『M・I・A』日本語・特別編集版 ⑫
得票数の発表が始まった。
巨大スクリーンには候補たちが表示され、
顔を中心とした個人情報の形に変わる。
そこに、大きな得票数の数字が加わった。
イザナミのアナウンスとドラムロールにあわせて、
数字が変転した。
会場はいやが上にも盛り上がり、
熱気はドームの天井を貫かんばかりに燃え上がった。
「アルファ、
護国寺みのり。
→一七五二万九二一一票」
「みっ! のっ! り〜!」
客席からはまたも〝ドスの利いた黄色い声〟が響く。
しかし、始まった時と今は違う。
超絶チャリティコンサートを経たみのりちゃんは、
もはや名実ともにトップアイドルだ。
会場に可愛らしく愛嬌を振りまく姿にも、
自信と誇りが備わってるように見える。
「ブラボー、
水城由宇。
→一四八三万二四六三票」
圧倒的な数の黄色い女声は変わらないものの、
それに負けないほど多く男声の応援が響いた。
当初のクールでカッコいいイメージはそのままに、
感受性豊かで情に厚くて涙もろい、
可愛らしい面に打たれた男は
多いんじゃないかな。
「チャーリー、
宇田川あきら。
→一四一五万八二〇七票」
「あきらちゃ〜ん!」
「せんせ〜!」
ファン層の幅広さは変わらないが、
歓声の厚みが最初とは違う。
あきらさんの癒やしの力は
会場中を魅了していた。
…というより、会場にはもう、
ひいきの娘だけを応援する人は
居ないようだった。
みんなすっかり、
候補たち全員…
『イザナミ・カルテット』のファンなのだ。
得票数発表の度に
会場全体から起こる拍手喝采は、
彼女らの人気が世界レベルだ…
ということ自体を、
無意識に讃えていたのかもしれない。
「デルタ、
遥香・トルスタヤ・鹿野屋。
→二〇九〇万〇二七四票」
みのり「やったね〜!ハル!
トップだよ!」
ゆう「おめでとう!
あなたなら納得だわ!」
あきら「おめでとね!
私も嬉しい!」
悔しさなど微塵も感じさせない三人は、
トップを競うライバルというより、
互いの力を認め合った仲間って感じだ。
ただ、ここではるかちゃんは
冷静に、気づいた事を口にした。
はるか「でも、私も
条件、満たしてない…」
三人「え?」
三人が驚きの声をハモらせた。
みのり「あ、そうか。
過半数に達してないんだ」
イザナミ「そう。
〝過半数を取った娘が当選〟
そういう決まり。
取れなかった場合、
上位二名の決選投票になる」
はるか「じゃあ、みのりちゃんとの決選投票?」
イザナミ「…になるはずだったんだけどね〜」
会場に向き直り、イザナミは言った。
イザナミ「決まりでは
〝過半数を取った候補が当選〟となっており、
取れなかった場合、上位二名…
護国寺みのり、遥香・トルスタヤ・鹿野屋、
お二方の決選投票になるはずでした」
そこでイザナミは言葉を切り、
一呼吸入れながら会場を見渡した。
そして… 満面の笑みを浮かべて、
もったいつけながら続けた。
イザナミ「でも、審査の結果、
方針変更があったようです。
審査員長から発表お願いします」
会場中のスクリーンが
審査員室からの映像に切り替わった。
コホンと咳払いをして、
シリアスな声で審査員長は発表を始めた。
「実力・人気ともども伯仲し、
これだけ大規模な投票でも
決着がつかないほどの僅差。
それは、彼女たちの
〝夢を叶えようとする熱意〟が
皆さんに伝わったからなのだと思います。
素晴らしい。
このまま終わりにするにはあまりにも惜しい。
もともと、この『ミス・イザナミ』は
『世界慈善基金』の理念にのっとっており、
〝勝てば良し、負ければ終わり〟という考えとは
真逆の思想を持っています。
競うのは勝つためではなく、その先…
夢を叶えるためなのです。
夢に向かって突き進む時、
競う相手が優れているほど熱くなる。
その熱を持ち寄って
ライバル同士が手を携えるなら、
