『M・I・A』日本語・特別編集版 ⑩
開票はリアルタイムで行われ、
投票と同時に集計画面に反映された。
全世界が注目する中、
テレビ、国内ネット、海外ネット、合計…と
集計結果が生放送で刻々と配信されていく。
選挙と違って、有権者数が確定してないので、
二十分で締め切られる事になっていたが、
投票総数はものすごい勢いで伸びていった。
老若男女問わず、
あらゆる世代の生活に密着している
イザナミの人気は想像以上に凄まじい。
そこに加えて、国内外問わず簡単に参加できる
態勢が追い風となって、
この旋風を巻き起こしているのだ。
自国語を選んでポータルサイトにアクセスすれば、
言葉の問題はないし、
あらゆる国の事情に合わせた
電子決済も完備してるから、
通常票・慈善票、DL販売など
全てがスムーズに進む。
逆算カウンタの残り時間は十五分を切り、
さらに刻々と数を減らしていたが、
増える方は加速してるようだった。
「さて、集計はまだ途中だけど、
ここで我らが候補たちに、
もう一度登場していただきましょう。
どうぞ〜!」
数字と文字だけだった集計画面が一旦消え、
円形スクリーン・場外スクリーンとも
四人の顔を中心とした個人情報の形に変わった。
イザナミ
「アルファ、護国寺みのり。
ブラボー、水城由宇。
チャーリー、宇田川あきら。
デルタ、遥香・トルスタヤ・鹿野屋。
今日だけの限定ユニット、
イザナミ・カルテットのメンバーで〜す!」
会場は拍手喝采で出迎えた。
イザナミ「おかえりなさい。
そして、お疲れさま」
四人「ただいま!
そして、ありがとう!(笑)」
挨拶までハモってた。
長年一緒に活動してるユニットみたいに
息ピッタリだった。
ステージが終わったのにも関わらず、
四人はDスーツを着替えていなかった。
衣裳動画はオウンカラーのブレザーにブーツ。
まるで「美少女戦隊」ってな趣だ。
イザナミ「どうだった? ステージ」
みのり「最高〜!
あんな楽しかったの、生まれて初めて〜!」
ゆう「うそ!
私、緊張して泣きそうだったのに」
あきら「そうは見えなかったわ。
由宇ちゃん、歌も踊りも完璧だったし」
はるか「私は本性に似合わない歌で
みんな引いちゃわないか、
気が気じゃなかった」
ゆう「何言ってんの?
あんなにみんなのハート、
鷲掴みにしといて!
悔しいくらい!」
みのり「そうだ! そうだっ!」
あきら「でも、みのりちゃんの歌も
スゴかったなぁ。
かなわないわぁ。素敵だった」
みのり「にゃははは、
あきらさん褒めすぎだよぅ。
サイッコーに気分良く歌えたのは確かだけど、
会場のみんなのおかげだもん!
みんな〜、ありがとね〜!」
ワァッと会場が沸いた。
会場の熱も全然冷めやらぬ感じだ。
イザナミ「さて、十分ほど経ったかしら?
みんな、結果を待つ気分はどう?」
みのり「もうドキドキして、
心臓が口から出そうですぅ〜!」
みのりちゃんのコメントに、
他の三人も肯いた。
「もう… スゴい事になってるよ。
見て?」
四人の顔・情報の下に
総数、個別の得票数が表示された。
スクリーンに注目した四人は唖然というか、
キョトンとしてるように見えた。
総数はちょうど三〇〇〇万を超え、
まだ加速してるところだった。
みのり「あはは… あたし、
ななまんびょうくらい?
スッゴい健闘してるんじゃない?」
ゆう「み、みのりちゃん…
ち、違うよ?
七万じゃなくて、
な、七百万票… だよぅ」
由宇さんは青ざめてすらいた。
さすがは現役アイドル、
事の重大さを一番わかってるみたいだ。
どうやらはるかちゃんも…
発声こそしないが、
気づいて呆然としてるらしい。
みのり・あきら「ええっ!」
二人が遅れて驚きの声を上げる。
みのりちゃんは早とちりと現実との
折り合いがつかないせいで、
あきらさんは生来のおっとりさのせいで、
ワンテンポ遅れたようだった。
イザナミ「慈善票があるとは言え、
四人ともスッゴいわぁ!
コレが選挙なら一発当選よね〜!(笑)」
イザナミがケラケラと笑って続ける。
イザナミ「今の所、決定的な得票差は
ないみたいだわねぇ。
四人とも人気、伯仲してる感じ」
ゆう「そ、それはいいけど、
この票数って…
な、何かの冗談ですか?」
耐えきれないとばかりに、
ゆうさんが尋ねた。
イザナミ「まさか。
まごうかたなき貴女達の実力よォ!
