んで?」
「良いんですね?
呼んでも…」
リリューシャの目は笑ってなかった。
遊梨子と美都も同じく。
今日のハーレムは嵐の予感。