より大きく、より多くの夢が叶う。
その実例を、私たちは
彼女たちの中に見ました。
競い合う候補者同士が
同志として意気投合するなど、
通常のオーディションでは考えられない事です。
そうした気持ち・空気を、
これだけ多くの皆さんに伝えられた彼女たちは
みな、イメージガールに相応しい力を
すでにお持ちなのだと思います」
審査員長は一呼吸入れ、
ゆっくり間を置いてから、先を続けた。
「また、投票規模から
オリ・パラ開催期間中、
予想を超える来客があり得る事。
イメージガールとRAの役割に
当初の想定を超えた重責と
激務が伴う可能性が高く、
ひとりに負わせるのは過酷すぎる事。
イザナミの多様性を表現するためには、
RAを複数で分担する方が
相応しい事。
これらを併せて鑑みた結果、
審査員全員一致で、
ユニット『イザナミ・カルテット』に
『ミス・イザナミ』をお願いする事とします」
まさかの大英断に、
会場から大きな歓声が上がった。
発表には、さらに続きがあった。
「なお、上位二名にはセンターとして、
もう一つ、大切な役割を担っていただきます。
『イザナミ』の根幹をなす基本理念、
「陰陽和合」を表す
イメージ曲を担当してください。
以上です。
おめでとう!
カルテットの皆さん。
イザナミをよろしくお願いします。」
深々とお辞儀する審査員たちに
会場からは惜しみない拍手が送られた。
イザナミ「…ということで、
ハル、ミノ」
ハル・ミノ「はい」
イザナミ「頼むわね」
ハル・ミノ「はい!」
新たな呼び名で呼ばれた二人は、
一歩前に出た。
そして、もう二人。
イザナミ「ユウ、アキ」
ユウ・アキ「はい」
イザナミ「これからもよろしくね。
四人でわたしを支えて?」
ユウ・アキ「はい!」
ハルとミノを残して、
ユウとアキは会釈して
花道の奥まで下がった。
そこで用意された席に腰掛け、
観客として見守る。
「こんな結果になりました。
わたし、イザナミはこの四人が大好き。
全幅の信頼を置いてRAを任せられる。
納得いかない方もおられるかもしれません。
でも、わたしたちを信じてください。
きっと、みなさんに納得していただけるよう、
わたしたち五人、全力で頑張りますから。
これからオリ・パラと
同時開催イベントの終了まで、
皆さんよろしくお願いします」
イザナミは高らかに宣言した。
「さぁ、オーディションのフィナーレ、
〝ミス・イザナミ〟初めてのお仕事を、
センターの二人にお願いします!」
照明が暗転し、
イザナミのナレーションが響く。
「二人はさらなる色を纏い、
あまねく世界に顕れる女神となります。
アルファ…
護国寺みのり!」
どうやったのかわからないが…
コールされ、投光に照らされたミノは、
いつの間にか長い黒髪をたなびかせていた。
長く豊かなツインの髪に合わせるように
衣装動画が変身した。
頭から爪先へ光輪が通り抜けると、
緋色のブレザーは
純白の衣裳に変わっていた。
「ミノ・アット・
『Nami-shine』」
「デルタ…
遥香・トルスタヤ・鹿野屋!」
自前の碧眼と、
長い金髪をツインに結った姿のまま、
ハルは変身した。
頭から爪先へ光輪が通り抜けると、
緑色のブレザーは
漆黒の衣裳に変わっていた。
「ハル・アット・
『Nami-shadow』」
黒髪に白衣、金髪に黒衣。
二人は互いに逆相のコントラストを背負い、
合わせ鏡のように
相似的、かつ対極的な姿に変わっていた。
特に、長髪・紅瞳へと様変わりしたミノは、
短髪だった時とはまるで別人だ。
切れそうなほどに冴えた美しさは、
まるでハルの本当の双子のようだった。
「ユニット
『I-ZA-NAMI-BIPOLER!』
ウエルカム・オン・ステージ!」
イザナミのコールで会場の興奮は最高潮に達し、
全員が熱狂的な歓声を上げた。