自信持ってよっ!」
上機嫌なイザナミの口調は、
無責任と言えるほどに軽妙だった。
イザナミ「その証拠に、
今、同時発売中の
限定ライブ動画と限定曲二曲も大好評で、
絶賛DL殺到中だもん」
ゆう「さ、殺到って?」
恐る恐るといった口ぶりで、ゆうさんが尋ねた。
もう泣きそうになっている。
イザナミ「そうね。
発売開始から今までの約二〇分で、
ライブ音源二曲…
プロローグの『カラフル・ワールド』と
メドレーの『イザナミ・カルテット』が、
合わせて約二百四十万DL、
ライブ動画『MIA』が
百万DLの大台に乗ったトコ。
視聴者のみんな、ありがとね〜!」
上機嫌なイザナミとは対照的に、
四人は想像を絶した経過を知って、
明らかに戸惑っていた。
そんな四人にイザナミが
追い打ちをかけるように続ける。
イザナミ「音源と動画の収益の一部は、
さっきも宣言した通り、
このオーディションの副賞として
あなたがたに贈るわ。
著作権料はひとり二%だよ、
どう?」
はるか「どう?… って、
スゴい金額になるんじゃない? ソレ」
一見冷静に見えるけど、
はるかちゃんもテンパってるみたいだ。
イザナミ「ん〜。まぁ、
音源から一千二百万、
動画からは五千万ってトコかしら」
あきら「そ、そんなに?
こんな短時間でそんな額が?」
おっとりなあきらさんも、
さすがに驚きを隠せない。
イザナミ「そう。
しかも〝ひとりあたりの副賞〟よ。
ひとり、ろくせんにひゃくまんえん。
多分まだ増えると思うけど」
四人は絶句した。
会場も同じだ。
凄すぎる。
ゆう「そ、そんな大金…
受け取っていいのかな? 私たち」
ゆうさんは可哀想なほど衝撃を受け、
とうとう泣き出してしまった。
大変な事件を目撃してしまった…
とでもいうように。
アイドルの卵として、
他人よりは社会の荒波に揉まれてるとはいえ、
そこはやっぱ高校生。無理もない。
イザナミ「いいのいいの。
間違いなくあなたがたが実力で手に入れた
報酬なんだから」
ゆう「じ、じゃあ、
私、全額寄付します!
これ、チャリティなんですよね」
これまでの冷静沈着ぶりがウソのように、
完全にパニクってた。
不謹慎だが… なんか可愛い。
その発言にイザナミが
人差し指を一本立てて左右に振りながら、
「チッチッ」と言う。
イザナミ「ゆうちゃん、それはダメ。
あなたのステージに感動して
エールを送ってくれた、
みんなの好意を無にする事になる。
あなたはこの大切な〝みんなの気持ち〟を、
まさにあなた自身の未来のために
使わないといけない。
あなたが活動して成長するためには
お金だって必要でしょ?
ファンに頂いた〝気持ち〟は、
あなた自身の成長を見せる事で
報いなさい。
わかったわね?」
ゆう「は、はい…」
ゆうさんは、目から鱗というか、
イザナミの説得に感じ入ったようだった。
蒼白だった顔色もにわかに血の気がさし、
感涙とともに笑顔が少し… 零れた。
はるかちゃんとあきらさんが肩に手を添え、
笑顔で肯いた。
意外にも最初に立ち直ったのは、
最年少の、みのりちゃんだった。
みのり「あは。
ちょい驚いたけど、
望むところじゃない? みんな。
あたしたち、女神になるつもりで
ここに居るんだし。
もう伝説になっちゃったんなら、
覚悟決めなきゃ!」
ゆう「そうだね…
そうだった」
ゆうさんは決意を新たにしたようだった。
瞳に強い意志が戻っている。
ゆう「全力は尽くしたんだから、
どんな結果も恐るるに足りないよね?
審査結果を待ちましょう」
四人は晴れやかな顔で微笑んだ。
イザナミ「さて、ここで集計を
審査員室にお渡しします。
こういうイベントの常で、
少しもったいぶらせてもらうわねっ。
締め切りまであと八分ほどあるから、
みんな、存分に気を揉んでちょうだいね〜!」
スクリーンから集計の数字が消えて、
暫定結果すらわからなくなった。
会場が期待と不安で
ドキドキワクワクしてるのを見て取ったイザナミは、
さらに上機嫌になった。




